花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月

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花街1

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「何故、あんな場所に立っていた?」

 耳元で囁くように話しかけながら、男はマルスの股間を嬲り続ける。直接触ってはこないが何度も服の上から摩られ、射精出来ない状況がもどかしい。

「…うぁ…ああっ……」

 やめろ!やめろ!と叫びたいが声に出来ず、快楽で身体が小刻みに震えてしまう。マルスは男を睨みつけるが、逆に男に睨まれてしまいどうする事も出来ない。

「…初めてじゃないんだろ?」
「…やめっ……ん、んんっ!」

 グリッと強く摩られたせいで、イッてしまった。男なんかにイカされるなんて…呆然としながら自分に覆い被さっている男を見つめる。

 鋭い眼光で睨みつけている男はマルスの知り合いでもなんでもない。ランバル王国騎士団[ノルファ=ハルハドール]第二副団長をしている男だ。

 闇のように黒い瞳、短髪だが遠くからでも分かるほどのサラサラな黒い髪。身体は精鋭と呼ばれる騎士団にいるせいか引き締まり、鍛えられているのが服の上からもわかる。

 女なんて選り好み出来るだろう…

 それなのに…

 なんでこんなことになった…



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「王国魔導師団・マルス=トルマトンに命ずる。花街に行き、我が望みのモノをこの場に示せ」
「はっ、承りました」

 マルスは国王から個別に呼び出されていた。部屋には国王と宰相、マルスしかおらず護衛も下がらせているため3人だけの密室となっている。

「毎回すまんな、マルス。よろしく頼むぞ」
「はい」

(今回の王命は花街か…確か娼婦も男娼も胸に赤い花を挿さないといけない決まりがあったはず。とりあえず、今日中に下見へ行ってみよう)

 国王がその場から退出したのを確認し、頭をあげると退出せずにいた宰相と目があってしまった。

「王命は、秘密裏にお願いします」
「はい、心得ております」

 ハッキリ返答すると宰相が緑色の瞳を細め、にっこりと微笑んできた。この場に女性が居たら歓喜の叫びが聞こえてきそうだ。俺は昔から苦手だが…

「マルス、この暮らしには慣れましたか?」
「慣れるも何も私はこのためににいるのです。王から個別に王命を受けられるのは我がトルマトン家だけではないですか」
「そうですね、名誉なコトです」
「はい」

 マルスの近くまできた宰相が、頭を優しく撫でる。愛おしそうに撫でる手に身体が逃げそうになるが、堪えてその場に踏み止まる。

「私は貴方がにいてくれて嬉しいですよ」
「…ありがとうございます」

 淡々と答え表情も変えないマルスに宰相は残念そうに眉を下げる。

「何かあれば、言って下さいね。私はいつでも貴方の味方ですから」

(味方ね…)

 目の前にいる緑色の瞳を持つ宰相を見つめる。自分と同じ緑色の瞳…マルスを縛りつける呪いのような色。

(嫌な色だ)

 もう話す事は無いと態度で示すため、一歩後ろへと下がり頭を下げる。

「…マルス、期待してますよ」
「お任せ下さい、

 踵を返し、マルスは魔導師団の本部へと足を進める。王命と言えど、魔導師団の仕事もやらなければならない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「マルス!聞いてよ!また騎士団が~」
「なんだよ」

 本部の扉を開くやいなや、前から抱きしめてこようとする同僚の腕を捻り上げる。

「うわっ!いでででで!」

 しまった、反射的に手が出てしまったと思いつつ…拘束した腕は離さない。

「トゥルーカ、俺に抱きついてくるな。毎日言ってるよな?」
「ごめん!ごめん!許して~」

 笑顔で謝ってはいるが反省の色はない。きっと明日もやるだろう…トゥルーカに冷ややかな目線を送りつつ、腕を離してやる。

「また騎士団に嫌味でも言われたのか?」
「そうなんだよ~、相変わらず胡散臭い術を開発してんのかって!その胡散臭い術が無ければ、この国を守る事も出来ないのにさ!」

 ランバル王国には[王国魔導師団][王国騎士団]がある。魔導師団は、魔法を使い防衛や攻撃をする。対して騎士団は、魔法も使うが肉弾戦が多くちからこそ正義派が多い。

 そのせいか体力がなく、引きこもりみたいな魔導師団が気に食わないみたいだ。
 新たな魔法陣、魔道具の開発など…やる事がありすぎて体力作りなど出来ないほど忙しいのが、脳みそ筋肉達には分からないらしい。

 同じ国を守る者同士、仲良くしたらいいのにな。

「マルス、戻ったかの」
「はい」

 現れた男に一礼をし、姿勢を正す。マルスに声をかけてきたのは魔導師団・団長ベルベサリット。魔導師達からは親しみを込めて[ベル様]と呼ばれている大魔導師だ。

「あちらで新しい魔法陣を試したいらしい。ちょいと付き合ってやってくれ」
「はい」
「はい!はい!俺もやるよ~」

 さりげなく肩に手を回してこようとするトゥルーカの腕を避けつつ、団長の後ろをついていく。

「ベル様!昨日は失敗しましたが、今日は成功させてみせます!」
「失敗は成功の第一歩だからの、頑張りなさい」

「ベル様!やはりあれは改良の余地がありました!改良したらまた見て下さい!」
「ああ、だが無理せずに進めるんじゃよ」

 次から次へと声をかけられる団長は、目に見えて分かるほど人徳がある。魔導師達の有り余る能力を発揮出来るのは、誰にでもその溢れる知識を与え、授ける団長のおかげだ。

(魔術師になって、6年になるが全くベル様に近づける気がしない)

 魔導師団が出来た時からいるという噂はあながち嘘じゃないな…と、そんな事を考えていると団長が後ろを振り返ってきたので、マルスは思わず目を見開いた。

「これが終わったら今日は帰ってよいからな。何事もほどほどにしなければの」
「はい、そうですね」

 自分を待つ魔導師達なかまの場所へと向かう足取りは軽い。マルスは自由で生き生きとしている、この魔導師団が好きなのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…ちょっと茶色すぎたかな?」

 鏡に映る自分の姿を確認する。赤茶色の髪を茶色に変えただけだが庶民に多い茶色にすることで、より花街に溶け込むはずだ。

「夜だし、大丈夫か。顔見知りの魔導師は花街に来ないしな」

 魔導師団の仕事を終えたマルスは、王命に従うべく花街へ来ていた。

「宿も借りたし、さっさと自分の部屋と繋げるか」

 手のひらを地面にかざすと魔法陣が浮かび上がる。魔導師団にある自分の部屋に描いてきた魔法陣だ。

「繋がることを許可する」

 薄らと光を放ちながら魔法陣が床に浸透し、足元に魔法陣が描かれた。これで花街と自分の部屋が繋がった。の仕事に支障をきたさないよう転移魔法で行き来できるようにしたのだ。

「さて、下見は来た時にある程度したし…とりあえず、めぼしい場所に行ってみるか」

 用意していた赤い花を手に取り、クルクルと花を回す。

「女も男も取る気はないが…」 

 王命を遂行するには、花街に立たなければ成し遂げられそうにない。娼婦も男娼も赤い花を持たなければ立つことは許されない、花街の掟だ。

「昔は胸元に挿していたけど、今は自由なんだな…」

 窓から外を眺めると赤い花を髪に挿した女性がちらほらと見える。赤い花を左の胸元に挿し、腰に付けたベルトに短剣を隠すように忍ばせる。

「準備も出来たし…行くか」

 扉の前で一呼吸し、改めて王命を心に刻みつける。大丈夫だ、いつも通りに…与えられた任務を遂行してみせるだけだ。

「これから俺は、男娼のマルスだ」
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