優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々

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前日譚(読まなくても大丈夫です)

嫌悪と興味ー在琉前日譚ー

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 ――殴られた肩が痛い。
 また、知らない人を怒らせてしまった。足見知らぬ誰か、関わった覚えのない誰か。静まり返った校舎の非常階段を足音を忍ばせながら降りてゆく。
 何かした? それを聞いても相手は納得する理由を話してはくれない、ただ「気味が悪い」とか「お前のせいで」、って叫ぶだけ。

 慣れたこと。けれど痛みには慣れない。
 熱を帯びた肩をかばいながら、一段一段を慎重に降りていく。差し込む茜色が影を落とし、暗くなっていく廊下。自分はなぜこんな風にしか生きられないのだろう。もっと自分が人と同じだったなら痛い思いをしなかったのかな。そんな事を考えていた時だった。

 ――肩に、何かが触れた。
 痛い、まだ何かあるのか。咄嗟に振り向き相手の目を見る、そして瞬間的に”記憶”を消し去った。はずだった。

「あは、いきなり? 今なんかしようとしたでしょ」

 ――在琉ざいる。同じクラス、だけど関わりなんてまるでない。あえて言えば、嫌ってる雰囲気すら感じていた。

「……なんで」

 記憶を“削った”はずだ。関わったという記録ごと消した。けれど、その目はまるで混乱を見せず、まったく隙がない。気がする。

「いや、こっちのセリフですけど。人の質問に答えない人?」

 どこか楽しそうに、嘲笑う表情。その笑みに心臓が跳ねる。このまま何か言われるのが怖くて、織理はもう一度だけ目を合わせる。
 もう一度――記憶を、削った。「織理に話しかけた」というその行動ごとなかったことに。

「またやった? 今」
「……え?」
「今の、俺に使ったよね。能力……なんか反応はあるんだけど」

 足が震えた。目の前の相手の顔がじっとこちらを見てる。笑ってもいない。怒ってもいない。ただ、品定めをするような嫌な視線。

「あー……そっか。アンタの能力、【洗脳】だっけ。記憶抜けるんだよね。……へー、ほんとにやるんだ、あれ」

 織理は反射的に逃げようとした。でも肩を軽く掴まれて止まる。痛みに顔が歪む。

「なに? 能力なくちゃ抵抗できない?」
「……だったら、なに」

「へ~……」

 在琉の意味深な反応に織理は顔を伏せる。怖い、何も見たくない。能力が効かないなら、どうやって逃げたらいい?
 肩を掴む力が強まる。口から嫌でも引き攣った声が出る。

「本当に何もできないんだ。自分の都合悪くなった瞬間に能力ぶっぱとか、それ頼みの生き方してそうで笑える。考えたこともなかったんでしょう、効かない人がいるかもなんて。本当可哀想に」

 織理の喉がぎゅっと閉じた。弱さを、見透かされたような不快感。しかもその弱さを、“興味”という形で愉しんでいるような、そんな感触があった。

「……お前、嫌いだ」
「俺もアンタ嫌い、今が無くてもずっとね」
「……じゃあ……」

「でも、“嫌い”と“興味ある”って、案外別もんじゃん?」

 唐突に目が合う。在琉の目は深海のようだった。感情が薄い。冷たく澄んでいる。だがどこか愉しげでもあって、息が止まりそうになる。

「ねぇ、アンタ……能力以外で誰かと関わったことある?」
「……あるよ」
「嘘だね。反射で出るような能力、使い込んでなければそうそう無いよ。今の震え方、俺に殺されるとでも思った? ダッセ」

 怖い、震えが止まらない。

「ま、また今度でいっか。記録はさ。ね、織理――だったっけ? 次もよろしく」

 ぽん、と軽く肩を叩かれて、在琉は横を通り過ぎて行く。織理だけがその場に取り残された。
 心臓はまだバクバク言ってるのに、手足は動かない。
 人に嫌われるのは慣れてきた。でも逃げることが出来たから耐えられた。あいつはきっと違う、何も効かない、その目に宿るのが嫌悪だけじゃない。

 ――このままじゃ終わらない。
 そんな予感がいつまでも頭を離れなかった。
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