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5 初デート
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「七沢、今日は俺とデートしてくれてありがとう」
有馬の穏やかな声に、俺は顔を上げる。
「いいよ、全然。俺も楽しかった。なんか、見たことない有馬をたくさん見れたよ」
そうなんだ。爆笑する有馬、大型ワンコみたいな有馬、大人の雰囲気をまとった有馬。今日はいろんな有馬の姿を見ることができた。有馬はこんなやつだったんだって知って、より有馬のことが好きになった。
「俺も。最初で最後の七沢とのデート、楽しかったよ」
「は……?」
聞き捨てならない言葉に俺は目を見開いた。
最初で最後? 最後って、どういうこと……?
「これ。ずっと仕舞ってあったんだけど、久しぶりに開けて、読んでみて気がついた」
有馬の手にあるのは、ピンク色の封筒だった。
俺はその実物を見たことがない。でも、きっとあれは俺と有馬をつないだ、あのときの手紙だ。
「最初にこの手紙をもらったときの俺にはわからなかった。でも、七沢に勉強を教えてさ、いつもお前の書く文字を見ていてわかったんだ」
有馬はピンク色の封筒から中身の便箋を取り出した。有馬はその手紙を俺に見せつけてくる。
「これ、お前の字じゃない」
有馬は怒鳴ったりはしなかった。ただ、威圧感でわかる。有馬は決して表には出さないが、俺に対して怒りの感情を向けている。
バレた。
有馬に手紙のことがバレた。
「それは……! あのっ、決してお前をからかったとかじゃないんだっ」
俺は立ち上がり、有馬に必死で弁明する。
「うん。それはわかってる。今村から聞いた。俺を呼び出すためのものだったって。俺に勉強を教えてほしくて、それで俺の気を引くためのものだったんだろう?」
「裕太に話を聞いたのか……」
有馬はいつ、このことに気がついたんだろう。
裕太と話をしたってことは、少なくとも今日は知っていた。知ってて今日一日あの態度だったなんて。
何も知らない俺は、ただ浮かれてはしゃいでいた。でも有馬はずっと、これが最初で最後のデートだって思ってたんだ。
「今村が白状した。この手紙は七沢の許可もなしに今村が勝手に書いたものだ。七沢は俺に興味ないって。好きだって誤解されて困ってるって言ってた。……この手紙に書いてあることは全部、嘘だったんだな」
「それは……そうなんだけど……でも、そうじゃなくて……」
声が震える。
血の気が引くとはまさにこのことだって体感した。今の俺はまともに頭が働かない。
「これで合点がいった。七沢は俺がこの手紙の内容に触れようとすると、いつも逃げた。暑くもないのに『暑いなーっ』とか言っちゃって、どう見ても不自然だった。手紙が嘘だってバレたら、俺に勉強を教えてもらえなくなるって考えて、ずっと黙ってたんだろ」
あぁ。賢い有馬のことだ。俺の見え透いた誤魔化しは全部見抜いていたんだろう。
どうして俺は、あのときもっと真剣に有馬と向き合わなかったんだろう。
最初からさっさとあれは勘違いだって伝えなきゃいけなかった。
どうして、「有馬のことは好きじゃない。なんとも思ってない」って言えなかったんだろう。
そんなことを言ったら有馬が離れていくってわかってたのかな。
俺は、最初から、有馬のそばにいたかったのかもしれない。
「勘違いしてる俺を見て、おかしかった? 内心笑ってたんだろ?」
「笑ってないっ」
首を横に振って、視線で有馬に訴える。
俺は有馬をからかったつもりもないし、嘲笑うこともしていない。
「俺は、俺はちゃんと本気で……!」
そう。今日、俺もこの話を有馬に打ち明けようと思っていた。そのために有馬に手紙を書いてきたんだ。
俺は巾着の中に手を突っ込む。
あの、あの手紙を有馬に渡せば、わかってくれるはず。
「あれ、ない……」
家を出るとき確実に入れたはずの手紙がない。
水色の封筒に入れた、俺の今の有馬への想いを綴った手紙がない。
まさか、落とした……?
有馬の穏やかな声に、俺は顔を上げる。
「いいよ、全然。俺も楽しかった。なんか、見たことない有馬をたくさん見れたよ」
そうなんだ。爆笑する有馬、大型ワンコみたいな有馬、大人の雰囲気をまとった有馬。今日はいろんな有馬の姿を見ることができた。有馬はこんなやつだったんだって知って、より有馬のことが好きになった。
「俺も。最初で最後の七沢とのデート、楽しかったよ」
「は……?」
聞き捨てならない言葉に俺は目を見開いた。
最初で最後? 最後って、どういうこと……?
「これ。ずっと仕舞ってあったんだけど、久しぶりに開けて、読んでみて気がついた」
有馬の手にあるのは、ピンク色の封筒だった。
俺はその実物を見たことがない。でも、きっとあれは俺と有馬をつないだ、あのときの手紙だ。
「最初にこの手紙をもらったときの俺にはわからなかった。でも、七沢に勉強を教えてさ、いつもお前の書く文字を見ていてわかったんだ」
有馬はピンク色の封筒から中身の便箋を取り出した。有馬はその手紙を俺に見せつけてくる。
「これ、お前の字じゃない」
有馬は怒鳴ったりはしなかった。ただ、威圧感でわかる。有馬は決して表には出さないが、俺に対して怒りの感情を向けている。
バレた。
有馬に手紙のことがバレた。
「それは……! あのっ、決してお前をからかったとかじゃないんだっ」
俺は立ち上がり、有馬に必死で弁明する。
「うん。それはわかってる。今村から聞いた。俺を呼び出すためのものだったって。俺に勉強を教えてほしくて、それで俺の気を引くためのものだったんだろう?」
「裕太に話を聞いたのか……」
有馬はいつ、このことに気がついたんだろう。
裕太と話をしたってことは、少なくとも今日は知っていた。知ってて今日一日あの態度だったなんて。
何も知らない俺は、ただ浮かれてはしゃいでいた。でも有馬はずっと、これが最初で最後のデートだって思ってたんだ。
「今村が白状した。この手紙は七沢の許可もなしに今村が勝手に書いたものだ。七沢は俺に興味ないって。好きだって誤解されて困ってるって言ってた。……この手紙に書いてあることは全部、嘘だったんだな」
「それは……そうなんだけど……でも、そうじゃなくて……」
声が震える。
血の気が引くとはまさにこのことだって体感した。今の俺はまともに頭が働かない。
「これで合点がいった。七沢は俺がこの手紙の内容に触れようとすると、いつも逃げた。暑くもないのに『暑いなーっ』とか言っちゃって、どう見ても不自然だった。手紙が嘘だってバレたら、俺に勉強を教えてもらえなくなるって考えて、ずっと黙ってたんだろ」
あぁ。賢い有馬のことだ。俺の見え透いた誤魔化しは全部見抜いていたんだろう。
どうして俺は、あのときもっと真剣に有馬と向き合わなかったんだろう。
最初からさっさとあれは勘違いだって伝えなきゃいけなかった。
どうして、「有馬のことは好きじゃない。なんとも思ってない」って言えなかったんだろう。
そんなことを言ったら有馬が離れていくってわかってたのかな。
俺は、最初から、有馬のそばにいたかったのかもしれない。
「勘違いしてる俺を見て、おかしかった? 内心笑ってたんだろ?」
「笑ってないっ」
首を横に振って、視線で有馬に訴える。
俺は有馬をからかったつもりもないし、嘲笑うこともしていない。
「俺は、俺はちゃんと本気で……!」
そう。今日、俺もこの話を有馬に打ち明けようと思っていた。そのために有馬に手紙を書いてきたんだ。
俺は巾着の中に手を突っ込む。
あの、あの手紙を有馬に渡せば、わかってくれるはず。
「あれ、ない……」
家を出るとき確実に入れたはずの手紙がない。
水色の封筒に入れた、俺の今の有馬への想いを綴った手紙がない。
まさか、落とした……?
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