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14.王子の疑惑
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「それじゃあ、そろそろお暇しようかな。頭の傷もまだ完全には癒えていないだろうし。お大事にね、ハミルトン。」
「お大事に・・・。」
彼の部屋を出ると、廊下に控えていた執事長のフラックが最敬礼し、ネイチャード王子は彼に声を掛けた。
「フラック、ちょっとランバートとも積もる話があってね。あの部屋を借りても?」
「勿論で御座います。では、本邸の方へお越しくださいませ。」
再度深くお辞儀をしたフラックは背筋を伸ばすと俺を見遣り、シミやほつれ一つない真っ白な手袋に揃えた指先で先導した。
◇◇◇
案内された応接室のテーブルには、水蓮に良く似た、こちらの世界では"フスト"という名の薄紅色の花が瓶に生けられていた。知ってる花の名と言えば朝顔と桜と向日葵くらいなもので前世から興味が無かったが、こちらでは貴族の嗜みとして季節の代表的な花は勿論、女性に贈るに相応しい花、冠婚葬祭に用意すべき花など、軽く30種ほどは頭に叩き込まれた。
そして前世と同じく花言葉が存在することが何より面白かった。フストの花言葉は、「秘密」である。
なるほど。この部屋はただの来賓用の部屋では無いということだな。無駄に広い部屋に、分厚いドア。密談するには最適ってわけだ。
「ランバート。彼のこと、どう感じた?」
卓上に用意されたアフタヌーンティーの香りを楽しみながら、ネイチャード王子が俺に問うた。
「貴殿の仰る通りだと思いました。別人です。彼とはあの件以外で全く接点は無かったですが、聞く噂の像とはかけ離れています。記憶が全く無くなったということなので、もしかしたら元々はあのような性格だった、という線も有りえるのかなと…」
プライドが高く、自分より身分の低いものには傲慢。ハミルトンに対する裏の評価はみな同じようなものだった。
「ふむ。今は落ち着いているが、彼が目覚めてから数日は取り乱して布団に篭りきりだった。目に入る全ての景色や人を怖がってな。」
「初めて見るものに戸惑ったんしょうね。」
「・・・いや。そこが不可解なんだ。」
一体何が不可解なのか。ネイチャード王子は続ける。
「医者によると、頭の損傷による記憶障害の患者で、初めから周囲に異常に怯えていた彼は類を見ない、という見解だそうだ。"恐怖"という感情は、学習や経験から生まれるものらしいからね。誕生したばかりの赤子を想像したら分かりやすいかな。・・・初めは本邸で休んでいたが、余りにも様子がおかしいから、この離れに移動させ視界を悪くするために家の中の明るさも落としたらしい。」
なるほど。この離れが薄暗いのはそんな理由があったのか。
「私は一度だけ、ハミルトンのように急変した者達を見たことがある」
「え、そうなんですか」
ネイチャード王子はおもむろにテーブル中央で傅くフストを一輪抜き取った。
「2年前に戦地から戻って来た負傷者のうちの数十名だったんだが。彼のように全てに怯える・・・というわけではなかったが、魂が抜けた状態というのかな。会話はかろうじてできるが、それまでの記憶をまるっと無くしていてね。国への忠誠心も覇気も失ってとても騎士団の中枢を担う者とは言えなかった。それでも数ヶ月経て元の状態に戻ったのだけれど、戦闘中の記憶だけは戻らなかったんだ。」
「確かに、状況は似ていますね。」
「その騎士達が赴いた場所は、隣国のユーコレット王国との国境なんだ。あ、これ公開していない情報だから他言無用でよろしくね。」
グリディール王国は北側に資源豊かなリブルベラ諸国、東側に大きなサムソンニ帝国、西側にユーコレット王国に囲まれ、南側は海に面している。このユーコレット王国は鎖国していた日本のように閉鎖的で得られる情報も少ない。独裁国家と聞いているが、どのような国政を営んでいるのかも定かではない。
薄紅色の花弁を優しく触っていた彼の指は、次にはそれらを全てちぎり空になったティーカップに落としてしまった。
「あちら側から国境を超えて魔族が村人を襲ったと報告が入って、救出に向かったんだ。」
魔族といえば三族のひとつで見た目は人間に化けることのできる最高位の魔物である。その威力は小国を一瞬で滅ぼせるほどだと言われている。いやいや。三族もろとも数百年前に絶滅したと歴史学では習ったが。また、その騎士達のことを、ネイチャード王子は先程"騎士団の中枢を担う者"と表現していたことにも引っかかる。
「魔族は絶滅したはずでは?それがわざわざ中央騎士団を国境まで派遣した理由と関係がありますか。」
その戦闘は公にはしていない、と言っていたので、魔族のことが誤報だったとしても内密に動く必要があったのだろう。
「流石だね、ご明察。"魔族は絶滅した"。それは我々の前に現れなくなったからそう捉えているに過ぎない。近くに鳥はいない、と私が言ったところで証明できるものなどないだろう?」
ネイチャード王子はここで一旦区切り、俺の背後にある磨りガラスの窓に視線を移す。振り返ると、真っ黒な鳥が外に静かに止まっていた。
「・・・魔族は人間の知性を持ち合わせながら高い魔力を有する。そんな危険な生物が嘘でも存在するなど国民に知られたら混乱を招くだろう?・・・それでね、ここからが重要なんだが」
彼は熱が入ってきたのか、テーブルから今にも身を乗り出しそうな勢いで続けようとするが、俺は慌てて待ったをかけた。
「ネイチャード王子。お言葉ですが、国家レベルの機密事項ならば僕のような一般学生にこれ以上語るのは如何なものかと。」
いくらハミルトンの件で繋がりを持ったとはいえ、おそらく王族含む僅かな国政側の人間しか知らないような情報をペラペラ話していいはずがないし、聞いた俺も荷が重い。好奇心で込み入った話に首を突っ込むタイプではないし、これ以上厄介事に巻き込まれるのは御免だ。・・・結局、魔族は現代に存在しているのかいないのかだけは、気になるが。もし存在していた場合、それを聞いてしまったら、もう後戻りが出来ない気がする。
「ランバート。君は本当に初等部四年生かい?その落ち着きようというか、なんだか年上と会話している気分になるんだよね。」
彼に顔を覗き込むように首を傾けられ、冷や汗が出る。確かに本来ならば、"秘密ごと"にワクワクする年頃だろうな。
「そうですか?ハハハ・・・。」
「それだけ教養があるということだね、うん。大丈夫だよ、君はペラペラ人に秘密を話すような子じゃないだろうし。それに君はこのことを知っておく必要があるんだ。」
知っておく必要がある?何故?俺は喋りながら頭の中を整理した。
「ハミルトンの状態が、魔族か何かに襲われた村へ派遣され負傷した騎士達との状態に似ていたと。・・・彼がヨアと対峙したとき、他にもあの場に居た可能性があると仰っていましたね。」
そうだ。食堂でネイチャード王子が話していた、懸念していた可能性の一つだった。いよいよ事情聴取じみてきたな。
「そうだね。2年前の事件の調査は、結局のところ何も明らかになっていなくてね。目撃者が皆亡くなっているか記憶を失っているかだから、魔族がその場に本当に居たのかどうか未だ判明していない。それに、秘匿するあまりこれ以上は水面下で調査に動きにくくて。・・・魔物による妖術だったとすると、記憶を失うのでは無くてそれにすげ替える嘘の幻覚を見せるはずだし。まぁ、そのショックで記憶を失うこともあるけど、その場の全員が、しかも戦闘時の記憶だけが最終的に戻らない確率なんてゼロに等しい。闇魔法の線が濃厚なんだ。」
闇属性持ちは五百万人に一人と言われているほど希少で情報も少ないが、対象へ恐怖を植え付けて精神的に壊していく、恐ろしい魔術を生み出すとされている。
「それでね、先程の重要なことに戻るけれど、逆説的ではあるが、闇属性を有するのは魔族・龍族・獣族またはそれら三族の血を引く者だけ。よって、魔族は未だ存在すると仮定したほうが辻褄が合うんだよ。」
「・・・・・・はい?」
凄い爆弾発言が投下された気がするんだが。
「闇属性持ちは、実在するんですよね?」
「実在すると言われているが、少なくとも二百年前から発見された事例は無いんだよ。まあ、発見され次第、教会と研究所に連行され戦場へ送り出される未来しかないからね。親は必死に隠そうとするのが普通だろう。または、その力が周りに及ぶのを恐れて殺されてしまってもおかしくないだろうね。」
何とも残酷な現実を口にするも、彼の口調は淡々としていた。
「その、三族の血を引く者だけが、というのは・・・」
王子の発言からすると、三族と人間の子のハーフが存在して、それらが闇魔法を扱う、という風に解釈できるのだが。頭が痛い。
「あぁ。王宮で厳重に保管されている文献に記されているんだ。王宮の中でもほんの一部の人間しか知らない話だよ。三族の血を継ぐ者="忌み子"と昔の人々は呼んでいたらしい。」
ついジト目で王子を見てしまう。"厳重に"という単語をわざと強調してきた。とても楽しそうに。この男、俺が機密事項に戦々恐々としているのを見抜いて畳み掛けてきたな?・・・人をおちょくるのが趣味な男なんだろう。もう、敬意を床に捨ててしまっても良いだろうか。
「では、ハミルトンの件でも同様に闇魔法を扱える人物が潜んでいた、と?」
無理矢理話を戻して、ムカムカする心を落ち着けることにした。
「そうだね。魔物は侵入された時点で、学園の結界が検知するはずだし、そもそもそこらの魔物では突破できない代物だ。高等な魔物であれば話は別だけど、彼だけを狙う意味も無い。現場にいる全員を惨殺しようとするはずだよ。完全に人間に化けることのできる三族の可能性もあるけど・・・ハミルトンが知らず相手の恨みを買っていたのなら。」
ネイチャード王子が一通り仮説を披露すると、そろそろ帰ろうかと促した。結局のところ、俺に重大な秘密を暴露して何がしたかったのだろうか。何のメリットも無いと思うのだが・・・。「後から何か思い出したことがあれば教えてくれ。」と刑事よろしく締めたので、本当に事情聴取も兼ねてのことだったということにしておく。
ドアへ向かう彼の背中を追っていると、ブロンドの艶めかしい後ろ髪が振られた。気付けば彼の右腕が俺の後頭部に回って顔を引き寄せられる。
「なん」
何ですか、と驚きで出た言葉はネイチャード王子が俺の耳元で囁いたことで遮られた。
「ヨアゼルン=フィアラルドに気を付けて。あの子の力は底知れないよ。」
窓越しの黒い鳥が甲高く鳴いて部屋の中まで響き渡った。
「お大事に・・・。」
彼の部屋を出ると、廊下に控えていた執事長のフラックが最敬礼し、ネイチャード王子は彼に声を掛けた。
「フラック、ちょっとランバートとも積もる話があってね。あの部屋を借りても?」
「勿論で御座います。では、本邸の方へお越しくださいませ。」
再度深くお辞儀をしたフラックは背筋を伸ばすと俺を見遣り、シミやほつれ一つない真っ白な手袋に揃えた指先で先導した。
◇◇◇
案内された応接室のテーブルには、水蓮に良く似た、こちらの世界では"フスト"という名の薄紅色の花が瓶に生けられていた。知ってる花の名と言えば朝顔と桜と向日葵くらいなもので前世から興味が無かったが、こちらでは貴族の嗜みとして季節の代表的な花は勿論、女性に贈るに相応しい花、冠婚葬祭に用意すべき花など、軽く30種ほどは頭に叩き込まれた。
そして前世と同じく花言葉が存在することが何より面白かった。フストの花言葉は、「秘密」である。
なるほど。この部屋はただの来賓用の部屋では無いということだな。無駄に広い部屋に、分厚いドア。密談するには最適ってわけだ。
「ランバート。彼のこと、どう感じた?」
卓上に用意されたアフタヌーンティーの香りを楽しみながら、ネイチャード王子が俺に問うた。
「貴殿の仰る通りだと思いました。別人です。彼とはあの件以外で全く接点は無かったですが、聞く噂の像とはかけ離れています。記憶が全く無くなったということなので、もしかしたら元々はあのような性格だった、という線も有りえるのかなと…」
プライドが高く、自分より身分の低いものには傲慢。ハミルトンに対する裏の評価はみな同じようなものだった。
「ふむ。今は落ち着いているが、彼が目覚めてから数日は取り乱して布団に篭りきりだった。目に入る全ての景色や人を怖がってな。」
「初めて見るものに戸惑ったんしょうね。」
「・・・いや。そこが不可解なんだ。」
一体何が不可解なのか。ネイチャード王子は続ける。
「医者によると、頭の損傷による記憶障害の患者で、初めから周囲に異常に怯えていた彼は類を見ない、という見解だそうだ。"恐怖"という感情は、学習や経験から生まれるものらしいからね。誕生したばかりの赤子を想像したら分かりやすいかな。・・・初めは本邸で休んでいたが、余りにも様子がおかしいから、この離れに移動させ視界を悪くするために家の中の明るさも落としたらしい。」
なるほど。この離れが薄暗いのはそんな理由があったのか。
「私は一度だけ、ハミルトンのように急変した者達を見たことがある」
「え、そうなんですか」
ネイチャード王子はおもむろにテーブル中央で傅くフストを一輪抜き取った。
「2年前に戦地から戻って来た負傷者のうちの数十名だったんだが。彼のように全てに怯える・・・というわけではなかったが、魂が抜けた状態というのかな。会話はかろうじてできるが、それまでの記憶をまるっと無くしていてね。国への忠誠心も覇気も失ってとても騎士団の中枢を担う者とは言えなかった。それでも数ヶ月経て元の状態に戻ったのだけれど、戦闘中の記憶だけは戻らなかったんだ。」
「確かに、状況は似ていますね。」
「その騎士達が赴いた場所は、隣国のユーコレット王国との国境なんだ。あ、これ公開していない情報だから他言無用でよろしくね。」
グリディール王国は北側に資源豊かなリブルベラ諸国、東側に大きなサムソンニ帝国、西側にユーコレット王国に囲まれ、南側は海に面している。このユーコレット王国は鎖国していた日本のように閉鎖的で得られる情報も少ない。独裁国家と聞いているが、どのような国政を営んでいるのかも定かではない。
薄紅色の花弁を優しく触っていた彼の指は、次にはそれらを全てちぎり空になったティーカップに落としてしまった。
「あちら側から国境を超えて魔族が村人を襲ったと報告が入って、救出に向かったんだ。」
魔族といえば三族のひとつで見た目は人間に化けることのできる最高位の魔物である。その威力は小国を一瞬で滅ぼせるほどだと言われている。いやいや。三族もろとも数百年前に絶滅したと歴史学では習ったが。また、その騎士達のことを、ネイチャード王子は先程"騎士団の中枢を担う者"と表現していたことにも引っかかる。
「魔族は絶滅したはずでは?それがわざわざ中央騎士団を国境まで派遣した理由と関係がありますか。」
その戦闘は公にはしていない、と言っていたので、魔族のことが誤報だったとしても内密に動く必要があったのだろう。
「流石だね、ご明察。"魔族は絶滅した"。それは我々の前に現れなくなったからそう捉えているに過ぎない。近くに鳥はいない、と私が言ったところで証明できるものなどないだろう?」
ネイチャード王子はここで一旦区切り、俺の背後にある磨りガラスの窓に視線を移す。振り返ると、真っ黒な鳥が外に静かに止まっていた。
「・・・魔族は人間の知性を持ち合わせながら高い魔力を有する。そんな危険な生物が嘘でも存在するなど国民に知られたら混乱を招くだろう?・・・それでね、ここからが重要なんだが」
彼は熱が入ってきたのか、テーブルから今にも身を乗り出しそうな勢いで続けようとするが、俺は慌てて待ったをかけた。
「ネイチャード王子。お言葉ですが、国家レベルの機密事項ならば僕のような一般学生にこれ以上語るのは如何なものかと。」
いくらハミルトンの件で繋がりを持ったとはいえ、おそらく王族含む僅かな国政側の人間しか知らないような情報をペラペラ話していいはずがないし、聞いた俺も荷が重い。好奇心で込み入った話に首を突っ込むタイプではないし、これ以上厄介事に巻き込まれるのは御免だ。・・・結局、魔族は現代に存在しているのかいないのかだけは、気になるが。もし存在していた場合、それを聞いてしまったら、もう後戻りが出来ない気がする。
「ランバート。君は本当に初等部四年生かい?その落ち着きようというか、なんだか年上と会話している気分になるんだよね。」
彼に顔を覗き込むように首を傾けられ、冷や汗が出る。確かに本来ならば、"秘密ごと"にワクワクする年頃だろうな。
「そうですか?ハハハ・・・。」
「それだけ教養があるということだね、うん。大丈夫だよ、君はペラペラ人に秘密を話すような子じゃないだろうし。それに君はこのことを知っておく必要があるんだ。」
知っておく必要がある?何故?俺は喋りながら頭の中を整理した。
「ハミルトンの状態が、魔族か何かに襲われた村へ派遣され負傷した騎士達との状態に似ていたと。・・・彼がヨアと対峙したとき、他にもあの場に居た可能性があると仰っていましたね。」
そうだ。食堂でネイチャード王子が話していた、懸念していた可能性の一つだった。いよいよ事情聴取じみてきたな。
「そうだね。2年前の事件の調査は、結局のところ何も明らかになっていなくてね。目撃者が皆亡くなっているか記憶を失っているかだから、魔族がその場に本当に居たのかどうか未だ判明していない。それに、秘匿するあまりこれ以上は水面下で調査に動きにくくて。・・・魔物による妖術だったとすると、記憶を失うのでは無くてそれにすげ替える嘘の幻覚を見せるはずだし。まぁ、そのショックで記憶を失うこともあるけど、その場の全員が、しかも戦闘時の記憶だけが最終的に戻らない確率なんてゼロに等しい。闇魔法の線が濃厚なんだ。」
闇属性持ちは五百万人に一人と言われているほど希少で情報も少ないが、対象へ恐怖を植え付けて精神的に壊していく、恐ろしい魔術を生み出すとされている。
「それでね、先程の重要なことに戻るけれど、逆説的ではあるが、闇属性を有するのは魔族・龍族・獣族またはそれら三族の血を引く者だけ。よって、魔族は未だ存在すると仮定したほうが辻褄が合うんだよ。」
「・・・・・・はい?」
凄い爆弾発言が投下された気がするんだが。
「闇属性持ちは、実在するんですよね?」
「実在すると言われているが、少なくとも二百年前から発見された事例は無いんだよ。まあ、発見され次第、教会と研究所に連行され戦場へ送り出される未来しかないからね。親は必死に隠そうとするのが普通だろう。または、その力が周りに及ぶのを恐れて殺されてしまってもおかしくないだろうね。」
何とも残酷な現実を口にするも、彼の口調は淡々としていた。
「その、三族の血を引く者だけが、というのは・・・」
王子の発言からすると、三族と人間の子のハーフが存在して、それらが闇魔法を扱う、という風に解釈できるのだが。頭が痛い。
「あぁ。王宮で厳重に保管されている文献に記されているんだ。王宮の中でもほんの一部の人間しか知らない話だよ。三族の血を継ぐ者="忌み子"と昔の人々は呼んでいたらしい。」
ついジト目で王子を見てしまう。"厳重に"という単語をわざと強調してきた。とても楽しそうに。この男、俺が機密事項に戦々恐々としているのを見抜いて畳み掛けてきたな?・・・人をおちょくるのが趣味な男なんだろう。もう、敬意を床に捨ててしまっても良いだろうか。
「では、ハミルトンの件でも同様に闇魔法を扱える人物が潜んでいた、と?」
無理矢理話を戻して、ムカムカする心を落ち着けることにした。
「そうだね。魔物は侵入された時点で、学園の結界が検知するはずだし、そもそもそこらの魔物では突破できない代物だ。高等な魔物であれば話は別だけど、彼だけを狙う意味も無い。現場にいる全員を惨殺しようとするはずだよ。完全に人間に化けることのできる三族の可能性もあるけど・・・ハミルトンが知らず相手の恨みを買っていたのなら。」
ネイチャード王子が一通り仮説を披露すると、そろそろ帰ろうかと促した。結局のところ、俺に重大な秘密を暴露して何がしたかったのだろうか。何のメリットも無いと思うのだが・・・。「後から何か思い出したことがあれば教えてくれ。」と刑事よろしく締めたので、本当に事情聴取も兼ねてのことだったということにしておく。
ドアへ向かう彼の背中を追っていると、ブロンドの艶めかしい後ろ髪が振られた。気付けば彼の右腕が俺の後頭部に回って顔を引き寄せられる。
「なん」
何ですか、と驚きで出た言葉はネイチャード王子が俺の耳元で囁いたことで遮られた。
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