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部長の独白1
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私に背を向け、疲れてスヤスヤと眠る彼女ーー瑠璃の背中に口付けを落とす。
ぴくっと動いた身体は、また静かな寝息となる。
ーーやりすぎたな
自分の気持ちを抑えることが出来ずに、溢れる欲を彼女にぶつけた。淡白だと思っていたのに、彼女限定で違うらしいと苦笑する。
この積年の想いを彼女はきっと知らないし、知らせるつもりもない。
芝田健吾
この会社に勤めすでに20年近く経っていた。着実にキャリアを積み32歳という若さで営業部長となり、すでに10年が経っていた。
去年瑠璃が、この会社に来た時の事を今でも覚えている。会議に出るため、会議室に向かう途中で声を掛けられ、ガチガチに緊張した顔で挨拶にきた彼女は、黒髪を綺麗に纏めて控えめな化粧に、黒のジャケットと黒のスカートで、私の前に立っていた。
「初めまして、本日からこの営業2課の配属となりました、沖田瑠璃です!よろしくお願いします!」
「…ああ、よろしく」
声に詰まり歓喜で返答が遅れたが、彼女は気にしていなかった。そのまま営業2課の先輩に連れて行かれた彼女が角を曲がるまでじっと見つめていた私は、ついにかとほくそ笑んだ。
ーーやっと視界に入ったよ、瑠璃
彼女との出会いは、私が18歳の時。進路に悩んでいた俺は卒業するか、就職するかで悩み過ぎて全てどうでも良くなり学校をサボって家から数キロ離れた駅の近くにある公園で、制服姿のままベンチで寝ていた。
静かだった公園が、だんだんと賑やかに騒がしくなり始めた時に頬を、ぺちぺちと叩かれて起こされた。
目を開けると、視界に広がる黒髪のおさげの女の子。目を見開き驚く顔は、可愛らしく目がこぼれそうだった。
「おじさん、ねていたらゴホンゴホンしちゃうよ?」
「…お兄さんだ」
ムスッと答える俺の声など気にせず、起きてと頬を叩く。叩かれるのが煩わしくて起き上がり、ベンチに座ると彼女は満足したのか、くるりと振り返り行ってしまった。よく見ると、数人の子供達が公園の遊具で遊んでいて、保育士らしき人たちが一緒だった。
ーーなんなんだ一体
寝ていたのに、文字通り叩き起こされ不機嫌になった俺は、しばらくぼぅっと子供達を見ていたーーいや、目を惹かれたのはやはり、あの黒髪のおさげの子だ。
全力で公園内を走り男の子と鬼ごっこをしたり、砂場で遊んだかと思えば遊具でふざけ過ぎて保育士に怒られていたり、とにかく忙しい子だったが…何故か目が離せなかった。
ーーすごい一生懸命に遊んでる
ふっと笑いが漏れて、ハッとした。
ーー久しぶりに笑った…?
その事実に愕然として、彼女を見ると小さい彼女は泣いていた。多分、
ーー先生に怒られたのか?
いや、彼女の膝には赤い傷が出来て、よく見れば服も砂で汚れていた。
ーー転んだのか…痛そうだ
彼女の泣き顔に胸が締め付けられ、家に帰っても離れる事がなかった。
数日後、もう一度彼女に会いたくなった俺は、同じ時間に公園へと向かった。
また来た子供のグループの中にいた、今度はポニーテール姿の彼女を見てドキドキとした。
数週間に一度公園に会いに行くのか俺の楽しみになり、彼女の事をもっと知りたいと思うのも時間の問題だった。
彼女は、保育園の近くの家に両親と兄と4人家族で住んでいた。
ーー俺はロリコンなのか?
と悩んだ時期もあったけど、彼女を見かける度にそんな気持ちは霧散していた。
そろそろ進路の締切になる時に、もし彼女のご両親に一緒に居たいと言ったら、ネックになるのは年齢差だ。彼女との年齢差は13歳、彼女の兄より随分年上だ。なんなら、ご両親の年齢の方が近い。
ーーこれでは、認めてもらえない
今から就活しても、多分いい条件はないと思うし、職歴を頻繁に変える男に娘はやりたくないし、彼女の両親は両方とも大卒だ。
ーーせめて同じ土台、いやそれ以上の実績を出さないとダメだ
ぴくっと動いた身体は、また静かな寝息となる。
ーーやりすぎたな
自分の気持ちを抑えることが出来ずに、溢れる欲を彼女にぶつけた。淡白だと思っていたのに、彼女限定で違うらしいと苦笑する。
この積年の想いを彼女はきっと知らないし、知らせるつもりもない。
芝田健吾
この会社に勤めすでに20年近く経っていた。着実にキャリアを積み32歳という若さで営業部長となり、すでに10年が経っていた。
去年瑠璃が、この会社に来た時の事を今でも覚えている。会議に出るため、会議室に向かう途中で声を掛けられ、ガチガチに緊張した顔で挨拶にきた彼女は、黒髪を綺麗に纏めて控えめな化粧に、黒のジャケットと黒のスカートで、私の前に立っていた。
「初めまして、本日からこの営業2課の配属となりました、沖田瑠璃です!よろしくお願いします!」
「…ああ、よろしく」
声に詰まり歓喜で返答が遅れたが、彼女は気にしていなかった。そのまま営業2課の先輩に連れて行かれた彼女が角を曲がるまでじっと見つめていた私は、ついにかとほくそ笑んだ。
ーーやっと視界に入ったよ、瑠璃
彼女との出会いは、私が18歳の時。進路に悩んでいた俺は卒業するか、就職するかで悩み過ぎて全てどうでも良くなり学校をサボって家から数キロ離れた駅の近くにある公園で、制服姿のままベンチで寝ていた。
静かだった公園が、だんだんと賑やかに騒がしくなり始めた時に頬を、ぺちぺちと叩かれて起こされた。
目を開けると、視界に広がる黒髪のおさげの女の子。目を見開き驚く顔は、可愛らしく目がこぼれそうだった。
「おじさん、ねていたらゴホンゴホンしちゃうよ?」
「…お兄さんだ」
ムスッと答える俺の声など気にせず、起きてと頬を叩く。叩かれるのが煩わしくて起き上がり、ベンチに座ると彼女は満足したのか、くるりと振り返り行ってしまった。よく見ると、数人の子供達が公園の遊具で遊んでいて、保育士らしき人たちが一緒だった。
ーーなんなんだ一体
寝ていたのに、文字通り叩き起こされ不機嫌になった俺は、しばらくぼぅっと子供達を見ていたーーいや、目を惹かれたのはやはり、あの黒髪のおさげの子だ。
全力で公園内を走り男の子と鬼ごっこをしたり、砂場で遊んだかと思えば遊具でふざけ過ぎて保育士に怒られていたり、とにかく忙しい子だったが…何故か目が離せなかった。
ーーすごい一生懸命に遊んでる
ふっと笑いが漏れて、ハッとした。
ーー久しぶりに笑った…?
その事実に愕然として、彼女を見ると小さい彼女は泣いていた。多分、
ーー先生に怒られたのか?
いや、彼女の膝には赤い傷が出来て、よく見れば服も砂で汚れていた。
ーー転んだのか…痛そうだ
彼女の泣き顔に胸が締め付けられ、家に帰っても離れる事がなかった。
数日後、もう一度彼女に会いたくなった俺は、同じ時間に公園へと向かった。
また来た子供のグループの中にいた、今度はポニーテール姿の彼女を見てドキドキとした。
数週間に一度公園に会いに行くのか俺の楽しみになり、彼女の事をもっと知りたいと思うのも時間の問題だった。
彼女は、保育園の近くの家に両親と兄と4人家族で住んでいた。
ーー俺はロリコンなのか?
と悩んだ時期もあったけど、彼女を見かける度にそんな気持ちは霧散していた。
そろそろ進路の締切になる時に、もし彼女のご両親に一緒に居たいと言ったら、ネックになるのは年齢差だ。彼女との年齢差は13歳、彼女の兄より随分年上だ。なんなら、ご両親の年齢の方が近い。
ーーこれでは、認めてもらえない
今から就活しても、多分いい条件はないと思うし、職歴を頻繁に変える男に娘はやりたくないし、彼女の両親は両方とも大卒だ。
ーーせめて同じ土台、いやそれ以上の実績を出さないとダメだ
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