風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

文字の大きさ
69 / 70

第69話 くびをはねられた!

しおりを挟む
 色々と目を惹くものはあったが、現時点で荷物が増えると探索に差し支えるとのことで、まずはダンジョンの深部を目指す事となった。


「……コレめっちゃうまいっすね。うちんとこでも販売してくんねぇかな?」

「ねぇ、私にも少しちょうだい」

 浅井がとして配布されたダンジョンナッツを早速食べてしまっている。

 彼が持つスキルは『雑食』。本当の非常時には地面の土でも食べればいいので、ナッツをいま食べ切ってしまったところで問題はないのだが、その大胆すぎる行動を見て、富倉さんは苦笑いを浮かべていた。


 なおその富倉さん自身は『隠密』なるスキルを持っていると先ほど説明を受けた。彼女は魔物に気づかれる事なく、様々な素材を容易に集められるので、鉢屋教授の研究室ではとても重宝されており、本人曰く『今もっとも期待されている一年生』なんだそうだ。

 ちなみに、それを聞いたシマシマさんは『どう考えても隠密の方がカッコいいじゃない! 何で私は空き巣なのよ!』と憤慨ふんがいしていた。

 開錠系の技能をも併せ持つ『空き巣』は、非常に優秀なスキルだと思うのだが、花も恥じらう女子高生にとっては、スキル名の響きこそが最重要項目のようだ。




 静岡ダンジョンの地下一階は、無骨な石の洞窟だ。

 入口近くは天井が高く、ドーム状に広がった空間が冒険者を迎える。しかし岩肌はざらつき、削り跡のような鋭さを残しており、自然の洞窟というよりは無骨な建造物を思わせた。

 奥へと続く通路は、人が並んで歩けるほどの幅があった。だが両側から迫る岩壁はごつごつとしており、わずかな明かりの下で奇妙な影を刻んでいる。



「伊吹氏。次の辻を右折でござるよ」

 柏原さんからの報告に対し、先行していた富倉さんが補足を加えてくれた。

「曲がったすぐ先にはコボルドが4。全員武器持ちです。迂回ルートは──」

「えっと、別に倒しちゃっても良いんですよね? 他の冒険者に譲った方がいいなら迂回しますが……」

「え? 4匹の群れだと、かなり危険だと思いますが……」

「まぁ、大丈夫だと思いますよ。討ち漏らしがいたら大島さんお願いします」

「了解です」


 くだんの四つ角を曲がると、20メートルほど前方にコボルドの群れが見えた。

 相手は、視認するよりも早くこちらの存在に気付いていたようで、全員が武器を手にして臨戦体制をとっていた。

 いつもの必勝パターンをなぞるように、コボルドたちの顔面に火が灯り、少し遅れて鈍い破裂音が響き渡ると、合計4つの頭が消失する。


「……血の処理しますね」

 小野さんがコボルドの死骸に近づき、サッと右手を振るうと、辺り一面に飛び散っていた血液が透明なものへと変化した。


「お、これ金属じゃん。柄の部分は要らんよな?」

 浅井が、拾い上げたツルハシから金属部品を外し、リュックへと仕舞う。


「柄の部分もらっていい? 素手よりはマシでしょ?」

「じゃあ私はこの剣を使うね。……んーと、そう、これはマサムネと名付けるわ」

 シマシマさんは、コボルドが持っていたショートソードを、逆手に持ってポーズを決めた。


「コボルドって爪が売れるんでしたっけ? あんまり嵩張らなさそうだし、持ってっても良いですよね?」

 マキマキさんはそう言うと、ペンチのような工具を使い、コボルドの手足から生えていた爪を、まるでブドウをふさからぐように、淀みなく取り外していく。


「ねぇアカネ、この辺りに火ぃ焚いてくれる? 焼いて浅井に食べさせたいの」

「はいどうぞ。……ですがその炎は5分くらいで消えますよ?」

「生焼けでも大丈夫でしょ。浅井だし」

 深谷さんは、コボルドからもも肉を切り出し、地面から立ち上る炎でそれを炙った。


「おい! せめて塩胡椒くらい振ってくれよ!」

「特別な効能があれば、レギュラー化するでしょ? 味はその時になってから拘《こだわ》ってよ」

「ま、まぁ、確かにそうだよな……。塩たけえし」


 ここまでの一連の行動を、静かに見守っていた富倉さんが、おずおずと口を開いた。


「み、皆さんの地元では、このようなスタイルが一般的なんですか……?」

「いやー、どうでしょう? 他の冒険者に同行したことがないので、詳しくは知らないんです」

「そう……ですか……」


 富倉さんは怪訝な表情を浮かべたまま、仲間たちが行う作業の様子を観察し続けた。

 しばらくして、戦利品を集め終えた浅井が、富倉さんの方へ向き直り、気軽な調子で声をかけた。

「富倉さん、コボルドの不要部分ってどうしたらイイですか? ここの地面は硬すぎて、埋めるのも難しそうなんですが」

「少し先に開けた場所があるので、そこまで運びましょうか」

「了解っす」


 二人の話を聞いていた大島さんが、携帯式の台車を組み立てると、その上にコボルドの死骸を積み込んだ。


「では進みましょうか」

「……あっ、はい。先行します」

 富倉さんは何か考え事をしていたようで、少し慌てた様子で前方へ駆けて行った。

 彼女はこれまで、隠密スキルでダンジョンを隠れ進んでいたのなら、魔物の死骸自体を見慣れておらず、首のない姿をみて動揺したのかもしれない。


「シマシマさん、富倉さんの横に付いててもらえる?」

「あー、うん。了解」

 こちらの意図を察してくれたのか、シマシマさんは質問を返すことなく富倉さんの後を追った。


 自分たちの実力では、ソフトな狩り方なんて出来ないしな……。

 さてどうしたものか。





◻︎◻︎◻︎




──ザパァーン!


 大きな水飛沫が上がると同時に、水底から無数の魚が一斉に押し寄せ、コボルドの死骸に群がる。

 鋭い歯で肉をむさぼるたび、水面は激しく波打ち、ものの数秒で全てが食い尽くされた。


「おー……すげえな……」

「これだけ食欲旺盛なら、簡単に釣れそうね」


 富倉さんの案内に沿ってダンジョンを進んでいくと、先ほど教えられた開けた空間へと辿り着いた。

 奥には大きな地底湖があったので、コボルドの死骸を投げ込んでみたところ、案の定、凶暴な魚型モンスターが出現し、骨すら残さず全てを平らげてみせた。


「ちょっとちょっと! 何をしてるんです!」

 近くを見て回っていた富倉さんが、慌てた様子で駆けつけてきた。

「え? 何って死骸の処理ですけど……」

「そこらの岩陰に放置しておけば、そのうち消えますよ」

「まぁそうなんですけど、水の中に何か住んでいないかなって……」

 何か不味い事をしてしまったのだろうか。


「ここの魚は、ダンジョン内レストランで出される料理の、主な材料に使われているんです。コボルドを餌にした魚となると、少し嫌がられるかもしれないので……」

「魚の内臓までは食べませんよね?」

「まぁ、そうなんですが、やはり二足歩行の魔物が絡むと、嫌がる方も多いんです」

 やはり亜人系の魔物は鬼門か。


「じゃあ、入り口のレストランでは、『ゴブリンパスタ』とか『コボル丼』は食べられないって事です?」

 そう質問したのは浅井だ。

 ……コボル丼って何だよ。


「そんな料理出していませんよ……。魚を釣る時も、ルアーで釣るのが一般的です」

「何だか、お行儀がいい感じっすね……」


 まだ静岡ダンジョンに入って1時間も経過していないにも拘らず、すでに何回か富倉さんと意識の乖離が発生している。



 もしかすると、我々が行うダンジョン探索は、とても野蛮なのではなかろうか……。




◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

処理中です...