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精霊祭
しおりを挟む精霊祭まであと3日に来て、俺は王都から遠く離れた町に来ていた。そこは、アリッサ・ヘッジバードの居た孤児院がある町だ。
しかし、孤児院があった場所にはなにもない。
一日をかけて色々と調べていくうちにアリッサの闇が見えた。同情しえない内容である。
彼女が此処に来たのは間違いなく、孤児院で何があったのかも聞いていたみたいだ。その時に何を思ったのかは知らないが、彼女の行動理由はここからな気がする。
話を聞いた人はそういえばと言ってある少年に会わせてくれた。その少年の話は俺にとって信じられないような偶然の繋がりだった。俺は急ぎ王都に戻るべく動き始める。
ついでに、少年には一緒に来て貰うことにしよう。
王都に戻った時は精霊祭ぎりぎりになっていた。
話によると、アリッサはオウル兄さんと共に精霊祭に向けて準備をしているようだ。
そのまま、オウル兄さんの従者に監視をお願いして、俺はギルドで使っている剣を用意しておく。
何故すぐに拘束しないのかと不思議に思う者も居ると思うが、さすがに拘束できるまでの証拠が無いのだ。
後手に回るのは痛いがしょうがない。
念のため、地下の警備も厳重にしてもらったらいよいよ、精霊祭が始まる。
俺は、正装の中でも動きやすい服装を選び、ベアトもそれに合わせるかのように衣装を選んでくれた。
ベアトには、彼女の調べを全て語ってある。優しいベアトは涙を流した。
会場には、父と母、義姉様達やオウル兄さんを抜かした兄さん達がもう既にいる。
まばらとは言え、学園の生徒達や街の人々も多く来ていた。
そうそう、今さらだが精霊祭について説明しよう。
精霊祭は数年に一度普段見ることが出来ない精霊達が姿を表す日の事だ。そこで、祝福を受けるものも居るし希に嫌われる奴もいる。嫌われた奴はちょっとした精霊のいたずらの標的になったりする。そういうやつは早々に神殿で平謝りして許してもらうのがここの習わしだ。
この精霊祭の日は、王族も参加して無礼講で楽しみ精霊に蜂蜜酒を振る舞ったりするのが普通だ。
「おかしいな。」
そう呟いたのは、誰だったか。
だが、会場の雰囲気を感じている者達は皆そう思って居ただろう。なぜなら、精霊達が怯えているからだ。
何時もなら人々の周りを楽しげに浮遊する精霊達は、一塊になり地下を見ながら震えている。
どうやら、警備を厳重にしたのに意味がなかったようだ。
「父さん、ちょっと地下に行ってきます。」
「うむ。」
「ちょっと待ちなさいよ。」
準備していた剣を持ち、会場から出ようとした時、入口から現れたのはいつもの笑みを消しているアリッサの姿だった。
アリッサの片手には少し錆びた剣がある。
それは、王族なら見たことのある剣だ。そう、地下のドラゴンに刺さっているはずの剣だ。
「……オウル兄さんは?」
「あの人なら、地下で警備たちとおねんねよ。」
俺は入口近くにいる兵士に視線を送り回収を指示すると頷きかいされ、近くの見たことのあるギルドの人々と共に走っていく。
あいつらなら時間稼ぎはやれるか。
「ヘッジバード嬢、何か用か?」
「何か用?レオンは知ってるんでしょ!私に何があったのか。」
「調べたからな。で、その剣を見る限り抜いたのか。」
顔色を変えることもなく平然と訪ねる俺に、アリッサは少し動揺するも直ぐにふふんと余裕の表情になった。
会場の皆はアリッサの持つ剣に注目している。
「まさか、王都の地下にあんなものがあるなんてね。」
「隠さなくても平気だ。王都の地下にドラゴンが封じられているのは有名な話だからな。」
「えっ。」
「行き方は王族しか知らないがな。」
そう、王都にドラゴンが封じられて居るのは有名な話だ。それが伝説でなく実話だと俺と同年代なら確実に知っている。
そして、アリッサ嬢が持つ剣がそのドラゴンの封印の要であることも知るものが多い。だからこそ、その剣を持つ少女の存在に驚いた顔をしている。
「ヘッジバード嬢、いや、ドラグネス嬢と呼ぼうか。」
「あら、知ってたの?」
「その剣を持っているからな。」
アリッサが持つ剣は、ドラグネス侯爵の遺品である。
ドラグネス侯爵はその血筋が持つことが許された剣を使い、ドラゴンを封印した。それは、彼がもう先がない事を知っていたからだ。彼はの身体は病気にむしばまれ血縁も居なかったため、ドラゴンは永遠に封印されるはずだった。
そう、封印されるはずだったんだけどな。
アリッサは、ドラグネス侯爵の非認知の子である。
ドラグネスの妻は誘拐され殺された。
誘拐の最中にアリッサを産みその後殺されたため侯爵は知らなかったみたいだ。
まあ、詳しくは今は話す必要はないな。とにかく、彼女は偶然にもドラゴンの封印を外せる存在だったのだ。
アリッサは、都から遠かった所に住んでたから知らなかったのだか 、それを二重の偶然が起こり知ることとなったのだろう。
「ドラゴンを暴れさせたらここにお前も死ぬぞ。」
「うふふ、良いんじゃない。私は、ヘッジバード男爵にこの身を汚されて、孤児院もないの。」
どうやら、ヘッジバード男爵はロリコンらしい。なるほど、なかなか妻を作らないと思ったらそういうことか。
辺りを見回すもヘッジバード男爵はいない。
「あの男なら屋敷で新しい娘と仲良く冷たくなってるわよ。」
それは、既にこの世に居ないことを指している。
それを良いながらにっこりと嗤うアリッサは何処か壊れているようだった。
「王都を巻き込まなくても良いものを。」
「うっさいわね。誰も、助けてくれないでそんなこと言うな!」
誰かが発した言葉に、オーガの様に顔を歪めて叫んだ。その顔が恐ろしかったのか、顔を見たもの達が口をつぐみ、カタカタ震えている。
「……はあ、人のせいにするなよ。」
「あんたに何が分かるのよ!」
「しらねぇよ、俺はどっかのロリコンが死のうが王都が無くなろうがどうでも良い。」
「あんた、王族でしょ!」
ぶっちゃけ、王族だからなによ。と言いたい。
父さんも俺の発言に既に諦めているのか、平然と成り行きを見ている。
「俺には、ベアトがいれば良い。」
「バカじゃないの!あのノータリン女にそんな価値があるのわけないじゃない!」
はぁ?このくそ女、ナニヲイイヤガッタ?
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