辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜

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結婚式1

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式の準備は着実に進む。
元々イレギュラーだった式。辺境の地でもあるので、招待客も最低限でキース様の親族と代表の領民数名、私の家族…父と母の出席のみの小さな式となる。

式の当日に到着する家族を迎えるまで特に何もしなくてもいい、と言われ甘えてる私。
ーーこのままじゃダメだと思うけど…
何かをしたいと思うのだが、アガサに止められ、ショウにも止められ…ついには、キース本人が
「私の側を離れるな」
と手を広げ私を誘う。誘われるままに彼の腕の中に入ると、そのままなし崩しに愛され、至福の時間が始まる。
何度も身体を重ね、体力がない私はすぐにバテてしまっていたのだが、だんだんとする回数が増えていくとベッドから起き上がれず、横になっていることの方が多くなった。
ソファーで優雅にお茶を飲むキースに小言を言うアガサを、ベッドから眺めては、すいません、と謝ると、
「奥様のせいではありません。これっぽっちも、ええ、この当主のせいですから」
といつものように優しい笑顔を向け、キースが
「笑顔を向けるな」
とヤキモチを露わにする。
クスクスと笑うと、ぼうっとしたキースが立ち上がり、私に近寄り私を抱き上げると、ソファーで彼の膝の上でお茶会をする…というパターンになる。


2人でただくっついて何にもしない日々は、幸せでゆったりと過ぎていく。
たまに至急と言われキースは部屋から出て行くが、そんなに離れる事はなくしばらくすると、部屋に戻る。

「結婚式が終わったら、一緒にまた出かけよう」
と寝る前に彼との未来を約束する。

ーー本当に…キース様と一緒に居たい…結婚を破棄なんて…したくない

眠る前に不安が頭をよぎるが、キースに抱きしめられると、不安がなくなり、全てがどうでも良くなる。





*******************


ムール家の近くにある、小さな教会の控室。

「…お嬢様、本当にお美しいです」

涙声で私のウェディングドレス姿を見て、褒め称えるショウ。
「ありがとう、ショウ」
鏡にいる自分を見る。
赤い髪がアップされダイヤが散りばめられたティアラが載せられ、首から胸元にかけ白いレースのウェディングドレスは、プリンセスラインになっていて、スカートの裾にはムール家の家紋入りのレース。首元にはダイヤの大粒のネックレスと大粒のピアスがひかる。
「…私」
鏡の中にいる自分に問いかけるような声を出すが、すぐに掻き消された。

「…美しいな」

鏡に映る私の後ろにいたのは、花婿のキースだ。
彼もすでに着替え終わったらしく、鏡越しではなく直接見たくなり、振り返る。
「キース様…も素敵です」
キースは、銀髪はそのままで、白いタキシードだ。私と対になっているウェディングの刺繍の家紋のデザインが胸元にある。
いつもはキリッとした目元が、今日は和らいでいる。
「ソフィア、美しい私の花嫁」
恭しく私の手を取り、手の甲に唇を落とす。まだ、ない左薬指の上に。
「…どうだ?ドキッとしたか?」
これをしたら惚れるとアガサに聞いたと、言った彼がニヤッと笑う。緊張で強張っていた私の顔がフッと崩れ、彼の手を握る。
「ええ、とっても」
手を引かれ彼の胸元に引き寄せられ腰に腕を回された。彼の胸板に手を付け、ふふっと笑う。






「ソフィア!」

そして幸せな空気が、一気に冷えた。
そう、お父様とお母様がこの控室にやってきたのだ。
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