花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月

文字の大きさ
4 / 14

マルス=トルマトン

しおりを挟む
 俺は昔、花街に住んでいた。
 8歳まで宿屋の下働きとして生活していたのだが、急にトルマトン家が引き取ったのだ。

 物心ついた時に両親がいないのは理解していたし、死んだと思っていた。なので、実の父親が生きていて、俺を引き取りに来たのは驚いた。

 トルマトン家に来て一番に知ったのは、俺は不義の子だということ。初めて見る父親は、俺よりも暗い赤茶色の髪をしていた。
 顔は母親に似てしまったのか、父親には似ていなかった。

 それなのになんで俺が血縁だと、分かったのかと言うと「緑色の瞳」がトルマトン家の証で、血を継ぐ者は必ず緑色らしい。
 そして花街に緑色の瞳を持つ子がいると知り、俺を引き取ったのだと言う。

 母親は父親に知らせぬまま、俺を産んでしまった。それ以上、母親の事は詳しく聞かされなかったが、この家に俺がということは分かる。

 義理の母親が俺を見る度、汚いモノを見るように顔を歪めるからだ。話した事は一度もない。

 そのまま捨て置いてくれた方がよかったのだが…俺を急に引き取った理由はすぐ分かった。トルマトン家の長男が影の稼業を拒否したからだ。

 兄上と初めて会った時の言葉は、今でも覚えている。



「お前が私の弟?」
「…はい、そうです」
「私には影の稼業は向いていない。父上からお前の事を聞き、すぐに呼び寄せるように進言したのは私だ。お前が影の稼業を継ぐんだ」
「……」
「王命を受けるのは名誉な事だが、やはり人をあやめるのは嫌だ。他人の血で汚れたくない」
「……」
「私の代わりがいて、よかった」



 自分の手で、人を殺すのが嫌だったらしい。

 ならば、人にらせるのはいいのか、と今でも笑顔を振りまく兄上あのひとに聞いてみたい。

 トルマトン家に来てから俺は、下男の仕事をしつつ、父親から影の稼業を教わった。血縁だからと言って、家族として扱われた事は一度もない。

 毎日、慣れるまで生傷が絶えなかった。魔法が使えるようになってからは、教わる内容の過酷さが増したが動きはよくなった。

 14歳になる頃には、父親から注意される事もほとんどなくなっていた。
 その間に兄上は前宰相の娘と結婚し、他家へ婿養子に入った。2人の間に産まれてきた子が、次期トルマトン家の当主となる。

 俺はやりたくもない裏の稼業を次に継がせるための繋ぎにすぎない。

 緑色の瞳じゃなければ、俺の人生はもっと変わっていただろう…
 花街から出て、お金を貯めながら自由気ままに旅をし、気に入った場所に住みつき、そこで恋人を作り―――と夢をいだいた時もあったが、今ではもう無理な話だ。

 それといまだお世話になっていた宿屋へは行けていない。トルマトン家から近づくのを禁止されているからだ。
 身元も不明な子供を拾い、育ててくれた宿屋の主人には、死ぬまでに一度くらい会いたい。

 裏の稼業をやりこなせるまでの技術が身についたのが分かると、父親は俺を王国魔導師団に入団させた。王命を受け出したのは、15歳の時だ。

 そして、俺はその時に生涯解けない魔法をかけられた。王命の内容を他人に話すと心臓が止まる、そんな呪いのような魔法だ。裏切らせないためだろう…

 国王、トルマトン家当主、以外に内容を漏らすと俺はすぐに絶命する。
 他家に婿入りしたが、トルマトン家の現在当主は兄上だ。宰相に着任した2年前に俺の監視も兼ねるためか、父親を退けて当主の座についた。

 王命は王の不始末を片付けたり、王では裁けない貴族を秘密裏に消したり―――
 表では出来ない事ばかりだが、相手は素人なので仕事は比較的簡単だ。

 緑色の瞳じゃなかったら、違う未来があったのに…俺の人生は縛られてしまった。

 でもトルマトン家に引き取られて、良かった事が一つだけある。王国魔導師団へ入団できた事だ。



「俺、トゥルーカっていうんだ~。仲良くしようね、よろしく~」

 抱きついてこようとしたので容赦なく、正面から襟元を掴み、腕を交差して締め上げる。

「ぐわわわわ」
「抱きついてくるな。俺はマルスだ」

 締め上げた腕を離し、地面に放り投げてやる。

「マルス、初対面に対して印象強烈すぎ~」
「お前もな、トゥルーカ」

 見上げながら握手を求められ、マルスはそのままガッシリと握手を交わした。

「マルスか、今日からここがお前の家になるのだ。みんなワシの家族じゃからの」



 ホッホッホッと笑いながらも、俺を家族だと言って頭を撫でてくれたベル様の手の感触は忘れない。

 緑色の瞳など関係なく、みんなが俺をただのマルスと扱ってくれ、歓迎してくれる。どんなに辛い事があっても笑顔で迎え入れてくれる。

 俺の仲間であり、本当の家族は、魔導師団みんなだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)

かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。 ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

処理中です...