美醜逆転の世界で騎士団長の娘はウサギ公爵様に恋をする

ゆな

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6話

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 ――Myuze side――

「君に見せたいものがある」

 そう言ってベルリナを連れてきた場所は、王都の中心地にベラード公爵家が新しく出店した、薔薇茶ローズティー専門店だ。一週間後に開店予定で、誰よりも最初にベルリナを連れて来たいと思っていた。

「ベルリナ、足元に気をつけてね」
「ベラード公爵様、ありがとうございます」

 優しくベルリナの手を取り、馬車から降りるのをエスコートすると、彼女は淡く頬を染めた。今までは、つい脇の下に手を入れて、ヒョイッと抱き上げて馬車から降ろしていたけれど、もうそんな子供扱いはしない。大切なレディーとして接するんだ。

 高位の貴族をターゲットにした高級感溢れる店内には、乾燥させた様々な種類の薔薇の蕾や花弁が、透明なガラス瓶に入れられ美しく並べられている。それらに加え、薔薇茶ローズティーと相性の良い、紅茶やハーブ、ドライフルーツも取り揃えられていた。

「可愛い……。この薔薇を乾燥させた物がお茶になるのですか?」
「そうだよ。リラックス効果や美肌効果に加え、見た目も美しいから女性に喜ばれるのではないかと思うんだ」
「そうですね。私も飲んでみたいです!」

 ベルリナは頬を染め、興奮気味に店内を見回している。淡いピンクのワンピースを着て、トコトコと店内を歩き回る姿がとても愛らしい。

 困ったことに、ベルリナの全ての行動がキラキラと光り輝いて見える。時折愛らし過ぎて、今すぐ抱きしめたい、そんな衝動に駆られてしまうのだ。

 でも、僕は分別のある大人だ。
 そんなことは決して顔に出さない。

 思い返してみれば。
 今まで僕はなぜあんな行動ばかりしてきたんだろう。
 馬車の中では、当たり前のように膝の上に乗せていたし、出掛けた先では必ず手を繋いで歩くか、抱っこをしていた。いくら生まれた時から知っていて、可愛がっていたのだとしても、十二歳になるまでずっと同じように接するなんて。
 少し前の僕に説教をしてやりたい。

「ベラード公爵様、店内の雰囲気は如何でございましょうか」
「ウォルター、よくここまで頑張ってくれた。店内の装飾品も、商品の展示方法も申し分ない。一週間後のオープンが楽しみだよ」
「ありがとうございます。あの、お連れの美しいお嬢様は?」
「こちらはベルリナ・クラレンス嬢だ。僕の大切な……」

 店の責任者のウォルターの問いかけに、咄嗟に口に出してしまったが、大切な、……何と言えば良いのだろう。
 一度詰まると言葉が出てこない。でも、ベルリナがキラキラと期待した瞳でこちらを見ている気がする。

「………大切な女性だ」
「左様でございますか。クラレンス様、何か気になる商品がございましたらお声かけ下さいませ」

 言った。言ってしまった。『君が成人を迎えたら必ず伝える』なんて言っておきながら。
 でも、『大切な友人の子供』なんて言いたくないし、『大切な女の子』と言うのもなんだか違っている気がしたんだ。
 チラリとベルリナの様子を見ると、彼女の背後に大輪の花が見える気がする。パチリと目が合えば、彼女は頬を染め、口元をフニャリと緩め微笑む。

 ……可愛い。


「ベルリナ、良ければ薔薇茶ローズティーを試飲してみるかい?」
「いいのですか?」
「勿論だよ」

 窓辺に設置された応接用の二人掛けのソファーに並んで腰を掛ける。

 ウォルターに目配せすると、彼は透明のガラスで作られたティーポットを手に取り、美しい所作で薔薇茶ローズティーにお湯を注ぐ。しばらくすると芳醇な薔薇の香りが鼻をくすぐる。透明のティーポット内に、色鮮やかな薔薇が湯に浮かぶ様はとても美しい。

「わっ。お湯がちょっとピンク色になってきました」
「美しいだろう?」
「はい。ティーポットの中の薔薇も凄く綺麗です。お茶会でこんなお茶を出されたら気分も上がっちゃいます」

 カップに注がれた薔薇茶をベルリナが口にすると、不思議な顔をした。

「むむ。ちょっと大人な感じですね。味、と言うよりも香りを楽しむ、みたいな……??」
「そうだね。薔薇茶と相性の良い紅茶やドライフルーツもあるから、いろいろ試してみると良いよ。とりあえず今は、蜂蜜を入れてみようか」
「ありがとうございます」
「どうかな」
「わっ、これなら飲みやすいです!」

 素直な反応が可愛らしくて、つい頬が緩む。
 やはり彼女を見つめていると、膝に乗せて、甘い菓子を手ずから食べさせてあげたくなってしまう。

「ベルリナ、口を開けて」
「へっ?」

 クッキーを手に取り、ベルリナの口元に寄せる。彼女の瞳は忙しなくキョロキョロと動き、困惑しているのが見てとれる。それでもベルリナは、ピンク色の可愛らしい小さな口をおずおずと開ける。

「おいひい……です……」
「そうか。まだあるから、たくさんお食べ」

 口の端に付いたクッキーを親指で拭ってあげると、ベルリナは涙目で頬を真っ赤に染める。僕がこんな行動をして頬を染めるなんて、ベルリナくらいだ。まるで僕が美しい青年になったかのような錯覚を覚える。
 調子に乗って、彼女に見せつけるように親指をペロリと舐めると、顔を両手で覆い、プルプルと震えながら俯いてしまった。

 ちょっと悪戯が過ぎたかな、と反省しつつ、でも、君が成長したら、溶けてしまうほど、もっともっと甘やかしてあげたい。

 君が成人するまであと四年という歳月は長いけれど、君が美しい大輪の薔薇のように成長していくのを、ゆっくりと眺めるのも楽しみだ。
 でも他の者が手を出さないように、成人した折にはすぐにお嫁さんに来て貰えるように、根回しはしっかりとしておかなければならない。

 僕は愛らしいベルリナを眺めながら、そんなことを考えていた。




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