辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜

文字の大きさ
3 / 20

辺境の当主1

しおりを挟む
「叔父さん…結婚結婚って、私は一生独身で過ごすつもりだから、あまり責めないでくれよ」

シンプルな部屋の応接室で、1人掛けのソファーに座るキースの向かい側にいる叔父ーーベンが渋い顔で顎髭を撫でていた。
「しかし、キース…跡継ぎが出来ないとムール家の存続の危機になるぞ」
「それなら、叔父の娘が産まれたばかりでしょう、その子を養子にでも」
「そうじゃない、直系の血筋の話をしておるっ!」

「無理だ…この顔に身体は、人々を恐れさせる」
代々ムール家から産まれる直系男子は、極寒の地を治めるためか、厳しい環境を耐える大柄な身体と一重の鋭い眼差し碧眼、銀髪の特徴が強く現れる。祖父も、父も、叔父もみんなガタイがよく、眼差しも強くていつも不機嫌に見られ、結婚相手を見つけるのも一苦労したと聞いた。
「そんな事言ってもなぁ…キースにも一生を添い遂げる相手が現れるぞ」
「……」
叔父は知らないが、これでも社交界デビューの時から色々と言われ、もう希望を持つのを辞めたのだ。

ーーこんな恐ろしい男なんぞ、女にとっては畏怖の存在だ

自嘲気味に、話を逸らすために最近の領地の相談などをして誤魔化した。


しかし、数日後に叔父から
「縁談を申し込んだ!このままいくと、ひと月後に式を挙げる!」
と声高々に宣言させられ、開いた口が塞がらなかった。





********************




ソフィア・ヒル

ヒル男爵家の三女、噂では社交界デビューも出来ない程の身体の弱さで、屋敷に籠っているらしい。

ーーそんな女を娶っても、病弱なら意味ないじゃないか…むしろ私の顔を見て心臓が止まるんじゃないのか

こんな私の気持ちとは裏腹に、彼女が来る日が近づきーー



「旦那ぁぁっ!大変ですわっ!南部の森の監視塔が雪で倒壊しましたっっ!」
扉を壊す勢いで監視兵が慌てて入ってきて、南部で緊急事態が起こった事を知らせる。
「そうか、すぐ向かおう」
執務中だった私は立ち上がり外出の準備を命令すると、執事のアガサが止めに入る。
「しっしかし、キース様!明日はソフィア様が」
「…どうせ初日は移動で疲れているんだ、ゆっくり休ませて次の日に顔合わせすればいいさ」
「しかしっ!キース様っ」
アガサの制止を振り切り、視察へと向かった。





次の日の夜遅くに、屋敷に着き雪を払っていると、鈴の音のような可愛らしい声が聞こえて振り向いた。
「…貴方は?」
声の元を視線で辿るとーー
そこにいたのは、ひとりの女性。
休んでいたのか結んでいない長くウェーブのかかった赤い髪が腰まで美しく伸び頭が小さい、厚手の室内用のローブから覗く白い肌が首の下を隠し、バスローブが物凄く大きく余計に身体が小さく見える。ぷるんと瑞々しい唇が言葉を紡ぎ、まつ毛が長く大きな碧い瞳が私を見つめていた。
「ヒル男爵家の三女のソフィア・ヒルと申します。」
綺麗なお辞儀をする彼女に見惚れていると、彼女が私のコートを脱がすのを手伝っているのに気が付き、慌てて取り上げた。
えっと驚く彼女に、「身体が濡れてしまう」と告げると、そうですか、とにっこり笑う彼女の笑顔に心臓がうるさく鳴った。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

【完結】恋多き悪女(と勘違いされている私)は、強面騎士団長に恋愛指南を懇願される

かほなみり
恋愛
「婚約したんだ」ある日、ずっと好きだった幼馴染が幸せそうに言うのを聞いたアレックス。相手は、背が高くてきつい顔立ちのアレックスとは正反対の、小さくてお人形のようなご令嬢だった。失恋して落ち込む彼女に、実家へ帰省していた「恋多き悪女」として社交界に名を馳せた叔母から、王都での社交に参加して新たな恋を探せばいいと提案される。「あなたが、男を唆す恋多き悪女か」なぜか叔母と間違われたアレックスは、偶然出会った大きな男に恋愛指南を乞われ、指導することに。「待って、私は恋愛初心者よ!?」恋を探しに来たはずなのに、なぜか年上の騎士団長へ恋愛指南をする羽目になった高身長のヒロイン、アレックスと、結婚をせかされつつも、女性とうまくいかないことを気にしている強面騎士団長、エイデンの、すれ違い恋愛物語。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご
恋愛
「お前に期待するのは、その背後にある実家からの支援だけだ。それ以上のことを望む気はないし、余に愛されようと思うな」  新婚初夜。政略結婚の相手である、国王リオネルからそう言われたマリアローザ。  持参金目当ての結婚!? そんなの百も承知だ。だから。  「承知しております。ただし、陛下の子種。これだけは、わたくしの腹にお納めくださいませ。子を成すこと。それが、支援の条件でございますゆえ」  金がほしけりゃ子種を出してよ。そもそも愛だの恋だのほしいと思っていないわよ。  出すもの出して、とっとと子どもを授けてくださいな。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

あとから正ヒロインが現れるタイプのヒーローが夫だけど、今は私を溺愛してるから本当に心変わりするわけがない。

柴田
恋愛
タイトルとは真逆の話です。正しくは「皇太子に不倫されて離婚したけど、不倫絶許の皇帝にプロポーズされてべちょべちょに溺愛されています」です。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

処理中です...