風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第52話 工藤

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「男の人って、こんな違和感をぶら下げて日々を暮らしてるんですか?」

「違和感? んー、慣れ……かな。普段、その存在を意識することないし……」

「こんなの嫌でも意識しちゃいますよ。……普通に歩くだけでも、しばらくの訓練が必要そうです」


 オークの珍味は、女性が摂取しても性転換することが判明した。

 念の為、サイズに余裕のあるローブを着てから実験を行なっているので、服を内側から破くような事態にはなっていないが、マキマキさん本人は非常に落ち着かない様子だ。

 彼女が恐る恐る歩く姿を楽しんでいると、後ろから中村さんが話しかけてきた。


「いま試してきましたけど、表面を炙った木板はダメでしたね。ただ、電動工具で裁断したものは大丈夫でした」

「どれくらいまでなら許容されるのか、全然わからないね」

「全ての加工を、ダンジョン内で行うのが無難っすかね。持ち込めなくなったら、ただのバカ高い木材っすよ」


 今しがた、クランハウスに置かれているダンジョン木材を使い、いくつかの実験を行ってもらった。

 それは、どの程度までダンジョン外で作業を行なっても、再びダンジョンの中へ持ち込めるかというものだ。

 以前、亀の甲羅を、ホームセンターで購入した電動工具を使って加工したが、その時には特に問題なくダンジョンへ持ち込むことができた。

 しかし今回、木板の表面をバーナーで炙ったものは持ち込むことができなくなったらしい。

 それと同じように、電ノコを使って形を整えた木板は大丈夫だったようだが、どこまでを許容されるのかは、イマイチ掴みきれていない。

 電ノコやリューターを使って加工すると、素材の表面は、回転の熱で多少は化学変化しているはずなのだが、その程度なら大丈夫なようだ。


「で、それが工具で作ったやつ?」

「そ、そうなんすけど……。やっぱ外だとスキルが発動しないんで、全然ダメっしたね……」

 中村さんが手に持っている木板には、何枚の木札を集めると、どのような装備と交換できるのかが彫られている。

 ただ、リューターを使って文字を掘り込んだ場合には、作業自体は簡単になるはずなのだが、大変ヘロヘロとした文字になっていた。

「ダンジョンの中で、手彫りしたものは?」

「こっちっすね」

 そう言って見せてくれた木板には、クッキリとした明朝体でこう刻まれていた。


● 下着(トランクス型)……10異貨イカ
● 短パン(膝上)……12~14異貨
● 足袋たび(一足)……6~8異貨
● シャツ(Tシャツ型)……20異貨
● シャツ(長袖)……25異貨
● スカート(膝丈)……15~18異貨
● 長ズボン……25~28異貨
● ジャケット……35~40異貨
● 木製サンダル……10異貨


「交換枚数に幅が持たせてあるものは何なの?」

「染料の希少性や、服のデザインによって、差があるそうですよ」

「青いシャツは高いけど、黄色のシャツは安い、みたいな感じか」

 地球上の歴史でも、紫はその原材料の希少性から、高貴な人が着る色とされていたな。ダンジョン内でもそうなのだろうか。


「ちなみにサンダルは原価割れしてます。自分の木工スキルで作った土台に、布製の帯で足を固定するんものなんですが、結構工数あるんすよ」

「今日みんなが履いてたやつね。便所サンダル風の……」

「便所サンダル……と言っても、一応は踵がすっぽ抜けないように、帯が追加してあるんですよ。社長の意向で、なるべく早く提供したいとのことで、安く設定してあります」

「布のパンツとサンダルさえ手に入れば、一通りの活動はできるもんね」

「そういえば、ソール用の材料に心当たりがあるとか聞いたんですが、それいくつか取ってきてもらえません?」

「あー、カエルの水掻きか。んじゃ今から行ってこようかな」

「ぜひお願いします」


 と、いうことで、長良さんたちを連れて地下二階へと向かうことにした。


◻︎◻︎◻︎


 カエルの狩場へ向かう途中、長良さんとクラスメイトの女子が会話をしている。

「先日もお話ししたとおり、私は明日から一週間ほどダンジョンに入れなくなるので、手に入れたい魔物素材は、今日のうちに狩っておきましょう」

「ねぇ、アレってどうにかできないの?」

「そうですね……。清潔で吸収力の高い素材を見つけるか、ダンジョン内にいる間、ずっと男性の姿で居続ける……でしょうか」


 ……そろそろ長良さんはアレだ。


 女性冒険者の数が少ないのは、アレの影響が大きい。


「先月ってどうしてたの? 長良──」
「ミス・ブラックフレアです」
「あ、あぁ、フレアさん……」


 もう既に『ミス・ブラックフレア=長良さん』だということは、クラスメイトにはバレていた。

 長良さんは隣のクラスなのだが、容姿、成績、家柄、性格、あらゆる要素において目立つ生徒だ。当然、うちのクラスメイトたちにも認識されている。

 以前、昼休みに自分の元へ乗り込んできたこともあったので、皆んな口には出さないものの、仮面の下が誰なのかは周知の事実となっていた。


 ……本人もそれは分かっていると思うのだが、頑なに『ミス・ブラックフレア』であることにこだわり続けている。

 気に入っているのか?


「でー、フレアさんは、先月どうしてたの?」

「ええと、先月はテスト期間中でしたので、ダンジョンには潜っていませんでした」

「やっぱ生理中は休まなきゃダメかー」

「多少眠くはありますが、割り切って勉学に集中しておくのが宜しいかと」


 オークの珍味の効果時間は10分と少し。一気に複数個を食べてもそれは変わらなかった。

 毎回、効果が切れてから食べ直す必要があるので、連続して異性になり続けることは出来ない。

 そのため、自分が月経を体感してみることは出来ない……と思う。…………別に興味があるわけでもないが。


「んー、出血を抑えれるようなスキルだったら良かったんだけどなあ……。私のスキルって、的なやつだったからさ……」


 彼女が得たスキルは『落下耐性』だ。聞くつもりはなかったのだが、他のクラスメイトとの会話が自然と耳に入り、そのスキル名を知ってしまった。

 高い場所から飛び降りても、無傷で着地することができるそうなのだが、裸足やサンダル履きで試すのは怖いらしく、まだ一度もスキルの効果を確認していないそうだ。


「そのスキルが活躍する場は、この先必ず出てきますよ」

「ホントにー? なら一度試してみたいけど、ブーツ……せめて革サンダルくらいじゃないと怖いかな」

「でしたらカエルのついでに、他の魔物も狩っていきましょうか。革素材は専門の業者に下処理をお願いしないといけませんし、時間も掛かりますからね」

「やった! 私もフレアさんみたいなブーツが欲しかったんだよねー。……って、そのブーツっていくらくらいするの?」

 ワニ革ブーツは割と硬いので、もう少し柔らかい素材で作られた靴の方が良さそうだ。


「スキルのチェックに必要とあれば、会社の経費から出せますよ。ですよね、伊吹くん?」

「あ、え? う、うん。大丈夫」


 彼女たちには、ただの荷運びのためについてきてもらっていたのだが、ワニ狩りなんて見せて良いのだろうか。結構な恐怖体験を植え付けることになりそうだ……。


◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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