彼が好きなのにぃ!王子との結婚を阻止したい公爵令嬢は、婚約者の護衛を襲う〜実は護衛は正体を偽った私の婚約者でした〜

狭山雪菜

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前編

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アーカルド王国の第一王子の、アレクサンドルのいる執務室では、緊急の会議が行われていた。

「だから俺が――だと、バレたら困る」
「しかし――!俺が――になったらおかしいでしょっ!」
「――、お前が婚約者を――」

小声で話し合っていたのに、だんだんとお互いの声が大きくなっていき白熱する。
そんな時、訪れた来訪者の知らせに、2人の口はぴたりと止まった。
「……入れ」
1人の男が低い声で、そう告げれば、そっと扉が開かれる。
「アレクサンドル第一王子、間もなく婚約式を行います」
壮年の燕尾服の執事長はそう言って、恭しく一礼した。



***************



――ありえない…現実的じゃない
簡略化した婚約式を終えたエステルは、実家であるユリング公爵家の自室で、今さっき起きた事を思い出して絶望的な気持ちとなった。そんな彼女は金髪で紅瞳の美しい女性だ。
公爵家令嬢として、どこ出ても恥ずかしくないように教育され、18歳の社交界デビューとともに、社交界の華、完璧な所作は憧れと羨望の眼差しを向けられていたエステル。
そんな彼女は、幼い頃から両親に王子の婚約者候補であると、どんな時も言われていた。そのためか割と幼い頃から一般の令嬢とは違い、より厳しい教育がなされていた。
そんな私が、頭を悩ますのは…
――アーカルド王国アレクサンドル第一王子。
確かに幼い頃は顔合わせと言って数回会った事があるが、幼い頃の記憶なんて曖昧で、ひょろっとした細身の身体と無口な人、という以外の感想がなかった。
それがどうしたのか婚約式で会ったのは、金色の髪を後ろへ撫でつけ、碧眼が美しい美しい男性に変わっていた。いや、美しいだけじゃなくて、しっかり鍛えているのか、エスコートしてもらった時に触れた腕は、お父様や弟とは違って…とても固かった。
――っ!そんな事はいいんだけどっ!
久しぶりにお目に掛かる王子を頭の隅へと追いやり、婚約式の直前に会った人物を思い出し、頬がぼぼぼっと音を立てて赤くなった。




***************




今まで口頭で"貴方は第一王子の婚約者候補よ"から、今日からは"第一王子との正式な婚約者になる"だった。私の成人式――つまり社交界デビューでの王族への挨拶をすませる事――が終わり、大々的に婚約式をやるはずが、連日続いた大雨で起きた各地の被害地域への王子の視察とその後の復興として婚約式で使用するはずだった財源をそちらへ回すと言われた。それには市民のためだから、しょうがないと思っていたが、本来の予定だった教会へ赴き行う婚約式が、王城の国王陛下の執務室で簡略化した婚約式を急に行うことになったのには、驚いた。
『第一王子も、もういい年だ、いつまでも独身だと公務に差し障りがでてくる』
そう言って、早めに到着してしまった国王陛下の執務室で、お茶目にウィンクしたのは、この部屋の主で、この国の国王陛下だった。金髪の国王陛下の横には黒髪の王妃様もいて久しぶりに招かれたお茶会にドキドキとした。公の場でも失敗のないようにと特別に厳しかった花嫁教育も、今この瞬間も役に立っていた。
――王妃様…相変わらずお美しいわ
ぽぅっとしてしまうのは、社交界デビューの時に挨拶してくださった王妃様で、この国で一番美しく、国民の人気も高い尊いお方だ。そんな義母となるこの方が、今も優しく私に微笑みかけてくれる。
国王陛下はまだ挨拶はするけれど、こうして私的にお茶を共にするのは初めてで、紅茶を持つ震えそうになる手を注意する。
チラッと横を見れば、隣に座るのは私の父と母。簡略化と言っても書類にサインするだけと事前に言われたけど、最愛の一人娘の婚約式に両親とも参加したいのは親心かもしれない。
そんな事を思っていると、コンコンと執務室の扉がノックされ、国王陛下の長年の側近をしているお方の宰相が扉を開けると、1人の男性が入ってきた。
迎えた宰相よりも頭ひとつ大きく大きな身体で、日に焼けた肌は褐色をしている。厚い胸元と太い腕と足を包む紺色の軍服を着た彼は黒い短髪で、キリッとした眉と厚い唇、黒い瞳は鋭く真面目そうだ。
「…国王陛下、お呼びでしょうか」
彼の口から発した言葉は、重低音で聞き取りやすく心地よい速さでいつまでも聞いていたくなる。
「ああ、これから」
「…国王陛下、その前に」
陛下が口を開き何かを彼に言おうとすると、彼の背後から先程の宰相が何やら書類を持っていて、陛下に処理してほしそうだった。
「ああ…わかったわかった、…ったく、悪いが彼の相手を頼めるかい?エステル令嬢」
「…かしこまりました」
何故私?と一瞬思ったけど、客人をもてなすのも、これからやってくる公務の一環だと思うことにした。
王妃様とお母様はお茶を飲みながらお話をしているし、お父様は立ち上がって陛下の元へと言ってしまった。
執務室の扉のそばにいた彼の元へ近寄ると、彼は鋭い眼差しを少しだけ弱めた。
――やっぱり大きな方だわ
私より頭3つ分は大きくて、見上げないと彼の顔を見ることができない。
「…初めまして、ユリング公爵家の娘のエステルと申します」
軽くカーテーシーをすると、彼はぎょっと驚いた。
「…こちらこそ…私は…マルと申します…第一王子の護衛をしております」
「まぁ…アレクサンドル第一王子様の」
彼も軽く頭を下げると、私を見て目を何かに気がつき目を見開いた。
「…今、ユリング公爵家の娘とおっしゃいました?」
「ええ、あちらにいるユリング公爵当主の娘です」
彼の方が私よりも身体が大きいから意味がないと思ったけど、身体をズラし陛下と話し込んでいる父があちらにいると教えると、なるほど、と彼は言った。
「…そうなんです…ね…なら、貴方は第一王子の…」
「はい、婚約者ですわ」
本当はまだ婚約者候補なんだけど、もうあと数分すると婚約者となるんだから、婚約者と伝えた。
「婚約者…?不躾な質問で申し訳ないですが…本日はどの様なご予定でこちらに?」
呆然とする彼に私は不思議に思った。首を傾げながらも、彼の質問に答えた。
「婚約式を行うためですわ…アレクサンドル第一王子様との、来月行うはずだった婚約式は中止になって、急遽本日行うと言われました」
「…そうなんですか…いや、私も初耳でして」
少し苦笑した顔が、なんだか可愛いと思ってしまって何故か目が離せなくなる。じっと凝視をしすぎたのか、私の視線に気がついたマルは慌てて
「…あ、ああ、今、第一王子を呼びに行ってきます」
と言って執務室から出て行ってしまった。




***************



その後、問題が起きる事もなく、お互いの名前を婚約宣誓書にサインして、まだ政務が残っていると王子は帰ってしまったので、私も帰って来たんだけど…王子と会っている時も、マルという王子の護衛の方の姿を視線を彷徨わせて探してしまったり、今自分の部屋にいるのにマル様の事が頭から離れなくて困っているのだ。
――すごく…逞しくて…声も落ち着いていて…
ほんの数分会話を交わしただけ、ほんの数分そばにいただけなのに、彼の事しか考えられない。
――この気持ち…は、何?まるで…そう…そう、この間読んだロマンス小説の主人公みたいだわ
巷で流行りのロマンス小説は、恋するヒロインが彼への想いに気がつく過程までしっかりと描かれているので、あの時読んだヒロインの気持ちの一節がまさに今の私と同じ気持ちだ。
「…お嬢様?どうなさいましたか?」
いつまで経っても、用意されたお茶に手を出さない私に、私専属の侍女のサランが声を掛けてきた。幼い頃からずっと本当の姉妹のように一緒にいた彼女に、私は思い切って恋と感じる瞬間はどんなものかと、相談をすることにした。




***************



「ユリング公爵の娘のエステル様は本当にお美しい」
「…ええ、しかもアレクサンドル第一王子の婚約者、未来の王妃様で…ほぅ…本当にお美しい」
「今の王妃様もお美しいのに、義娘となるエステル様も美しいなんて」
婚約式が終わって数日後、ユリング公爵家主催の婚約お祝いパーティーに、各社交界の重鎮、その家族やご令嬢が集まり、演奏家の生の演奏を聴きながら談笑している。本日の主役である私の挨拶も終わり、婚約の祝いの言葉を貰い、父は招待した重鎮達との仕事関係の話を、母はその家族のおもてなしをしていた。

「…ふぅ」
沢山の人に話しかけられて疲れてしまった私はひとり、ユリング公爵家自慢の庭園へと続くテラスへと出た。
月に照らされた庭園が、とても綺麗でついつい魅入って歩き出しテラスの階段をおりきると、生垣から大きな影が出てきてびっくりした。
「きゃっ!…って…マル…様」
あの時と同じ、紺色の軍服を着た婚約者王子の護衛だと言っていたマル様がいた。
――私の頭の中に…ずっと居た人
月の明かりで彼の表情は暗くてよく見えないが、纏う雰囲気はあの執務室で会った時と同じ。
頬が赤くなってしまうのがバレないといいな、と思いながらも彼をチラチラと見てしまう。
「…本日は、婚約のお祝いをお待ちいたしました、アレクサンドル第一王子からの贈り物です」
重低音の心地よい声で差し出されたのは、手のひらサイズの小箱で、
「…ありがとうございます」
彼の手から受け取ったら、少しだけ彼の手に触れてドキッとする。
「ご婚約…おめでとうございます」
じっと受け取った小箱を見ていると、小さな声で彼が祝福の言葉を言ってくれた。
――それって…やっぱり、そうだよね
つい先日会ったばかりだから、私を好いてくれているなんて、あるわけないと思っていても、彼から直接お祝いの言葉を聞くと、何とも思われていないと…強く実感して心が苦しい。泣きそうになるのを我慢して、思い切って顔を上げると、暗闇の中彼の表情が少しだけ見えた。
「!!」
眉を寄せて何故か苦しそうだ、その表情に驚いて目を見開いてしまうと、彼はハッとした。
「では、確かにお渡しいたしましたので…これで」
そう言って立ち去ろうとしている彼の軍服の袖を、慌てて掴んでしまった。
「…っ!…あのっよろしかったら…」




月明かりの元、庭園の中央にあるのは大きな噴水と彩どりの花だけど、残念ながら花の色は暗闇でくすんでいるみたいだ。噴水の前のベンチに並んで座り、2人は無言のままだ。
噴水から溢れる水音が聞こえ、屋敷のある方角からは生演奏と微かに人々の話し声も聞こえる。
――呼び止めちゃった
横に座る彼をチラチラと見ると、やっぱり私よりも何倍も厚い胸板と太い足が目に入り、時折起こる風で彼の匂いが私の鼻腔を掠めてドキドキする。
「…あの、マル様は、アレクサンドル第一王子のお側にいなくてもいいのですか?」
――違う違う!本当は何が好きとか、普段何しているのとか聞きたいのにっ
悲しい事に私はアレクサンドル第一王子の婚約者なので、とりあえず最初は微塵も興味のない王子の事を口にしないといけないのだ。
「今は城で執務をしております」
淡々と述べるのは、すごく興味のない王子の事。でも彼の声を聞けるからそれもいいかと思い始めると、不思議と他愛のない話で盛り上がる。
例えば、
「王子の側近は、脱走癖のある王子が抜け出さないようにルーティンを組んでる」
とか
「最近出来た町の洋菓子屋に行きたくて城を抜け出したら、お店が休みだった」
とか
「王子は幼い頃騎士団団長に決闘を申し込んで惨敗して、数年引きこもりになった」
とか、今まで知らなかった、ちゃんとしていると思っていた王子がドジで可愛く感じた。思わず笑ってしまうと、王子の話に笑った事が嬉しいのか、マルは他の王子の武勇伝を教えてくれる。マルの話を聞きたかったのに、いつの間にか王子の話になっていて、それに夢中になって聞いている私がいた。

「随分と時間が経ってしまったようです…では、そろそろ失礼させていただきます」
彼はそう言って立ち上がると、私をテラスまでエスコートをして帰ってしまったのだった。




***************




「麗しのエステル令嬢、今宵はエスコートを」
ユリング公爵家に到着した王子が手配した馬車に乗り、王族主催の舞踏会に出席するために城へとやってきた。
正門から離れた裏口から馬車は入り停車して、御者が馬車の扉を開けると、婚約者が待っていて手を差し出された。
夜なのにキラキラと輝いている気がするのは、彼の元から持つオーラなのかもしれない。
「…ありがとうございます、アレクサンドル様」
彼の手を取り馬車から降りると、彼の腕に手を添えた。彼を見上げると、私の視線に気がついた王子が私を見下ろす。
「…どうかなさいました?」
にっこりと笑う顔は、絵本に出てくる王子様みたいなのに、じっと見ていてもマル様といる時みたいにドキドキもしないし、感情が動かない。
「…あ…いえ、申し訳ありま」
「王子、そろそろ行かないと」
不躾な視線を向けてしまったのを謝ろうとしたら、私の声を遮って背後から低い声が聞こえた。
「ああ、そうだな、では行きましょうエステル令嬢」
後ろを振り向くと、初めて会った時と同じ紺色の軍服を身につけたマル様がいて、夜に会うのは2回目だとドキッとした。
「…ええ」
彼に声をかけるのも変なので、王子に返事をして軽く頭を下げたら、マル様は少しだけ動かした視線で応えてくれた。





「申し訳ありません、エステル令嬢まだ執務が残っていますのでそろそろお暇するよ」
国王陛下の挨拶の言葉も終わり、しばらくするとずっと私のそばにいた王子が私に顔を寄せてそう言った。
「…まぁ、かしこまりました…でしたら私も」
私も彼の方に顔を寄せると、側から見たら仲睦まじくうつり、舞踏会参加者からほう、っと、羨望の眼差しを向けられている事に気がつかない。
「しかし、もういいのですか?」
何故か緊張を孕んだ声でそう言われ、手を置いた腕が固くなった気がする。
「はい、私一人残っても仕方がありませんので」
これは、どんな時も王子のそばにいつも付き添うと、口酸っぱく言われた家庭教師の言葉だ。
「そうですか…では」
そう言って納得した王子は、国王陛下と王妃にひと言先に居なくなる事を伝えて2人で舞踏会が開かれている会場から抜け出した。


城の奥にある王族以外立ち入り禁止の区域に入ると、王子は執務室へと行ってしまった。残された私は、とりあえず最初に到着した時に案内をされた控室へと向かう事にした。
もし、また舞踏会に顔を出すなら控室に来てくださいと、王子には伝えたので、もし王子が来なくても舞踏会が終わる頃を見計らって帰ろうと決めた。
「…エステル令嬢」
そんな事を考えながら歩いていると、背後から声を掛けられた。途端に胸がどきどきとするこの声に嬉しくなって振り返ると、そこにいたのはやっぱりマル様だった。
「マル様」
王子の護衛はいいのか、とか言うつもりが、胸がいっぱいになって声が出てこない。
立ち止まった私のそばまで歩み寄る彼を待った。
「王子は?」
「執務があるとかで…そちらへ向かわれましたわ」
「そうですか…エステル令嬢はこれからどちらへ?」
「…控室へ…また王子が舞踏会に出るかもしれませんので」
「そうですか…でしたら、私が控室まで護衛いたします」
王族以外立ち入り禁止のエリアだから、護衛も何も危険な事はないのに、もう少し彼といれると思い嬉しくなってしまう。
「…では、お願いしてもよろしいでしょうか」
本当は即答したかったのだけど、少しだけ悩む素振りを見せてから了承すると、マルはホッとした様子で私に曲げた左腕を差し出した。
彼の腕に手を添え、王子とは違うやっぱり逞しい腕にドキドキしながら歩き出した。

「本日もお仕事ですか?」
「ええ、上が休んでもやるべき事はたくさんありますから」
最初は意外と遠いと思っていた控室も、彼と話しながら進むとあっという間に到着してしまい、何だか離れがたくなってしまう。
――きっと…私だけよね…王子の婚約者だもの
許されない想い、ずっと彼のそばにいたい…そう思うのはいけないことだと知っているのだ。だけど、それでもそばにいたい、このまま永遠に着かなければ良かったと、思う自分もいるのだ。
控室の扉の前で止まり、少しだけ…と小さな希望を伝える事にした。

「…もう少し…お話をいたしませんか?」




「お茶の準備も」
「いや、いいですよ」

豪華絢爛な室内は、白と青の家具が並んでいる。
2人座れる大きなソファーに彼を無理矢理座らせ、おもてなしをしようとしたが、今まてお茶も出した事のない給仕もした事のない公爵令嬢は、大人しく彼の横に座った。
2人しかいない密室だからか、隣に座ると彼の存在をより強く感じる。
他愛のない話…主に王子の話がメインだったけど、やっぱり楽しくてずっとくすくすと笑っていると、ふと音楽が聞こえた。
「…音楽が聞こえますね」
薄っすらと聞こえるのは、舞踏会で流れている音楽。きっと今頃ダンスの時間なのだろう。すると、彼は立ち上がり私に左手を差し出した。
「…一曲よろしいですか」
と。






「…ぁっ…っ」
ただ純粋に踊っていただけだった…けど、連続で3曲踊り最後の方は格式など気にせずクルクルと回って遊んでいたのも否めない。足がもつれバランスを崩した私を彼は、何でもないように支えてくれた。腰に回された腕の力強さに驚き、彼の胸板に手を添えていた手が彼の軍服を握った。顔を上げれば鼻先が触れそうな程近くにあるマル様の顔。驚きで目を見張ると、彼の顔が近づき彼の唇が私の唇に重なった。
長い時間重なっていた気もするし、すぐに離れたのかもしれない。だけど、初めてのキスにぽっと頬が赤くなった。
「…エステル令嬢」
どこか苦々しい声の彼が後悔をしていると思うと、胸がギュッと締め付けられて苦しい。
そんな彼の後悔なんて知りたくなかったと、悲しくて彼の胸に顔を埋めた。硬直した彼の身体から力が抜け、背後に回った腕に力が入り私を抱き寄せた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、溢れる想いを断ち切れない。
――好きですっ、好きです!
口に出さない代わりに、彼の背中に腕を回して自分からも身体を密着させると、お返しとばかりにより強い力で抱きしめられた。
彼の手が私の頭を撫でて、今日のために着飾った私の髪を弄ぶ。婚約者であるアレクサンドル第一王子の瞳の色である碧眼をイメージしたブルーのAラインのドレス。刺繍も凝ったこのドレスに合うように、金髪の髪は下ろして髪にダイヤをあしらっている。波打つ髪は動くたびにキラキラと輝き、舞踏会の参加者を魅了していた。
一房つまみ、毛先に口づけをするマルに気がつき、彼の胸から顔を上げれば、柔らかな眼差しの彼と視線が絡まった。無言でお互いの顔を近づけ、また唇が重なると、今度は押しつけられた彼の唇から舌が出て、ぬるりと唇のラインをなぞられた。擽ったくて唇を少し開けば、すぐに彼の舌が私の口内に入り、舌を絡めとられる。喰むと甘噛みされては、顔の角度を変えるマル。
はぅっ、と甘い吐息が出てしまい、また口を塞がれ、だんだんと息が出来なくて苦しいと感じるようになる。
緊張で止まった息を、彼の背中が優しく撫でて、舌を強く吸われて離された。
「ん…ぅっ、マル様っ」
「エステル令嬢、シューラと」
お呼びくださいと、小さく呟いた彼は、私の返事を待たずに私の唇を貪る。何度も何度も顔の角度を変えては、口内に舌を這わし溢れる唾液を掻き出して、くちゅくちゅと音が大きくなる。ちゅぅっと強く吸い付き私の唾液が彼の口内へと消えていく。立っているのもしんどくなり、彼の胸板に完全に寄っかかると、私を抱きしめる彼の腕の力が強くなった。
「ん、シューラっ様、ん」
キスの合間に彼の名を呼ぶと、嬉しそうに深くなる口づけに翻弄された。



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