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貴方に会いたくて
しおりを挟むそれから1ヶ月は怒涛の日々だった。
リドリーさん指導のマナーレッスンに、美容レッスン。イェシル殿下の魔法のトレーニングに王族の教養。フィシゴの一般常識から、護衛術まで。
時間がいくらあっても足りないとはこれをいうのだと、この身をもって体感させられた。
そして、それぞれを教えてくれる方々が、はるかに優秀であることを見せつけられる。私の知識など、いらないのでは無いかというぐらい頭が良い。
「でも、きっかけって大事なのよ。」
リドリーさんと私が考案したリンパマッサージを受けながら、イェシル殿下の宿題の魔力のオリジナル技の開発をしていると、呟きが聞こえたのかフォローしてくれる。
「でも、あの第2王女に復讐したいのに思い付かないの。」
「貴女やイェシルが生きてるだけでも十分達成されると思うけど、そうね、この1ヶ月で王女様から取り巻きを奪えるくらい美しく、気高くなってるわ。」
きっと、悔しがるでしょうね。
と言うリドリーさん。
たしかに、肌のキメや透明感は遥かに変わった。化粧なんて薄くて良いなんて前世でも、一度もなかった。
そして、マナーや教養を学んだからか自信がもててなんとなく明るくなった気がする。
「あとは、罪を暴けば王族なのだもの、罰を受けるわ。」
「我が儘なんですけど、この手でカインの仇を取りたくて。」
「カインという子が大事なのね。」
「はい。私を守ってくれた人なので。」
「……。」
復讐なんて虚しくなるだけだと、フィシゴが言っていた。
よくそんな話しもドラマや漫画で見た気もするけど、多分私を今動かしているの燃料がこれだからなんとも言えない。
終えたら何も残らないかも知れないけど、イェシル殿下に恩を返して静かに眠りたいな。
「そうだわ。今日は実験が午後からあるのよね。」
「はい。銃の試供品が出来たみたいで。」
「じゃあ、早めに終わらせて会場に向かいましょ。」
そうだったわと思い出した様にリドリーさんは慌ててリンパマッサージで使用した香油を落とすように指示を出した。
もう何回目かの施術だったので、そこは手慣れたようにリドリーさんの弟子達がテキパキと準備を整えてくれる。
微かに香油の匂いが残るかなって所で、実験場というなのバカ広い草原に向かう。
草原には待っててくれたイェシル殿下と馬で相乗りになり、香油が気になるのか匂いを嗅がれながらいく。
「もう、レディの匂いをずっと嗅ぐなんて紳士じゃないわ!」
「この匂いはなんか嫌だ。」
「分かったわ。もう、薄荷は使わないわよ。」
プンプン怒るリドリーさんにとても、嫌そうなイェシル殿下。そんなに匂いがきついかなぁと自分で匂いを嗅ぐけど、なんか匂いするなぁと思うぐらい。
「獣人って結構匂いに敏感なんですよ。」
特に番の匂いには。
「つ、番。あっ、確かに嫁ですものね。」
「イシシ、そうだこれ耳栓です。」
銃の音はもしかしたら獣人にはきついかも知れない。
そう思った時に耳栓も作ってもらったのだ。
そして、皆が耳栓をした後、銃らしき物を持ったフード姿の者が二人こちらに歩いてきた。
あれが、事前に教えてもらった技術力が凄い友人とその仲間なのだろう。
一人がフードを外し夜の闇の様な深い藍色の顔色の悪い男が、気だるげにイェシル殿下とハンドサインだけで話をしている。
私も教えてもらったが、まだスムーズに会話は出来ない。唯一分かるのは『裏切り者』『実行』『今日』。
え、まさか裏切り者が今日何かをするのでは。
今なら、耳栓で音が遮られているし、鼻は私とリドリーさんの薄荷の匂いで塞がれている。
確かに襲うなら今しか無いかもしれない。
慌てて、イェシル殿下に変えよろうとしたら、フード姿のもう一人が拳銃をこっちに向けている。
口元だけうっすらと笑う相手。
狙いは私?
ぎゅっと目をつぶった。
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