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10.別れたはずなのに
陸斗side
陸斗は、大河がいなくなってからも、いつも通りに仕事をこなしている。まさか失恋くらいで長期間休む訳にもいかないし、何か別のことをしている方が早く大河を忘れることができるかもしれないとも思ったからだ。
「小林。この前はありがとう」
営業部の新井がわざわざ総務部にまで来て陸斗に礼を言いにきた。
「大したことじゃないよ」
陸斗は自席を立ち、新井と二人で話しやすいスペースまで移動する。
「どう? あれから順調か?」
陸斗は、新井が自分の誕生日に好きな人に告白すると言うので少しだけ協力してやったのだ。
「ああ。上手くいってる」
「そっか! 良かったな」
本当によかった。協力した甲斐がある。
「なぁ、小林。最近如月の様子がおかしいんだけど、何か心当たりはないか?」
如月=大河のことだ。大河の名前を聞いただけで胸がズキンと痛くなる。
陸斗は重症だ。まだまだ大河を忘れられそうにないことを自覚させられる。
「さぁ……知らないな」
陸斗は、会社では大河にまったく興味がないという態度でいる。挨拶もしないし、存在すら気にしないというふりをしている。
同期と言っても何十人といるし、疎遠になってしまっている同期は他にもいる。決して不自然ではないはずだ。
「お前ら同期だろ? もっと仲良くしろよ。せめて挨拶くらいしろ」
「俺、如月のこと嫌いだから」
陸斗はいつも通りにごく自然に嘘をつく。
「おい……っ!」
新井が慌てて陸斗の言葉を止めさせる。二人の前に大河が現れたからだ。
別に陸斗としてはさっきの言葉を大河に聞かれようが構わない。同僚の前での嫌いのふりでも、本当に嫌いだと思われても、もうどっちでもいい。
「き、如月、なんでお前が総務に?! めっずらしいな!」
新井が不穏な空気を和ませようとわざと明るい声を出す。
「新井は小林と随分と楽しそうだな」
大河は鬱屈した表情でこちらを見た。
「……総務の小林にこれ渡して来いって言われたんだよ」
大河は陸斗に書類の挟まったクリアファイルを手渡そうとするが、陸斗は大河からのクリアファイルは受け取らない。
「受け取れよ、小林」
大河はクリアファイルを押し付けようとするが、陸斗は「その担当は俺じゃない」と否定した。
「総務に小林は二人いる。それは小林麗花の方が担当してる」
「え……? 小林が、二人?!」
別に大したことでもないのに、大河は動きが止まるくらいに驚いて、ひどく動揺している様子だ。
「き、如月。それ、俺が小林に渡してくるよ」
新井は大河の持っていたクリアファイルをさっと奪い取り、「じゃあ」と陸斗に言い残していそいそと総務部のデスクの方へと向かっていった。おそらく小林麗花に会いに行くのだろう。
「……なぁ、陸斗」
大河は陸斗の横に並び、小声で話しかけてきた。
「職場で俺に話しかけるな」
「総務に小林は二人いるのか?」
「そうだけど」
「そして新井は小林麗花と付き合ってるのか?」
「なんだ。お前も知ってたのか?」
「お前とじゃなくて?」
「は? なんで俺なんだよ。新井は男になんか興味はないよ。あー、お前も新井の変な噂を信じてたのか?」
新井はゲイだと言う根も歯もない噂が流れているのは聞いたことがある。
でもそれは真実じゃない。麗花に出会うまで新井は誰のことも好きにならなかっただけだ。
——それにあの頃の俺にはまだ、大河がいたじゃん……。
大河の言ってる意味がわからない。最近まで陸斗に恋人がいたことは、大河が一番よくわかっているくせに。むしろ、大河しか知らないじゃないか。
ああ。せっかく大河を忘れようと思ってたのに、ほんの少し大河と話しただけで苦しくなる。職場なのに泣き出しそうだ。
もうこれ以上は大河と一緒にいられない。このまま大河のそばにいたら、無様な姿をさらけ出してしまいそうだ。
陸斗は大河のもとから「俺、急ぎの仕事があるから」と逃げ出した。
陸斗は、大河がいなくなってからも、いつも通りに仕事をこなしている。まさか失恋くらいで長期間休む訳にもいかないし、何か別のことをしている方が早く大河を忘れることができるかもしれないとも思ったからだ。
「小林。この前はありがとう」
営業部の新井がわざわざ総務部にまで来て陸斗に礼を言いにきた。
「大したことじゃないよ」
陸斗は自席を立ち、新井と二人で話しやすいスペースまで移動する。
「どう? あれから順調か?」
陸斗は、新井が自分の誕生日に好きな人に告白すると言うので少しだけ協力してやったのだ。
「ああ。上手くいってる」
「そっか! 良かったな」
本当によかった。協力した甲斐がある。
「なぁ、小林。最近如月の様子がおかしいんだけど、何か心当たりはないか?」
如月=大河のことだ。大河の名前を聞いただけで胸がズキンと痛くなる。
陸斗は重症だ。まだまだ大河を忘れられそうにないことを自覚させられる。
「さぁ……知らないな」
陸斗は、会社では大河にまったく興味がないという態度でいる。挨拶もしないし、存在すら気にしないというふりをしている。
同期と言っても何十人といるし、疎遠になってしまっている同期は他にもいる。決して不自然ではないはずだ。
「お前ら同期だろ? もっと仲良くしろよ。せめて挨拶くらいしろ」
「俺、如月のこと嫌いだから」
陸斗はいつも通りにごく自然に嘘をつく。
「おい……っ!」
新井が慌てて陸斗の言葉を止めさせる。二人の前に大河が現れたからだ。
別に陸斗としてはさっきの言葉を大河に聞かれようが構わない。同僚の前での嫌いのふりでも、本当に嫌いだと思われても、もうどっちでもいい。
「き、如月、なんでお前が総務に?! めっずらしいな!」
新井が不穏な空気を和ませようとわざと明るい声を出す。
「新井は小林と随分と楽しそうだな」
大河は鬱屈した表情でこちらを見た。
「……総務の小林にこれ渡して来いって言われたんだよ」
大河は陸斗に書類の挟まったクリアファイルを手渡そうとするが、陸斗は大河からのクリアファイルは受け取らない。
「受け取れよ、小林」
大河はクリアファイルを押し付けようとするが、陸斗は「その担当は俺じゃない」と否定した。
「総務に小林は二人いる。それは小林麗花の方が担当してる」
「え……? 小林が、二人?!」
別に大したことでもないのに、大河は動きが止まるくらいに驚いて、ひどく動揺している様子だ。
「き、如月。それ、俺が小林に渡してくるよ」
新井は大河の持っていたクリアファイルをさっと奪い取り、「じゃあ」と陸斗に言い残していそいそと総務部のデスクの方へと向かっていった。おそらく小林麗花に会いに行くのだろう。
「……なぁ、陸斗」
大河は陸斗の横に並び、小声で話しかけてきた。
「職場で俺に話しかけるな」
「総務に小林は二人いるのか?」
「そうだけど」
「そして新井は小林麗花と付き合ってるのか?」
「なんだ。お前も知ってたのか?」
「お前とじゃなくて?」
「は? なんで俺なんだよ。新井は男になんか興味はないよ。あー、お前も新井の変な噂を信じてたのか?」
新井はゲイだと言う根も歯もない噂が流れているのは聞いたことがある。
でもそれは真実じゃない。麗花に出会うまで新井は誰のことも好きにならなかっただけだ。
——それにあの頃の俺にはまだ、大河がいたじゃん……。
大河の言ってる意味がわからない。最近まで陸斗に恋人がいたことは、大河が一番よくわかっているくせに。むしろ、大河しか知らないじゃないか。
ああ。せっかく大河を忘れようと思ってたのに、ほんの少し大河と話しただけで苦しくなる。職場なのに泣き出しそうだ。
もうこれ以上は大河と一緒にいられない。このまま大河のそばにいたら、無様な姿をさらけ出してしまいそうだ。
陸斗は大河のもとから「俺、急ぎの仕事があるから」と逃げ出した。
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