付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖

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11.春希

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 深夜0時を過ぎた。もう大河を待つ必要もない。
 35ヶ月も二人暮らしをしていたせいで一人暮らしにまだ慣れないが、きっといつかは慣れるだろう。

 今日は久しぶりに職場で大河と話をしてしまった。もうあんなことはしないようにしよう。
 大河の隣にいると、大河に触れたくなる。
 もう少しで指輪のない大河の左手に、右手を伸ばしてしまいそうだった。


 結局いつものようにぐるぐると大河のことばかり考えて、大河からもらったシルバーの指輪を眺めていると、ピンポーンとドアのインターフォンが鳴る。
 オートロックじゃない。いきなり玄関のインターフォンが鳴った。

 とりあえず無くさないよう指輪を右手薬指にはめ、こんな深夜になんだと不審に思いながらもドアを開ける。

「あー、すいません、また大河連れてきましたぁ」

 いつか酔い潰れた大河を連れてきた男。確か春希と大河が呼んでいた。春希は肩に、飲み過ぎてフラフラになった大河を抱えている。

 大河の家はもうここじゃない。
 そう言おうと思ったが、春希がここに大河を連れてきたということは、大河の事情を知らないのかもしれないし、大河が今どこに住んでいるのかも陸斗にはわからない。

 なによりこんな状態の二人を無下に放り出すのは可哀想に思い、「ありがとうございます」と大河を部屋に運ぶのを手伝うことにした。



「あれ? 大河の部屋、なんかすっかり片付いてますね」

 大河を部屋のベッドに寝かせた後、春希は部屋が様変わりしていることに気がついたようだ。以前来た時と比べて不自然なくらいに物が減っているのだから気がついて当然だろう。


「……別れたんでしょ」

 え……。春希の突然の呟きに驚き、咄嗟の答えが出なかった。

「大河と、別れたんですよね?」

 なんなんだ、この男は。一体何をどこまで大河から聞いて知っているのだろう。

「俺の方が、大河との付き合いは長いんです。俺、大学から大河と一緒ですから」

 なんのマウントだよ。急に……。

「大河は大学時代、色々あったのに結局誰とも付き合わなかったんですよ」
「へぇ。そうなんだ」
「俺もずっとただの友達扱いでした。なのに就職した途端に……」

 春希は悔しそうに唇を噛み締めた。

「俺はずっと、大河が好きで……。大河も恋愛対象が男だって知った時から運命みたいに思ってて……でも大河は俺に見向きもしない。恋愛に興味がないのかと思ってたのに、就職してからは陸斗、陸斗って大河の話はいつも俺以外の男の話ばっかりで……」

 春希は「あんたがその陸斗なんだろ」とキッと陸斗を睨みつけた。

「俺は三年待ちました。それでこの前、大河から『恋人と上手くいってない』ってこぼされた時、どれだけ俺が嬉しかったか。早く壊れろ、さっさと別れろって思いました」

 春希は学生の頃から大河が好きで、大河が陸斗と付き合うことになってもまだ大河が好きで、今でもずっと想っているのか。

「それで、大河と別れたんですよね?!」

 春希はすごく必死だ。陸斗にそれを認めて欲しいと切に訴えてくる。

 それは間違いじゃない。
 陸斗と大河はもう恋人同士じゃない。

「……別れた。別れたよ。大河はもう俺のことは興味がないみたいだから」

 ずっと思ってはいたけど、自分で事実を口に出してみると、また胸が苦しくなる。

「ですよね?! じゃあ、じゃあなんで大河は……」

 春希は言葉を詰まらせた。

「……なんでもないです。お邪魔しました」
「おいっ……」

 春希は陸斗の引き止めも無視して言いたいことだけをぶつけて出て行った。
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