風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第50話 ギャグ回

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「良かったあああああああああ!!!」


 浅井の女体化は、ダンジョンを出るとアッサリと解除されてしまった。

 ダンジョンから外へ出る時には、毒などの危険物を持ち出そうとしていないか、ボディチェックを受ける必要がある。

 女性の身体になった浅井は「どっちにお願いするのが正解なんだよ……」と悩み抜いた末、女性職員を選んでいた。……あの無駄な時間を返してほしい。


「なんかさ……。ちゃんと膨らみがあると、それが例え自分の胸だったとしても、人に見られるのって恥ずかしいものなんだな……」

「いや、そんな知見を俺に伝えられても……」

「もし、これからオーチンを検証するなら、自前のブラジャーを持ってった方がいいぞ……?」

「サラシみたいなもので良いだろ」

 あと、オークの珍味を『オーチン』って略すなよ……。



 何はともあれ、女体化の解除方法が真っ先に判明して良かった。一方通行の効果だったら、検証も何もなくなっていたからな。



「あっ、お帰りなさい。……なんか、随分と遅かったですね?」

 クランハウスへ戻ると、マキマキさんが出迎えてくれた。マキシマチカの3人は、コレからのダンジョン活動について話し合いを行なっていたようだ。

 今回、なぜ帰ってくるのが遅れたかの説明をすると、彼女たちは目をまん丸にした。


「それならば、スポブラのようなものを作っておきますか。バストサイズって、どれくらいありました?」

「んー……。浅井が自分の胸を見て、恥ずかしがるくらいにはあったね」

 その言葉を聞き、マキマキさんがソファから勢いよく立ち上がり言った。


「わ、私も女体化したいです!」

 なら今は何体なにたい状態なんだ。


「いやいやいや、何で俺にスポブラを作ろうとしてるの? もうあんなのコリゴリだよ」

「それについてですが──」

 着替えを終えた長良さんが、素顔を晒した状態で部屋へと入ってきた。


「あれ? 君って確か隣のクラスの…………長良さん?」

「ええそうです。……申し遅れました、私、伊吹くんのバディを務めている長良茜です。今後ともよろしくお願いします」

「え? あ、はい。よろしくお願いします……」

 バディだったんだ……。


 長良さんは浅井に対し、今現在はダンジョン系の大学に入る際の実績づくりを重視していることを伝え、今回発見した『特殊ダンジョン食品』に関しての論文を、長良、伊吹、浅井の三名共同で発表しないかと提案した。

 それを聞いた浅井は、自身も最近はダンジョン系の学部がある大学を視野に入れ始めたので、ぜひ協力させてほしいと即答。

 ただ夏期講習があるので、夏休み中も土日くらいしか動けないことを残念そうに話してくれた。


「はい、それでも構いません。一緒に調査を進めましょう」

「よろしくお願いします」


 こうして、浅井も巻き込んでダンジョン食品の調査が行われることになった。



◻︎◻︎◻︎


「あ、コレ大丈夫ですね。はい、食べてくださいねー」

「ほんはんへー! あへあえあいえー!」



 翌、日曜日。

 ダンジョンでオーク食品の検証を行っているのだが、その中でマキマキさんの新しい能力が判明した。

 彼女は拘束した相手に、無理やり何かを食べさせようとする場合、もしそれが致命的な食べ物だった時には事前に分かるそうなのだ。

 いまは謎の木製器具を無理やり咥えさせられており、自分の意思とは関係なく口を開かされていた。


「っぷはー! ねえ、これ咥えないとスキルって発動しないの?」

「いえ、拘束さえされていれば発動するみたいですが、折角なので使ってみようかと」

「折角……」


 先ほどは、森に生えていた派手派手しい毒キノコを無理やり食べられそうになったのだが、その時には『コレを食べさせてしまうと相手は死ぬ』といった警報が、彼女の頭の中に鳴り響いたそうだ。


 なお、その時に用いられた毒キノコはというと……。



「……クリミア戦争では、誰と誰が戦い、何が起きたか」

「ロシアがオスマン帝国に攻め込み、英仏がオスマンを支援。ロシア負けてセヴァストポリ陥落。ナイチンゲールも活躍して、近代看護が始まる」

「では次。オデッサの南東で、エカチェリーナ2世が併合したのは?」

「クリミア半島。それ以前はオスマン領。ついでにポーランドも分割参加していた」

「んー。確かに歴史が苦手といった感じではなさそうですね……」


 性別が切り替わる『オークの珍味』が見つかったことにより、ワニ肉やその他のダンジョン内で得られた食べ物にも、何かしらの効能があるのではないかと考えられた。

 しかしその効能が『脚力が2%上昇する』や『木登りが5%得意になる』程度のものであれば、それを体感することはできない。


 そして今しがた、毒キノコを焼いて食べた浅井が『いつになく頭が冴え渡っている気がする! 試しに俺が苦手な歴史の問題を出してくれ!』と騒いでいたので、長良さんが出題することになった。


「いまの範囲だけ、たまたま覚えていただけじゃないの?」

 浅井にそう尋ねてみる。


「確かに勉強した範囲ではあるけど、普段こんなにサッと思い出せないんだよ。歴史は特に」

 黒海周辺の歴史は自分も苦手だ。どうにもあの辺りの地名や人名が覚えきれない。


「なあコレって、このキノコ食ってから試験受ければ楽勝じゃね?」

「なら一度、ダンジョンの外に出てから、すぐに戻ってきてよ」

「よし分かった! ちょっと待っててな!」


 ダンジョンの入り口へと向かう浅井の後ろ姿を見ながら、長良さんが自分に問いかけてきた。

「今の問題ですが、伊吹くんはちゃんと答えられましたか?」

「お、おう。もちろん全部分かってたよ……」

「それでしたら大丈夫ですね。先ほどの問題は、以前一緒に勉強をした範囲でしたので」

「………………」


 しばらくして、息をつかせた浅井が戻ってきた。肩を上下させながらも、目はギラついている。


「よっしゃ戻った! まだイケると思うんだよな、感覚的に!」

「では、確認してみましょう。浅井さんと伊吹くんに対して出題します」

「えっ、俺も!?」

 長良さんが淡々と口を開く。
 

「“三帝同盟”を結んだ三国は?」


「……えーと、えーと、あれ……ロシアは……いたよな? いや、え? 違う? ……ドイツは絶対いた気がする。えーと、あとどこだっけ……?」

「…………魏、呉、蜀」


「ふぅ…………。伊吹くんには、もう少し勉強の仕方を工夫してもらう必要がありそうですね。……浅井さんはキノコに頼らず、夏期講習でしっかりと鍛え直してください」

「「は、はい…………」」


 浅井の『頭が冴える』という感覚は本物のようだ。

 しかし、毒キノコを食べなくてはならないことと、ダンジョンの外へ出ると解除されてしまう仕様によって、試験には使えそうにない。



 大体、三帝同盟って何だよ……。全然覚えてないぞ……。


◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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