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第58話 『無理』と言うのは、嘘つきの言葉
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「オーチンを、木札の交換対象に加えたい」
「ええっとそれだと、みんなレンタル装備のままで採取しませんかね?」
「なら、オーチンの交換を希望する場合は、規定の枚数に加えて、全身の装備が整っていることを条件にするっていうのはどう?」
ゴーレムくんの相撲コーナーを作った翌日、更なる安全対策のために、オーチンを木札の交換対象にする事を提案した。
安全にオーチンが手に入る道を用意することで、オーク集落への無謀な突貫を抑制できるのではないかと考えてのことだ。
「ライ様の報酬から逆算すると、木札1000枚という交換レートになりますよ?」
マキマキさんがそう口にした。
「さすがに1000枚は非現実的だよね……。誰も目指そうとしないなら、抑制として機能しないし」
「木札1000枚ということは、集めるのにかかる実動時間が約5000時間。1日あたり8時間活動するとして、625日でしょうか?」
長良さんがサラリと計算してくれた。
「えーと、そうなると600として…………大体1年と半分ちょっと? 長すぎて途中で諦めちゃうよなぁ……。とすると、その十分の一くらいが妥当?」
「初めは100枚で交換できるようにしておき、一度交換されたら10枚ずつ交換レートを増やしていくのはどうでしょう? 私たちとしても、いつまでも珍味の交換業を続けるわけにもいかないでしょうし」
「それって、競争を加速させちゃわない?」
「でしたら、1日で得られる木札の上限を30枚までとし、夜間に採取された素材は無効とする。で、いかがです?」
「そういえば、日が落ちてからも活動しちゃう冒険者が現れるのも問題になるよね。……いつ採取されたものかなんて判断できるの?」
自分が知らないだけで、夜間に採取したものは、葉っぱが萎れてたりするのかな?
「いえ全く分かりません。ただ、そう一言加えておくだけで、無駄となりそうなことは避けようとするでしょうし」
「そ、そうだね……」
誰しも、無駄な労働なんてしたくないだろうからな……。
その後、細かいルールなどを詰めていき、木札とオーチンを交換できる制度が正式に導入された。
◻︎◻︎◻︎
「うおおおお、マジかーーーーー!!!」
「おいおいおいおい! 全員の木札を集めて、誰か一人を美少女にしちゃわね?」
「いいね、それ俺がやるわ」
「いやいやいやいや、ここは拙者が」
新しい制度の告知看板を立てると、そこにはたちまち人だかりができた。
内容を読み上げる者、それに驚いて叫ぶ者、冗談半分に掛け合いを始める冒険者たちで、辺りはあっという間に騒がしくなっていく。
「ねね、あの人たちが言ってるように、誰か一人に木札を集めちゃうってのはアリなの?」
興奮気味の冒険者たちを眺めていたら、深谷さんがそう話しかけてきた。
「ルール上問題はないけど、実際にはやらないんじゃないかな? 普通に喧嘩になるっしょ」
「なら盗難や強奪は?」
「一応は、誰に何枚の木札を渡したかメモっているから、怪しい人はすぐに見つけられるんだよね」
「それ、事が起きた後じゃん」
「確かにそうだよなあ……。冒険者を採取場所へ案内するときは、一応注意して見ておいてよ。……あとはあれか、貸金庫業をするとか? 木札一枚で利用可能」
「それって一生、木札が集められないやつじゃ……」
深谷さんが懸念した通り、木札の価値が高まったのならば、それに起因する犯罪にも注意しなくてはならない。しかし、直ぐにこれといった妙案が浮かぶわけでもなく、ひとまずは様子を見ることしか出来なさそうだ。
「……ところで、その格好はどうしたの?」
今日の深谷さんは、いつものギャル風の服をやめて、ヨーロッパの田舎町で給仕をしていそうな、古めかしいワンピース姿だった。
エプロンと胸元の編み上げリボンが妙に似合っていて、まるで酒場の看板娘といった装いだ。
「あー、これ? なんかね、あのオークんとこから盗ってきた機械で服を作るとき、今風の服を作るよりも、昔っぽい服を作る方が簡単なんだって。それで、チカチカさんがお試し品をくれたの」
なるほど。あの古風な糸車や機織り機で服を作るなら、中世風な服の方が向いているのか。
深谷さんの服をじっくり眺めていると、突然背後から声が掛かる。
「──あら、そういった服装の方が好みでしたか? 伊吹君の部屋にあった薄い書籍には、黒革製のボンデージ姿をした女性が多く描かれていましたので、それに合わせて私も黒一色に揃え……」
「ちょっ!!!」
長良さんが、爆弾を抱えて乱入してきた。
「げっ、嫁……! わ、私は伊吹に粉をかけたんじゃないからね! えっと、もう戻るね!」
深谷さんはそう言うと、交換窓口の方へ走り去っていった。
「………………」
「……冗談だと訂正する前に、どこかへ行ってしまわれましたね」
「もう少し……易しめの冗談から練習していこうか……」
自分も人付き合いは得意なほうではないので、もう少し分かりやすい冗談を心がけてほしいな……。
◻︎◻︎◻◻︎◻︎
「ええっとそれだと、みんなレンタル装備のままで採取しませんかね?」
「なら、オーチンの交換を希望する場合は、規定の枚数に加えて、全身の装備が整っていることを条件にするっていうのはどう?」
ゴーレムくんの相撲コーナーを作った翌日、更なる安全対策のために、オーチンを木札の交換対象にする事を提案した。
安全にオーチンが手に入る道を用意することで、オーク集落への無謀な突貫を抑制できるのではないかと考えてのことだ。
「ライ様の報酬から逆算すると、木札1000枚という交換レートになりますよ?」
マキマキさんがそう口にした。
「さすがに1000枚は非現実的だよね……。誰も目指そうとしないなら、抑制として機能しないし」
「木札1000枚ということは、集めるのにかかる実動時間が約5000時間。1日あたり8時間活動するとして、625日でしょうか?」
長良さんがサラリと計算してくれた。
「えーと、そうなると600として…………大体1年と半分ちょっと? 長すぎて途中で諦めちゃうよなぁ……。とすると、その十分の一くらいが妥当?」
「初めは100枚で交換できるようにしておき、一度交換されたら10枚ずつ交換レートを増やしていくのはどうでしょう? 私たちとしても、いつまでも珍味の交換業を続けるわけにもいかないでしょうし」
「それって、競争を加速させちゃわない?」
「でしたら、1日で得られる木札の上限を30枚までとし、夜間に採取された素材は無効とする。で、いかがです?」
「そういえば、日が落ちてからも活動しちゃう冒険者が現れるのも問題になるよね。……いつ採取されたものかなんて判断できるの?」
自分が知らないだけで、夜間に採取したものは、葉っぱが萎れてたりするのかな?
「いえ全く分かりません。ただ、そう一言加えておくだけで、無駄となりそうなことは避けようとするでしょうし」
「そ、そうだね……」
誰しも、無駄な労働なんてしたくないだろうからな……。
その後、細かいルールなどを詰めていき、木札とオーチンを交換できる制度が正式に導入された。
◻︎◻︎◻︎
「うおおおお、マジかーーーーー!!!」
「おいおいおいおい! 全員の木札を集めて、誰か一人を美少女にしちゃわね?」
「いいね、それ俺がやるわ」
「いやいやいやいや、ここは拙者が」
新しい制度の告知看板を立てると、そこにはたちまち人だかりができた。
内容を読み上げる者、それに驚いて叫ぶ者、冗談半分に掛け合いを始める冒険者たちで、辺りはあっという間に騒がしくなっていく。
「ねね、あの人たちが言ってるように、誰か一人に木札を集めちゃうってのはアリなの?」
興奮気味の冒険者たちを眺めていたら、深谷さんがそう話しかけてきた。
「ルール上問題はないけど、実際にはやらないんじゃないかな? 普通に喧嘩になるっしょ」
「なら盗難や強奪は?」
「一応は、誰に何枚の木札を渡したかメモっているから、怪しい人はすぐに見つけられるんだよね」
「それ、事が起きた後じゃん」
「確かにそうだよなあ……。冒険者を採取場所へ案内するときは、一応注意して見ておいてよ。……あとはあれか、貸金庫業をするとか? 木札一枚で利用可能」
「それって一生、木札が集められないやつじゃ……」
深谷さんが懸念した通り、木札の価値が高まったのならば、それに起因する犯罪にも注意しなくてはならない。しかし、直ぐにこれといった妙案が浮かぶわけでもなく、ひとまずは様子を見ることしか出来なさそうだ。
「……ところで、その格好はどうしたの?」
今日の深谷さんは、いつものギャル風の服をやめて、ヨーロッパの田舎町で給仕をしていそうな、古めかしいワンピース姿だった。
エプロンと胸元の編み上げリボンが妙に似合っていて、まるで酒場の看板娘といった装いだ。
「あー、これ? なんかね、あのオークんとこから盗ってきた機械で服を作るとき、今風の服を作るよりも、昔っぽい服を作る方が簡単なんだって。それで、チカチカさんがお試し品をくれたの」
なるほど。あの古風な糸車や機織り機で服を作るなら、中世風な服の方が向いているのか。
深谷さんの服をじっくり眺めていると、突然背後から声が掛かる。
「──あら、そういった服装の方が好みでしたか? 伊吹君の部屋にあった薄い書籍には、黒革製のボンデージ姿をした女性が多く描かれていましたので、それに合わせて私も黒一色に揃え……」
「ちょっ!!!」
長良さんが、爆弾を抱えて乱入してきた。
「げっ、嫁……! わ、私は伊吹に粉をかけたんじゃないからね! えっと、もう戻るね!」
深谷さんはそう言うと、交換窓口の方へ走り去っていった。
「………………」
「……冗談だと訂正する前に、どこかへ行ってしまわれましたね」
「もう少し……易しめの冗談から練習していこうか……」
自分も人付き合いは得意なほうではないので、もう少し分かりやすい冗談を心がけてほしいな……。
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