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貴方に会いたくて②
しおりを挟むびちゃびちゃ
「えっ。」
目をつぶって痛みが襲いかかってくると思ったら、何か冷たい液体が顔に当たった。
おそるおそる、目を開き辺りの情報を取り込もうと見回せば、皆が生暖かな目でこちらを見ている。
私に掛かっているのはただの水のよう。
そして、フード姿の者をはっとして見ればゆっくりと勿体ぶるようにフードを外す男。
思わず目を見開いた。
フードの下には懐かしい痩せ細った姿ではない、私と同じふっくらしたカインが居たのだ。
「え、な、どうして。」
死んだと聞いたのに目の前に居るのはいったい。
ポンポンと耳を叩くような仕草で、今耳栓をしていることを思い出して、慌てて耳栓を取る。
そうしたら、いつも聞いてたくすくすという優しい笑い声が聞こえる。
「ほ、本物?」
「久しぶり、僕の可愛い子。」
「か、カイン。」
目尻が熱くなる。
身体が勝手に動き、気付いたらカインに抱きついていた。
昔から変わらない日の光を含んだ匂い。
抱きしめ返してくれる腕の強さも、肉付きが良くなったものの変わらない。
周りが呆れるぐらい私は年甲斐もなく鳴き声を上げて泣いた。
良かった。
生きていてくれて本当に良かった。
私が泣いている間、カインはいろいろと教えてくれた。
第2王女と護衛達に連れ出され、山奥に来たら崖から落とされたこと。
たまたま崖の下は黄泉の国の希少果の群生地で希少果がクッションになり気絶しただけで助かった事。
たまたま、視察に来ていた気だるげなイェシル殿下のご友人は、カインを自宅に匿い治療したこと。
最近、テンペスト国と婚姻する話を聞いていたから、イェシル殿下に問い合わせたら、ビンゴだったこと。
私が復讐に燃えているから止めに来た事。
「君に人を殺す道具に関わらせたくない。」
「だから、銃を水鉄砲に?」
「あの時、君はイェシル殿下や獣人達が耳や鼻を塞がれたときの危なさを知ったね。」
獣人達が耳や鼻が機敏であるから、それを使って生活している。
今日みたいにそれが塞がれたら、いつも通り動くことは出来ないだろう。
それは、死を意味するかもしれない。
自分たちの銃という道具で、自分達の首を締めることになる。私は恩人であるイェシル殿下を危険に晒すことになりそうだったのだ。
「ごめんなさい。」
ぽつりと呟いた言葉にイェシル殿下は近くに来て、暖かな手で頭を撫でてくれる。
後々に聞いたら、元々銃は公表する予定はなく、むしろ獣人の弱点が露になったから対策を考えるきっかけになったと。
スパイスなどで攻撃されればヤバかったと今では笑い話になっている。
この世界では貴重なスパイスを武器にするなんて考えられないのが良かった。
「さて、もう僕の仇なんて考えなくて良くなったんだ。自由になろう。」
「それは、俺の嫁を奪うと言うことか。」
「だって、ヒィスナは復讐できるから君の元にいるんだろ?」
にっこりと睨み付け。
2つの視線の間にいる私はどうしたら良いのかしら?
確かに、最初は利用してカインの仇を討とうとしたけど、利用されていると知ってなお優しい、イェシル殿下といると楽しい。
カインの仇を討ったら死ぬつもりが、イェシル殿下と幸せになりたい気持ちが出て来てしまっているのも事実。
「しつこいと嫌われるぞ。」
「大切な子を守って何が悪い!」
「今は俺が守るさ。過去の男さん?」
「やる気のないお前に大切な子を任せられるか!」
「はあ?!……いもうと?」
辺りが何故か静かになった。
そう言えば、関係を利用されてしまうかもと名前呼びが当たり前でいつからか呼ばなくなってしまったな。
でも、結構私が人質になってしまったのだけど。無理やり結婚とかされなかったのは良かった。
この世界では結婚は神との契約だから、婚約状態から夫婦まで無理やりに身を奪うなどして裂こう者なら神罰を食らう。
「カイン兄さん。ありがとう。」
兄さん!?
皆が驚く声が辺りに響いた。
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