ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)[完]

麻沙綺

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高校生編と再婚約の条件

牽制…遥

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  あの後、俺達は雅斗のところに行った。

「話、終わったのか?」
  雅斗が、俺達に気付いて聞いてきた。
「うん。」
  亜耶は恥ずかしそうに、それでも素直に頷いた。
  少しだけ、目が赤くなってる事には、雅斗も沢口も触れなかった。
「なぁ、亜耶。悠磨かれ、調子でも悪いのか?」
  雅斗が、グランドに目を向けて言う。
  彼って、アイツの事か?
  俺もグランドに目を向けた。
  アイツは、少し足元をふらつかせていた。
  見た目的にも悪そうに見えるが……。
「おかしいなぁ。昨日まで、絶好調だったのに……。」
  亜耶が、首を傾げてる。
「緊張してるんじゃないのか?」
  俺の言葉に。
「悠磨くんが、緊張するなんて、あり得ないよ。彼、イベント毎に注目浴びてるし……。」
  亜耶が、真顔で言う。
  そこまで理解しあう仲なのか?
  って、何嫉妬してるんだ俺。
「悠磨くん。頑張れ!!」
  隣で大声で応援してる亜耶。
  応援されてるヤツは終始俯いたままだ。
  いいなぁ、俺も応援してもらいたかった。
  って、今さらか……。
  亜耶の大声の声援で、応援席に居た男共が振り返る。
  うわー、これ全部亜耶狙いの男達か……。
  こいつら、どうにかしないとなぁ……。
  俺が居ない間に何かあると面倒だしなぁ……。
  どうしたもんかなぁ……。
「亜耶。ちょっと……。」
  俺が言うと亜耶が、俺の方を向く。
「何? 遥さん。」
  亜耶が、不思議そうな顔をする。
「亜耶、可愛い。」
  俺は、亜耶を抱き寄せて耳元で囁いた。
  すると、亜耶の顔が急激に赤くなっていき、俯く。
  そんな亜耶を胸に抱き締める(他の奴等に見せたくないし)。
「なっ、何急に……。」
  何か言いたそうに俺の腕の中で大人しくしてる。
  うん。やっぱり、可愛い。
  そういや、今日は抵抗しないんだな。
  何時もなら、腕を突っ張って無理矢理剥がそうとするんだけどな。

『リレーに出場の選手は、グランドに集合してください。繰り返します。リレーに出場の選手は、グランドに集合してください。』
  アナウンスが、会場に響いた。
「行かないと……。」
  亜耶が、小さく呟く。
「頑張れよ、亜耶。応援してるからな。」
「うん。頑張る!」
  俺が声を掛けると元気に言い返してきた。
  亜耶を腕から解放してやると。
「行ってきます。」
  って、笑顔で行った。

「先輩。いくらなんでもやりすぎです。」
  沢口が、ジト目で俺を見る。
「仕方ないじゃん。可愛いんだから、さ」
  うん、それしか言えん。
  亜耶の可愛さは、他には変えがたいんだよ。
「前に行かないか?」
  雅斗の言葉に移動した。


  手摺まで行くと男共が俺の方をチラチラ見てきやがる。
「遥の敵、一杯だな。」
  雅斗が苦笑しながら言う。
  あぁ、確かに。
  時に、鋭い視線を向けてくるヤツも居るしな。
「ガキに負けるわけないだろ。」
  真顔で応える俺。
  負ける気なんかしないがな。
「先輩、強がりはいけないですよ。」
  沢口が、チャチャを入れる。
「そんなわけないだろ。」
  手摺に持たれながら、グランドを見る。
  グランドに集まってる選手の中にジャージを脱いだ、亜耶の姿を見つける。
  白い肌の手足がさらけ出る。
  いくらユニフォームとはいえ、見せたくないんだが……。
  隣の男供軍団も生唾を飲み込んでる。

「亜耶、アンカーなんだな。」
  雅斗が呟く。
  よく見ると襷をかけていた。
「本当だ。亜耶ちゃん、責任重大。」
  沢口も声に出してる。
「大丈夫なんじゃないか? 亜耶、何時もリレーでアンカーやらされてたし。」
  俺は、昔町内運動会でのリレーで毎回アンカーを走っていたことを思い出した。
「確かにな。亜耶は、アンカーばかり走ってたから、案外自分からアンカーになったんじゃないか?」
  雅斗も納得してる。
  会場の雰囲気に飲まれなければ、大丈夫だろう。俺はそう思った。

『ただ今より、女子八百メートル走リレーを開始します。一コース……。』
  場内アナウンスが入る。
  耳を澄まして聞いてるが、このレースには出ていないようだ。
  亜耶の動きを見てると、体を解してるようだ。
  固さはないな。
  大丈夫だな。
  いつもと変わらない亜耶だ。
  亜耶が、何となくこっちを見てる気がして、俺は軽く手を振ったら、振り返してきた。
「お前、悪目立ちしすぎ……。」
  雅斗がそう言いながら苦笑を溢してるが、そんなの無視。
  俺にとって、そんなのどうでもいいんだ。この目に亜耶の姿を焼き付けたいだけだし……。
  研修に行く前にな。
「高橋先輩は、亜耶ちゃん一筋ですからね。」
  クスクス笑いながら、沢口が言う。
「そうだよ。亜耶に会ってから、ずっとあいつだけだったんだよ。」
  笑いたければ、笑えばいいさ。本当の事だし。
  亜耶は、唯一俺をホッコリと心を温めてくれる存在なんだから……。

  ボーと亜耶を観察してるうちに第一レースが終わってて、第二レースの選手紹介に入ってた。

おっ、亜耶が出るのか……。
「「「鞠山さん、頑張れ!!」」」
  側に居る男供の怒号とも言える声が、グランドに響く。
  その声に亜耶が驚いている。って言うか、ぎこちない笑顔が垣間見える。
  あいつら……、亜耶を緊張させてどうするんだよ。
  さぁて、どうするかなぁ……。
  亜耶をリラックスさせるには……。
「遥、何考えてるんだ?」
  隣に居る雅斗が、怪訝そうに俺を見る。
「あれ、亜耶、メチャ緊張してるだろ? 解さないとな。」
  俺は、悪戯を思い付いたようにそう言う。
  雅斗も亜耶の様子を伺って頷いた。

「亜耶」
  俺は、ありったけの声で、叫んだ。
  亜耶が、俺の方を向いたと同時に。
「だいすきだー!!」
  周りも気にせずにそう言って、笑って見せた。
  すると、一瞬驚いた顔をして赤くなった、亜耶が俯いたと思ったら、直ぐに顔を上げて、何時もの笑顔を見せてくれた。
「ありがとう。」
  って、声が聞こえた。
  素の笑顔が見えて、硬直が溶けたのが解った。
  うん、あれでこそ亜耶だ。
  俺等のやり取りを見て、奴等も驚いてざわついてる。
  当たり前か……。
  って言うか、このやり取り自体も俺等にとっては、当たり前の事なんだがなぁ……。
「あれ、亜耶ちゃんの緊張、解れてる。」
  沢口が、不思議そうに言う。
「アハハ。まだ、健在なんだなぁ。そのやり取り。」
  雅斗が、苦笑いを浮かべてる。
「だな。これで、亜耶が何時も通りに走れれば、結果オーライってとこか。」
  俺の言葉に沢口が疑問顔で俺等を見る。
「あぁ。由華は知らないんだっけ。亜耶な、緊張すると顔に出るんだよ。で、それを解す為に遥が、毎回チャチャを入れててさぁ、それが今も効いたんだよ。」
  雅斗が、クスクス笑って言う。
「それ、ずーっとなの?」
  沢口がキョトンとした顔で聞いてくる。
「あぁ。小学校の運動会の時からだったか?」
  緊張してる亜耶にちょっかいだして、解すのが俺の役目だったな。その分、俺には大切な時間だったし……。
「遥、始まる。」
  雅斗の言葉に目線をグランドに移した。

『位置について、よーい』
  パン!
  スターターの音で、一斉に走り出す。……が、出だしが悪い。
  今の順位六位。
  このままの状態で、第二走者に渡る。
「これ、負けるか?」
  隣で、雅斗が呟く。
「どうだろう? 亜耶の足なら、追い付きそうだが……」
  今のところ一位から六位まで、そんなに差がないからなぁ……。
  第三走者にバトンが渡される時にバトンが落ちた。
  何やってるんだか……。
  そんな事したら、亜耶の闘志に火が付くだろうが……。
  俺は、亜耶に目を向けると相当集中してるようだ。
  ハァー、あれじゃあ、何言っても聞こえてないな。
「先輩。応援しないんですか?」
  沢口が、不思議そうに聞いてきた。
「ん? あの顔をしてる亜耶に声援を送っても、聞いてないよ。走り出して、ゴール直前じゃなきゃな。」
  雅斗もそう感じてるらしい。だから、声を出して応援してない。
  そうこうしてるうちにバトンが亜耶に渡る。
  すると、無駄のない動きで足を動かす亜耶。
  亜耶の走りは、飛んでるような走りだから、軽く感じる。
  一人、また一人と抜かしていく亜耶。
  最後のカーブを抜ける直前。
「亜耶! ラストスパート!!」
  俺が声を出して応援すると一気に伸びる。
「えっ、何。凄いんだけど!」
  沢口が興奮する。
  まぁ、一位は逃しただろうが、本人は満足してると思う。
  あんだけ、走り抜けたんだから……。
「相変わらず、声をかけるタイミング心得てるな。」
  雅斗が感嘆してる。
「まぁな。」
  亜耶の性格からして、あの位置が一番声を掛けるタイミングなんだよな。
「雅くん、あの事。」
  沢口が、雅斗に何か言ってるのを横目で見る。
「あぁ。遥、今日夕飯一緒にどうだ? 亜耶も交えて。」
  雅斗が言う。
  そっか、去年のあの時が最後だったか……。
「いいぜ。時間と場所だけ教えて。俺、一旦帰って片付けないといけないし……。」
「あっ、そっか。もう、三日後だっけ……。高校の時によく通っていたイタリアンの店に十八時だ。」
  あっ、あそこか……。
「OK。十八時に行くわ。」
  俺は、それだけ言って、その場を後にした。




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