好きだから傍に居たい

麻沙綺

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一件落着?…理事長

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 気が付けば、騒動が沈静化しており、自分の出番がなかったことに安堵していた。


 あの兄妹が、治めたと言っても良いだろう(遥も多少頑張っていたようだが)。
 この後、二人の事で盛り上がるだろう校内を想像しやすく、俺は。
「今日は、このまま解散してくれ。部活も中止だ。各々気を付けて帰れ。」
 そう壇上に上がり言葉を告げた。


 しかし、亜耶ちゃんの宣誓には俺も驚いた。
 まぁ、彼女のお陰で学校も残ることも出来たし、万々歳だ。
 だが、そのうちの二人が何やら険しい顔をして話し込んでる。
 それを心配そうに聞き耳を立てようとして二人に近付こうとしている亜耶ちゃん。
 この二人のこの顔からして、亜耶ちゃん絡みなのだろう。
 聞かれたく内容だと想像がつく。
「遥。雅斗くん、亜耶ちゃん。理事長室に来てくれ。」
 何も考えずそう俺は口にしていたんだ。


 雅斗くんが亜耶ちゃんに鞄を取りに行くように言うと、遥も一緒に先に出ていった。

「……で、何があったんだ? 雅斗くん。」
 俺が聞けば顔を少しばかり歪める。
「俺で役に立つことならば、力を貸すぞ。」
 あの二人の為ならばな。
 そう言えば、諦めたように溜め息を吐き出し。
「細川商事をご存じで?」
 確認するように聞いてくる。
「あぁ。そこの息子がこの学校に居るが、それがどうした?」
 新入生代表を姉が金で買ってたっけ……。
 何かあったら困るから、その金には一切手をつけてはいないが……。
「その姉が、遥にご執心な事は?」
 その言葉に驚き、首を横に振った。
「遥から聞いてませんか? 細川商事のご令嬢とお見合いした事?」
 雅斗くんが、淡々と話す。
 俺にとっては、初耳の事だ。

 あいつは、亜耶ちゃん一筋だった。
 そういや、四姉兄には婚約してること、内緒にしてたな。だから、お見合いなんて話がでたんだろう。
「そのご令嬢、うちの会社の社長室まで乗り込んできて、亜耶の事を侮辱して如何にも自分の方が相応しいと豪語していきましたよ。」
 苦笑いを浮かべながら言う雅斗くん。
「それを聞いた会長が、細川商事との仕事を全て白紙にしました。会長が可愛がってる孫娘を貶されたのだから、仕方ありません。それに、遥にも罰が下ったんです。亜耶との婚約解消させられた。その後の試練が、自分の実家の再建と海外での研修です。それを乗りきっての婚約復帰……婚姻となってるんです。遥は、自分の手で幸せを掴んだのにそれをあの勘違い女が、二人の邪魔をしようとしてるんですよ。やっと、穏やかな日々に戻れて、遥も落ち着いていたのに……。」
 雅斗くんの話を聞いて、全てが初めて聞いたことで、どう答えたらいいかわからない。
 ただ1つ。
「あの令嬢が、遥の幸せを奪おうとしてるのか?」
 これだけが、俺にわかることだ。
 遥は、亜耶ちゃんに出会ってから、雰囲気が変わった。彼女と出会わなければ、刺々しい雰囲気のままだった。
「そういうことです。あの女は、自分の手で遥を奪おうとはしない筈です。ですから、理事長のその申し出が、一番ありがたいです」
 雅斗くんの真剣な瞳を見て、俺は何らかの対策を考えることにしよう。

 あの二人の幸せを護るためにも……。




 体育館の入り口に近付けば、遥の怒りがこもった声が聞こえてきた。
 何事かと雅斗くんと顔を見合わせて慌てて出れば、先程の令嬢が遥たちの行き先に立ち塞がっているではないか。
 しかも、令嬢から亜耶ちゃんを見えないように背に隠してる。
雅斗くんは、冷静の状況を把握して、遥の隣に立っていた。
 俺は、それに習い雅斗くんの横に並ぶ。
「あぁ。遥と亜耶に近付いた時点で、違約金が発生してる。証拠の写真付きで君の親に送ったから、直ぐにでも連絡が来るだろう。第三者の目撃者も居ることだし。」
 雅斗くんが遥に加勢しだす。
 相変わらず、行動早いし、っていうかその第三者って、俺の事だよな。
 周りには、誰も居ないし……。
 そういや、キナ臭い言葉言ってなかったか?
 しかし、この令嬢の言葉を聞いてると、何とも言えなくなる。

 夢心地のお嬢様としか言えない。

 遥の想いは、亜耶ちゃんにしか向かない。他人が入る隙なんかこれっぽっちもないのに。何処をどう見たら、自分に向いてるなんて思うんだ?
 しかも、自分で地雷踏んでるし。
 憐れすぎる。
 あれこれ考えていたら、遥が亜耶ちゃんを連れて行こうとする。
 心なしか、亜耶ちゃん震えてないか?
「さぁて、お嬢さん。遥の気持ちが、あなたに微塵もないことがわかったでしょ。遥はなぁ、九年間も亜耶を大事に護ってきたんだよ! あいつの唯一の癒し場所をあなたは奪おうとしてるんだ。あなたでは、遥を癒すことなんて出来はしない。夢を見るのは勝手だが、現実逃避するのはやめろ。それと、あなたの父親の会社が倒産するかしないかの瀬戸際なのにあなたは、働きもせずに遊んでいて妹を避難するしか脳がないんですか? あなたの弟の方が、余程優秀ですよ」
 雅斗くんが、眼光鋭くして彼女を射抜く。
 綺麗な顔で睨むから物凄く怖いよ。
「それから、学校内の子弟を使って亜耶を陥れようとしても無駄ですから。ほとんどの者が、亜耶を護るでしょう。もし、万が一でもそんなことがあれば、その生徒に何らかの罰が下る。あなたが、その生徒の未来を潰すことになるのです。あぁ、自分がよければ他人なんかどうでもいいって考えのあなたに何を言っても無駄ですね」
 嘲笑うような雅斗くんに彼女は、睨み付けてくる。
 この男を敵に回したら、怖いな。
 そう思っていたら、場にそぐわない機械音が鳴り出した。
 俺のモノではない。
 見れば、雅斗くんが真顔で電話に出ていた。
 目の端には令嬢を捕らえている。



 電話を終えた雅斗くんが。
「君の家、破産宣告するそうだ。」
 と淡々と口にした。
「何……で? そこまで、悪くない……筈よ」
 呟くように言う彼女に。
「やっぱり、現実を見ていなかったんだな。君がうちの会社に乗り込んできた時から、君の親の会社との取引は停止してた。仕事に行き詰まってるのも知らないままで、会社の金を使って自由気ままに過ごして、自分の事しか考えてない女なんて、頭の悪い女としか思えん。学生ならまだしも、成人した大の大人が何も出来ないとは、な」
 雅斗くんの言葉に俺は言葉を失った。
「君はもうお嬢様ではなく、ただの一般人だ。もっと違う言い方すれば、就職もせずにフラフラしているお荷物ってことだろうな。」
 心痛な言葉に彼女は涙をこぼす。
「じゃあ、どうしたら、彼の傍に居れたんですか?」
 その言葉に。
「君では、絶対に無理だ。遥は見向きもしないだろう。君は、裏表がありすぎて遥は近付きもしない。あいつは、そういう感情に物凄く敏感だからな」
 雅斗くんの言葉を聞いて、彼の観察力に驚いた。
 遥の事しっかりと見ていたんだと。
 まぁ、遥自身雅斗くんには心を許してるんだろうけどな。
「入学前に入金してたものを全て返金させていただく。それを持って帰りなさい。」
 俺は、彼女の肩を軽く叩き、理事長室まで連れていき、一切手をつけなかったモノを封筒に入れて、彼女に返した。

 彼女は、それを手にして部屋を出ていった。


「あれは?」
 雅斗くんが、不思議そうな顔をして俺を見てくる。
「あれはね。彼女の見栄のモノだよ」
 俺がそう言えば、雅斗くんも少しだけ納得がいったのか頷いてくれた。






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