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【3‐3】救済
コンフリクト
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食べ終わってお茶を配る。もちろん二階の二人にも。カタカタと音を立てる窓が気にならなくなるような話を始めた。
その話はこれからの会議だ。旅の方針、ことの清算。
一行のリーダーになっているジェフリーが、話を切り出した。
「で、明日は行けたらギルドで精算だな。今日はこの天気だから外に出るのは控えたい」
ギルドの話になり、コーディは重大なことを思い出した。
「そっか、あと一箱やっちゃわないと」
半分はインフルエンザで引き籠っていた。その仕事を思い出した。納品をしたところで、皆が稼いだ額よりは数日の食費にしかならない程度だ。だが、片付けてしまわねばペナルティがある。
壱子はギルドの話に反応を示した。
「清算ですか、どこまで報酬が出るのかわかりませんね。特に、種の研究所の破壊に関しては、フェイクだったようですので」
壱子は小難しい顔をする。確かにこれも気になる事項だ。
ジェフリーはもっと気になる事がある。あえて質問をした。
「依頼を出したい。こっちから依頼を出すこともできるよな? もし、今のギルドが信用できるなら、だけど」
ジェフリーの提案だ。皆は静かに聞いていた。
「今日以降、『あいつ』を見ていないか、情報提供をお願いしたい。その依頼はかけてもいい?」
皆がしんとする。ジェフリーが言う『あいつ』とは、ルッシェナのことだ。
壱子とハーターは目が合った。
「今現在のギルドの情報がどうなっているのか、わたくしにもわかりません」
「情報が汚染されている。もしくは内部に『そちら側』の仲間がいるか、かな?」
「そちら側、そうですね」
壱子の表情が険しい。何か心当たりがあるのだろうか。
ジェフリーは皆に注意を促した。
「終わったかもしれないが、確信は持てていない。だから引き続き一人では出歩くなってことだ。誰も一人で行動するなよ?」
コーディとサキがいい例だ。一人だったら、最悪の事態になっていた。
壱子はジェフリーに申し出た。
「明日、ギルドへ御同行を願います」
「まぁ、もうあんたも他人じゃないと思うんだけどな」
「わたくしはケーシス様にお仕えしておりますので」
追い込まれると、ケーシスの名前が出て来る。逃げられても困るのでそこは警戒したい。ジェフリーはもう一つの真相を掴むまでは、壱子を傍に置いておきたいと考えた。
その考えはジェフリーだけではないようだ、竜次も同調している。
「お父様は沙蘭なのでしょう? でしたら、しばらくは私たちと一緒に行動した方が壱子様も安全ではありませんか?」
竜次から釘を刺すように言われ、壱子は項垂れながら渋々頷いた。壱子はとりあえず竜次に協力を煽ごう。下手な心理戦をしたくない。
ジェフリーはミエーナも気になっていた。自然と視線が合ったが、遠慮がちに会釈をされた。
「そろそろ聞かせてもらってもいいか?」
ジェフリーがミエーナに話を振った。本人もわかっているのか、控えめだったが前に出て自己紹介から入った。
「エルリミエーナ・リオルクルス・シリウスと申します。えっと、この世界というか、この時代の人間ではありません。多分、年号からして千年近く前から来ています。お兄ちゃんは瘴気の魔物を倒すため、手を出してはいけない禁忌の魔法、『時越え』を使ったの。信じられないと思うけど」
ここで圭馬が話に乗って来た。ミエーナとは面識があるからこそである。
「止めようとした。そうでしょ?」
質問に対し、ミエーナは大きく頷いた。ポニーテールが揺れる。
「アタシ、遅かったみたいで、巻き込まれる形になっちゃったの。マジックキャンセラーっていうのは最近知ったと言うか。うまくコントロールはできなくて」
「へー、潜在覚醒ってヤツかぁ。何かのきっかけで覚醒するパターンは、最近じゃあまり聞かないね。ま、厳密には最近じゃないか」
圭馬もミエーナに関してはあまり知らないらしい。親しかったのはこの子の兄だ。まったく知らないわけではない。顔見知り程度。
「アタシはお荷物にしかならない。視界を制限しないとお兄ちゃんの邪魔になる。あなたがディスペルを掛けられなかったのはアタシのせいです。ごめんなさい、あのときは迷惑をおかけしたと思います」
ミエーナはサキに向かって謝った。圭馬の言う、力比べに負けたというのは別の可能性を感じた。
「お兄ちゃんの降魔術は、ほとんど使えないみたいで困っていました。この世界は魔力が満ちていないから、お兄ちゃんも弱体化していて満足に魔法使えないらしいけど」
魔力が満ちていないに関しては圭馬も把握している。そして、ショコラも。
「確かに弱体化していて、マジックキャンセラーと同行しておっては邪魔になるかもしれんのぉん?」
ジェフリーは軽く注意をする。
「ばあさん、言い方がストレートすぎやしないか? いくら何でも、可哀そうだろ?」
ショコラは間違ったことは言っていないと、胸を張りながら尻尾をパタパタと振っていた。
ミエーナは深く頷き、スカートの裾を握った。
「そのネコさんは何も間違っていません。アタシ、この世界に知り合いがいるわけでもないし、居場所がないんです。こちらでお世話になりたいって言いましたが、お邪魔でしたら、出て行きます」
落ち込んでいると言うよりは、自分の境遇を受け入れているような様子だ。だが、不安な表情から本心ではないだろう。
ジェフリーはミエーナからもう少し話を聞きたい。
「まぁ待て、つまり、あんたはその兄貴と元のいるべき世界に帰りたい。これが最終目的であってるのか?」
「望みは薄いですが、そうですね」
こうも案件が続くと困るが、成人もしていない女の子を路頭に迷わせるのも良心が痛む。ジェフリーはそこまで冷徹冷酷ではない。
「いるだけならここにいてもかまわない。ただ、俺たちの戦いに参加するのはお勧めしないな。サポートに回ってもらう。仮にもここに身を置くなら、預かることになるんだから、怪我をされちゃ困る。それこそ、お前の兄貴に喧嘩をふっかけられるだろうさ」
別行動をしているルシフが気がかりだ。
竜次は気になる質問をした。
「あなたのお兄さんは、誰かを探しているとも言っていましたけど。その方はこの時代にいるのでしょうか?」
二階から話に参加している。キッドの調子も見ながら、話に参加している。竜次はサキと一緒にルシフに遭遇していた。その際に時間干渉者を探していると言っていた気がする。それが誰なのかはわからないが、別の目的もあるのは理解している。
ミエーナは首を振って首を傾げた。
「お兄ちゃんは、世界の終わりがここだとは言っていました。でもそれを阻止するのは、ここのみんなみたいだし。少なくともアタシたちじゃない。ただ、この時代にいる時間干渉者が未来を大幅に変えてしまうかもしれない。それが誰なのかを知っているのはお兄ちゃんだけです」
どうも『禁忌の魔法』に縁がある。
そんな魔法があるのかと目を輝かせる者がいた。言わずとも、サキが探究心と向上心を高めている。
「あの、僕、その魔法に興味があります。禁忌の魔法と謳いながら、その人もミエーナさんも神族でもなさそうですし、命を落としてもいない。調べてみてもいいですか?」
サキはいかにも魔法使いらしい理屈を捏ねている。気になる点はそれだけではない。
「もしかしたら、禁忌の魔法ではなく、それに近い上位魔法なのかもしれません。だったら、知識が足りないだけで、僕にもできるかもしれない!?」
サキはどこまで高みを目指すのだろうか。一同は呆れ半分、感心が半分の状態だ。
この様子にジェフリーは、自分の手に余ると判断した。
「その魔法、サキに任せるべきだな。専門は俺たちの中ではサキか、もしくは……」
なぜか圭馬がぴくりと耳を立てた。
「あのお師匠さん、白兄ちゃんは会ったら取り乱すと思うけど、説明してどこまで信じてもらえるだろうねぇ? まぁ、本当にボクたちでどうにもならなかったら、相談しようか。それくらいの考えでいいんじゃない?」
現実的な話から遠ざかるのだ。それに思い入れがある人物の妹、その本人もどこかにいるとなれば取り乱すことは必至だ。圭白を頼るのは最後の手段。
ジェフリーは別の心配をした。アイラは今、新居をかまえ、新生活を楽しんでいるはずだ。今まで助けたもらっていたが、世話になりっぱなしはどうだろうかと考えていた。会うきっかけでもあれば、話してみてもいいかもしれない。わざわざ出向くことまでしなくていいだろう。まずは自分たちの足で歩く。
「いったん、俺たちで何とかなるかを模索してみよう。お師匠さんにはもう少しのんびりさせたいし、な?」
ジェフリーの言葉にはサキへの期待も込められている。
サキはその思いを汲み取った。
「そうですね! よぉし、やる気が出て来た」
サキのモチベーションが高いのはいいとして、それなりに話はまとまりそうだ。ジェフリーはミエーナの理解を求めた。
「俺たちはこれからの動き方を考えている所だ。だが、場合によってはあんたの兄貴と敵対するかもしれない。それだけは何となく覚悟しておいてほしい。無駄な争いはしたくないけどな」
ミエーナは深々と頭を下げた。少し残念そうな名残はあるが、納得はした様子だ。
「何をしてもかまわないが、変な遠慮はするな。特殊な人間だろうが何だろうが、俺たちはそういう壁も越えて手を組んでいる。何か困ったら、誰にでもいいから相談しろ」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
何度も頷いてポニーテールがぶんぶんと揺れる。これがわかりやすいアクションでこちらも助かる。ちょうどいいので軽く自己紹介をして行ったが、ミエーナは事前にある程度の情報を知っていたようだ。ギルドに依頼を出していたのだから、情報の共有くらいはされているだろう。
意外だったのが、コーディと仲良くなっていることだ。実はミエーナは数えで十八歳、正確にはまだ十七歳らしい。コーディやサキとは一つしか違わない。
喧嘩されるよりはいいのだが、どこまで仲良くなれるのかは少し楽しみだ。
まだきちんと知り合って一日。関係を築くことが大切だ。
話が落ち着き、キッドが皆に聞こえないよう小声で話す。
「ねぇ竜次さん、結局、『あの人』は死んだの?」
この質問に答えるのも、この問題に向き合うのも酷だ。竜次は隠すことなく、正直に答えた。
「海には落ちました。それからの生死は確認していません。でも生きているのではないかと考えています」
竜次はキッドの視界が悪い状態でよかったと思っていた。竜次は悔しかった。その表情を知られてしまうからだ。
キッドは顔を上げた。だが、竜次の心情を察したわけではなさそうだ。
「あたしの代わりに戦ってくれてありがとう」
「クレア?」
「竜次さんはルッシェナさんを許せなかったと思う。できれば、あたしが直接聞きたかったけど。仕方がないよね」
キッドはルッシェナの謝罪も懺悔も聞いていない。竜次も実は多くを知らない。
「私が駆け付ける前にミティアさんとサキ君が色々聞いていると思います。私はあまり多くの会話を交わしていません。ただ、改心する気はないと……」
事実を話した。竜次はただ、ミティアもサキもコーディも危なかったから、だから割って入っただけに過ぎない。詳しい話を聞いたら、きっと自分は正気を保てない。
「憎しみをぶつけるだけで終わるわけではないのはわかっています。ただ、私はクレアにこんなにもつらく苦しい思いをさせたのは許せない。間違った正義なら、私はどうするのが正しいですか?」
竜次の質問にキッドは小刻みに首を振った。
「わかんない。でも、竜次さんの気持ちはわかったから。あたしは今、自分のことを本当に想ってくれる人に傍にいることは確かだと思うの」
「ごめんなさい。私が『彼』の息の根を止めることができればよかった」
煮え切らない思い。足りない覚悟。それに人を斬る恐怖。大切な人の心を守りたいのに、絶対に何かが邪魔をする。この葛藤に、竜次は手を震わせた。
キッドは優しく微笑んでいるように見える。竜次の気持ちを察しているのだろうか
「竜次さんは、人を殺めることができないと思う。それが優しさでもあり、いいところなんだから。悪い意味じゃないわ」
竜次はキッドにそれがいいところだと言われる。どこかで振り切ってしまわないと、今度は彼女を傷付けてしまうかもしれない。ベッド脇の椅子で考え込んでいた。
そんな竜次の肩をトントンと叩く者がいた。目を向けるとジェフリーが立っている。少し気まずそうな表情をしていた。
「ん? どうかしましたか、ジェフ?」
「いや、いつ話し掛けようかと」
「あぁ」
竜次は背筋を伸ばして向き直った。わざわざジェフリーから話しかけて来るなんて妙だ。しかも、頃合いを見計らっていた。
ジェフリーは思い詰めた表情で言う。
「話というか、相談があるんだが」
「恋愛の相談なら受けませんよ?」
「そういうくだらない相談だったらどんなによかっただろうな」
この家で込み入った話をするなら地下室しかない。普通ならバルコニーやちょっと外に出ようとなるだろうが、バルコニーはないし外は嵐だ。
竜次もわかっていて呼び出しに応じた。
皆が個々で話をし、交流している空気の中を通り過ぎる。
地下室、もとい地下書庫は薄暗い。星空の下で話すようなファンタジーとはかけ離れている。
竜次は空気を和ませようと、わざと的外れなことを言う。
「もっとドラマチックな場所ならよかったかもしれませんね」
ジェフリーは眉間にしわを寄せた。直したばかりの豆電球の明かりを点ける。扉が閉まっているのを確認して、ジェフリーは切り出した。的外れな方から。
「あの執事の人、しばらく一緒にいさせた方がいいと思う」
「そう話していませんでした?」
「何かにつけて単独で行動しようとするのを、兄貴が引き止めてほしい」
竜次は首を傾げる。ここでやっと、ジェフリーは『様子見』をしているのだと察した。
「兄貴の言うことは絶対に聞く。俺の言うことは口答えをしながら聞く」
「なるほど。お父様とコンタクトが取れる方ですからね」
ジェフリーは先に言われて唖然とする。竜次はさっさと話を進める。
「見張るようで気分はよくありませんが、私もその手は取っておきたいと思います。お父様は今、沙蘭にいると言っても、明日はもう別の所にいるかもしれませんからね」
通じてくれて助かった。ジェフリーが大きく頷く。
竜次は満足したように踵を返そうとする。
「兄貴、ちょっと待ってくれないか?」
「話はこれだけじゃないと?」
竜次としては終わらせてキッドの傍に就いていたい。それに、何となくだが、思いつめたジェフリーと向き合いたくない。
むしろ、これからの話が主目的だったのだろう。竜次はジェフリーに向き合うことにした。だが、どうしたのだろうか。
「何て顔をしているのですか?」
ジェフリーは竜次の顔を確認するようにじっと見た。
「兄貴、もしそうなら、そうってハッキリ言ってほしい」
一番信頼している人だ、きっと正直に答えてくれる。ジェフリーは俯きながら声を震わせた。
「俺と兄貴って、本当に兄弟なのか?」
静かな空気が流れる。竜次は目を見開き、大きくため息をついた。
「ば、か……」
竜次は歩み寄り、ジェフリーの頭を撫でた。
「そんな疑いを持っていたなんて」
「……」
「私は物心ついた頃でした。覚えています。お母様の大きかったお腹をさすったことも、ある日お父様があなたを抱えて帰ってきたことも」
疑うなんて馬鹿馬鹿しいと竜次は思っていた。だが、ジェフリーにとっては自分が怖くて仕方がない。竜次の手を払って牙を向ける。
「どうせ適当に言ってるんだろ!? 本当は赤の他人か、それこそ拾われて来た。それならまだいい。俺はミティアみたいに体をいじられた人間なんじゃないのか?」
「ジェフ!! あなた、自分が何を言っているのかわかっているのですか!?」
ジェフリーは悪態をついて舌打ちをする。
「ふざけるなッ!!」
竜次が宥めようとするも、その手は受け付けない。払い除けてしまう。
弾かれた手を止めて、表情を険しくする。ふざけているわけではないのは、竜次もわかっていた。わかっていて、無言で頬を叩いた。
フィラノスのときのように強くではない。目を覚ませ、落ち着けという思いを込めた。
ジェフリーの気が鎮まった。暴走しそうな感情を止めてくれたと気付き、やっと顔を上げた。
目が合ったとき、竜次は目尻に涙を溜めながら笑っていた。
「ねぇ、ジェフ? だったら、なぜお母様は命懸けであなたを産んだのですか?」
気の狂った施設、父がした研究、弄ばれた命、キメラ、ウイルス、ゾンビと化した動物、あとは何だろうか。疑いを掛けたくなる要素がないわけではない。むしろ、ここまで材料が揃って疑わないままでいるのは難しいかもしれない。
竜次はジェフリーの考えに向き合い、理解しようとした。
「私たち、そんなに似ていませんか? 私はジェフが弟でよかったと思っています。疑うのでしたら、お父様に聞いてください。きっとこれ以上は私が言っても信じてくれないでしょう? いえ、その前に、血のつながりが問題だとは思っていません。先ほどあなたは、ミエーナちゃんに、壁を乗り越えて手を組んでいるって言っていませんでしたか?」
まさかそう思われていたなど思わず、悲しい目をする竜次。納得のいく説明などできるわけがない。
ジェフリーは根本的な過ちに気が付いた。どうして竜次を疑ってしまったのか。ジェフリー自身にもわからなくなっていた。
「兄貴、ごめん」
暴走し掛けたことを反省しているのか、頭が冷えたのか、正確にはわからない。ジェフリーは目を合わせて謝った。
この声は届いてくれないかと思っていたゆえに、竜次は目尻を擦っている。
「兄貴は俺の味方でいてくれるか?」
「もちろんです! だって、私たちは兄弟でしょう?」
「半分くらいは親だと思う」
「えっ?」
突拍子もないことを言われ、竜次は涙も乾くくらいに目を見開く。
「ダメなものはダメって言ってくれるし、注意もしてくれる。わけがわからなくなったら止めてくれるし、ときには手を上げてくれる。兄貴以上に兄貴だ。疑って悪かった」
「あぁもぉ、この子は……」
竜次は旅を通じて涙腺が脆くなっただけではなく、感情的になりやすくなったような気がする。ジェフリーに有無を言わせないほど、竜次はぎゅっと抱き寄せて髪の毛がくしゃくしゃになるまで撫でた。知らない母親のぬくもり、きっとこんな風に優しい気持ちになれるものだろう。
残念ながら、竜次はどちらかと言うと父親に近いのかもしれない。
この人は、一番疑ってはいけない人だ。
食卓テーブルの片隅で、いつまでも遠慮しがちなミエーナに声をかける者がいた。怪我で伏せているミティアだ。
「ミエーナちゃん」
「は、はい! お茶でも飲みますか?」
ミティアに呼ばれ、ミエーナが飛び上がった。ポニーテールまで飛び上がるものだから、ミティアは面白く思い笑っている。
「ジェフリーも言っていたけど、わたしたちに遠慮なんてしなくていいから、ね?」
「は、はい! そ、そうですね。アタシ、帰れなくても仕方ないと思っています。この世界、この時代に身を置くのも考えています」
「きっと帰れるよ。だって、優秀な大魔導士がいるもの」
ミティアの視線がサキに向く。コーディの仕事である魔石の袋詰めを手伝っていた。サキは使う人間なのだから、当然仕分けが早い。さくさくと巾着袋が減って行く。
「ありがとうございます、ミティアさん」
「みんな家族みたいなものだから、気を遣わないで、ね?」
「はい。何かお手伝いできることがあれば、遠慮なく言ってください」
ミエーナはポニーテールをぶんぶんと振る。本当にわかりやすい。ポニーテールで機嫌わかるようだ。
「ちょっといいかい、大魔導士君」
「はい?」
ハーターがサキに声をかける。サキは仕分けの魔石を見ながら一応手を放してもいいかを確認した。
ハーターは手を出して欠けた黒い石を見せた。船着き場で拾ったものだ。サキはもちろんこの石が何なのかを知っている。
「これ、魔力ブーストの石ですよね? もっとわかりやすく言うと、強化魔石、かな?」
「やっぱりそうだったのか。これはルッシェナ・エミルト・セミリシアの落し物だよ」
ハーターの言葉に、サキは小難しい顔をしながら魔石を眺めていた。
コーディも手を止めた。さすがにコーディもことの重大さに気が付いた。
「もしかして、あの変態、本気で私とサキを打ち落とすつもりだったんだ」
抱えて飛んでいたときに何があったのか、大体は聞いていた。
サキはここでまた簡単な見落としがあったことに気が付いた。サキは拳を握り、膝に打ち付けた。その拳は震えている。珍しく表情も険しい。
ハーターはサキの変わり方に驚いた。
「ど、どした?」
ハーターの呼び掛けに答えず、サキは顎に手を添えて考え込んでいる。
コーディも気に掛けていた。
「サキったら、どうしたの?」
だいたいサキが考え込むときは、焦る。簡単な事を見落としていた、と。
「僕から魔力吸い取って、満ちた魔力でもミエーナさんの視界の中では放てなかった。なら、そのままの状態で海に落ちて、それからなら生きるために魔法が使えるはずです」
サキがやっと疑惑を口にした。例えこの石が使えなくても、他にも所持しているだろうと予想はできる。まだ仮定に過ぎないが、嫌な予感は尽きない。
ハーターは思わず苦笑いをする。サキが言うのだから、妙な緊張感が走った。
「むっ、賢いキミが言うと危機を感じるな?」
だが、コーディもそう思っていたらしく、ため息をついた。
「話を書く過程では面白いけど、実際には遭遇したくないパターンなのよね。そうかぁ、それはあり得るね。ってことは、あの変態は生きている可能性が限りなく高い」
コーディは天井を仰ぎ、もう一度深くため息をついた。自分が戦ったのに、まだ再戦があるのかと思うと、どうしても気が重くなる。
サキは悔しそうに俯いた。その悔しい理由を言う。
「ただでさえ、手を封じても次の一手が湧き出て来る強者だ。前に苦戦を強いられたときはすでにテレポートを使えたし、僕はいつも一歩遅れている」
自分は劣っていると言う。ハーターはそうとは思わず、小さく首を振った。
「嫌な思いをさせて申し訳ない。僕はあの場にいたわけじゃないけど、死闘だったんだろう? とりあえず命を落とさずにいられたんだ。次はしくじらない。そうだね?」
サキは力強い顔つきになり、ハーターの手を見た。正確には欠けた魔石を見ている。
「それ、もらってもいいですか?」
「いいけど、キミが使うのかい?」
ハーターの手から黒い石を摘まみ上げるサキ。質問に対して首を横に振った。
「悔しいから、持っていたいです」
「自戒ってやつかい? わからなくはないけど、あんまり縛られてはいけないよ。キミは一人じゃないんだ。誰かを頼ってもいい。恵まれていることに、そういう人たちに囲まれている。自分だけで背負っては、いずれは潰れてしまうからね?」
「わかりました。ハーター先生は人を導く力があっていいですね」
「ん?」
面と向かって言われると違和感がある。ハーターは教師であったことは間違いない。だが、それはもう過去の話だ。
サキはハーターから影響を受けたようだ。
「僕、お仕事をして思いました。誰かに教えることは難しいけれど、自分を見つめ直せる機会でいいですね。それまでは学者さんになりたいと思っていたんです」
意図がわからず、ハーターは首を傾げた。職業体験とは美しく言ったものだ。
「僕、将来、先生になりたいです」
「はえぇっ!?」
ハーターではなくコーディが変な声を上げた。サキは握り拳を作ってガッツポーズのようになっている。だが、コーディの反応に首を傾げた。
「あれ? 僕、何かおかしいこと、言った?」
サキは平然としている。どうもコーディの反応を気にしているようだ。
「いや、おかしくないけどさ。サキって魔法の研究とか、勉強とか、学者さんみたいなことがやりたいって言ってなかった?」
「漠然としていたけれど、そうだよ。魔法の研究がしたいなって」
「学者になって、本でも書くつもりだったの? 読み専門じゃないっけ」
「それはそれだよ。何ならコーディが本にしてくれてもいいと思っていたけど、あまりにも図々しいから迷っていたんだ」
図々しいから学者になるのをやめようと思う。と、聞き取れなくもない。コーディはあたふたと手をバタバタとさせて落ち着かない。
「が、学者の方が似合ってるよ?」
ようやくこっちに風が吹いて来たと思ったが、違う道に目覚めようとしている。ゆえに、コーディは必死だ。せっかく呼び方が変わってくれた。自分との距離が近くなったように思えた。だが、サキにはそんな思いは伝わらない。
でこぼこで微妙に噛み合っていない。ハーターは噴き出してしまった。
「ぶっ、あっはははは!! こいつはいいコンビだ」
ハーターは家中に響かんとばかりに大声で笑った。
コンビと言われ、サキはコーディに目を向ける。
「コンビかぁ。でも、コーディはいつも僕にきつく当たるから嫌だろうね」
「んなっ!!」
コーディはここで日頃の行いを悔いることになろうとは思いもしなかったようだ。
そしてサキはやはり鈍いままだ。
ハーターは知り合ってまだ短いやり取りなのに、この微妙に噛み合わない具合が見ていて面白くて仕方がない。腹を抱え、口を塞いで笑いを堪えていた。
ハーターの笑い声を聞きながら、ローズは呆れている。本人には聞こえないように小声だった。
「オニーチャン、あんまりからかうのはよくないデス」
二階にいたローズは、キッドに処置を施していた。痛み止めの注射をしている。点滴はいったん外れたようだ。過剰に投与もよくはないのだろう。特に、キッドの場合は頭なのだから、気を遣う点は多い。
「まだ背中は痛むよネ?」
「背中より頭痛がひどくて。圧迫感があるの」
「血栓ができないか心配デスネ。血液サラサラになるお茶でも探しますかネ」
ローズがぱたぱたと下りて行った。
キッドは耳でそこに誰がいるのかわかって来るようになったらしい。声をかけた。
「執事のお姉さん」
「おや?」
なぜわかったのか不思議そうだ。壱子がショコラと圭馬にブラッシングをしていたのだ。圭馬は洗ってもらってから拭いただけで、毛がもこもことしていた。
「よくおわかりになられましたね」
「燕尾服、擦れる音がしているもの。それに、身に付けている金属のチェーンが微かに鳴っているから、そうかなって」
「研ぎ澄まされた感覚ですね。わたくしに何用でしょうか?」
壱子も敏感な方だとは思うが、キッドはもともと目もよければ警戒心も強い。それはそうと、あえて呼ぶとは何だろうか。壱子はベッド脇の椅子に腰かけた。話し相手になろうというのだ。
キッドは壱子と話すのを楽しんでいた。
「竜次さんとお付き合いは長いの?」
「わたくしはそうでもございません。正姫様やマナカ殿、光介殿とお付き合いが長いですよ」
「あれ、そうなの?」
「坊ちゃんは英才教育でしたので、沙蘭にはご不在も多かったものです。こちらのフィリップスには十年近く滞在しておりました。意外に思われるかもしれませんが、マーチンの剣術学校にも短期で通われておりましたよ?」
意外だ。それでも竜次とはあまり衝突しない。こういった事情はどこまで踏み込んでいいのかはわからなかったが、気にはなる。本人には傷を抉るようでどうしても聞けないことがあったからだ。
今は都合がいいことに、竜次本人がいない。キッドは竜次について、質問を続けた。
「王様の権利を捨てるって大変なの?」
「はい。それは」
「妹さんに苦労を掛けたって言っていたけど、どれくらい大変?」
壱子は首を傾げながら、胸ポケットから手帳を取り出した。色々込み入った事情がありそうだ。言葉を選んでいる。
「沙蘭の改革ですね。大掛かりな」
「改革? つまり、何か変えるの?」
「まず、先代の地主が残した条件に、沙蘭は一夫多妻というものがありまして」
「いっぷたさい?」
教養がないキッドには難しかったのか、壱子に代わって階段脇で寛いでいた圭馬が解説した。
「繁栄させたい狙いがあるのかもね。何人も奥さんを持つことだよ。当然だけど、子沢山になって次の王権や内乱が起こりやすくなるけどね!」
圭馬は客観的だが、わかりやすく話をしてくれる。キッドは聞き入った。
「それってつまり、竜次さんは何人もの女性と結婚できるの?」
「キッドお姉ちゃん、これから大変だねーっ!!」
「…………」
キッドは開きづらい瞼をピクピクとさせ、表情を歪ませている。もちろん圭馬はその反応を見て楽しんでいた。
「あのぉ、盛り上がっているところ申し上げにくいのですが、坊ちゃんはその権利を放棄しておりますので」
「なーんだ、つまんないのーっ!!」
このウサギ、またもドロドロの空気にならないかを期待していた。ヤキモキしているキッドを見て楽しむ鬼畜がお決まりの展開を迎える。そっと近寄った竜次が、圭馬を摘まみ上げた。
「ぎゃーっ、はーなーせーっ!!」
「クレアを悲しませるなんて許しませんよ? め、です! めっ!!」
圭馬は摘まみ上げられ、手足をじたばたさせている。竜次の足元で、ショコラが尻尾を揺らしながらのんびりと見上げている。
「一夫多妻も悪くなかろうにのぉん?」
「そういうのはちょっと、ね。こう見えて、言い寄られるのは好きではないので」
圭馬を放り投げる竜次、怒っているようだ。だがショコラの言うこともわからなくもない。
「大変でしたね、確かに。でも、それをよしとしていたのは、お父様ではなかったですか?」
竜次は階段を上がって壱子に質問する。すると、壱子は起立して一礼した。言いづらそうにしながらあとずさる。
「ま、まぁ、それを言ってしまうと」
「お父様も、おかしいって思わなかったのでしょうか。そんなにふしだらな人だとは思ってもいませんでした」
壱子はケーシスを擁護する。
「ですが、ケーシス様が愛されたのはシルビナ様だけでした。以後は誰も娶ってはおりません。この意味は、竜次お坊ちゃんもおわかりになるはずです」
ケーシスが沙蘭で一夫多妻をよしとしていたにも限らず、シルビナの死後は誰も妻を迎えていない。それにしては、子沢山にしようなど、誤魔化しとも思える。
竜次は制度の難しさを考えさせられた。だが、それを子どもの世代にまで継がせるのはどうだろうか。
ここでキッドが壱子を庇うように口を挟んだ。
「ご、ごめん竜次さん。つまんない話をして」
竜次は一夫多妻に興味を抱いたキッドに申し訳ないと思った。
「直接聞いたら傷付くかもしれないなって思ったの。竜次さんは、もう普通の人だから、ね?」
キッドの言葉を聞き、竜次はため息にも似た一息をつく。そして目頭を押さえた。
「どうしてそんなに優しいの、ですか? クレア?」
ジェフリーだってそうだ。皆は優しくて温かい。こんなに人の思いを感じるなんて今までなかった。少なくとも、誰かを普通の女の子にするために一致団結しなければこんなことにはならなかった。
優しさに感銘を受けるのは竜次だけではない。今は行動をともにしている壱子もそうだった。
「坊ちゃんは幸せ者です。わたくしはギルドで『救世主』や『勇者御一行』とはお聞きしておりましたが、そんな一言では済まされないと思っております。ずっと闇の世界に身を置いて来たわたくしには、ここは輝いていて、そして眩しい。心まで暖かくなる、不思議な場所です」
壱子は見える範囲にジェフリーもいることを確認し、わざと聞こえるように言っていた。距離を置こうとする理由はこちらが大きいようだ。
「こんなにも優しいからこそ、非情になり切れない。ですが、わたくしはそんな道も悪くないと思っております。人を殺めるのは専門家に任せればよいのです。わたくしのような者に、ね?」
ぞくっと身の毛がよだつ。つまり、壱子は自ら人を殺したことがあるとカミングアウトしたのだ。場の空気、いや、家中に緊張が走る。
竜次は壱子が何を抱えているのかが気になった。
「壱子様だって、今からでも遅くはないと思います」
竜次が指すのは、一行に馴染むことだろう。だが、壱子は距離を置く。
「坊ちゃんもお優しいですね」
壱子はこの場所に誰がいるのかを確認した。竜次とキッドとジェフリーと使い魔たち。別に大々的に話すことではない。一緒にいられない本当の理由を話した。
「わたくしはかの昔、ケーシス様の命令で奴隷商人を何人か殺めたことがございます。売られた子どもの未来など知れています。孤児院の方がまだましだと、わたくしはその先を知らずによかれと思い、引き受けてしまいました。この先はもう言わずとも察しがつくとは思いますが、それからのわたくしはこの真相を確かめるべく情報屋になりました。ケーシス様は途中で自分がしていることがおかしいと気付いていただけましたが、それはかなりあとでした」
つまり、壱子は種の研究所の狂った研究に加担してしまったと、罪を感じているようだ。子どもを売る親もどうだろうか。貧困に悩むのであれば、食い扶持を減らすためにするのかもしれない。残念ながら、そういった風習の残る場所もあると聞く。
「わたくしは母親を病気で亡くし、気付いたら治療費でお金もなくなって明日を生きられなくなっておりました。父と心中する寸前をセーノルズご夫妻にお金を恵んでいただきました。わたくしを坊ちゃんたちの教育係として雇って頂き、生活するのに不自由ない程度にお給金もいただいておりました。坊ちゃんたちの手がかからなくなって来た頃、わたくしはギルドで賞金を稼ぐハンターになり、ケーシス様にお金を返すようになりました。現在もお金を稼ぎつつ、ケーシス様に仕えております」
壱子は一息つき、口角を上げた。優しい微笑みだ。根からの冷徹な人ではないことが証明された。
この場の誰も壱子の過去を知らない。ケーシスに仕えている理由すら謎だった。それを打ち明ける勇気は大きなものだったかもしれない。
壱子がそこまでケーシスに執着する理由を知らなかった。愛人かとも疑う忠誠心だが、これはそれ以上にじゅうぶんな理由だ。知らない間にジェフリーも皆も聞き耳を立てていた。
竜次は額を抱え、詫びた。
「昔の沙蘭は発展が未熟で、貧困の差が激しかったはず。だからお父様はあのような仕組みを推奨なったのですね。先程はすみません。あまり深く考えず、お父様の人柄だけで軽率な発言をしてしまいました」
ケーシスが悪いわけではないと知ると、責めることもできない。この世界は理不尽が絶対に蔓延る。それにいくら立ち向かえるか、乗り越えられるか。問われている気がしてならない。違う歩みにはなったが、正姫やマナカたちの努力を知った。
竜次は自分が王権を捨ててしまったことで、妹たちに多大な迷惑をかけ、信じられないほどの負担をかけてしまったとあらためて思った。今が存在するのは紛れもなく、妹たちのおかげだ。
壱子は竜次の表情から心情を汲み取った。
「坊ちゃんは自分の生きる道を自分でお選びになった。きっと誰も悪くありません」
壱子が感傷的になっていたところ、ジェフリーが階段を上がって話に加わった。
「さっき、兄貴と話したんだが、謝りたい」
壱子に向かってだ。ジェフリーも少し誤解をしていた。
「隠すのをやめた。俺はあんたが情報を握ったままどっかに行くのかと思っていた。それこそ、親父の所に。兄貴と注意を払うつもりでいた。俺たちは、親父に騙されているのかと……」
ジェフリーが続きを言う前に、竜次がもう一度謝った。まるでジェフリーを庇うように。
「ごめんなさい。これは私たちが一方的に疑っていました。気分を悪くされたら申し訳ないです。今はお父様と連絡が取りたい」
壱子は眉をひそめる。連絡係とでも思われていたと推測したのか、すぐに表情を和らげた。竜次はジェフリーにアイサインをおくる。味方でいてくれるサインだ。
壱子はにっこりと笑う。
「おやすい御用です。ケーシス様をお呼びしましょう。応じていただけるかはわかりませんが」
「壱子様……」
「ケーシス様にお聞きしたいことがあるのですね?」
「えぇ、家族の話がしたいと思います。ね、ジェフ?」
先立って自分を引っ張りながら庇ってくれる。ジェフリーはそんな兄を逞しく思った。兄らしくない兄だとは思っていたのに、一緒にいる時間が長くなり、行動をともにして存在の大きさを知った。
竜次は、誇れる兄だ。
その話はこれからの会議だ。旅の方針、ことの清算。
一行のリーダーになっているジェフリーが、話を切り出した。
「で、明日は行けたらギルドで精算だな。今日はこの天気だから外に出るのは控えたい」
ギルドの話になり、コーディは重大なことを思い出した。
「そっか、あと一箱やっちゃわないと」
半分はインフルエンザで引き籠っていた。その仕事を思い出した。納品をしたところで、皆が稼いだ額よりは数日の食費にしかならない程度だ。だが、片付けてしまわねばペナルティがある。
壱子はギルドの話に反応を示した。
「清算ですか、どこまで報酬が出るのかわかりませんね。特に、種の研究所の破壊に関しては、フェイクだったようですので」
壱子は小難しい顔をする。確かにこれも気になる事項だ。
ジェフリーはもっと気になる事がある。あえて質問をした。
「依頼を出したい。こっちから依頼を出すこともできるよな? もし、今のギルドが信用できるなら、だけど」
ジェフリーの提案だ。皆は静かに聞いていた。
「今日以降、『あいつ』を見ていないか、情報提供をお願いしたい。その依頼はかけてもいい?」
皆がしんとする。ジェフリーが言う『あいつ』とは、ルッシェナのことだ。
壱子とハーターは目が合った。
「今現在のギルドの情報がどうなっているのか、わたくしにもわかりません」
「情報が汚染されている。もしくは内部に『そちら側』の仲間がいるか、かな?」
「そちら側、そうですね」
壱子の表情が険しい。何か心当たりがあるのだろうか。
ジェフリーは皆に注意を促した。
「終わったかもしれないが、確信は持てていない。だから引き続き一人では出歩くなってことだ。誰も一人で行動するなよ?」
コーディとサキがいい例だ。一人だったら、最悪の事態になっていた。
壱子はジェフリーに申し出た。
「明日、ギルドへ御同行を願います」
「まぁ、もうあんたも他人じゃないと思うんだけどな」
「わたくしはケーシス様にお仕えしておりますので」
追い込まれると、ケーシスの名前が出て来る。逃げられても困るのでそこは警戒したい。ジェフリーはもう一つの真相を掴むまでは、壱子を傍に置いておきたいと考えた。
その考えはジェフリーだけではないようだ、竜次も同調している。
「お父様は沙蘭なのでしょう? でしたら、しばらくは私たちと一緒に行動した方が壱子様も安全ではありませんか?」
竜次から釘を刺すように言われ、壱子は項垂れながら渋々頷いた。壱子はとりあえず竜次に協力を煽ごう。下手な心理戦をしたくない。
ジェフリーはミエーナも気になっていた。自然と視線が合ったが、遠慮がちに会釈をされた。
「そろそろ聞かせてもらってもいいか?」
ジェフリーがミエーナに話を振った。本人もわかっているのか、控えめだったが前に出て自己紹介から入った。
「エルリミエーナ・リオルクルス・シリウスと申します。えっと、この世界というか、この時代の人間ではありません。多分、年号からして千年近く前から来ています。お兄ちゃんは瘴気の魔物を倒すため、手を出してはいけない禁忌の魔法、『時越え』を使ったの。信じられないと思うけど」
ここで圭馬が話に乗って来た。ミエーナとは面識があるからこそである。
「止めようとした。そうでしょ?」
質問に対し、ミエーナは大きく頷いた。ポニーテールが揺れる。
「アタシ、遅かったみたいで、巻き込まれる形になっちゃったの。マジックキャンセラーっていうのは最近知ったと言うか。うまくコントロールはできなくて」
「へー、潜在覚醒ってヤツかぁ。何かのきっかけで覚醒するパターンは、最近じゃあまり聞かないね。ま、厳密には最近じゃないか」
圭馬もミエーナに関してはあまり知らないらしい。親しかったのはこの子の兄だ。まったく知らないわけではない。顔見知り程度。
「アタシはお荷物にしかならない。視界を制限しないとお兄ちゃんの邪魔になる。あなたがディスペルを掛けられなかったのはアタシのせいです。ごめんなさい、あのときは迷惑をおかけしたと思います」
ミエーナはサキに向かって謝った。圭馬の言う、力比べに負けたというのは別の可能性を感じた。
「お兄ちゃんの降魔術は、ほとんど使えないみたいで困っていました。この世界は魔力が満ちていないから、お兄ちゃんも弱体化していて満足に魔法使えないらしいけど」
魔力が満ちていないに関しては圭馬も把握している。そして、ショコラも。
「確かに弱体化していて、マジックキャンセラーと同行しておっては邪魔になるかもしれんのぉん?」
ジェフリーは軽く注意をする。
「ばあさん、言い方がストレートすぎやしないか? いくら何でも、可哀そうだろ?」
ショコラは間違ったことは言っていないと、胸を張りながら尻尾をパタパタと振っていた。
ミエーナは深く頷き、スカートの裾を握った。
「そのネコさんは何も間違っていません。アタシ、この世界に知り合いがいるわけでもないし、居場所がないんです。こちらでお世話になりたいって言いましたが、お邪魔でしたら、出て行きます」
落ち込んでいると言うよりは、自分の境遇を受け入れているような様子だ。だが、不安な表情から本心ではないだろう。
ジェフリーはミエーナからもう少し話を聞きたい。
「まぁ待て、つまり、あんたはその兄貴と元のいるべき世界に帰りたい。これが最終目的であってるのか?」
「望みは薄いですが、そうですね」
こうも案件が続くと困るが、成人もしていない女の子を路頭に迷わせるのも良心が痛む。ジェフリーはそこまで冷徹冷酷ではない。
「いるだけならここにいてもかまわない。ただ、俺たちの戦いに参加するのはお勧めしないな。サポートに回ってもらう。仮にもここに身を置くなら、預かることになるんだから、怪我をされちゃ困る。それこそ、お前の兄貴に喧嘩をふっかけられるだろうさ」
別行動をしているルシフが気がかりだ。
竜次は気になる質問をした。
「あなたのお兄さんは、誰かを探しているとも言っていましたけど。その方はこの時代にいるのでしょうか?」
二階から話に参加している。キッドの調子も見ながら、話に参加している。竜次はサキと一緒にルシフに遭遇していた。その際に時間干渉者を探していると言っていた気がする。それが誰なのかはわからないが、別の目的もあるのは理解している。
ミエーナは首を振って首を傾げた。
「お兄ちゃんは、世界の終わりがここだとは言っていました。でもそれを阻止するのは、ここのみんなみたいだし。少なくともアタシたちじゃない。ただ、この時代にいる時間干渉者が未来を大幅に変えてしまうかもしれない。それが誰なのかを知っているのはお兄ちゃんだけです」
どうも『禁忌の魔法』に縁がある。
そんな魔法があるのかと目を輝かせる者がいた。言わずとも、サキが探究心と向上心を高めている。
「あの、僕、その魔法に興味があります。禁忌の魔法と謳いながら、その人もミエーナさんも神族でもなさそうですし、命を落としてもいない。調べてみてもいいですか?」
サキはいかにも魔法使いらしい理屈を捏ねている。気になる点はそれだけではない。
「もしかしたら、禁忌の魔法ではなく、それに近い上位魔法なのかもしれません。だったら、知識が足りないだけで、僕にもできるかもしれない!?」
サキはどこまで高みを目指すのだろうか。一同は呆れ半分、感心が半分の状態だ。
この様子にジェフリーは、自分の手に余ると判断した。
「その魔法、サキに任せるべきだな。専門は俺たちの中ではサキか、もしくは……」
なぜか圭馬がぴくりと耳を立てた。
「あのお師匠さん、白兄ちゃんは会ったら取り乱すと思うけど、説明してどこまで信じてもらえるだろうねぇ? まぁ、本当にボクたちでどうにもならなかったら、相談しようか。それくらいの考えでいいんじゃない?」
現実的な話から遠ざかるのだ。それに思い入れがある人物の妹、その本人もどこかにいるとなれば取り乱すことは必至だ。圭白を頼るのは最後の手段。
ジェフリーは別の心配をした。アイラは今、新居をかまえ、新生活を楽しんでいるはずだ。今まで助けたもらっていたが、世話になりっぱなしはどうだろうかと考えていた。会うきっかけでもあれば、話してみてもいいかもしれない。わざわざ出向くことまでしなくていいだろう。まずは自分たちの足で歩く。
「いったん、俺たちで何とかなるかを模索してみよう。お師匠さんにはもう少しのんびりさせたいし、な?」
ジェフリーの言葉にはサキへの期待も込められている。
サキはその思いを汲み取った。
「そうですね! よぉし、やる気が出て来た」
サキのモチベーションが高いのはいいとして、それなりに話はまとまりそうだ。ジェフリーはミエーナの理解を求めた。
「俺たちはこれからの動き方を考えている所だ。だが、場合によってはあんたの兄貴と敵対するかもしれない。それだけは何となく覚悟しておいてほしい。無駄な争いはしたくないけどな」
ミエーナは深々と頭を下げた。少し残念そうな名残はあるが、納得はした様子だ。
「何をしてもかまわないが、変な遠慮はするな。特殊な人間だろうが何だろうが、俺たちはそういう壁も越えて手を組んでいる。何か困ったら、誰にでもいいから相談しろ」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
何度も頷いてポニーテールがぶんぶんと揺れる。これがわかりやすいアクションでこちらも助かる。ちょうどいいので軽く自己紹介をして行ったが、ミエーナは事前にある程度の情報を知っていたようだ。ギルドに依頼を出していたのだから、情報の共有くらいはされているだろう。
意外だったのが、コーディと仲良くなっていることだ。実はミエーナは数えで十八歳、正確にはまだ十七歳らしい。コーディやサキとは一つしか違わない。
喧嘩されるよりはいいのだが、どこまで仲良くなれるのかは少し楽しみだ。
まだきちんと知り合って一日。関係を築くことが大切だ。
話が落ち着き、キッドが皆に聞こえないよう小声で話す。
「ねぇ竜次さん、結局、『あの人』は死んだの?」
この質問に答えるのも、この問題に向き合うのも酷だ。竜次は隠すことなく、正直に答えた。
「海には落ちました。それからの生死は確認していません。でも生きているのではないかと考えています」
竜次はキッドの視界が悪い状態でよかったと思っていた。竜次は悔しかった。その表情を知られてしまうからだ。
キッドは顔を上げた。だが、竜次の心情を察したわけではなさそうだ。
「あたしの代わりに戦ってくれてありがとう」
「クレア?」
「竜次さんはルッシェナさんを許せなかったと思う。できれば、あたしが直接聞きたかったけど。仕方がないよね」
キッドはルッシェナの謝罪も懺悔も聞いていない。竜次も実は多くを知らない。
「私が駆け付ける前にミティアさんとサキ君が色々聞いていると思います。私はあまり多くの会話を交わしていません。ただ、改心する気はないと……」
事実を話した。竜次はただ、ミティアもサキもコーディも危なかったから、だから割って入っただけに過ぎない。詳しい話を聞いたら、きっと自分は正気を保てない。
「憎しみをぶつけるだけで終わるわけではないのはわかっています。ただ、私はクレアにこんなにもつらく苦しい思いをさせたのは許せない。間違った正義なら、私はどうするのが正しいですか?」
竜次の質問にキッドは小刻みに首を振った。
「わかんない。でも、竜次さんの気持ちはわかったから。あたしは今、自分のことを本当に想ってくれる人に傍にいることは確かだと思うの」
「ごめんなさい。私が『彼』の息の根を止めることができればよかった」
煮え切らない思い。足りない覚悟。それに人を斬る恐怖。大切な人の心を守りたいのに、絶対に何かが邪魔をする。この葛藤に、竜次は手を震わせた。
キッドは優しく微笑んでいるように見える。竜次の気持ちを察しているのだろうか
「竜次さんは、人を殺めることができないと思う。それが優しさでもあり、いいところなんだから。悪い意味じゃないわ」
竜次はキッドにそれがいいところだと言われる。どこかで振り切ってしまわないと、今度は彼女を傷付けてしまうかもしれない。ベッド脇の椅子で考え込んでいた。
そんな竜次の肩をトントンと叩く者がいた。目を向けるとジェフリーが立っている。少し気まずそうな表情をしていた。
「ん? どうかしましたか、ジェフ?」
「いや、いつ話し掛けようかと」
「あぁ」
竜次は背筋を伸ばして向き直った。わざわざジェフリーから話しかけて来るなんて妙だ。しかも、頃合いを見計らっていた。
ジェフリーは思い詰めた表情で言う。
「話というか、相談があるんだが」
「恋愛の相談なら受けませんよ?」
「そういうくだらない相談だったらどんなによかっただろうな」
この家で込み入った話をするなら地下室しかない。普通ならバルコニーやちょっと外に出ようとなるだろうが、バルコニーはないし外は嵐だ。
竜次もわかっていて呼び出しに応じた。
皆が個々で話をし、交流している空気の中を通り過ぎる。
地下室、もとい地下書庫は薄暗い。星空の下で話すようなファンタジーとはかけ離れている。
竜次は空気を和ませようと、わざと的外れなことを言う。
「もっとドラマチックな場所ならよかったかもしれませんね」
ジェフリーは眉間にしわを寄せた。直したばかりの豆電球の明かりを点ける。扉が閉まっているのを確認して、ジェフリーは切り出した。的外れな方から。
「あの執事の人、しばらく一緒にいさせた方がいいと思う」
「そう話していませんでした?」
「何かにつけて単独で行動しようとするのを、兄貴が引き止めてほしい」
竜次は首を傾げる。ここでやっと、ジェフリーは『様子見』をしているのだと察した。
「兄貴の言うことは絶対に聞く。俺の言うことは口答えをしながら聞く」
「なるほど。お父様とコンタクトが取れる方ですからね」
ジェフリーは先に言われて唖然とする。竜次はさっさと話を進める。
「見張るようで気分はよくありませんが、私もその手は取っておきたいと思います。お父様は今、沙蘭にいると言っても、明日はもう別の所にいるかもしれませんからね」
通じてくれて助かった。ジェフリーが大きく頷く。
竜次は満足したように踵を返そうとする。
「兄貴、ちょっと待ってくれないか?」
「話はこれだけじゃないと?」
竜次としては終わらせてキッドの傍に就いていたい。それに、何となくだが、思いつめたジェフリーと向き合いたくない。
むしろ、これからの話が主目的だったのだろう。竜次はジェフリーに向き合うことにした。だが、どうしたのだろうか。
「何て顔をしているのですか?」
ジェフリーは竜次の顔を確認するようにじっと見た。
「兄貴、もしそうなら、そうってハッキリ言ってほしい」
一番信頼している人だ、きっと正直に答えてくれる。ジェフリーは俯きながら声を震わせた。
「俺と兄貴って、本当に兄弟なのか?」
静かな空気が流れる。竜次は目を見開き、大きくため息をついた。
「ば、か……」
竜次は歩み寄り、ジェフリーの頭を撫でた。
「そんな疑いを持っていたなんて」
「……」
「私は物心ついた頃でした。覚えています。お母様の大きかったお腹をさすったことも、ある日お父様があなたを抱えて帰ってきたことも」
疑うなんて馬鹿馬鹿しいと竜次は思っていた。だが、ジェフリーにとっては自分が怖くて仕方がない。竜次の手を払って牙を向ける。
「どうせ適当に言ってるんだろ!? 本当は赤の他人か、それこそ拾われて来た。それならまだいい。俺はミティアみたいに体をいじられた人間なんじゃないのか?」
「ジェフ!! あなた、自分が何を言っているのかわかっているのですか!?」
ジェフリーは悪態をついて舌打ちをする。
「ふざけるなッ!!」
竜次が宥めようとするも、その手は受け付けない。払い除けてしまう。
弾かれた手を止めて、表情を険しくする。ふざけているわけではないのは、竜次もわかっていた。わかっていて、無言で頬を叩いた。
フィラノスのときのように強くではない。目を覚ませ、落ち着けという思いを込めた。
ジェフリーの気が鎮まった。暴走しそうな感情を止めてくれたと気付き、やっと顔を上げた。
目が合ったとき、竜次は目尻に涙を溜めながら笑っていた。
「ねぇ、ジェフ? だったら、なぜお母様は命懸けであなたを産んだのですか?」
気の狂った施設、父がした研究、弄ばれた命、キメラ、ウイルス、ゾンビと化した動物、あとは何だろうか。疑いを掛けたくなる要素がないわけではない。むしろ、ここまで材料が揃って疑わないままでいるのは難しいかもしれない。
竜次はジェフリーの考えに向き合い、理解しようとした。
「私たち、そんなに似ていませんか? 私はジェフが弟でよかったと思っています。疑うのでしたら、お父様に聞いてください。きっとこれ以上は私が言っても信じてくれないでしょう? いえ、その前に、血のつながりが問題だとは思っていません。先ほどあなたは、ミエーナちゃんに、壁を乗り越えて手を組んでいるって言っていませんでしたか?」
まさかそう思われていたなど思わず、悲しい目をする竜次。納得のいく説明などできるわけがない。
ジェフリーは根本的な過ちに気が付いた。どうして竜次を疑ってしまったのか。ジェフリー自身にもわからなくなっていた。
「兄貴、ごめん」
暴走し掛けたことを反省しているのか、頭が冷えたのか、正確にはわからない。ジェフリーは目を合わせて謝った。
この声は届いてくれないかと思っていたゆえに、竜次は目尻を擦っている。
「兄貴は俺の味方でいてくれるか?」
「もちろんです! だって、私たちは兄弟でしょう?」
「半分くらいは親だと思う」
「えっ?」
突拍子もないことを言われ、竜次は涙も乾くくらいに目を見開く。
「ダメなものはダメって言ってくれるし、注意もしてくれる。わけがわからなくなったら止めてくれるし、ときには手を上げてくれる。兄貴以上に兄貴だ。疑って悪かった」
「あぁもぉ、この子は……」
竜次は旅を通じて涙腺が脆くなっただけではなく、感情的になりやすくなったような気がする。ジェフリーに有無を言わせないほど、竜次はぎゅっと抱き寄せて髪の毛がくしゃくしゃになるまで撫でた。知らない母親のぬくもり、きっとこんな風に優しい気持ちになれるものだろう。
残念ながら、竜次はどちらかと言うと父親に近いのかもしれない。
この人は、一番疑ってはいけない人だ。
食卓テーブルの片隅で、いつまでも遠慮しがちなミエーナに声をかける者がいた。怪我で伏せているミティアだ。
「ミエーナちゃん」
「は、はい! お茶でも飲みますか?」
ミティアに呼ばれ、ミエーナが飛び上がった。ポニーテールまで飛び上がるものだから、ミティアは面白く思い笑っている。
「ジェフリーも言っていたけど、わたしたちに遠慮なんてしなくていいから、ね?」
「は、はい! そ、そうですね。アタシ、帰れなくても仕方ないと思っています。この世界、この時代に身を置くのも考えています」
「きっと帰れるよ。だって、優秀な大魔導士がいるもの」
ミティアの視線がサキに向く。コーディの仕事である魔石の袋詰めを手伝っていた。サキは使う人間なのだから、当然仕分けが早い。さくさくと巾着袋が減って行く。
「ありがとうございます、ミティアさん」
「みんな家族みたいなものだから、気を遣わないで、ね?」
「はい。何かお手伝いできることがあれば、遠慮なく言ってください」
ミエーナはポニーテールをぶんぶんと振る。本当にわかりやすい。ポニーテールで機嫌わかるようだ。
「ちょっといいかい、大魔導士君」
「はい?」
ハーターがサキに声をかける。サキは仕分けの魔石を見ながら一応手を放してもいいかを確認した。
ハーターは手を出して欠けた黒い石を見せた。船着き場で拾ったものだ。サキはもちろんこの石が何なのかを知っている。
「これ、魔力ブーストの石ですよね? もっとわかりやすく言うと、強化魔石、かな?」
「やっぱりそうだったのか。これはルッシェナ・エミルト・セミリシアの落し物だよ」
ハーターの言葉に、サキは小難しい顔をしながら魔石を眺めていた。
コーディも手を止めた。さすがにコーディもことの重大さに気が付いた。
「もしかして、あの変態、本気で私とサキを打ち落とすつもりだったんだ」
抱えて飛んでいたときに何があったのか、大体は聞いていた。
サキはここでまた簡単な見落としがあったことに気が付いた。サキは拳を握り、膝に打ち付けた。その拳は震えている。珍しく表情も険しい。
ハーターはサキの変わり方に驚いた。
「ど、どした?」
ハーターの呼び掛けに答えず、サキは顎に手を添えて考え込んでいる。
コーディも気に掛けていた。
「サキったら、どうしたの?」
だいたいサキが考え込むときは、焦る。簡単な事を見落としていた、と。
「僕から魔力吸い取って、満ちた魔力でもミエーナさんの視界の中では放てなかった。なら、そのままの状態で海に落ちて、それからなら生きるために魔法が使えるはずです」
サキがやっと疑惑を口にした。例えこの石が使えなくても、他にも所持しているだろうと予想はできる。まだ仮定に過ぎないが、嫌な予感は尽きない。
ハーターは思わず苦笑いをする。サキが言うのだから、妙な緊張感が走った。
「むっ、賢いキミが言うと危機を感じるな?」
だが、コーディもそう思っていたらしく、ため息をついた。
「話を書く過程では面白いけど、実際には遭遇したくないパターンなのよね。そうかぁ、それはあり得るね。ってことは、あの変態は生きている可能性が限りなく高い」
コーディは天井を仰ぎ、もう一度深くため息をついた。自分が戦ったのに、まだ再戦があるのかと思うと、どうしても気が重くなる。
サキは悔しそうに俯いた。その悔しい理由を言う。
「ただでさえ、手を封じても次の一手が湧き出て来る強者だ。前に苦戦を強いられたときはすでにテレポートを使えたし、僕はいつも一歩遅れている」
自分は劣っていると言う。ハーターはそうとは思わず、小さく首を振った。
「嫌な思いをさせて申し訳ない。僕はあの場にいたわけじゃないけど、死闘だったんだろう? とりあえず命を落とさずにいられたんだ。次はしくじらない。そうだね?」
サキは力強い顔つきになり、ハーターの手を見た。正確には欠けた魔石を見ている。
「それ、もらってもいいですか?」
「いいけど、キミが使うのかい?」
ハーターの手から黒い石を摘まみ上げるサキ。質問に対して首を横に振った。
「悔しいから、持っていたいです」
「自戒ってやつかい? わからなくはないけど、あんまり縛られてはいけないよ。キミは一人じゃないんだ。誰かを頼ってもいい。恵まれていることに、そういう人たちに囲まれている。自分だけで背負っては、いずれは潰れてしまうからね?」
「わかりました。ハーター先生は人を導く力があっていいですね」
「ん?」
面と向かって言われると違和感がある。ハーターは教師であったことは間違いない。だが、それはもう過去の話だ。
サキはハーターから影響を受けたようだ。
「僕、お仕事をして思いました。誰かに教えることは難しいけれど、自分を見つめ直せる機会でいいですね。それまでは学者さんになりたいと思っていたんです」
意図がわからず、ハーターは首を傾げた。職業体験とは美しく言ったものだ。
「僕、将来、先生になりたいです」
「はえぇっ!?」
ハーターではなくコーディが変な声を上げた。サキは握り拳を作ってガッツポーズのようになっている。だが、コーディの反応に首を傾げた。
「あれ? 僕、何かおかしいこと、言った?」
サキは平然としている。どうもコーディの反応を気にしているようだ。
「いや、おかしくないけどさ。サキって魔法の研究とか、勉強とか、学者さんみたいなことがやりたいって言ってなかった?」
「漠然としていたけれど、そうだよ。魔法の研究がしたいなって」
「学者になって、本でも書くつもりだったの? 読み専門じゃないっけ」
「それはそれだよ。何ならコーディが本にしてくれてもいいと思っていたけど、あまりにも図々しいから迷っていたんだ」
図々しいから学者になるのをやめようと思う。と、聞き取れなくもない。コーディはあたふたと手をバタバタとさせて落ち着かない。
「が、学者の方が似合ってるよ?」
ようやくこっちに風が吹いて来たと思ったが、違う道に目覚めようとしている。ゆえに、コーディは必死だ。せっかく呼び方が変わってくれた。自分との距離が近くなったように思えた。だが、サキにはそんな思いは伝わらない。
でこぼこで微妙に噛み合っていない。ハーターは噴き出してしまった。
「ぶっ、あっはははは!! こいつはいいコンビだ」
ハーターは家中に響かんとばかりに大声で笑った。
コンビと言われ、サキはコーディに目を向ける。
「コンビかぁ。でも、コーディはいつも僕にきつく当たるから嫌だろうね」
「んなっ!!」
コーディはここで日頃の行いを悔いることになろうとは思いもしなかったようだ。
そしてサキはやはり鈍いままだ。
ハーターは知り合ってまだ短いやり取りなのに、この微妙に噛み合わない具合が見ていて面白くて仕方がない。腹を抱え、口を塞いで笑いを堪えていた。
ハーターの笑い声を聞きながら、ローズは呆れている。本人には聞こえないように小声だった。
「オニーチャン、あんまりからかうのはよくないデス」
二階にいたローズは、キッドに処置を施していた。痛み止めの注射をしている。点滴はいったん外れたようだ。過剰に投与もよくはないのだろう。特に、キッドの場合は頭なのだから、気を遣う点は多い。
「まだ背中は痛むよネ?」
「背中より頭痛がひどくて。圧迫感があるの」
「血栓ができないか心配デスネ。血液サラサラになるお茶でも探しますかネ」
ローズがぱたぱたと下りて行った。
キッドは耳でそこに誰がいるのかわかって来るようになったらしい。声をかけた。
「執事のお姉さん」
「おや?」
なぜわかったのか不思議そうだ。壱子がショコラと圭馬にブラッシングをしていたのだ。圭馬は洗ってもらってから拭いただけで、毛がもこもことしていた。
「よくおわかりになられましたね」
「燕尾服、擦れる音がしているもの。それに、身に付けている金属のチェーンが微かに鳴っているから、そうかなって」
「研ぎ澄まされた感覚ですね。わたくしに何用でしょうか?」
壱子も敏感な方だとは思うが、キッドはもともと目もよければ警戒心も強い。それはそうと、あえて呼ぶとは何だろうか。壱子はベッド脇の椅子に腰かけた。話し相手になろうというのだ。
キッドは壱子と話すのを楽しんでいた。
「竜次さんとお付き合いは長いの?」
「わたくしはそうでもございません。正姫様やマナカ殿、光介殿とお付き合いが長いですよ」
「あれ、そうなの?」
「坊ちゃんは英才教育でしたので、沙蘭にはご不在も多かったものです。こちらのフィリップスには十年近く滞在しておりました。意外に思われるかもしれませんが、マーチンの剣術学校にも短期で通われておりましたよ?」
意外だ。それでも竜次とはあまり衝突しない。こういった事情はどこまで踏み込んでいいのかはわからなかったが、気にはなる。本人には傷を抉るようでどうしても聞けないことがあったからだ。
今は都合がいいことに、竜次本人がいない。キッドは竜次について、質問を続けた。
「王様の権利を捨てるって大変なの?」
「はい。それは」
「妹さんに苦労を掛けたって言っていたけど、どれくらい大変?」
壱子は首を傾げながら、胸ポケットから手帳を取り出した。色々込み入った事情がありそうだ。言葉を選んでいる。
「沙蘭の改革ですね。大掛かりな」
「改革? つまり、何か変えるの?」
「まず、先代の地主が残した条件に、沙蘭は一夫多妻というものがありまして」
「いっぷたさい?」
教養がないキッドには難しかったのか、壱子に代わって階段脇で寛いでいた圭馬が解説した。
「繁栄させたい狙いがあるのかもね。何人も奥さんを持つことだよ。当然だけど、子沢山になって次の王権や内乱が起こりやすくなるけどね!」
圭馬は客観的だが、わかりやすく話をしてくれる。キッドは聞き入った。
「それってつまり、竜次さんは何人もの女性と結婚できるの?」
「キッドお姉ちゃん、これから大変だねーっ!!」
「…………」
キッドは開きづらい瞼をピクピクとさせ、表情を歪ませている。もちろん圭馬はその反応を見て楽しんでいた。
「あのぉ、盛り上がっているところ申し上げにくいのですが、坊ちゃんはその権利を放棄しておりますので」
「なーんだ、つまんないのーっ!!」
このウサギ、またもドロドロの空気にならないかを期待していた。ヤキモキしているキッドを見て楽しむ鬼畜がお決まりの展開を迎える。そっと近寄った竜次が、圭馬を摘まみ上げた。
「ぎゃーっ、はーなーせーっ!!」
「クレアを悲しませるなんて許しませんよ? め、です! めっ!!」
圭馬は摘まみ上げられ、手足をじたばたさせている。竜次の足元で、ショコラが尻尾を揺らしながらのんびりと見上げている。
「一夫多妻も悪くなかろうにのぉん?」
「そういうのはちょっと、ね。こう見えて、言い寄られるのは好きではないので」
圭馬を放り投げる竜次、怒っているようだ。だがショコラの言うこともわからなくもない。
「大変でしたね、確かに。でも、それをよしとしていたのは、お父様ではなかったですか?」
竜次は階段を上がって壱子に質問する。すると、壱子は起立して一礼した。言いづらそうにしながらあとずさる。
「ま、まぁ、それを言ってしまうと」
「お父様も、おかしいって思わなかったのでしょうか。そんなにふしだらな人だとは思ってもいませんでした」
壱子はケーシスを擁護する。
「ですが、ケーシス様が愛されたのはシルビナ様だけでした。以後は誰も娶ってはおりません。この意味は、竜次お坊ちゃんもおわかりになるはずです」
ケーシスが沙蘭で一夫多妻をよしとしていたにも限らず、シルビナの死後は誰も妻を迎えていない。それにしては、子沢山にしようなど、誤魔化しとも思える。
竜次は制度の難しさを考えさせられた。だが、それを子どもの世代にまで継がせるのはどうだろうか。
ここでキッドが壱子を庇うように口を挟んだ。
「ご、ごめん竜次さん。つまんない話をして」
竜次は一夫多妻に興味を抱いたキッドに申し訳ないと思った。
「直接聞いたら傷付くかもしれないなって思ったの。竜次さんは、もう普通の人だから、ね?」
キッドの言葉を聞き、竜次はため息にも似た一息をつく。そして目頭を押さえた。
「どうしてそんなに優しいの、ですか? クレア?」
ジェフリーだってそうだ。皆は優しくて温かい。こんなに人の思いを感じるなんて今までなかった。少なくとも、誰かを普通の女の子にするために一致団結しなければこんなことにはならなかった。
優しさに感銘を受けるのは竜次だけではない。今は行動をともにしている壱子もそうだった。
「坊ちゃんは幸せ者です。わたくしはギルドで『救世主』や『勇者御一行』とはお聞きしておりましたが、そんな一言では済まされないと思っております。ずっと闇の世界に身を置いて来たわたくしには、ここは輝いていて、そして眩しい。心まで暖かくなる、不思議な場所です」
壱子は見える範囲にジェフリーもいることを確認し、わざと聞こえるように言っていた。距離を置こうとする理由はこちらが大きいようだ。
「こんなにも優しいからこそ、非情になり切れない。ですが、わたくしはそんな道も悪くないと思っております。人を殺めるのは専門家に任せればよいのです。わたくしのような者に、ね?」
ぞくっと身の毛がよだつ。つまり、壱子は自ら人を殺したことがあるとカミングアウトしたのだ。場の空気、いや、家中に緊張が走る。
竜次は壱子が何を抱えているのかが気になった。
「壱子様だって、今からでも遅くはないと思います」
竜次が指すのは、一行に馴染むことだろう。だが、壱子は距離を置く。
「坊ちゃんもお優しいですね」
壱子はこの場所に誰がいるのかを確認した。竜次とキッドとジェフリーと使い魔たち。別に大々的に話すことではない。一緒にいられない本当の理由を話した。
「わたくしはかの昔、ケーシス様の命令で奴隷商人を何人か殺めたことがございます。売られた子どもの未来など知れています。孤児院の方がまだましだと、わたくしはその先を知らずによかれと思い、引き受けてしまいました。この先はもう言わずとも察しがつくとは思いますが、それからのわたくしはこの真相を確かめるべく情報屋になりました。ケーシス様は途中で自分がしていることがおかしいと気付いていただけましたが、それはかなりあとでした」
つまり、壱子は種の研究所の狂った研究に加担してしまったと、罪を感じているようだ。子どもを売る親もどうだろうか。貧困に悩むのであれば、食い扶持を減らすためにするのかもしれない。残念ながら、そういった風習の残る場所もあると聞く。
「わたくしは母親を病気で亡くし、気付いたら治療費でお金もなくなって明日を生きられなくなっておりました。父と心中する寸前をセーノルズご夫妻にお金を恵んでいただきました。わたくしを坊ちゃんたちの教育係として雇って頂き、生活するのに不自由ない程度にお給金もいただいておりました。坊ちゃんたちの手がかからなくなって来た頃、わたくしはギルドで賞金を稼ぐハンターになり、ケーシス様にお金を返すようになりました。現在もお金を稼ぎつつ、ケーシス様に仕えております」
壱子は一息つき、口角を上げた。優しい微笑みだ。根からの冷徹な人ではないことが証明された。
この場の誰も壱子の過去を知らない。ケーシスに仕えている理由すら謎だった。それを打ち明ける勇気は大きなものだったかもしれない。
壱子がそこまでケーシスに執着する理由を知らなかった。愛人かとも疑う忠誠心だが、これはそれ以上にじゅうぶんな理由だ。知らない間にジェフリーも皆も聞き耳を立てていた。
竜次は額を抱え、詫びた。
「昔の沙蘭は発展が未熟で、貧困の差が激しかったはず。だからお父様はあのような仕組みを推奨なったのですね。先程はすみません。あまり深く考えず、お父様の人柄だけで軽率な発言をしてしまいました」
ケーシスが悪いわけではないと知ると、責めることもできない。この世界は理不尽が絶対に蔓延る。それにいくら立ち向かえるか、乗り越えられるか。問われている気がしてならない。違う歩みにはなったが、正姫やマナカたちの努力を知った。
竜次は自分が王権を捨ててしまったことで、妹たちに多大な迷惑をかけ、信じられないほどの負担をかけてしまったとあらためて思った。今が存在するのは紛れもなく、妹たちのおかげだ。
壱子は竜次の表情から心情を汲み取った。
「坊ちゃんは自分の生きる道を自分でお選びになった。きっと誰も悪くありません」
壱子が感傷的になっていたところ、ジェフリーが階段を上がって話に加わった。
「さっき、兄貴と話したんだが、謝りたい」
壱子に向かってだ。ジェフリーも少し誤解をしていた。
「隠すのをやめた。俺はあんたが情報を握ったままどっかに行くのかと思っていた。それこそ、親父の所に。兄貴と注意を払うつもりでいた。俺たちは、親父に騙されているのかと……」
ジェフリーが続きを言う前に、竜次がもう一度謝った。まるでジェフリーを庇うように。
「ごめんなさい。これは私たちが一方的に疑っていました。気分を悪くされたら申し訳ないです。今はお父様と連絡が取りたい」
壱子は眉をひそめる。連絡係とでも思われていたと推測したのか、すぐに表情を和らげた。竜次はジェフリーにアイサインをおくる。味方でいてくれるサインだ。
壱子はにっこりと笑う。
「おやすい御用です。ケーシス様をお呼びしましょう。応じていただけるかはわかりませんが」
「壱子様……」
「ケーシス様にお聞きしたいことがあるのですね?」
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先立って自分を引っ張りながら庇ってくれる。ジェフリーはそんな兄を逞しく思った。兄らしくない兄だとは思っていたのに、一緒にいる時間が長くなり、行動をともにして存在の大きさを知った。
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