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6.身代わりとして
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そうだった。今夜のラルスの役目は、アルバートの閨の練習台になることだ。アルバートが気さくに話をしてくれるから、ついアルバートの友人にでもなったつもりになってしまった。
「殿下。どうぞこの身体を自由にしてくださって構いません」
アルバートは優しい。話をすればするほど、身分の低い者を権力で無理に閨の練習台にするような人ではないとわかる。
でもこれから迎える大事な妃さまを相当愛しているのだろう。夜の睦事で失敗して妃に嫌われないために、さらなる練習を積みたいと伯爵家にもう一度声をかけてきたに違いない。
平民のラルスの身体などになんの価値もない。どうなったっていいのだ。アルバートの役に立てるのなら、痛い目に遭わされたっていい。
「この身体は練習台です。ボロボロになさってもよいのです。どうか、殿下の好きなように」
「そのようなことを言うな。今日はお前の顔がもう一度見たくて呼んだだけだ。抱いたりしない」
アルバートにそう言われて、急にさみしく思った。
アルバートはラルスの身体に興味などない。ラルス自身にも興味はない。
アルバートが会いたかったのはフィンだ。フィンの良い噂話を聞いて、一度話をしてみたいと思ったのだろう。
たしかにアルバートには閨の練習など必要ないと思う。前に抱いてもらったとき、とても気持ちよかった。あれなら妃を迎えても上手くいくに違いない。
それなのに、抱きたくもない小汚いオメガに手を出す必要などない。
「申し訳ございません……余計なことを言った僕をどうぞ罰してください……」
アルバートに失礼なことを言ってしまった。「この身体をボロボロに」なんてアルバートがそんなことをするわけがない。それなのに、まるでアルバートが見境なしにオメガを貪る卑しい男かのようなことを言ってしまった。
「そうだな。さっきの言葉は私も傷ついた」
あっ、とラルスは顔を上げる。
やっぱりそうだ。アルバートは怒っている。酷いことを言って、アルバートの心を傷つけてしまった。
「この場でお前に罰を与える。いいな?」
「はい……」
ラルスは胸が苦しくなる。罰せられることが嫌なのではない。こんなに心の広いアルバートを怒らせるようなことをしてしまった自分自身に対して、憤りを感じているのだ。
「今宵は何もせず、無事に返してやろうと思っていたのに。これは、さみしくなるようなことを言うお前のせいだ。あのようなことを言うから触れたくて仕方がなくなった」
アルバートはラルスの唇に唇を重ねてきた。アルバートの柔らかな唇は、ラルスの唇を味わうように何度もキスをする。
アルバートはやっぱりキスが上手だ。さっきまであんなに胸が苦しかったのに、アルバートにキスをされ、辛かった心も、強張っていた身体も蕩けていく。
「はぁっ……ん、う……っ」
やがてアルバートはより深く求めるようにラルスの口内を犯し始めた。
気持ちいい。たまらない。アルバートのことしか考えられなくなっていく。
こんなの全然罰じゃない。ラルスにとっては最上の褒美だ。
「んっ……んんっ……」
身体を抱き寄せられ、キスをされ、あまりに良すぎてラルスの腰が自然と揺れてしまう。
でも、目の前にいるこの御方は、ラルスの恋人でもなんでもない。
「可愛い……フィン、フィン……」
ラルスの本当の名前も知らない、本当ならば平民のラルスは触れることすら叶わない相手。
「殿下っ、殿下……」
アルバートは、ラルスと会っていることすら秘密にしなければならない。王太子殿下が婚姻前に閨の練習をしているなんて誰にも知られてはいけないことだ。
アルバートはまもなく妃を迎え、将来この国を背負って立つような、素晴らしい人なのだから。
「殿下。どうぞこの身体を自由にしてくださって構いません」
アルバートは優しい。話をすればするほど、身分の低い者を権力で無理に閨の練習台にするような人ではないとわかる。
でもこれから迎える大事な妃さまを相当愛しているのだろう。夜の睦事で失敗して妃に嫌われないために、さらなる練習を積みたいと伯爵家にもう一度声をかけてきたに違いない。
平民のラルスの身体などになんの価値もない。どうなったっていいのだ。アルバートの役に立てるのなら、痛い目に遭わされたっていい。
「この身体は練習台です。ボロボロになさってもよいのです。どうか、殿下の好きなように」
「そのようなことを言うな。今日はお前の顔がもう一度見たくて呼んだだけだ。抱いたりしない」
アルバートにそう言われて、急にさみしく思った。
アルバートはラルスの身体に興味などない。ラルス自身にも興味はない。
アルバートが会いたかったのはフィンだ。フィンの良い噂話を聞いて、一度話をしてみたいと思ったのだろう。
たしかにアルバートには閨の練習など必要ないと思う。前に抱いてもらったとき、とても気持ちよかった。あれなら妃を迎えても上手くいくに違いない。
それなのに、抱きたくもない小汚いオメガに手を出す必要などない。
「申し訳ございません……余計なことを言った僕をどうぞ罰してください……」
アルバートに失礼なことを言ってしまった。「この身体をボロボロに」なんてアルバートがそんなことをするわけがない。それなのに、まるでアルバートが見境なしにオメガを貪る卑しい男かのようなことを言ってしまった。
「そうだな。さっきの言葉は私も傷ついた」
あっ、とラルスは顔を上げる。
やっぱりそうだ。アルバートは怒っている。酷いことを言って、アルバートの心を傷つけてしまった。
「この場でお前に罰を与える。いいな?」
「はい……」
ラルスは胸が苦しくなる。罰せられることが嫌なのではない。こんなに心の広いアルバートを怒らせるようなことをしてしまった自分自身に対して、憤りを感じているのだ。
「今宵は何もせず、無事に返してやろうと思っていたのに。これは、さみしくなるようなことを言うお前のせいだ。あのようなことを言うから触れたくて仕方がなくなった」
アルバートはラルスの唇に唇を重ねてきた。アルバートの柔らかな唇は、ラルスの唇を味わうように何度もキスをする。
アルバートはやっぱりキスが上手だ。さっきまであんなに胸が苦しかったのに、アルバートにキスをされ、辛かった心も、強張っていた身体も蕩けていく。
「はぁっ……ん、う……っ」
やがてアルバートはより深く求めるようにラルスの口内を犯し始めた。
気持ちいい。たまらない。アルバートのことしか考えられなくなっていく。
こんなの全然罰じゃない。ラルスにとっては最上の褒美だ。
「んっ……んんっ……」
身体を抱き寄せられ、キスをされ、あまりに良すぎてラルスの腰が自然と揺れてしまう。
でも、目の前にいるこの御方は、ラルスの恋人でもなんでもない。
「可愛い……フィン、フィン……」
ラルスの本当の名前も知らない、本当ならば平民のラルスは触れることすら叶わない相手。
「殿下っ、殿下……」
アルバートは、ラルスと会っていることすら秘密にしなければならない。王太子殿下が婚姻前に閨の練習をしているなんて誰にも知られてはいけないことだ。
アルバートはまもなく妃を迎え、将来この国を背負って立つような、素晴らしい人なのだから。
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