この記憶、復讐に使います。

SHIN

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まずは休みなさい

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 私が目覚めたのは、あの日から3日経った朝方だった。

 すぐにでも行動したかったけど、私を治療してくれたと言う海の国の魔女様は駄目だという。
 薄紫の肌の目元の泣き黒子がとてもエロっぽいお姉様で、従者を1人連れてわざわざ私の為に来てくれたと紹介された。

 魔女様は自らをディーラと名乗り、目覚めた後に診察をしてくれている。


「ふむ、栄養失調の他は大丈夫そうね。フィシゴ、まずは消化の良いものから一週間かけて普通にして。」
「了解っす。」
「殿下は、その間彼女に無理させちゃ駄目ですからね。」
「……。」
「返事!」
「…おう。」


 ディーラ様は、てきぱきと周りの人(殿下含む)に指示を出している。

 そういえば、あの少年だと思っていた子はなんと私よりも年上でイェシル殿下のお目付け役なのだと聞かされた。当初、殴られたこの子供を診て欲しいと伝えたら、爆笑されてしまい恥ずかしかったよ。
 少年が『もう、成人してるっす!』と顔を真っ赤にして怒っていて申し訳なかったです。


 少年、もとい彼はフィシゴ。
 リカオンという動物の性質をもつ獣人さんらしい。


「あの、せめて紙と筆記物を下さいませんか。」
「何故?」
「私の知る情報を書こうかと…。」
「ああ、貴女、転生者だったんでしたね。」



 私が転生者だと知って最初は何を言っているんだという眼で見られたが、魔法が有るからかあまり発展していなかった医学の知識を伝えると、ディーラ様を連れてこられ、色々と問答する事になった。

 なぜ、そんなことを知っているのかと聞かれたら、転生前は臨床検査技師だったから。
 医者の様に深くは学ばないがある程度は知識がある。

 そして、そんな医療者だけど安月給だったから趣味で小説も書いて小遣いを稼いでいた。


 小説を書く際に物の構造とかを調べていたからそっちの知識もついたのは、この世界で幸運だったと思っていたが、そもそも前世の記憶がなければ、カインも死ななかったのに。

 そう思い立つと自分が赦せない。


「一時間だけなら許可するわ。」
「え、たった?」
「貴女の身体は休みを欲しているの。実際に一時間やってみたら分かるわ。」


 試してみなさいとディーラ様が自らのカルテファイルから紙を数枚とペンを差し出してきた。
 フィシゴはどこからかベッドに乗せる机を用意してくる。

 周りの視線が気になってそろそろと見回したが誰1人出て行くものはいない。
 肺に滞っていた息を吐き出して、ペンを紙に滑らし始めた。
 先ずはそうね。

 塩か硝酸に硫黄と木炭ね。
 それぞれの割合はたしかこんな感じで、混ぜ合わせる。次に大事なのはとある薬品とこんな筒状の器具。 

 それを、撃ち出す物も必要。

 ここまでくれば分かる人には分かると思う。きっとあの女が求めていたのはこんな物だったろうな。
 カインはこの知識は知ってはいけないと、拒んだ。今思うとそれはこの世界に広めたくない想いもあったのだと分かる。


「大砲にしては小さいな。」
「これは、拳銃という持ち運べる大砲みたいなものです。」
「ほお。」
「大砲のように回りに大きな衝撃波が出ない火薬になっているから。」


 カリカリとペンを走らせる私に、面白そうなイェシル殿下。


 きっと魔法があるこの世界ではこの武器は革命になる。物理反射の魔法を使う前に弾が相手に到達するだろうから。
 更に追い付けないようにするなら…。


 付け足すようにレールガンの構造も書いてみた。こちらは雷の魔法ありきの応用したものだが。


 そのあとも、ステンレスの作り方に水銀の危険性など色々と書いていたら、一時間経たずに腕に力が入らなくなってきた。
 激しい運動をした後の様な感覚に此ほどまで筋肉が落ちていたのかとショックを受ける。


「もう、駄目ね。」
「あと、少しだけ…。」
「駄目よ。自分も分かっているでしょ。」



 ここ数ヵ月、監禁され毎日暴力にさらされた身体は思ったよりも疲弊している。
 だけど、あの女が国に戻る前にある程度は計画を建てたいのもある。


 「まずは休みなさい!貴女のいうあの女は数ヵ月かけて豪遊しながら帰るんでしょ。まだ、時間が有るわ。」
「でも、気が変わって…。」
「我が花嫁の要望だ。影、スパイでもつけてやる。」


 イェシル殿下はそう、言ってくれた。
 私が書いた紙を回収し、それを、振りながら部屋から出ていく。

 それを、合図にフィシゴは机や用具を片付け、ディーラ様は私の身体を横にすると寒くならないように掛け布団を肩までふわりとかけてくれる。


ここまでされたら休むしかないじゃないか。




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