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リクエスト 真相 好きなのに護衛
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――全身が酷く重い
腕を伸ばすのにも躊躇してしまうのは、何故なのか。昨日は…そうだ、アーカルド王国のアレクサンドル第一王子に呼ばれたんだった。婚約者の彼に呼ばれて城に着いたら、アレクサンドル第一王子の護衛のマル――もとい、私が思いを寄せているシューラが迎えに来てくれて…それから……
「そうだわっ!寝ちゃったわっ」
勢いよく起き上がると、自分の部屋とは違う足にかかる上質なシーツ、柔らかなスプリングのベッドに気がつく。
視界いっぱいに広がるのは誰かの部屋で、白をベースにした壁紙、ベッドのヘッドボードが壁にくっつき、そのベッドフレームの足元の先にある一人掛けにしては大きい紺色の無地のソファーも、こぢんまりとしたシンプルなローテーブル、部屋の隅には机とテーブルその横には小さな本棚があり、乱雑に本が置かれている。それでもやっぱり私の部屋よりも数倍広いこの部屋は、高貴な人の部屋みたいだった。
自分の身体を見下ろすと、シーツがはだけ露わになった胸元にいくつもある赤い所有印が見えて、昨日の出来事をはっきりと思い出した。
――昨日…シューラと
ぼぼっと赤くなる頬を手のひらで冷ましながら、シーツを手繰り寄せ胸元を隠した。
「起きたか」
これからどうしようか迷っていると、部屋の扉が開き大きな身体の――私の想い人であるシューラが入ってきた。いつもの軍服を着ている彼は、昨晩の時に見せてくれた私を求める獰猛な気配も今は感じない。
彼は私がいるベッドに近づき、私のそばに座ると私の頬を大きな手が触れた。
「…起きて大丈夫なのか」
「シューラ…これは一体」
同時に発した言葉は重なってしまい、驚いてしまう。
「あっ…ごめんなさい」
慌ててしまうと、シューラはふっと笑い、
「…いや」
と、私の頬を親指の腹で撫でた。彼の次の言葉をじっと待っていると、お互い無言になってしまい、見つめ合ったまま時間が過ぎていく。シューラの顔が近づいているな、と思った時には彼の唇が私の唇に重なり、そっと瞳を閉じた。薄く唇を開けると、すぐに彼の舌が私の口内に入る。
「…っん」
上顎を舐められて、ゾクゾクとする。そっと腕を上げて、シューラの肩から首の後ろへと回すと、口づけが深くなっていく。顔の角度を何度も何度も変えては、飽きることのない口づけに夢中になり貪欲に求める。私の太もも付近のベッドが沈み、身体のバランスが崩れると完全に彼に身を委ねた。
鼻でする息が苦しくなって、ちゅぅっと名残惜しく彼の唇から離れると、私の額やこめかみ、目元や頬にキスの雨が振る。お返しに、と彼へも私にやってくれたように、唇を触れるだけのキスを返していると、私の背中に手を添えたシューラは、ゆっくりと私を押し倒した。
「…シューラ…今…明るいわ」
私の頭の横に腕をつけ、私に覆い被さるシューラを見上げながらそう告げると、
「…ああ、だが、エシーが悪い…俺を誘惑しているから」
と、ベッドの上で広がった私の髪を一房掴み、そっと口づけを落とした。うるっとした紅い瞳でじっと見つめられ、少しはだけた真っ白な肌には赤い所有印、形のいい二つの乳房も何度も愛たためにそのあまりの柔らかさと口に含んだ時の感触を知ってしまったら、耐えられる男がいるだろうか。シューラがそんな葛藤をしているなんてツユ知らず、何故私が?と不思議そうに見上げる事しか出来ない。
これから甘い時間が始まる濃密な雰囲気が2人を包み始めると、起きた時に腕を動かすのも億劫だった疲れも吹き飛んだ気がした。
上まできっちりとボタンが溜まっている軍服に手を伸ばし一つずつ外していく。その間にシューラは私の耳朶を甘噛みし、私の髪に鼻を埋めて嗅ぐ。彼の息が直接頭にかかって擽ったくて肩をすくめると、シューラは嬉しそうにくすくすと笑うものだから、余計に彼の息が私の頭にかかる。軍服の半分くらいのボタンを外すと、彼の手が次のボタンを外そうとしている私の手を掴んだ。
「今度は俺が」
そう言って身につけているものなんてない、私の身体を大切なものに触れるようにそっと優しく触れる。肩から腕のラインを彼の大きな手のひらがなぞり、指先までいくと指先を取り私の両手を上げて、持ち上げられた両手が彼の口に寄せられ、ちゅっと触れるだけのキスをした。
私の手に触れた彼をじっと見つめていると、私の視線に気がついた彼が私の顔に近づき、触れるだけのキスを落とす。両手を離され、自由になった手で彼の首のうしろへと腕を回すと口づけが深くなる。
コンコン
「ご入室の許可をいただきたい」
彼の手が私の身体を弄りシーツを剥がした途端に、シューラが入ってきた扉からノックの音と男性の声が聞こえた。口づけの途中だった私は我に返りシーツを手繰り寄せ、ほぼ上半身裸だった身体を慌てて隠した。
「…誰だ」
低く唸る声は不機嫌そのもので、私の身体を一度抱きしめながら私の頬にキスをした。
「侍女を呼ぶ、それまではこの部屋から出ないように」
そう言って名残惜しく離れた彼は、ノックのした扉へ向かってしまう。彼がいなくなると、ここはまだ城の中だということに気がついて、侍女がくると言っていたシューラに、もう第一王子に私達の関係はバレてしまったのかと思った。
――後悔は…していないわ、だって…
この先身の破滅だとしても、このひと時を後悔することはない。
――だって初めては、好きな人としたいと私が願ったのだから
シーツを身体に巻き付けていると、「失礼します」と3人の黒いスカートと白いエプロン姿の侍女がやってきて一列に並ぶ。真ん中に立つ他の2人よりも年が上っぽい侍女が一歩前に出るとお辞儀をした。
「アレクサンドル第一王子の婚約者であります、エステル・ユリング公爵令嬢の城の滞在時にお世話をさせていただきますベラと申します、こちらはラン、こちらはミズナです」
ベラという侍女は、左手を上げて左隣にいた子をランと、右隣にいた子をミズナと紹介してくれた。
そしてベラの後ろにいた2人もベラにならって頭を下げて一礼すると、にっこりと笑顔を見せてくれた。
「さっ、王子様がお待ちです、準備をいたしましょう」
ベラがパンッと手を叩き、後ろにいた2人が動き出した。
***************
「こちらが、アレクサンドル第一王子殿下の執務室でございます」
着替え終わった時に部屋の隅に佇んでいたのは、私専属の護衛となったヤミだった。婚約者である私に当てられた護衛は女性で、なんでも王子自ら護衛として相応しいのかお手合わせをしたらしい。茶色い短髪の彼女は一見して男性に見えるけど、喋ってみれば明るく一緒にいて気まずくならなそうだ。
――こんな事がなかったら…楽しいんだけどな…
憂鬱な気持ちで歩いていた私は、ヤミと仲を深めるよりもこの後の起こりうる最悪の展開に頭を悩ませていた。
――そりゃ、そうよね…私を呼び出したのに護衛のシューラと一晩いたんだもの
コンコンとノックをすると、私を連れてきたとヤミが告げ、中に入るようにと低い、さっきまで一緒にいた聞きなれた声がする。
ヤミは中に入るつもりはないらしく、執務室の前の扉で待つみたいで、扉を開けて私を中へと促すと扉を閉めた。
「…来たか」
「アレクサンドル第一王子、お久し…ぶ…り…で…」
さっきまでいた広い部屋と同じくらいの執務室は、天井まである棚に本や資料が詰まっている。扉と反対側は大きな窓で、カーテンが開かれ、太陽の光で室内が明るく照らされていた。部屋の中央には書類が山積みになった執務机、窓際には休息するのだろうソファーとテーブルが設置されていた。入ってすぐに王子に挨拶をすると、書類が山積みの執務机から顔を上げた人物に驚いた。
「シュッ…シューラ!?」
「うむ、綺麗にしてもらったな」
シューラは立ち上がり、驚きで固まっている私の前までやってきて、侍女3人に綺麗にしてもらった私を見て満足そうにそう呟いた。赤い所有印で埋まった首筋を隠すように金色の髪はそのまま下され、白い薔薇の花の刺繍のデザインのAラインのベースが深緑のドレスと、所々に黒い王家の紋章も入っている。化粧は薄く、ほんのりと倦怠感を馴染ませる雰囲気はとても妖しく美しく、シューラはそんな私の頬をそっと撫でた。
「なっなんでっ」
綺麗にしてもらったと、褒めてもらって嬉しくて頬が赤くなったが、それどころじゃないと彼が何故執務机に座っていたのか聞いた。
「…それは、彼こそがこのアーカルド王国の第一王子、アレクサンドルだからだよ」
シューラの後ろから顔を出したのは、婚約式で顔を合わせたアレクサンドル第一王子で、舞踏会でもエスコートしてもらった金髪の彼だ。
「えっ?!王子っ?何故ここにっ?!」
よく見ると執務机の横にも机があって、そこにいたのだろう。だけどシューラの方に視線が行ってしまっていて、王子がいた事すらが知らなかった。
「…シューラ…が…アレクサンドル第一王子」
遅れてやってきた王子――金髪の彼は、にこっと笑うと、
「僕はこのアーカルド王国の第一王子、アレクサンドル殿下の護衛のマルと申します、以後よろしくお願いします、エステルご令嬢」
恭しく胸に手を置いて腰を折って挨拶するマルは、エスコートしてくれた時と雰囲気が違う。
「え…マル…?…えっ?」
「マル、エシーの視界に入るな」
未だ混乱する私に、私の目の前にいるシューラが不機嫌そうにそう言って、私の顎に手を添えて自分の方へと顔の位置をずらした。
「…シューラ」
彼の顔が私の視界いっぱいに入ると、不思議とまた頬が赤くなり瞳が潤んでしまう。
「エシー、聞いてくれるか?」
フッと笑う彼の声が優しくなり、いつものように心地よい気持ちとなる。彼に見惚れたままコクンと頷くと、彼の背後にいるマルという青年は、やれやれとため息を吐いた。
「…つまり、アーカルド王国の王族は暗殺の危険を回避するためにお世継ぎを産まないと、公の場に出る事は出来ないんですね」
「そうだ」
窓際に移り、ソファーに並んで座った。彼の大きな身体では、2人座るには少しだけ小さなソファーは、彼の太ももと私の太ももがくっついてしまう。私の手を握り、強面の印象を与える鋭い眼差しは、今は和らげている。その瞳に魅入られ、彼の顔をじっと見つめていた。
「…あの、お父様とお母様には…」
「これは国家機密だから、ユリング公爵には告げているが…ユリング公爵夫人は知らないと思う」
シューラの背後にいる方向へマルをチラッと見ると、シューラの身体が動き、また私の視界いっぱいに広がる。
「…マル、少し席を外してくれ」
「はい、御意に」
背後を振り向かずにそう言えば、マルは一礼して部屋から出て行ってしまう。
パタンと扉が閉まる音が聞こえ、改めてシューラを見つめると、本物のマルが居なくなって今更ながら彼がアレクサンドル第一王子という事実を感じる。
「…シューラ…いえ、アレクサンドル第一王子‥数々の無礼申し訳ありません」
「エシー、それは違う…身分を偽って近づいたのは私であって、君は何にも悪くないよ……変わらずシューラと呼ぶように」
掴まれている手を離そうとすると、シューラの手に力が入り私の手を強く掴む。
「…アレクサンドル第一王子…シューラ…は、私とのお世継ぎが欲しいから近づいたのですか…?」
話を聞いた時から思った事が、頭をよぎり気がついたら口にしていた。
「それは違う…君に…エシーに一目惚れしたのだ…初めて会った、初顔合わせの時に…君を陰から見ていたんだ」
「…初顔合わせの時…ですか…?」
すぐに否定してくれたが、黒髪の男性なんて国王陛下のいたあの婚約式の時にしか会った事がないと思い出す。
「そうだ、君はユリング公爵と一緒に城の中庭で開かれたお茶会に出席して、マルと会ったのだ」
「…マル…様と」
そういえば顔合わせの時は、ひょろっとした細身の身体と無口な人と言う印象しかなかいけれど、今思えば金髪だった気もする。しかしシューラは黒髪で、きっと今よりも身体は小さかったと思う。私の不思議そうな表情を見て、シューラは苦笑いをする。
「もうその時には影武者はいて、私は王妃候補を陰から見ることしか許されなかったのだよ」
そうするとシューラは、2人で過ごした時の王子の武勇伝は自分の事で、少しでもいい印象を与えようと彼の話をしたのだと暴露する。
「婚約式…も影武者を使うのですか…?」
「…いや、それは…違う…俺がマルに言ったんだ…まだ君の前に現れるのは早いからと」
「…それは…何故です…?」
簡略化したといっても、婚約式はこれから夫婦になろうと、誓う神聖な儀式だと思っていたので、シューラのした事が分からなかった。
「だってそうだろ、国王陛下と王妃の子供が強面で厳ついと…君に逃げられると思ったからだ」
「…私が逃げる?」
まさか、と目を見開くと、シューラはバツの悪そうな顔をして、ふいっと横を向いてしまう。
「そうだ、マルみたいに見栄えもいい男と婚約をして…」
「それで結婚式か…初夜に顔を見せるはずだったのですか?」
「……そうだ」
そんなバカな話があるだろうか、ある意味結婚詐欺じゃないかと、ギロッとシューラを睨みつけると、ますますシューラは焦るが、結局何にも口にしない。
「…昨日の言葉…は、本当ですか?」
気まずい沈黙が2人を包み、どのくらい経ったのか私の口から発する言葉は少しだけ掠れていた。
「もちろんだ、離したくないし愛している、エシー」
「…そう…ですか」
昨日の彼の言葉と私に触れる優しい手、優しい眼差しを疑う気はさらさらない。だが、一応聞いてみたかったのだ。
「もぅっ、このことは…一生許さないから!」
「エッ、エシー」
ムッとわざとむくれる彼に掴まれた手を無理矢理離すと、シューラは途端に焦り出した。
焦ったままの彼の胸板に抱きつくと、今度は硬直してしまって面白い。ドクンドクンと彼の鼓動を聞いて、あぁやっぱり好きなんだ、と自分の想いに気がつく。彼の腕が私の背中に回り抱きしめ返されると、好きな匂いに包まれ心が満たされていくのを感じた。
「…死ぬほど謝ってください、婚約者の護衛と想いを通じてしまったと…思ったのですよ」
自分から誘ったのに、まるで彼のせいとばかりに責めた。
――だって、婚約式で会ったのが、シューラだったら…すごく嬉しかったはずよ
そうなのだ、婚約式で会ってれば絶対に嬉しかったはずで、こんなにも悩む事なんてなかった。
「…ああ、すまなかった」
私の首筋に顔を埋めたシューラは私の首筋にペロリと舌を這わすと、身体が勝手に反応をしてしまう。
「…ん…シューラ」
甘えた声が出てしまうと、足の裏に腕を差し込んだシューラに易々と持ち上げられ、彼の膝の上へと横抱きに座らされた。
「…お慕いしてます…シューラ」
昨日の言葉をもう一度告げると、彼の頬を両手で挟み彼の唇に自分の唇を重ねた。
触れただけの唇を一度離し、もう一度くっつけると、薄く開いた彼の口の中へと自分の舌を入れた。まるで待っていたかのようにすぐに吸い付かれ、痛いのと熱いのですでにぼうっとしてしまう。彼の頬から首の後ろへと腕を回し抱きつくと、想いを止められず彼との口づけに酔いしれた。
「ん、っ…ん」
しばらく続けていた口づけだったが、このままこうしていたら次を期待してしまう、と名残惜しくも彼の唇から離れて、彼の右半分の顔に自分の頬を押し付けた。荒い呼吸を整えていると、彼の唇に自分が付けた赤い色の口紅が移ってしまったことに気がつき、指先で彼の唇をなぞると指先を甘噛みされた。
「…ん」
ちょっとした事でも、過敏に反応してしまう身体が恨めしい。ねっとりと舌先を舐められ、だんだんとなんで唇を愛でていないんだろうと、思い始める。
「…シュー…ラのせいよ…こんな」
――誰かの事をこんなにも求めてしまうのは初めてで、すごく怖くなる
「…ああ、俺のせいだ」
私の理不尽な言葉も難なく受け止め、最後には嬉しいとふっと笑い零す。
「…もう一度…愛を確かめよう」
そう言われれば、私には反対する理由はない。
「…でも…まだ執務が…ある…で…しょ」
私がこの執務室に来たのは王子に呼ばれたからで、と、言い訳をしていると、
「やっと想いが通じ合ったんだ、多少の蜜月は理解してくれるだろう」
誰が?という前にまた口を塞がれ、うっとりとしてしまい全身の力が抜けていく。
「また、部屋に戻ろう」
私の耳元で囁いたシューラは、私の抱き上げて歩き出した。
こうなる事を知っていたのか、いつの間にかヤミは居なくなっていて、廊下には誰も居ないのをいい事に彼の首へと腕を回して抱きついた。
「…愛してます、シューラ」
そして誰も居ないのをいい事に、彼に自分の気持ちを告げて、くすくすと笑っては彼のこめかみに口づけをした。
まさかそんな事で、部屋に入った途端にシューラに襲われてしまうなんて、思いもしなかったけども。
ほどなくして、アーカルド王国のアレクサンドル第一王子の婚約者であるエステル・ユリング公爵令嬢は、懐妊を発表し、アーカルド王国の情勢を見て結婚式と披露宴は簡略化された。
アレクサンドル第一王子の子供が誕生すると、王太子妃とその子供の初めてのお披露目となり、王妃並みに美しいエステルに皆見惚れた。その半歩後ろにいたのは、護衛のように彼女を見守る逞しい身体の強面の男。
王太子の存在など忘れてしまった大衆は、王太子妃の後ろにいる男が、まさかこの国の第一王子とは思いもしなかったのだ。
腕を伸ばすのにも躊躇してしまうのは、何故なのか。昨日は…そうだ、アーカルド王国のアレクサンドル第一王子に呼ばれたんだった。婚約者の彼に呼ばれて城に着いたら、アレクサンドル第一王子の護衛のマル――もとい、私が思いを寄せているシューラが迎えに来てくれて…それから……
「そうだわっ!寝ちゃったわっ」
勢いよく起き上がると、自分の部屋とは違う足にかかる上質なシーツ、柔らかなスプリングのベッドに気がつく。
視界いっぱいに広がるのは誰かの部屋で、白をベースにした壁紙、ベッドのヘッドボードが壁にくっつき、そのベッドフレームの足元の先にある一人掛けにしては大きい紺色の無地のソファーも、こぢんまりとしたシンプルなローテーブル、部屋の隅には机とテーブルその横には小さな本棚があり、乱雑に本が置かれている。それでもやっぱり私の部屋よりも数倍広いこの部屋は、高貴な人の部屋みたいだった。
自分の身体を見下ろすと、シーツがはだけ露わになった胸元にいくつもある赤い所有印が見えて、昨日の出来事をはっきりと思い出した。
――昨日…シューラと
ぼぼっと赤くなる頬を手のひらで冷ましながら、シーツを手繰り寄せ胸元を隠した。
「起きたか」
これからどうしようか迷っていると、部屋の扉が開き大きな身体の――私の想い人であるシューラが入ってきた。いつもの軍服を着ている彼は、昨晩の時に見せてくれた私を求める獰猛な気配も今は感じない。
彼は私がいるベッドに近づき、私のそばに座ると私の頬を大きな手が触れた。
「…起きて大丈夫なのか」
「シューラ…これは一体」
同時に発した言葉は重なってしまい、驚いてしまう。
「あっ…ごめんなさい」
慌ててしまうと、シューラはふっと笑い、
「…いや」
と、私の頬を親指の腹で撫でた。彼の次の言葉をじっと待っていると、お互い無言になってしまい、見つめ合ったまま時間が過ぎていく。シューラの顔が近づいているな、と思った時には彼の唇が私の唇に重なり、そっと瞳を閉じた。薄く唇を開けると、すぐに彼の舌が私の口内に入る。
「…っん」
上顎を舐められて、ゾクゾクとする。そっと腕を上げて、シューラの肩から首の後ろへと回すと、口づけが深くなっていく。顔の角度を何度も何度も変えては、飽きることのない口づけに夢中になり貪欲に求める。私の太もも付近のベッドが沈み、身体のバランスが崩れると完全に彼に身を委ねた。
鼻でする息が苦しくなって、ちゅぅっと名残惜しく彼の唇から離れると、私の額やこめかみ、目元や頬にキスの雨が振る。お返しに、と彼へも私にやってくれたように、唇を触れるだけのキスを返していると、私の背中に手を添えたシューラは、ゆっくりと私を押し倒した。
「…シューラ…今…明るいわ」
私の頭の横に腕をつけ、私に覆い被さるシューラを見上げながらそう告げると、
「…ああ、だが、エシーが悪い…俺を誘惑しているから」
と、ベッドの上で広がった私の髪を一房掴み、そっと口づけを落とした。うるっとした紅い瞳でじっと見つめられ、少しはだけた真っ白な肌には赤い所有印、形のいい二つの乳房も何度も愛たためにそのあまりの柔らかさと口に含んだ時の感触を知ってしまったら、耐えられる男がいるだろうか。シューラがそんな葛藤をしているなんてツユ知らず、何故私が?と不思議そうに見上げる事しか出来ない。
これから甘い時間が始まる濃密な雰囲気が2人を包み始めると、起きた時に腕を動かすのも億劫だった疲れも吹き飛んだ気がした。
上まできっちりとボタンが溜まっている軍服に手を伸ばし一つずつ外していく。その間にシューラは私の耳朶を甘噛みし、私の髪に鼻を埋めて嗅ぐ。彼の息が直接頭にかかって擽ったくて肩をすくめると、シューラは嬉しそうにくすくすと笑うものだから、余計に彼の息が私の頭にかかる。軍服の半分くらいのボタンを外すと、彼の手が次のボタンを外そうとしている私の手を掴んだ。
「今度は俺が」
そう言って身につけているものなんてない、私の身体を大切なものに触れるようにそっと優しく触れる。肩から腕のラインを彼の大きな手のひらがなぞり、指先までいくと指先を取り私の両手を上げて、持ち上げられた両手が彼の口に寄せられ、ちゅっと触れるだけのキスをした。
私の手に触れた彼をじっと見つめていると、私の視線に気がついた彼が私の顔に近づき、触れるだけのキスを落とす。両手を離され、自由になった手で彼の首のうしろへと腕を回すと口づけが深くなる。
コンコン
「ご入室の許可をいただきたい」
彼の手が私の身体を弄りシーツを剥がした途端に、シューラが入ってきた扉からノックの音と男性の声が聞こえた。口づけの途中だった私は我に返りシーツを手繰り寄せ、ほぼ上半身裸だった身体を慌てて隠した。
「…誰だ」
低く唸る声は不機嫌そのもので、私の身体を一度抱きしめながら私の頬にキスをした。
「侍女を呼ぶ、それまではこの部屋から出ないように」
そう言って名残惜しく離れた彼は、ノックのした扉へ向かってしまう。彼がいなくなると、ここはまだ城の中だということに気がついて、侍女がくると言っていたシューラに、もう第一王子に私達の関係はバレてしまったのかと思った。
――後悔は…していないわ、だって…
この先身の破滅だとしても、このひと時を後悔することはない。
――だって初めては、好きな人としたいと私が願ったのだから
シーツを身体に巻き付けていると、「失礼します」と3人の黒いスカートと白いエプロン姿の侍女がやってきて一列に並ぶ。真ん中に立つ他の2人よりも年が上っぽい侍女が一歩前に出るとお辞儀をした。
「アレクサンドル第一王子の婚約者であります、エステル・ユリング公爵令嬢の城の滞在時にお世話をさせていただきますベラと申します、こちらはラン、こちらはミズナです」
ベラという侍女は、左手を上げて左隣にいた子をランと、右隣にいた子をミズナと紹介してくれた。
そしてベラの後ろにいた2人もベラにならって頭を下げて一礼すると、にっこりと笑顔を見せてくれた。
「さっ、王子様がお待ちです、準備をいたしましょう」
ベラがパンッと手を叩き、後ろにいた2人が動き出した。
***************
「こちらが、アレクサンドル第一王子殿下の執務室でございます」
着替え終わった時に部屋の隅に佇んでいたのは、私専属の護衛となったヤミだった。婚約者である私に当てられた護衛は女性で、なんでも王子自ら護衛として相応しいのかお手合わせをしたらしい。茶色い短髪の彼女は一見して男性に見えるけど、喋ってみれば明るく一緒にいて気まずくならなそうだ。
――こんな事がなかったら…楽しいんだけどな…
憂鬱な気持ちで歩いていた私は、ヤミと仲を深めるよりもこの後の起こりうる最悪の展開に頭を悩ませていた。
――そりゃ、そうよね…私を呼び出したのに護衛のシューラと一晩いたんだもの
コンコンとノックをすると、私を連れてきたとヤミが告げ、中に入るようにと低い、さっきまで一緒にいた聞きなれた声がする。
ヤミは中に入るつもりはないらしく、執務室の前の扉で待つみたいで、扉を開けて私を中へと促すと扉を閉めた。
「…来たか」
「アレクサンドル第一王子、お久し…ぶ…り…で…」
さっきまでいた広い部屋と同じくらいの執務室は、天井まである棚に本や資料が詰まっている。扉と反対側は大きな窓で、カーテンが開かれ、太陽の光で室内が明るく照らされていた。部屋の中央には書類が山積みになった執務机、窓際には休息するのだろうソファーとテーブルが設置されていた。入ってすぐに王子に挨拶をすると、書類が山積みの執務机から顔を上げた人物に驚いた。
「シュッ…シューラ!?」
「うむ、綺麗にしてもらったな」
シューラは立ち上がり、驚きで固まっている私の前までやってきて、侍女3人に綺麗にしてもらった私を見て満足そうにそう呟いた。赤い所有印で埋まった首筋を隠すように金色の髪はそのまま下され、白い薔薇の花の刺繍のデザインのAラインのベースが深緑のドレスと、所々に黒い王家の紋章も入っている。化粧は薄く、ほんのりと倦怠感を馴染ませる雰囲気はとても妖しく美しく、シューラはそんな私の頬をそっと撫でた。
「なっなんでっ」
綺麗にしてもらったと、褒めてもらって嬉しくて頬が赤くなったが、それどころじゃないと彼が何故執務机に座っていたのか聞いた。
「…それは、彼こそがこのアーカルド王国の第一王子、アレクサンドルだからだよ」
シューラの後ろから顔を出したのは、婚約式で顔を合わせたアレクサンドル第一王子で、舞踏会でもエスコートしてもらった金髪の彼だ。
「えっ?!王子っ?何故ここにっ?!」
よく見ると執務机の横にも机があって、そこにいたのだろう。だけどシューラの方に視線が行ってしまっていて、王子がいた事すらが知らなかった。
「…シューラ…が…アレクサンドル第一王子」
遅れてやってきた王子――金髪の彼は、にこっと笑うと、
「僕はこのアーカルド王国の第一王子、アレクサンドル殿下の護衛のマルと申します、以後よろしくお願いします、エステルご令嬢」
恭しく胸に手を置いて腰を折って挨拶するマルは、エスコートしてくれた時と雰囲気が違う。
「え…マル…?…えっ?」
「マル、エシーの視界に入るな」
未だ混乱する私に、私の目の前にいるシューラが不機嫌そうにそう言って、私の顎に手を添えて自分の方へと顔の位置をずらした。
「…シューラ」
彼の顔が私の視界いっぱいに入ると、不思議とまた頬が赤くなり瞳が潤んでしまう。
「エシー、聞いてくれるか?」
フッと笑う彼の声が優しくなり、いつものように心地よい気持ちとなる。彼に見惚れたままコクンと頷くと、彼の背後にいるマルという青年は、やれやれとため息を吐いた。
「…つまり、アーカルド王国の王族は暗殺の危険を回避するためにお世継ぎを産まないと、公の場に出る事は出来ないんですね」
「そうだ」
窓際に移り、ソファーに並んで座った。彼の大きな身体では、2人座るには少しだけ小さなソファーは、彼の太ももと私の太ももがくっついてしまう。私の手を握り、強面の印象を与える鋭い眼差しは、今は和らげている。その瞳に魅入られ、彼の顔をじっと見つめていた。
「…あの、お父様とお母様には…」
「これは国家機密だから、ユリング公爵には告げているが…ユリング公爵夫人は知らないと思う」
シューラの背後にいる方向へマルをチラッと見ると、シューラの身体が動き、また私の視界いっぱいに広がる。
「…マル、少し席を外してくれ」
「はい、御意に」
背後を振り向かずにそう言えば、マルは一礼して部屋から出て行ってしまう。
パタンと扉が閉まる音が聞こえ、改めてシューラを見つめると、本物のマルが居なくなって今更ながら彼がアレクサンドル第一王子という事実を感じる。
「…シューラ…いえ、アレクサンドル第一王子‥数々の無礼申し訳ありません」
「エシー、それは違う…身分を偽って近づいたのは私であって、君は何にも悪くないよ……変わらずシューラと呼ぶように」
掴まれている手を離そうとすると、シューラの手に力が入り私の手を強く掴む。
「…アレクサンドル第一王子…シューラ…は、私とのお世継ぎが欲しいから近づいたのですか…?」
話を聞いた時から思った事が、頭をよぎり気がついたら口にしていた。
「それは違う…君に…エシーに一目惚れしたのだ…初めて会った、初顔合わせの時に…君を陰から見ていたんだ」
「…初顔合わせの時…ですか…?」
すぐに否定してくれたが、黒髪の男性なんて国王陛下のいたあの婚約式の時にしか会った事がないと思い出す。
「そうだ、君はユリング公爵と一緒に城の中庭で開かれたお茶会に出席して、マルと会ったのだ」
「…マル…様と」
そういえば顔合わせの時は、ひょろっとした細身の身体と無口な人と言う印象しかなかいけれど、今思えば金髪だった気もする。しかしシューラは黒髪で、きっと今よりも身体は小さかったと思う。私の不思議そうな表情を見て、シューラは苦笑いをする。
「もうその時には影武者はいて、私は王妃候補を陰から見ることしか許されなかったのだよ」
そうするとシューラは、2人で過ごした時の王子の武勇伝は自分の事で、少しでもいい印象を与えようと彼の話をしたのだと暴露する。
「婚約式…も影武者を使うのですか…?」
「…いや、それは…違う…俺がマルに言ったんだ…まだ君の前に現れるのは早いからと」
「…それは…何故です…?」
簡略化したといっても、婚約式はこれから夫婦になろうと、誓う神聖な儀式だと思っていたので、シューラのした事が分からなかった。
「だってそうだろ、国王陛下と王妃の子供が強面で厳ついと…君に逃げられると思ったからだ」
「…私が逃げる?」
まさか、と目を見開くと、シューラはバツの悪そうな顔をして、ふいっと横を向いてしまう。
「そうだ、マルみたいに見栄えもいい男と婚約をして…」
「それで結婚式か…初夜に顔を見せるはずだったのですか?」
「……そうだ」
そんなバカな話があるだろうか、ある意味結婚詐欺じゃないかと、ギロッとシューラを睨みつけると、ますますシューラは焦るが、結局何にも口にしない。
「…昨日の言葉…は、本当ですか?」
気まずい沈黙が2人を包み、どのくらい経ったのか私の口から発する言葉は少しだけ掠れていた。
「もちろんだ、離したくないし愛している、エシー」
「…そう…ですか」
昨日の彼の言葉と私に触れる優しい手、優しい眼差しを疑う気はさらさらない。だが、一応聞いてみたかったのだ。
「もぅっ、このことは…一生許さないから!」
「エッ、エシー」
ムッとわざとむくれる彼に掴まれた手を無理矢理離すと、シューラは途端に焦り出した。
焦ったままの彼の胸板に抱きつくと、今度は硬直してしまって面白い。ドクンドクンと彼の鼓動を聞いて、あぁやっぱり好きなんだ、と自分の想いに気がつく。彼の腕が私の背中に回り抱きしめ返されると、好きな匂いに包まれ心が満たされていくのを感じた。
「…死ぬほど謝ってください、婚約者の護衛と想いを通じてしまったと…思ったのですよ」
自分から誘ったのに、まるで彼のせいとばかりに責めた。
――だって、婚約式で会ったのが、シューラだったら…すごく嬉しかったはずよ
そうなのだ、婚約式で会ってれば絶対に嬉しかったはずで、こんなにも悩む事なんてなかった。
「…ああ、すまなかった」
私の首筋に顔を埋めたシューラは私の首筋にペロリと舌を這わすと、身体が勝手に反応をしてしまう。
「…ん…シューラ」
甘えた声が出てしまうと、足の裏に腕を差し込んだシューラに易々と持ち上げられ、彼の膝の上へと横抱きに座らされた。
「…お慕いしてます…シューラ」
昨日の言葉をもう一度告げると、彼の頬を両手で挟み彼の唇に自分の唇を重ねた。
触れただけの唇を一度離し、もう一度くっつけると、薄く開いた彼の口の中へと自分の舌を入れた。まるで待っていたかのようにすぐに吸い付かれ、痛いのと熱いのですでにぼうっとしてしまう。彼の頬から首の後ろへと腕を回し抱きつくと、想いを止められず彼との口づけに酔いしれた。
「ん、っ…ん」
しばらく続けていた口づけだったが、このままこうしていたら次を期待してしまう、と名残惜しくも彼の唇から離れて、彼の右半分の顔に自分の頬を押し付けた。荒い呼吸を整えていると、彼の唇に自分が付けた赤い色の口紅が移ってしまったことに気がつき、指先で彼の唇をなぞると指先を甘噛みされた。
「…ん」
ちょっとした事でも、過敏に反応してしまう身体が恨めしい。ねっとりと舌先を舐められ、だんだんとなんで唇を愛でていないんだろうと、思い始める。
「…シュー…ラのせいよ…こんな」
――誰かの事をこんなにも求めてしまうのは初めてで、すごく怖くなる
「…ああ、俺のせいだ」
私の理不尽な言葉も難なく受け止め、最後には嬉しいとふっと笑い零す。
「…もう一度…愛を確かめよう」
そう言われれば、私には反対する理由はない。
「…でも…まだ執務が…ある…で…しょ」
私がこの執務室に来たのは王子に呼ばれたからで、と、言い訳をしていると、
「やっと想いが通じ合ったんだ、多少の蜜月は理解してくれるだろう」
誰が?という前にまた口を塞がれ、うっとりとしてしまい全身の力が抜けていく。
「また、部屋に戻ろう」
私の耳元で囁いたシューラは、私の抱き上げて歩き出した。
こうなる事を知っていたのか、いつの間にかヤミは居なくなっていて、廊下には誰も居ないのをいい事に彼の首へと腕を回して抱きついた。
「…愛してます、シューラ」
そして誰も居ないのをいい事に、彼に自分の気持ちを告げて、くすくすと笑っては彼のこめかみに口づけをした。
まさかそんな事で、部屋に入った途端にシューラに襲われてしまうなんて、思いもしなかったけども。
ほどなくして、アーカルド王国のアレクサンドル第一王子の婚約者であるエステル・ユリング公爵令嬢は、懐妊を発表し、アーカルド王国の情勢を見て結婚式と披露宴は簡略化された。
アレクサンドル第一王子の子供が誕生すると、王太子妃とその子供の初めてのお披露目となり、王妃並みに美しいエステルに皆見惚れた。その半歩後ろにいたのは、護衛のように彼女を見守る逞しい身体の強面の男。
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