310 / 615
第286話 穢れた英雄④
しおりを挟む
「ご明察」
お龍がうなずいた。
「じゃあ、どうすれば臭いうんちをすることができるか、知ってる?」
「そ、それは…」
サトシは思い出した。
臭いものを食べることだ。
たとえば餃子やキムチを食べた後は、オナラが臭くなる。
あれとおなじことだろう。
「餃子を食べればいいんだな。あるいはキムチや納豆とか」
「ふん、甘いわね」
ばかにするようにお龍が鼻を鳴らした。
「X星人のラスボスを倒すんでしょ? その程度のもので互角に戦えると思ってるの?」
「だ、だめなのか?」
「くさやの干物でも足りないぐらいだわ」
くさやの干物は一度食べたことがある。
父親が社員旅行で伊豆に行った時、土産に買ってきたのだ。
焼いただけで家中がうんち臭くなる、まさに地獄の食べ物だった。
でも、お龍はあれでも足りないと言う。
「じゃ、どうしたら…?」
「世界一臭い食べ物、それを食べるしかない」
「世界一臭い食べ物…? なんなんだ、それは」
「シュールストレミング」
お龍が、聞き慣れない名詞を口にした。
「シュール、なんだって?」
「シュールストレミング。スウェーデン産のニシンの塩漬けを、缶に入れて発酵させた食品よ。 世界一臭い食べ物として有名で、開缶と同時に噴出するガスで、失神する人までいると言われている」
「そ、そんなもの、どこに…?」
「デパ地下の食品売り場なら、あるいは」
お龍の眼が光った。
「探すの手伝うから、さっそく特訓開始しましょ」
幸い、近所の倒壊したデパートの地下に、それは埋まっていた。
瓦礫に埋もれた輸入品専門の食料品コーナーに、10個ほど缶詰が残っていたのだ。
廃工場に持って帰ると、一番端っこの安全地帯まで退却して、お龍が命じた。
「開けて」
「う、うん」
プルトップの缶の蓋を引き開けたとたんである。
「ぐわっ!」
バキュームカーが爆発したような悪臭に、サトシは文字通り吹っ飛んだ。
「くっさ!」
見ると、100メートルは離れているのに、お龍も身体をふたつに折ってむせている。
「聞きしに勝る臭さね。死人が出るのもわかる気がするわ」
「こ、これを食べろと言うのか…? しかも、10個も」
口と鼻をを手のひらで塞ぎ、サトシは匍匐前進で問題の缶詰に近づいた。
「世界を救うためよ」
ハンカチで顔の下半分を覆い、お龍が言う。
「違う。そうじゃない」
サトシはきっぱりと首を振った。
「そんなきれいごとでは、ヒーローなんてやってられないよ。俺はもっと、具体的な褒美を要求する」
「具体的な、褒美? たとえば?」
「お龍。おまえのその体だ。バージンと言い換えてもいい」
「はっ、何言ってんの? あたしとっくの昔に処女捨ててるんだけど」
お龍が嘲るように言った。
「な、なんだと?」
サトシはうめいた。
依って立つ大地が、ふいに激しく揺らいだ気がした。
同じ小学生でも、お龍と僕とでは、住む世界が違っていたんだ。
サトシはその事実に打ちのめされていた。
サトシがたわいのないアニメや動画にうつつを抜かしている間に、お龍はしっかり大人への階段を登っていたのである。
がっくりとサトシが膝からコンクリートの冷たい床に崩れ落ちた時だった。
「スーパーヒーローはいねえかあ? いうごときかねえ、スーパーヒーローはいねえがあ?」
空から野太い声が降ってきた。
「たいへん!」
お龍が青ざめた。
「サトシ、急いで! 敵襲よ! ラスボスがあなたを探しに来たんだわ!」
お龍がうなずいた。
「じゃあ、どうすれば臭いうんちをすることができるか、知ってる?」
「そ、それは…」
サトシは思い出した。
臭いものを食べることだ。
たとえば餃子やキムチを食べた後は、オナラが臭くなる。
あれとおなじことだろう。
「餃子を食べればいいんだな。あるいはキムチや納豆とか」
「ふん、甘いわね」
ばかにするようにお龍が鼻を鳴らした。
「X星人のラスボスを倒すんでしょ? その程度のもので互角に戦えると思ってるの?」
「だ、だめなのか?」
「くさやの干物でも足りないぐらいだわ」
くさやの干物は一度食べたことがある。
父親が社員旅行で伊豆に行った時、土産に買ってきたのだ。
焼いただけで家中がうんち臭くなる、まさに地獄の食べ物だった。
でも、お龍はあれでも足りないと言う。
「じゃ、どうしたら…?」
「世界一臭い食べ物、それを食べるしかない」
「世界一臭い食べ物…? なんなんだ、それは」
「シュールストレミング」
お龍が、聞き慣れない名詞を口にした。
「シュール、なんだって?」
「シュールストレミング。スウェーデン産のニシンの塩漬けを、缶に入れて発酵させた食品よ。 世界一臭い食べ物として有名で、開缶と同時に噴出するガスで、失神する人までいると言われている」
「そ、そんなもの、どこに…?」
「デパ地下の食品売り場なら、あるいは」
お龍の眼が光った。
「探すの手伝うから、さっそく特訓開始しましょ」
幸い、近所の倒壊したデパートの地下に、それは埋まっていた。
瓦礫に埋もれた輸入品専門の食料品コーナーに、10個ほど缶詰が残っていたのだ。
廃工場に持って帰ると、一番端っこの安全地帯まで退却して、お龍が命じた。
「開けて」
「う、うん」
プルトップの缶の蓋を引き開けたとたんである。
「ぐわっ!」
バキュームカーが爆発したような悪臭に、サトシは文字通り吹っ飛んだ。
「くっさ!」
見ると、100メートルは離れているのに、お龍も身体をふたつに折ってむせている。
「聞きしに勝る臭さね。死人が出るのもわかる気がするわ」
「こ、これを食べろと言うのか…? しかも、10個も」
口と鼻をを手のひらで塞ぎ、サトシは匍匐前進で問題の缶詰に近づいた。
「世界を救うためよ」
ハンカチで顔の下半分を覆い、お龍が言う。
「違う。そうじゃない」
サトシはきっぱりと首を振った。
「そんなきれいごとでは、ヒーローなんてやってられないよ。俺はもっと、具体的な褒美を要求する」
「具体的な、褒美? たとえば?」
「お龍。おまえのその体だ。バージンと言い換えてもいい」
「はっ、何言ってんの? あたしとっくの昔に処女捨ててるんだけど」
お龍が嘲るように言った。
「な、なんだと?」
サトシはうめいた。
依って立つ大地が、ふいに激しく揺らいだ気がした。
同じ小学生でも、お龍と僕とでは、住む世界が違っていたんだ。
サトシはその事実に打ちのめされていた。
サトシがたわいのないアニメや動画にうつつを抜かしている間に、お龍はしっかり大人への階段を登っていたのである。
がっくりとサトシが膝からコンクリートの冷たい床に崩れ落ちた時だった。
「スーパーヒーローはいねえかあ? いうごときかねえ、スーパーヒーローはいねえがあ?」
空から野太い声が降ってきた。
「たいへん!」
お龍が青ざめた。
「サトシ、急いで! 敵襲よ! ラスボスがあなたを探しに来たんだわ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる