風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第47話 一つの大罪

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 何台も連なるリヤカーの車列は多くの人たちの目を引いた。

 仮面の女や、蛮族の男たち。

 そしてレンタルローブを腰巻きにした、ミニスカJKギャル。


 そこに大量の戦利品が無かったとしても、十分に目立っていたであろう集団だ。


 今日は夏休み最初の週末とあって、普段は閑散としているこのダンジョンも、今日は多くの学生冒険者で賑わっている。

 そんな彼らの視線が、こちらに向かって容赦なく降り注いでおり、自分も何かしらの仮面を被っておくべきだったと、今更になって後悔した。



「それじゃ、鑑定が要らないアイテムだけ先に査定してもらってくるよ。皆んなは今からスキルの確認をすると思うけど、今日は他にも初めてダンジョンに来たって人が多そうだから、判断石を占有することなく、他の人たちを先に鑑定させてあげてね」

「「りょーかい」」

「あー、あと、スキルを無理に人へ伝える必要はないからね。中には人に言いづらいスキルを授かることもあるからさ」

「「はーい」」

「じゃ、あとはよろしく」

 そう長良さんに伝え、買取窓口へと移動した。





「……えっぐい量やな」

「あー、でも今日は魔物素材が殆どないんです」

 買取窓口まで行くと、マテがいのお兄さんが、道の脇に停められた大量のリヤカーを見て声を掛けてきた。


「この気味の悪い燭台なんかは、魔物素材とも言えるし、彫刻の一種とも言えるし、家具とも言えるな。んー、カテゴリー分けが微妙なもんが多いな……」

「そうなんですよね。こういうのが大量にあるんですよ」

 予め、売り先を意識して積み込んではいないので、今は椅子やら敷物やら金物やら、とにかくごちゃ混ぜに積み込まれている。

 今後は売り先ごとに一纏めにしておいた方が良さそうだ。


「ならちょっと、うちのもそうだけど、他の会社にも査定の追加要員を回すよう、上の事務所へ呼びに行ってくるよ」

「あっ、ホントですか。お手数おかけします」

「すぐに戻ってくるから、それまでウチの窓口を見といてもらえるか?」

 無茶苦茶言うなぁ……。


「そんなの困りますよ」

「大丈夫、大丈夫。今の時間ならお客さん少ないから。もし来ても『いま担当がウンコに行ってますので少々お待ちください』言っといてくれりゃイイから」

「ウンコですね。伝えておきます」

「……ホントに言わんでイイからな?」

 お兄さんはそう言うと、ヒラヒラと手を振りながら出口の方へと歩いていった。



 妙な緊張をしつつも、言われた通りにマテがいさんの窓口に立っていたが、買取を希望するお客さんは一人も現れず、しばらくしてお兄さんが大勢の人を引き連れて戻ってきた。


「お待たせ。んじゃ今から査定に入らせてもらうけど、あのリヤカーって一緒に買い取らせてもらってイイ?」

「はい、構いませんよ。うちの技術主任が作った力作なので、高く買い取ってもらえれば嬉しいです」

「分かった分かった。……なら査定が終わったらまた声を掛けるよ」

「よろしくお願いします」

 各社の査定担当の方々にお辞儀をし、皆のいる判断石の前へと移動した。



◻︎◻︎◻︎


「あああああー!!! こんなの真面目に大学目指すしか無ええええぇぇぇー!!!」


 皆の元へと戻ってくると、浅井が地面に両手を付いて叫んでいた。彼がああ言っているのは、相当に使い勝手の悪そうなスキルを引き当てたのだろう。


「伊吹ぃぃぃ! 俺のスキルを聞いてくれよぉぉぉ!」

 ……言っちゃうんだ。


「何を授かったの? 二段ジャンプ?」

「そんなのだったら今頃飛び跳ねてるよ」

「……まぁそうか」

 もし二段ジャンプなんてスキルがあるなら、かなり使えないとは思うけど、試しに飛び跳ねたりはするだろうな。


「えっと、なんて名前だったっけ……。腹痛スキル。そんな感じのやつだったんだよー!」

 今さっき見たスキル名を忘れるほどショックだったのか……。お気の毒に……。


「ほらコレ見てくれよぉぉ。遠距離スキルは望みすぎだとは思うけど、せめてフィジカル系のスキルがよかったよぉぉぉぉ」

 腕を掴まれ、判断石の前まで連れてこられると、浅井は石板の上に手を置いて、映し出されたスキル名をこちらに見せつけてきた。


・スキル名:雑食ざっしょく
・詳細:いかなるものを食べても、腹痛などの体調不良にはならず、栄養として取り込む事ができる。経口摂取による毒無効。


「ほ、ほーぅ。珍しげなスキルだね……」

 今までにこの『雑食』スキルを調べたことはない。

 おそらくはスキル紹介サイトにも載っていたのだろうが、その内容までを確認した覚えはなかった。


「伊吹も『土、食ってみて』とか言うんだろっ!」

「いや言わんけど…………で、食ってみた?」

「食ってねぇよっ! なんで土食わなきゃいかんのだ!」

 皆んなスキルを確認した後、一度は試してみたくなるもんだが……。


「味とかは、そのまま感じるのかな?」

「俺はちゃんと勉強をすることにするよ……。土を食わなくても済むようにな」

 なるほど。どうしても食うに困ったら、ダンジョンへ来て土を食えばイイのか。

 ……結構強そうなスキルじゃないか?



 何はともあれ、浅井の思いつきによるダンジョンツアーは、これ以上にない結末で終える事ができた。

 テストの結果が悪かったことにより、ダンジョンなんていうヤクザな道に希望を見出し、そして再び「しっかりと勉強をしよう」と思えるようになったのだ。

 最高の終わり方じゃないか。


◻︎◻︎◻︎


「ねえ、その箱食ってみてよ」

「ダンジョンから出たらスキル発動しねえって言ってんだろ!」


 アイテムの買取査定が長引いているので、マテがいのお兄さんに一声掛けてから、クランハウスへと戻ってきた。紙パンツのまま留まるのも辛いだろうし。


 大量のピザを注文して、クランハウスの大部屋で心ばかりの打ち上げを行なっているのだが、相変わらず皆は浅井に変なものを食わせようとしていた。


「アタシもうダンジョンは良いかなー」
「想像よりはるかにキツかったね……」
「モンスターを倒したら、アイテムを残して消えてほしかったなー」
「リヤカー重すぎだし」

 クラスメイトの女性陣は、ダンジョンに懲りてしまったようだ。

 初回からハードな光景を目の当たりにしたことで、すっかり夢から覚めてしまったらしい。


「まぁ、一度だけでも体験しておくと、他の分野に進んでも、何かしらの役に立つんじゃないかな。ダンジョンが関わってる企業っていま多いし」

 ダンジョン業に携わる者として、一応はフォローを入れておく。


「……まあそうね。でも、二度とあのパンツは履きたくないわ」

「あれは……まあね。……あ、そうだ。コレいま渡しておくよ。今日のお給料ね。源泉徴収票も一緒に入ってるから」

 そう言って、今日のツアー参加者たちに給料が入った封筒を手渡していく。

 既に買取が完了したものを清算しておいたのだが、マジックアイテムや武器・防具、一部の生産素材はまだ売りに出していない。

 判断石の前が混み合ってきたので、鑑定を中止し、一旦クランハウスまで持ち帰ってきたからだ。


「しち、はち、きゅー……。ちょっ10万も入ってんじゃん! ……ん? なにこれ、税金で11400円も取られてるの!?」

「……ミカって貰ったお年玉を、目の前ですぐに開いちゃうタイプ?」

「ごめん伊吹! ……もうあと2回くらいは連れてってほしい!」

「ミカ……。なんて意地汚い女なの……」


 現時点の売り上げだけでも1000万は超えているので、もっと渡すことは出来るのだが、扶養から外れてしまったり、ご家族からの言及を避けるために、支給する現金は10万までとした。残りは装備品をいくつか渡すつもりなので、各自好きなタイミングで現金化してもらえばいいだろう。


「これ、私も受け取っていいのでしょうか?」

 そう尋ねてきたのは、マキマキさんの友人Bこと『町方まちかた千佳ちか』さんだ。

 彼女は、あのオーク集落で予想していた『裁縫』スキルではなく、その上位にあたる『服飾』スキルを授かっており、その力を活かすために異界薬理機構への所属を希望してきた。

 我々としても、装備品のメンテナンスをお願いできる人材は非常にありがたい。

 さらに最近では、なめし済みの皮革や布が手に入る機会が増えており、これらをただ売るより、何かしらの製品に加工したほうが利益も大きい。

 そうした理由から、彼女の入社は願ってもない話だった。


「ああ、構わないよ。月の給料なんかは別途振り込むから、それはそのまま受け取ってもらえれば」

「あ、ありがとうございます」

 チカチカさんは、受け取った給料袋をカバンの中へしまい込むと、少しだけ薄暗い顔でニヤリとした笑みを浮かべた。



「何で伊吹が社長なんてやってんだよー! ずるいだろー! 受験勉強しよーぜー!」

 土太郎が不満をこぼしている。


「夏期講習に参加しないだけで、受験勉強自体はしてるよ。 俺も大学へは進むつもりだから」

「え? 今日だけでも無茶苦茶稼いだんだろ……。大学なんて行く必要ないじゃん……」

「突然ダンジョンが消えたり、国が入場を規制したりするかもしれないだろ? その時の保険だよ」

 長良さんの後追いなんだけど……。


「マジかよ……。伊吹って学校じゃ全然話さないけど、かなりちゃんとしてるじゃん」

「ちゃんとでき始めたのは、つい最近からだよ」

「……なぁ、ここの会社って、土を食う仕事ってないの?」

「どこの会社にもないだろ」


 そんな他愛もないやり取りの最中、ふと目をやると──部屋の隅で一人だけ伏し目がちなシマシマさんと視線が重なる。


 その瞳は、輪の中に入りきれずにいるようで、どこか寂しげに見えた。


◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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