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馬車に揺られる事5日。
ムール領に到着した時には既に、雪が降り白銀の世界が広がっていた。
「…すごく綺麗ね」
「お嬢様、身体が冷えてしまいますわ」
馬車の小窓に身体を寄せると、外気の空気が身体を冷やす。
うしろから厚手のコートを羽織らせるお団子頭の侍女ーーショウは私の乳姉妹で幼い時から私の側に仕えてくれている、お姉ちゃんみたいな存在で、いつも私の事を考えてくれる。
「ありがとう、ショウ」
肩にかかるコートを掴み、窓の外へ視線を戻した。
ガタガタと揺れる馬車の景色を眺めて、これから会うキース・ムール侯爵を想った。
*****************
「ソフィア様ようこそいらっしゃいました、私この屋敷の執事のアガサと申します」
屋敷の入り口に並ぶ数十人のメイドと、列の真ん中にいる白髪混じりの1人の男性が、一歩前に出てお辞儀をした。
「よろしくアガサ、ヒル男爵家の三女のソフィアですわ、こちらは侍女のショウよ」
「ソフィア様の侍女として参りました、ショウと申します、よろしくお願いいたします」
ショウはアガサとメイド達に一礼すると、こちらへどうぞ、と室内を案内される。
ーーキース様の出迎えはないのね
ため息をつきたくなるのを我慢して、屋敷の中へと入っていく。
屋敷の南側の広い部屋に案内され
「こちらが、ソフィア様に使用していただく部屋となります」
薄ピンクの花がプリントされた壁紙と同色のカーテン、可愛らしい丸みの帯びた白い家具を配置して、大きな窓の側にある1人用のベッドが薄ピンクのシーツがかかっていて、床にはふかふかの絨毯が気持ちいい。薄ピンク色で統一された部屋が、可愛くてテンションが上がる。
「すごい…可愛いお部屋ね」
私好みの私室に、興奮して火照る頬がうっすらと赤くなる。
「…キース様が全て指示されました」
「本当?嬉しいわ…お礼を…あの…アガサ、キース様はどちらかしら」
お礼ついでに彼に会いたいと告げると、
「キース様は今、南の森で昨晩起きた積雪の被害の出た所を視察しております…本日はソフィア様がいらっしゃるとお伝えしたのですが…申し訳ございません」
この領地を治めるなら、問題が起こったら行かないといけないしね、と1人納得した。
「…そう、わかりました…キース様がいらっしゃったら教えてください」
「かしこまりました。」
失礼いたします、と伝え部屋から出るアガサが居なくなると、ショウはぷりぷりと怒っていた。
「あり得ませんわっ!せっかくのお輿入れなのに、出迎えもないとは!」
怒りながらも、荷解きをする手をやめないショウに
「しょうがないわ、領主様ですから…何かあったら対応するのは当たり前ですよ」
「お嬢様は優しすぎますっ、もうっ」
あーだこーだ、話をしていたら、ノックが音が聞こえ
はい、と入室の許可を出すと、3人のメイドとアガサが扉の先の廊下に立っていた。
「ソフィア様、こちらの3人がソフィア様に仕えさせていただきます…」
と言ってメイドの紹介と、屋敷の案内が始まったーー
「奥様、キース様がいらっしゃいました」
アガサの声でソファーで休んでいた私は立ち上がり、
「案内をお願いします」
と告げると、かしこまりました、とアガサが頷き歩き出したのでついていった。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
薄暗い玄関ホールで身体に積もった雪を払っていた大きな影が動きを止め、私の方へと向いた。
「…貴方は…?」
私の姿を見て、目を見開く彼の低いバリトンの声が心地よい。
「ヒル男爵家の三女のソフィア・ヒルと申します。」
軽くカーテシーをして、彼の重厚なコートを脱がすのを手伝い始める。
キースは背が高いので、肩に手をつけるにも踵を上げて背伸びをしなければいけない。
「…貴方が…ソフィア殿?」
呆然とする彼がはっとすると、私が持つ彼のコートを取り上げアガサに渡した。
「身体が濡れてしまう」
そう言って、ゴホンと咳払いをした。
ムール領に到着した時には既に、雪が降り白銀の世界が広がっていた。
「…すごく綺麗ね」
「お嬢様、身体が冷えてしまいますわ」
馬車の小窓に身体を寄せると、外気の空気が身体を冷やす。
うしろから厚手のコートを羽織らせるお団子頭の侍女ーーショウは私の乳姉妹で幼い時から私の側に仕えてくれている、お姉ちゃんみたいな存在で、いつも私の事を考えてくれる。
「ありがとう、ショウ」
肩にかかるコートを掴み、窓の外へ視線を戻した。
ガタガタと揺れる馬車の景色を眺めて、これから会うキース・ムール侯爵を想った。
*****************
「ソフィア様ようこそいらっしゃいました、私この屋敷の執事のアガサと申します」
屋敷の入り口に並ぶ数十人のメイドと、列の真ん中にいる白髪混じりの1人の男性が、一歩前に出てお辞儀をした。
「よろしくアガサ、ヒル男爵家の三女のソフィアですわ、こちらは侍女のショウよ」
「ソフィア様の侍女として参りました、ショウと申します、よろしくお願いいたします」
ショウはアガサとメイド達に一礼すると、こちらへどうぞ、と室内を案内される。
ーーキース様の出迎えはないのね
ため息をつきたくなるのを我慢して、屋敷の中へと入っていく。
屋敷の南側の広い部屋に案内され
「こちらが、ソフィア様に使用していただく部屋となります」
薄ピンクの花がプリントされた壁紙と同色のカーテン、可愛らしい丸みの帯びた白い家具を配置して、大きな窓の側にある1人用のベッドが薄ピンクのシーツがかかっていて、床にはふかふかの絨毯が気持ちいい。薄ピンク色で統一された部屋が、可愛くてテンションが上がる。
「すごい…可愛いお部屋ね」
私好みの私室に、興奮して火照る頬がうっすらと赤くなる。
「…キース様が全て指示されました」
「本当?嬉しいわ…お礼を…あの…アガサ、キース様はどちらかしら」
お礼ついでに彼に会いたいと告げると、
「キース様は今、南の森で昨晩起きた積雪の被害の出た所を視察しております…本日はソフィア様がいらっしゃるとお伝えしたのですが…申し訳ございません」
この領地を治めるなら、問題が起こったら行かないといけないしね、と1人納得した。
「…そう、わかりました…キース様がいらっしゃったら教えてください」
「かしこまりました。」
失礼いたします、と伝え部屋から出るアガサが居なくなると、ショウはぷりぷりと怒っていた。
「あり得ませんわっ!せっかくのお輿入れなのに、出迎えもないとは!」
怒りながらも、荷解きをする手をやめないショウに
「しょうがないわ、領主様ですから…何かあったら対応するのは当たり前ですよ」
「お嬢様は優しすぎますっ、もうっ」
あーだこーだ、話をしていたら、ノックが音が聞こえ
はい、と入室の許可を出すと、3人のメイドとアガサが扉の先の廊下に立っていた。
「ソフィア様、こちらの3人がソフィア様に仕えさせていただきます…」
と言ってメイドの紹介と、屋敷の案内が始まったーー
「奥様、キース様がいらっしゃいました」
アガサの声でソファーで休んでいた私は立ち上がり、
「案内をお願いします」
と告げると、かしこまりました、とアガサが頷き歩き出したのでついていった。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
薄暗い玄関ホールで身体に積もった雪を払っていた大きな影が動きを止め、私の方へと向いた。
「…貴方は…?」
私の姿を見て、目を見開く彼の低いバリトンの声が心地よい。
「ヒル男爵家の三女のソフィア・ヒルと申します。」
軽くカーテシーをして、彼の重厚なコートを脱がすのを手伝い始める。
キースは背が高いので、肩に手をつけるにも踵を上げて背伸びをしなければいけない。
「…貴方が…ソフィア殿?」
呆然とする彼がはっとすると、私が持つ彼のコートを取り上げアガサに渡した。
「身体が濡れてしまう」
そう言って、ゴホンと咳払いをした。
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