いじめられっ子異世界にて、最強の仲間を引き寄せて勝利する!

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<29・感情>

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「正直勘弁してほしいんですよね」

 出発してから、どうにもサミュエルは機嫌が悪いらしい。ぶつくさと似たようなことばかりぼやいている。

「クーイチさん、一人称僕でしょ。小さいでしょ。微妙に僕とキャラ被ってるんですよ、四人パーティでキャラ被りとか致命的でしょーが」
「僕に言われても困るよそんなの!」

 そんなサミュエルに、空一も抗議の声を上げる。

「そこに文句があるならショタコンな作者に言ってくれる!?僕は何も悪くないから!」
「そこでメタに走らないでください!キャラ被りしそうな自覚があるならキャラ変する努力をしてみたらどーなんですか。ほら眼鏡かけてみるとか、一人称オレのオラオラ系にしてみるとか!」
「無茶言うなよお!」
「……どうでもいいがお前らどっちも五月蝿え」

 あまりにもやり取りの内容がくだらなすぎる。そして不毛すぎる。光はついにツッコミを入れた。本来それをやってほしい優理が、ポーラの横でぐっすり眠っていて全く役に立たないからだが。

「俺が言うのもなんだけどな。お前らそうやって騒いで園部を叩き起こす気か?それならそれで俺は止めないけどな」
「うぐっ」

 流石にそれを言われると、ふたりとも押し黙るしかないのだろう。口にチャックをしたようにだんまりを始める少年たち。なんとも極端と言うか、わかりやすいというか。まあ、サミュエルが不機嫌なのは、優理がポーラに寄りかかってぐっすりしているのが羨ましいというのもあるのだろうが。
 多分、恋愛感情ではないのだろう。自分自身が、同性にその手のものを向けられたこともあるからこそなんとなく想像がつく。所謂あれだ、大好きなお兄ちゃんを取られて悔しいというやつだ。出発前のホテルでちょっといい空気になっていたという話だし、除け者にされたようでどうしても悔しさが抜けないのだろう。
 なんとも微笑ましい限りである――そんな感想を抱いて、光はそんな自分に驚いていた。まだ己に、何かを微笑ましいだなんて思う心が残っていたということに。

「……なあ、キジモト・ヒカル」

 いつもよりも数倍小声になってポーラが言う。

「アタシが言うのもなんだけど、本当にいいのかよ」
「何が」
「何が?じゃねーよ。……お前、ヘキの町の牢屋に捕まって捕虜になってた方が、体面的にも良かったんじゃないのか。アタシらを裏ルートでノース・ブルーの王都にまで案内するって……それ、魔女ジェシカとサメジマ・ルリハへの裏切りにならねーのかって言ってんだよ。お前は、その……サメジマのことが好きなんだろう?」
「…………」

 自分をとっ捕まえた功労者にそう言われるのは、なんとも皮肉な話である。
 まあそう言われるのも仕方ないと言えばそうなのだが。なんせ現在、自分達は大型の馬車で、ノース・ブルーの王都に向かっている真っ最中である。正確には馬車で行くのは、イースト・グリーンとノース・ブルーの国境ギリギリまでだ。そこで御者とは別れて、光が知っている秘密の地下通路で直接王都の城の地下に侵入しようという流れだった。そう、本来なら湖を渡るか陸路で遠回りしなければ行けない場所。魔女ジェシカに与したメンバーだけが、特別な地下通路を教えてもらっているのである。
 地下通路には恐らく転移魔法がかかっているのだろう。何度かそこを通って王都に足を運んだが、実際の直線距離と比較しても明らかに早く王都に到着したからである。どういう仕組みかは自分もよく知らない。自分が扱えるのは結局、回復や補助の白魔法オンリーのみだったからだ。多分相性の問題もあるのだろう。
 ちなみに、そこに向かう馬車の中で、前の席に優理とポーラが座り、向かい側に光とサミュエルと空一が座っているという構図である。本来四人乗りの座席に五人も乗れているのは、単純にポーラと光以外のメンバーが子供体型で小さいからに他ならなかった。光も光で、上背はあれど体格としては細身の方というのもある。前に坂田に身長と体重を教えたら、“お前マジで大丈夫か?流石にもっと太らないとヤバくね?”と真顔で心配されてしまったほどだ。
 そして、優理は優理でその実拷問の精神ダメージが残っていたのか、馬車に乗った途端ぐっすりというわけである。――そんなに疲れているならもっと休んでから出発すれば良かったものを。まあ確かに、光が敗北したのがるりはと魔女に知られたら、向こうが次の手を打ってくるのは避けられないし、それまでに動きたかったのもわからないではないのだが。

「俺は、るりはに忠誠を誓っているが、魔女を信じてるわけじゃない。その姿勢は最初から変わってない」

 光はきっぱりと言った。

「というか、そもそも最初から疑ってはいる。何故なら俺達全員、魔女の姿を見てもいないからな。魔女と言われているしジェシカなんて女の名前ではあるが、声は反響していて男か女かもわからなかった。それでただ、自分が力を手に入れるために魔石を集めろ、それで伝説のドラゴンの力が手に入ったらお前らの願いも叶えてやると言われただけだ。俺としてはるりは以外に生殺与奪の権利を握られるなんて冗談じゃなかったんだがな……実際逆らう選択肢はなかったし、何よりるりはがノリノリで言うことを聞いていたから従うことにしただけだ」
「伝説のドラゴンか。魔石を集めると手に入るなんて完全に眉唾何だけどな」
「詳しいやり方を俺に訊くなよ、俺もそんな話は聞かされてないし、多分るりはも知らないだろう。……ただ理由は訊いている。ラストエデン……とかいう組織に追われていて、その追手を躱すのに力がいるんだそうだ。そのリーダーが、園部たちを送り込んだ魔女サトヤらしい。魔女ジェシカはかつて別の世界で罪を犯したせいで、サトヤに追われて捕まえられそうになってるんだと」
「なるほど、そういう理由か」

 魔女サトヤは、巫山戯たノリをした、見た目は少年に見える姿をした魔女である。その本性は人間とはかけ離れているが、近年は人間の少年の姿で人前に現れることが多いらしい。彼も元は異世界犯罪を犯しまくった大罪人であるが、何がきっかけになったのか異世界犯罪者を捕まえる組織を立ち上げ、治安維持を図る側になったのだとかなんとか。
 多くの世界のルールを守り、世界の崩壊を防ぐ組織。それだけ聞くとまるで警察か何かのようだが、やり方は相当にえげつないのだと魔女ジェシカはぼやいていた。当時にリーダーを始め強力な手駒が組織には揃っており、追手を撒くのにはかなり苦慮しているらしいとも。
 唯一の幸いは、向こうが世界の規則を守る側ということだ。間違っても、魔法のない世界にチート魔法使いを送り込んで破茶滅茶に無双するなんて真似はしないし出来ない。大抵、別の人間を自らの代理人として世界に送り込んでくるのが常なのだという。空一と優理は、まさにそれで選ばれた存在だったというわけだ。まあ、本来死ぬはずがない人間たちが魔女ジェシカの操作によって死ぬところだったので、慌てて掬い上げたというのもあるようだったが。

「姿も現さないヤツのことを盲信していいのかとは思っていた。……それが本当に、るりはの為になるのかもわからないからな。でも、俺はあくまでるりはに使われるだけの道具だ。余計な意思など持つべきでもないし、迷うべきでもない。だから、気にしないようにしていた……ずっと」

 それが、引っかかるようになり始めたのは。実のところ、この異世界にやってくるよりさらに前の段階からであったりする。
 園部優理。彼のことが気になって仕方なかったのは、単に喧嘩をする腕も度胸もないのに自分たちを出し抜いたからというだけじゃない。何より彼が――似ていたからだ。小さな頃、馬鹿げた理想を抱いていた自分に。



『じぶんがやったことは、ぜったい返ってくるんだぞ。だから、イヤなら、ひとにはぜったいするな。おまえらがまた、だれかをイジめてたら、こんどはおれがおまえらをいじめてやるからな』



 幼稚園の、本当に小さな頃までは、自分を使っていた男と女はちゃんと“親”をしていた気がするのだ。何がきっかけであんな風になってしまったのかはわからない。ただそのせいか、幼少時に限り光も“まともな”人間でいられた気はするのだ。それが本当に、幸福なことであるかは別として。
 戦隊ヒーローに憧れていた。
 体が他の子よりも大きくて喧嘩が強い自分はきむと、将来みんなを助けられるヒーローになれると信じていたのだ。だから、馬鹿みたいに人のいじめやら喧嘩やらに首を突っ込んで誰かを助けて、それで悦に浸るなんてことを繰り返していた。そんなことをしても、ちっぽけな自分は、自分の世界さえ変えられない――そんなことさえ知らなかったがゆえに。
 現実を知るまではそう遠くはなかった。
 両親らしき二人が豹変し、光を都合の良い道具として扱うようになったからだ。
 ヒーローなんかいない。自分はけしてなれない。そして己を助けてくれる存在なんて誰もいない。人はみんな自分のことだけが大切で、この世の中には支配する奴とされる奴がいるだけで。自分はどう足掻いても支配する側にはなれないのだと実感することになった日。せめて望むのは、よりマシな飼い主を見つけることだけ。そしてどうにか巡り合ったのがるりはだったというわけである。
 自分は間違ってなどいない。むしろ世界の、本当の姿が見えるようになっただけだと思っていた。――だからこそ。



『簡単に人を見捨てるような奴が、いざって時に誰かに助けて貰えるわけないじゃないか。誰かを傷つけたら、その分誰かに傷つけられる。誰かを見捨てたら、その分肝心な時に見捨てられる。俺は怖がりだから、そんなのごめんだ。自分なら助けられたかも、って思って一生後悔するのも嫌だ』



 中学生なんて年になってなお、バカみたいな幻想を捨てていない優理にたまらなくイラつかされたのだ。
 幼い頃に封印した、なりたかった自分のもう一つの姿を見せつけられたようで。

「あいつは、俺に勝った。悔しいが、俺はあいつを屈服させることが出来なかったからな」

 優理は拷問でいくら苦しめられても折れなかったし、我が身可愛さに誰かを見捨てることもしなかった。腹立たしいが、これが自分の負けでなくてなんだというのか。
 そうまでして彼は意地を通したのに自分はなんて情けない体たらくを晒しているのやら。

「義理は通すべきだ。それが出来なければ男じゃないと思った、それだけだ。少しだけでも、あいつの話を聞いてやるしかないとな」
「物凄く説明を端折った?」
「……感情の言語化は得意じゃないんだ、ほっとけ」
「ふーん」

 ポーラはそんな光を見て、小さく笑った。

「あんた、色んな意味でアタシに似てるな。言葉に不器用なとこも、ユーリに絆されちゃってるところも。ちょっとだけ親近感湧いたよ」
「……一緒にするな、馬鹿め」

 そんなんじゃない。光は視線を窓の向こうに向けて、ため息をついた。

――まあ、完全に否定はできないか。

 根負けしたのは、事実だ。正義の味方なんてものに自分がなれるとは思っていない。そして彼の言う通り、るりはに本当の気持ちを伝えるなんて――そんなことをする権利が自分にあるのかどうかも。
 ただ、自分の目できちんと確かめなければ、前に進めないと思っただけだ。
 るりはの幸せを考えるためにも――自分の在り方を決めるためにも。
 例えそれがるりはに、一時裏切りと思われるような行為であったとしても。
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