辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜

文字の大きさ
2 / 20

出会う

しおりを挟む
馬車に揺られる事5日。

ムール領に到着した時には既に、雪が降り白銀の世界が広がっていた。

「…すごく綺麗ね」
「お嬢様、身体が冷えてしまいますわ」
馬車の小窓に身体を寄せると、外気の空気が身体を冷やす。
うしろから厚手のコートを羽織らせるお団子頭の侍女ーーショウは私の乳姉妹で幼い時から私の側に仕えてくれている、お姉ちゃんみたいな存在で、いつも私の事を考えてくれる。
「ありがとう、ショウ」
肩にかかるコートを掴み、窓の外へ視線を戻した。
ガタガタと揺れる馬車の景色を眺めて、これから会うキース・ムール侯爵を想った。



*****************



「ソフィア様ようこそいらっしゃいました、私この屋敷の執事のアガサと申します」

屋敷の入り口に並ぶ数十人のメイドと、列の真ん中にいる白髪混じりの1人の男性が、一歩前に出てお辞儀をした。

「よろしくアガサ、ヒル男爵家の三女のソフィアですわ、こちらは侍女のショウよ」
「ソフィア様の侍女として参りました、ショウと申します、よろしくお願いいたします」
ショウはアガサとメイド達に一礼すると、こちらへどうぞ、と室内を案内される。

ーーキース様の出迎えはないのね

ため息をつきたくなるのを我慢して、屋敷の中へと入っていく。

屋敷の南側の広い部屋に案内され
「こちらが、ソフィア様に使用していただく部屋となります」
薄ピンクの花がプリントされた壁紙と同色のカーテン、可愛らしい丸みの帯びた白い家具を配置して、大きな窓の側にある1人用のベッドが薄ピンクのシーツがかかっていて、床にはふかふかの絨毯が気持ちいい。薄ピンク色で統一された部屋が、可愛くてテンションが上がる。

「すごい…可愛いお部屋ね」
私好みの私室に、興奮して火照る頬がうっすらと赤くなる。
「…キース様が全て指示されました」
「本当?嬉しいわ…お礼を…あの…アガサ、キース様はどちらかしら」
お礼ついでに彼に会いたいと告げると、
「キース様は今、南の森で昨晩起きた積雪の被害の出た所を視察しております…本日はソフィア様がいらっしゃるとお伝えしたのですが…申し訳ございません」

この領地を治めるなら、問題が起こったら行かないといけないしね、と1人納得した。

「…そう、わかりました…キース様がいらっしゃったら教えてください」
「かしこまりました。」

失礼いたします、と伝え部屋から出るアガサが居なくなると、ショウはぷりぷりと怒っていた。
「あり得ませんわっ!せっかくのお輿入れなのに、出迎えもないとは!」
怒りながらも、荷解きをする手をやめないショウに
「しょうがないわ、領主様ですから…何かあったら対応するのは当たり前ですよ」
「お嬢様は優しすぎますっ、もうっ」
あーだこーだ、話をしていたら、ノックが音が聞こえ
はい、と入室の許可を出すと、3人のメイドとアガサが扉の先の廊下に立っていた。
「ソフィア様、こちらの3人がソフィア様に仕えさせていただきます…」
と言ってメイドの紹介と、屋敷の案内が始まったーー




「奥様、キース様がいらっしゃいました」
アガサの声でソファーで休んでいた私は立ち上がり、
「案内をお願いします」
と告げると、かしこまりました、とアガサが頷き歩き出したのでついていった。


「おかえりなさいませ、ご主人様」

薄暗い玄関ホールで身体に積もった雪を払っていた大きな影が動きを止め、私の方へと向いた。
「…貴方は…?」
私の姿を見て、目を見開く彼の低いバリトンの声が心地よい。

「ヒル男爵家の三女のソフィア・ヒルと申します。」

軽くカーテシーをして、彼の重厚なコートを脱がすのを手伝い始める。
キースは背が高いので、肩に手をつけるにも踵を上げて背伸びをしなければいけない。

「…貴方が…ソフィア殿?」

呆然とする彼がはっとすると、私が持つ彼のコートを取り上げアガサに渡した。

「身体が濡れてしまう」

そう言って、ゴホンと咳払いをした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

大きな騎士は小さな私を小鳥として可愛がる

月下 雪華
恋愛
大きな魔獣戦を終えたベアトリスの夫が所属している戦闘部隊は王都へと無事帰還した。そうして忙しない日々が終わった彼女は思い出す。夫であるウォルターは自分を小動物のように可愛がること、弱いものとして扱うことを。 小動物扱いをやめて欲しい商家出身で小柄な娘ベアトリス・マードックと恋愛が上手くない騎士で大柄な男のウォルター・マードックの愛の話。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた

紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。 流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。 ザマアミロ!はあ、スッキリした。 と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?

この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご
恋愛
「お前に期待するのは、その背後にある実家からの支援だけだ。それ以上のことを望む気はないし、余に愛されようと思うな」  新婚初夜。政略結婚の相手である、国王リオネルからそう言われたマリアローザ。  持参金目当ての結婚!? そんなの百も承知だ。だから。  「承知しております。ただし、陛下の子種。これだけは、わたくしの腹にお納めくださいませ。子を成すこと。それが、支援の条件でございますゆえ」  金がほしけりゃ子種を出してよ。そもそも愛だの恋だのほしいと思っていないわよ。  出すもの出して、とっとと子どもを授けてくださいな。

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される

狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった 公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて… 全編甘々を目指しています。 この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】恋多き悪女(と勘違いされている私)は、強面騎士団長に恋愛指南を懇願される

かほなみり
恋愛
「婚約したんだ」ある日、ずっと好きだった幼馴染が幸せそうに言うのを聞いたアレックス。相手は、背が高くてきつい顔立ちのアレックスとは正反対の、小さくてお人形のようなご令嬢だった。失恋して落ち込む彼女に、実家へ帰省していた「恋多き悪女」として社交界に名を馳せた叔母から、王都での社交に参加して新たな恋を探せばいいと提案される。「あなたが、男を唆す恋多き悪女か」なぜか叔母と間違われたアレックスは、偶然出会った大きな男に恋愛指南を乞われ、指導することに。「待って、私は恋愛初心者よ!?」恋を探しに来たはずなのに、なぜか年上の騎士団長へ恋愛指南をする羽目になった高身長のヒロイン、アレックスと、結婚をせかされつつも、女性とうまくいかないことを気にしている強面騎士団長、エイデンの、すれ違い恋愛物語。

婚約破棄に応じる代わりにワンナイトした結果、婚約者の様子がおかしくなった

アマイ
恋愛
セシルには大嫌いな婚約者がいる。そして婚約者フレデリックもまたセシルを嫌い、社交界で浮名を流しては婚約破棄を迫っていた。 そんな歪な関係を続けること十年、セシルはとある事情からワンナイトを条件に婚約破棄に応じることにした。 しかし、ことに及んでからフレデリックの様子が何だかおかしい。あの……話が違うんですけど!?

処理中です...