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12.愛されすぎて
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「解せぬ。まったくもって解せぬ」
「まぁまぁ、子どもではないのですから、そんなに機嫌を損ねなくても」
ラルスはアルバートをなだめる。せっかくふたりきりで馬に乗り、城を抜け出して城下町を見下ろせる丘でのんびりしようとしたのに計画が台無しだ。
「どうしてラルスばかりが好かれるのだ?」
「そんなことはありませんよ」
「ある。シヴァは私の愛馬なのに、私を蹴っ飛ばしてラルスにすり寄ったではないか」
ここにいるのは、正確にいうとふたりと一頭だ。アルバートの愛馬、黒鹿毛のシヴァはなぜかラルスにばかり懐いてしまうのだ。そのことでアルバートは拗ねてしまった。
「神官もそうだ。あやつは私に直接伝えればいいものを、教会の寄付金の件をわざわざラルスを通してきた」
「あれは、僕のほうが話しやすかったのでしょう。お金の話でしたから」
先日、神官長がラルスを訪ねてきて教会の修繕のための資金を王室から援助してほしいという旨の話をしてきたのだ。ラルスには権限はないため、そのままそっくりアルバートに伝えたら、アルバートはそれが面白くなかったらしい。
「違う。奴らは私の弱点を見抜いているのだ。ラルスの口から寄付金の話をされたら、私が喜んで寄付することをわかっていてやっているとしか思えん」
「初めから寄付するつもりだったのですから、良いではありませんか」
「ラルスの可愛い顔を見ながら話をされてみろ。気分が良くなって金額が弾んでしまうに決まっている。ラルスにいいところを見せたいという男心を利用した小狡い手段だ」
「まったく……」
そこまでわかっているのなら、寄付の金額を例年どおりに抑えればいいだけのことだ。
「だが私は嬉しいぞ。ラルスが民に好かれている姿を見ると、私まで誇らしくなる」
平民から初の妃になったラルスは、同じく平民という立場の大衆からの支持が厚い。妃になった今も厩係として働いているからか、謙虚な妃と称されて皆が支持してくれるのだ。
「全部、アルバートがくれたものです。アルバートの妃になれて僕は幸せです」
ラルスは最愛の夫の腕に抱きつき、頬を寄せた。アルバートはラルスの肩を抱く。
「ラルスは最高の相手だ。私に足りないものを補ってくれるし、夜の相性もぴったりだからな」
「アルバート! そのような話は……!」
「婚礼前からわかっていたことだな。閨の練習だと言ってラルスを抱いたとき、ここは天国かと思うくらいによかった。気持ちが良すぎてすっかりラルスの虜になってしまった」
「こら!」
アルバートは婚礼を挙げてから、文字通り毎晩ラルスに誘いをかけてくる。毎夜毎夜飽きないのかと思うが、アルバートは「同じベッドにいるのに手を出さないなどできるはずがない」とラルスを求めてくる。
ラルスもラルスで、アルバートとの行為は気持ちがいいのでつい受け入れてしまうのだが。
これが、夜の相性がいいということなのだろうか。
「ラルス。今ここで、私の夢を叶えてはくれないか?」
「夢、ですか?」
「そうだ。一度でいいから空の下でラルスを抱いてみたいと思っていたのだ。抱かせてもらってもよいか?」
「ええっ?」
確かにここには誰もいない。でも、青空の下でそんな行為をするのはさすがに恥ずかしい。
「あっ……!」
急にアルバートが覆い被さってきて、芝生の上に押し倒される。
「ラルスっ……!」
アルバートに愛されすぎるのも問題だと思いながらも、ラルスは目の前にいる愛しい男の背中に腕を伸ばした。
終。
「まぁまぁ、子どもではないのですから、そんなに機嫌を損ねなくても」
ラルスはアルバートをなだめる。せっかくふたりきりで馬に乗り、城を抜け出して城下町を見下ろせる丘でのんびりしようとしたのに計画が台無しだ。
「どうしてラルスばかりが好かれるのだ?」
「そんなことはありませんよ」
「ある。シヴァは私の愛馬なのに、私を蹴っ飛ばしてラルスにすり寄ったではないか」
ここにいるのは、正確にいうとふたりと一頭だ。アルバートの愛馬、黒鹿毛のシヴァはなぜかラルスにばかり懐いてしまうのだ。そのことでアルバートは拗ねてしまった。
「神官もそうだ。あやつは私に直接伝えればいいものを、教会の寄付金の件をわざわざラルスを通してきた」
「あれは、僕のほうが話しやすかったのでしょう。お金の話でしたから」
先日、神官長がラルスを訪ねてきて教会の修繕のための資金を王室から援助してほしいという旨の話をしてきたのだ。ラルスには権限はないため、そのままそっくりアルバートに伝えたら、アルバートはそれが面白くなかったらしい。
「違う。奴らは私の弱点を見抜いているのだ。ラルスの口から寄付金の話をされたら、私が喜んで寄付することをわかっていてやっているとしか思えん」
「初めから寄付するつもりだったのですから、良いではありませんか」
「ラルスの可愛い顔を見ながら話をされてみろ。気分が良くなって金額が弾んでしまうに決まっている。ラルスにいいところを見せたいという男心を利用した小狡い手段だ」
「まったく……」
そこまでわかっているのなら、寄付の金額を例年どおりに抑えればいいだけのことだ。
「だが私は嬉しいぞ。ラルスが民に好かれている姿を見ると、私まで誇らしくなる」
平民から初の妃になったラルスは、同じく平民という立場の大衆からの支持が厚い。妃になった今も厩係として働いているからか、謙虚な妃と称されて皆が支持してくれるのだ。
「全部、アルバートがくれたものです。アルバートの妃になれて僕は幸せです」
ラルスは最愛の夫の腕に抱きつき、頬を寄せた。アルバートはラルスの肩を抱く。
「ラルスは最高の相手だ。私に足りないものを補ってくれるし、夜の相性もぴったりだからな」
「アルバート! そのような話は……!」
「婚礼前からわかっていたことだな。閨の練習だと言ってラルスを抱いたとき、ここは天国かと思うくらいによかった。気持ちが良すぎてすっかりラルスの虜になってしまった」
「こら!」
アルバートは婚礼を挙げてから、文字通り毎晩ラルスに誘いをかけてくる。毎夜毎夜飽きないのかと思うが、アルバートは「同じベッドにいるのに手を出さないなどできるはずがない」とラルスを求めてくる。
ラルスもラルスで、アルバートとの行為は気持ちがいいのでつい受け入れてしまうのだが。
これが、夜の相性がいいということなのだろうか。
「ラルス。今ここで、私の夢を叶えてはくれないか?」
「夢、ですか?」
「そうだ。一度でいいから空の下でラルスを抱いてみたいと思っていたのだ。抱かせてもらってもよいか?」
「ええっ?」
確かにここには誰もいない。でも、青空の下でそんな行為をするのはさすがに恥ずかしい。
「あっ……!」
急にアルバートが覆い被さってきて、芝生の上に押し倒される。
「ラルスっ……!」
アルバートに愛されすぎるのも問題だと思いながらも、ラルスは目の前にいる愛しい男の背中に腕を伸ばした。
終。
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