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第46話 プリーストブラスター
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「これぜってー強えって!」
「うっわ、めっちゃカッケー! 俺もそれにしよ」
「ちょ、これ全然鳴らんのだけど?」
集落にある金目のものを粗方集め終わり、今は偵察に出て行ったメンバーの帰りを待っている状況だ。
あまりに戦利品が多かったため、骨で作られた装備などの、換金率の低いアイテムに関しては捨ておこうと決まったのだが、それら不用品に目をつけたのが男子生徒たちだった。
いま目の前ではクラスメイトの浅井が、謎生物の頭骨で作られた兜を被り、毛皮の腰蓑、骨のアームガード、骨の脛当てなどを身にまとい、一分の隙もない完璧な蛮族コーディネートを完成させていた。
もちろんその手に握られているのは、棘付きの棍棒だ。
「変な装備や装飾品には、何の魔法効果が付いてるか分かんないから気をつけてな。呪われてくれるなよ?」
まだ地下三階なので、例えマイナス効果がついていても、ささやかな影響しかないと思うが。
「小野さんにピカーってやってもらったから大丈夫だろ」
「んー、まあそれなら?」
小野さんの聖魔法ってそんなに万能なのか?
「伊吹伊吹、これどう鳴らすんだ?」
他のクラスメイトが角笛の吹き方を尋ねてきた。
そんなの知らんよ……。
つい先ほどまで、長良野戦病院で休んでいた二人のクラスメイトもすでに復活しており、男子たちの騒ぎ声を横目に見ながら、収奪した宝石を手にキャーキャーとテンションを上げている。
ダンジョンにおける宝石の扱いは他の物資とは違って特殊なものとなっており、宝石はダンジョンを出る際に冒険者ギルドの窓口へ預けなければならない。
ただし、そのうちの一つは取得した本人が無条件で持ち出す事ができるので、彼女たちには気に入った宝石があれば持っていっても構わないと伝えてあった。
預けられた宝石は、後日、目利きのバイヤーが買い付けに訪れ、買取金を口座へと振り込んでくれる。
宝石には価格の調整だの小難しい決まりだの、何やら面倒な取り決めがあるらしいが、詳しいことまでは知らない。
また彼女達はレンタルしたローブに相当な不満があったようで、集落で手に入れた布類を使って簡単な衣服を作り始めていた。
収奪ホヤホヤの布類は、変な虫が付いていそうとのことで、まずは布の汚れを落とすために、灰の上澄み液で軽く洗浄し、小野さんの魔法で浄化、そして長良さんの起こした焚き火で乾燥を行っていた。
肌に触れるものは清潔な方がイイな。
程度の良い革ベルトと組み合わせて、スカートらしき衣服を作り出したり、オークサイズのシャツを短く改造しているようなのだが、マキマキさんの友人Bだけは、並外れた手際で作業を進めていた。
彼女は『裁縫スキル』でも授かったのではなかろうか。
イチ女子高生が、歴史資料館にでも行かない限り目にすることのない『木製の糸巻き機』を、あれほどスムーズに扱うなんて、普通は出来ないはずだ。
◻︎◻︎◻︎
偵察に出ていた大島さんたちが帰還した。
「やっぱり誰も居ませんでしたね」
彼らには、ここを攻めたコボルドたちの集落を偵察してもらっていた。
大島さんの話によると、今回の侵攻では、全戦力を動員していたらしく、集落にコボルドは一人も残っていなかったそうだ。
「小屋の数は7。リヤカーで3台分くらいっすかね」
「じゃあ中村さんが戻ったら、追加で3台作ってもらおうか」
初めから持ち込んでいた4台の台車の他に、これまでに5台のリヤカーを製作してもらっており、その全てにはギッシリと戦利品が積まれている。
そんなことを考えていると、ゴーレムの集落を偵察した中村さんたちが戻ってきた。
「ただいま戻りました。ゴーレムたちの集落は、小屋も家具も道具も、全てが石で出来ていたんで、金目のものは殆どありませんでしたよ」
……もう完全に山賊のセリフだ。
「ん、それは?」
中村さんが手にしていた、二つの箱を指差す。
「これが唯一の戦利品っすね。片方には宝石が入ってたんですが、こっちのは──」
「ちょっ! その箱は開けちゃダメ!」
突然、マキマキさんの友人Aが大きな声を上げた。
「あ、いや、こっちの箱は鍵が掛かってて開けられなかったんですよ……」
「それをそのまま、ゆっくりと地面に置いてください」
「は、はい」
中村さんはその指示に従い、手に持っていた箱の一つを地面へと置いた。
「何かあるの?」
先ほどまで、獣脂を作ってくれていた、マキマキさんの友人Aに声を掛ける。
「その箱には罠が掛かってます」
「え? その箱のことを知ってるの?」
地面に置かれている箱は、小さな炊飯器程度の大きさがあり、これといった目立った特徴があるわけではない。
「いえ、そうじゃないんだけど、何か朧げに、その箱には罠があるって……」
彼女自身、何かの確信があるわけではなさそうだが、これって……。
「……スキルの力か」
「え!? 私のスキルって罠を見つける能力なの?」
「多分そうだね。俺はそういった力が働くスキルじゃなかったので、詳しく説明はできないんだけど……」
そう口にしつつ、チラリと中村さんを見ると、木工スキルを持つ彼が代わりに答えてくれた。
「自分の知識を補足するような事が、勝手に頭の中に流れ込んできて、それが妙に確信を持っている感じがする……」
「あっ、それですそれです! ちょうどそんな感じがします」
友人Aは人差し指を立て、それを何度も縦に振った。
「なら確定か。罠に関する能力って、『盗賊スキル』とか『野伏スキル』、あとは『細工師スキル』でも発現するんだっけ」
「めちゃくちゃ有名なヤツですよね。ダンジョンで食いっぱぐれない、超当たりスキルですよ」
中村さんがそう補足してくれた。
「食いっぱぐれない……」
友人Aはボソリとそう呟くと、己の両手を見つめ、開いたり閉じたりを繰り返した。
「……それで、罠の解除と鍵外しって出来そう?」
「あっ、ええと、道具があれば出来そうですが……」
そう言って彼女は周囲を見渡すと、少し離れた場所にいたマキマキさんを見て声を掛けた。
「あっ、マッキー! そのペンチ貸してくれない?」
「ちょっと! マッキーって言わないで! コードネームで呼ぶように言ったでしょ?」
「だってその名前長いじゃん? なんだったっけ、ファントムクイーン? 略しちゃおうよ。……ええっと、ファンクイ? ファッ……」
おっとそれ以上はいけない。
「クイーン・オブ・ファントムだよ!」
「あー、それそれ。そんでペンチをさ──」
二人はそのまま、戦利品が積まれている場所へと歩いて行った。
◻︎◻︎◻︎
「あー、これならすぐに開けれそうです」
友人Aさんの指示に従い、箱の正面だけは避けて、彼女の周りに全員が集まっている。
どうやら箱を無理やり開けたり、罠解除に失敗した場合、針のようなものが射出されるそうだ。
彼女は、先を曲げた2本の針金を使って、鍵穴から細いワイヤーを引っ張り出すと、それを力任せに引っこ抜いた。
「……これで罠は作動しなくなります。で、鍵に関してはっと……」
──カチャリ
「はい、開いたよ」
「わー、シマ凄い! まるで泥棒だよ!」
見事に開錠をしてくれた友人Aこと『津島志麻』さんの活躍を、マキマキさんが両手を叩いて称賛している。
「ちょっ、泥棒って……人聞きの悪い……」
「ええとじゃあ……大泥棒?」
「変わんないって……」
罠を外された箱の中からは、緑色をした小さな水晶玉が出てきた。
「なんだろ、マジックアイテムかな? まぁ、あとで鑑定しようか」
「あ、これ見たことありますよ。『ゴーレムの魂』だか『ゴーレムの核』、そんなようなヤツです」
そう話すのは津島……シマシマさんだ。
有名なアイテムなのだろうか?
「お、詳しいね」
「たまたまネットで見かけたんです。『発煙小町』ってサイトで」
「発煙小町…………。め、珍しいページで情報を収集してるんだね……」
シマシマさんの趣味なのだろうか。
彼女は、お姑さんへの呪いを書き込む専用のサイトを愛読しているようだ。
あのサイトでマジックアイテムの情報が得られるだなんて知らなかったな……。
そして一行は、コボルドの集落で略奪の限りをし尽くすと、大量のリヤカーを引いてダンジョンの入り口へと帰還した。
◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
「うっわ、めっちゃカッケー! 俺もそれにしよ」
「ちょ、これ全然鳴らんのだけど?」
集落にある金目のものを粗方集め終わり、今は偵察に出て行ったメンバーの帰りを待っている状況だ。
あまりに戦利品が多かったため、骨で作られた装備などの、換金率の低いアイテムに関しては捨ておこうと決まったのだが、それら不用品に目をつけたのが男子生徒たちだった。
いま目の前ではクラスメイトの浅井が、謎生物の頭骨で作られた兜を被り、毛皮の腰蓑、骨のアームガード、骨の脛当てなどを身にまとい、一分の隙もない完璧な蛮族コーディネートを完成させていた。
もちろんその手に握られているのは、棘付きの棍棒だ。
「変な装備や装飾品には、何の魔法効果が付いてるか分かんないから気をつけてな。呪われてくれるなよ?」
まだ地下三階なので、例えマイナス効果がついていても、ささやかな影響しかないと思うが。
「小野さんにピカーってやってもらったから大丈夫だろ」
「んー、まあそれなら?」
小野さんの聖魔法ってそんなに万能なのか?
「伊吹伊吹、これどう鳴らすんだ?」
他のクラスメイトが角笛の吹き方を尋ねてきた。
そんなの知らんよ……。
つい先ほどまで、長良野戦病院で休んでいた二人のクラスメイトもすでに復活しており、男子たちの騒ぎ声を横目に見ながら、収奪した宝石を手にキャーキャーとテンションを上げている。
ダンジョンにおける宝石の扱いは他の物資とは違って特殊なものとなっており、宝石はダンジョンを出る際に冒険者ギルドの窓口へ預けなければならない。
ただし、そのうちの一つは取得した本人が無条件で持ち出す事ができるので、彼女たちには気に入った宝石があれば持っていっても構わないと伝えてあった。
預けられた宝石は、後日、目利きのバイヤーが買い付けに訪れ、買取金を口座へと振り込んでくれる。
宝石には価格の調整だの小難しい決まりだの、何やら面倒な取り決めがあるらしいが、詳しいことまでは知らない。
また彼女達はレンタルしたローブに相当な不満があったようで、集落で手に入れた布類を使って簡単な衣服を作り始めていた。
収奪ホヤホヤの布類は、変な虫が付いていそうとのことで、まずは布の汚れを落とすために、灰の上澄み液で軽く洗浄し、小野さんの魔法で浄化、そして長良さんの起こした焚き火で乾燥を行っていた。
肌に触れるものは清潔な方がイイな。
程度の良い革ベルトと組み合わせて、スカートらしき衣服を作り出したり、オークサイズのシャツを短く改造しているようなのだが、マキマキさんの友人Bだけは、並外れた手際で作業を進めていた。
彼女は『裁縫スキル』でも授かったのではなかろうか。
イチ女子高生が、歴史資料館にでも行かない限り目にすることのない『木製の糸巻き機』を、あれほどスムーズに扱うなんて、普通は出来ないはずだ。
◻︎◻︎◻︎
偵察に出ていた大島さんたちが帰還した。
「やっぱり誰も居ませんでしたね」
彼らには、ここを攻めたコボルドたちの集落を偵察してもらっていた。
大島さんの話によると、今回の侵攻では、全戦力を動員していたらしく、集落にコボルドは一人も残っていなかったそうだ。
「小屋の数は7。リヤカーで3台分くらいっすかね」
「じゃあ中村さんが戻ったら、追加で3台作ってもらおうか」
初めから持ち込んでいた4台の台車の他に、これまでに5台のリヤカーを製作してもらっており、その全てにはギッシリと戦利品が積まれている。
そんなことを考えていると、ゴーレムの集落を偵察した中村さんたちが戻ってきた。
「ただいま戻りました。ゴーレムたちの集落は、小屋も家具も道具も、全てが石で出来ていたんで、金目のものは殆どありませんでしたよ」
……もう完全に山賊のセリフだ。
「ん、それは?」
中村さんが手にしていた、二つの箱を指差す。
「これが唯一の戦利品っすね。片方には宝石が入ってたんですが、こっちのは──」
「ちょっ! その箱は開けちゃダメ!」
突然、マキマキさんの友人Aが大きな声を上げた。
「あ、いや、こっちの箱は鍵が掛かってて開けられなかったんですよ……」
「それをそのまま、ゆっくりと地面に置いてください」
「は、はい」
中村さんはその指示に従い、手に持っていた箱の一つを地面へと置いた。
「何かあるの?」
先ほどまで、獣脂を作ってくれていた、マキマキさんの友人Aに声を掛ける。
「その箱には罠が掛かってます」
「え? その箱のことを知ってるの?」
地面に置かれている箱は、小さな炊飯器程度の大きさがあり、これといった目立った特徴があるわけではない。
「いえ、そうじゃないんだけど、何か朧げに、その箱には罠があるって……」
彼女自身、何かの確信があるわけではなさそうだが、これって……。
「……スキルの力か」
「え!? 私のスキルって罠を見つける能力なの?」
「多分そうだね。俺はそういった力が働くスキルじゃなかったので、詳しく説明はできないんだけど……」
そう口にしつつ、チラリと中村さんを見ると、木工スキルを持つ彼が代わりに答えてくれた。
「自分の知識を補足するような事が、勝手に頭の中に流れ込んできて、それが妙に確信を持っている感じがする……」
「あっ、それですそれです! ちょうどそんな感じがします」
友人Aは人差し指を立て、それを何度も縦に振った。
「なら確定か。罠に関する能力って、『盗賊スキル』とか『野伏スキル』、あとは『細工師スキル』でも発現するんだっけ」
「めちゃくちゃ有名なヤツですよね。ダンジョンで食いっぱぐれない、超当たりスキルですよ」
中村さんがそう補足してくれた。
「食いっぱぐれない……」
友人Aはボソリとそう呟くと、己の両手を見つめ、開いたり閉じたりを繰り返した。
「……それで、罠の解除と鍵外しって出来そう?」
「あっ、ええと、道具があれば出来そうですが……」
そう言って彼女は周囲を見渡すと、少し離れた場所にいたマキマキさんを見て声を掛けた。
「あっ、マッキー! そのペンチ貸してくれない?」
「ちょっと! マッキーって言わないで! コードネームで呼ぶように言ったでしょ?」
「だってその名前長いじゃん? なんだったっけ、ファントムクイーン? 略しちゃおうよ。……ええっと、ファンクイ? ファッ……」
おっとそれ以上はいけない。
「クイーン・オブ・ファントムだよ!」
「あー、それそれ。そんでペンチをさ──」
二人はそのまま、戦利品が積まれている場所へと歩いて行った。
◻︎◻︎◻︎
「あー、これならすぐに開けれそうです」
友人Aさんの指示に従い、箱の正面だけは避けて、彼女の周りに全員が集まっている。
どうやら箱を無理やり開けたり、罠解除に失敗した場合、針のようなものが射出されるそうだ。
彼女は、先を曲げた2本の針金を使って、鍵穴から細いワイヤーを引っ張り出すと、それを力任せに引っこ抜いた。
「……これで罠は作動しなくなります。で、鍵に関してはっと……」
──カチャリ
「はい、開いたよ」
「わー、シマ凄い! まるで泥棒だよ!」
見事に開錠をしてくれた友人Aこと『津島志麻』さんの活躍を、マキマキさんが両手を叩いて称賛している。
「ちょっ、泥棒って……人聞きの悪い……」
「ええとじゃあ……大泥棒?」
「変わんないって……」
罠を外された箱の中からは、緑色をした小さな水晶玉が出てきた。
「なんだろ、マジックアイテムかな? まぁ、あとで鑑定しようか」
「あ、これ見たことありますよ。『ゴーレムの魂』だか『ゴーレムの核』、そんなようなヤツです」
そう話すのは津島……シマシマさんだ。
有名なアイテムなのだろうか?
「お、詳しいね」
「たまたまネットで見かけたんです。『発煙小町』ってサイトで」
「発煙小町…………。め、珍しいページで情報を収集してるんだね……」
シマシマさんの趣味なのだろうか。
彼女は、お姑さんへの呪いを書き込む専用のサイトを愛読しているようだ。
あのサイトでマジックアイテムの情報が得られるだなんて知らなかったな……。
そして一行は、コボルドの集落で略奪の限りをし尽くすと、大量のリヤカーを引いてダンジョンの入り口へと帰還した。
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