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22.救済と天秤
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信じがたい光景はスローモーションで鮮明に再生されるかのようで、呼吸を忘れる。
影に潜んだ大きな影が、先程別れ背を向け歩き出したフリジアに向かって跳躍した。
影に激突された彼女は身体ごと吹き飛び、木に背中をぶつけて根元へ落ちていく。
「フリジアさん!」
凶暴なライアーが自分で突き飛ばした彼女の元へ駆け寄り、頭を振り鼻先で横たわる身体を勢いよく転がす。ライアーは獲物を見つけるとすぐには仕留めずに少し甚振る習性がある。彼女の顔は解けた長髪に覆われ意識があるのか確認できない。
「やめろぉお!」
魔物が怖いなど、そんな逃げ腰の感情は投げ捨てた。たった今目の前で、自分より周りの生徒の身を案じて動いていた正義感溢れる彼女が、無惨にも魔獣に甚振られている。
興奮し悦びに咆哮するライアーは身体全身に業火を纏った。魔物にも闇属性の他に属性を持つものがいる。ライアーは火属性で、相性だけで見ると俺の水属性に分がある。
「くそっ!ふざけんな!!」
貴族然とした品性を損なう汚い暴言を吐きながら走り出し、俺は彼女を燃やそうとしているライアーに向かってありったけの水を滝のように押し出した。
奴の周りの炎はたちまち消え、地面からは蒸発した音と煙が立ち昇った。邪魔が入ったと気付いて唸りながらこちらを振り向く獣に気丈に振る舞う。
「俺が相手してやる、来い!」
ライアー相手に一人で立ち向かって、勝算など無い。氷の矢を放つも、覆われた体毛で刺さりすらしない。敵は弱点の水を出す俺に警戒しているのか、襲いかかる気配はなく、燃える尻尾を振ってそこから火の玉を投げるだけだ。俺はそれを避けたり水魔法で消火したりしながら、少しずつ後退りして先程まで居た結界内に入ることに成功した。テントの入口付近に置かれた結界石を拾う。これは地面に置くことで発動するものなので、勿論手に取った瞬間に結界は解かれた。
俺が挑発した時に、ライアーが此方ににじり寄ったので彼女との距離は五メートル近く離すことができた。
全速力で駆け出し、掌から水を放出して敵を牽制しつつフリジアの元へ向かって結界石を転がした。投げて割れてしまっては元も子もない。上手く転がった結界石はやがて静止し、それを中心に透明の膜がドーム状に彼女の周りを覆う。
「よし!」
彼女の安全確保が出来ればこっちのもんだ。そのまま俺も結界内に入れればかなり有利になる。
ホームベースにスライディングする要領で、両腕を伸ばして結界目掛けて飛び込んだ。
獲物を横取りされると勘違いした大きな獣が、人間の何倍もの反射神経と跳躍力でこちらに突進してきた。
まずい!間に合わない!
結界に指先が触れる。手の届く距離までライアーが同時に迫り、牙のように鋭い鉤爪が、俺の脇腹を掠めた。その時、
ゴオオオオオ
台風のような強風が俺の背を押すように当たって、結界の中へ転がり込んだ。衝撃を堪えるような低い獣の鳴き声が背後でか細く聞こえた気がした。
何が起こったのかさっぱり分からない。
強風の轟音はまだ続いていて、地面に身を打ちつけた痛みを感じながら混乱する頭で、振り返る。竜巻の中にライアーが閉じ込められ螺旋状に上昇していた。
「ヨア!」
竜巻の奥からこちらへ向かって、おそらくこの事態を作り上げた当人が走ってくる。その間に竜巻が一瞬で消えたかと思うと、遥か上空からライアーが落下し地面に叩きつけられ動かなくなった。
「無事か」
「うん」
珍しい。息が上がって汗を流す彼は初めて見たかもしれない。
「そんなことよりフリジアさんが!」
一息吐くのも束の間、ハッとして後ろで倒れている彼女を振り向く。
「堅命の術があるから大丈夫だ。それに、まだ気が抜けない。四体集まってきてる。」
「え」
おいおいおい。冗談だろ?ヨアは気配を感じて周りを見渡しているようだが、俺にはさっぱりだ。
「その四体ってもしかして・・・」
「ああ。ライアーだ。」
絶句。
そんな。俺とヨアだけでは無謀だ、いくら結界内と言えども囲まれてしまっては八方塞がりだ。
そんなネガティブな感情が渦巻いているとき、空気を震わす雄叫びと共に四体のライアーが一斉に現れた。
四体同時に結界に突進してくる衝撃で、獣達は跳ね返され後退したが一本の大きな亀裂が入る。
「ヨア!さっきの!竜巻は起こせるか?」
「できる。が、強力な魔法は結界内からだと守護の魔力に邪魔されて発動できない。此処から出て同時に四箇所で起こすしか・・・。」
ヨアからすればライアーに火魔法は効かないから風魔法で攻撃するしか無い。結界外から仕掛けるなら一体ずつ片付けるのは至難の業だ。
少し考え込んでいたヨアが下げていた目線を戻す。
「俺に残ってる魔力を考えると、大きい風を起こせるのは一、ニ回が限界だろう。ランバート、結界の周りに放水して四体が一箇所に固まるように誘導できるか。いいか、絶対にそこから動くな。」
「なるほど。了解、やってみる。」
彼の意図を汲んで、足元から水を地面下へ通すために魔力を流し込む。地下は結界の範囲では無いし、人体の大半を占める水は医療にも使われるため攻撃魔法とは見なされない。それ以前にヨアの風魔法ほど強力なものでもない。
地下水を通す配管に穴が開いて勢いよく地上へ噴出する水をイメージして、結界の周りに、対面の一箇所を除いて噴水させた。
同時にヨアが結界から飛び出し、四体のライアーが水を避け対面に集まったところで風を起こした。先程のものより威力を増した大きな竜巻が昇る。
「ヨア!!」
上手く巻き込め無かったのか、危険を察知して後退したのか、一体だけ竜巻の中心から離れて回り込み、噴水が弱まっている場所を高く飛び越えヨアへ向かって素早く移動した。
戸惑う暇なんて無かった。
「来るな!」
ヨアがこちらの動きを察して尖った怒声を浴びせる。デカい魔法を練り出している時は、その場から動くことが出来ないのだ。
親しい人と知り合ったばかりの人を平等に扱う人間など、そんな聖人君子は居ない。フリジアの危機に直面した時は、自分の立ち位置を理解して冷静に動けていた。なんなら、襲われた彼女の様子を伺う余裕さえあったというのに。
ヨアを庇うようにライアーに真正面から立ち向かい、左腕を曲げて前に出す。吸い寄せられるように大きな口が俺の頭上まで開いて、腕に噛み付いた。
今だ!!
自分の魔力をその右腕に流し込み、氷の鋭利な突起を作り出す。ライアーの首元を、喉から貫くほどに鋭く大きな氷柱のような突起を。
大きな顎が外れ、腕を挟み込んでいた上下の歯が離れる。十数秒藻掻いていた獣は動きを止め、絶命した。背後で鼓膜を破りそうなほどの風の音が止み、鈍い落下音が3つ響いた。解除した氷柱と共に地に落ちた死体を見届けていると、血を垂れ流す腕を優しく静かに取ったヨアが、ポシェットから包帯を取り出した。
彼がどんな感情を押し殺しているのか分からない、暗澹とした表情で黙々と包帯を巻き付ける姿に疑問を浮かべる。
何でだよ。二人で大物やっつけたじゃんか。喜べよ。
俺は友人を守った物語の主人公になった気になり、調子づいていた。
「ありがとな。功績は3:1だけど、俺達二人で四体の猛獣を倒したぜ。」
「・・・。」
「いや、最初の一体も入れると4:1か。流石にもう来ないよな?」
「・・・。」
「おい。勝ったのに何シケた面してんだよ。」
無視するコイツに段々と苛ついてくる。
「あんなこと二度とするな。」
やっと口を開いたかと思えば、それは俺の勇姿を咎める口ぶりだった。
「は・・・はあ?あんなことって、俺もヨアも結果的に無事だっただろ。」
「怪我しているから無事ではない。お前が来なくとも、こちらで上手く対処できた。」
余計なお世話だったと言いたげな彼に、一気に頭に血が昇る。
「俺の助けは要らなかったって?はいはい、そうですか。誰よりも強いお前なら余裕で倒せてたかもな。ほんとムカつくな。俺だって勝手に身体が動いてたんだよ。急に止まれるかって・・・」
反撃の言葉は続かなかった。
視界が暗くなり、彼の着ていた黒の布地が迫る。彼の腕の中にすっぽり収まった俺は、突然の抱擁に固まってしまう。
「あの時視界に入り込んだお前を見て、全身の血の気が引いた。心臓が止まった。自分が死ぬことよりも怖かった。もうあんな思いは二度としたくない。」
矢継ぎ早に告げられる思いに俺は言葉を失う。大袈裟な、と笑い飛ばしたかったが、彼の肩越しに漏れたのは渇いた笑いのみだった。
◇◇◇
その後、形を保っている結界内で大人しく救助を待って、フリジアの呼吸を確かめたりしていたが、実質二人きりで変に気まずかった。
オルフェンとサファイルはライアーに遭遇することなく、異変に気付いて森に入ってきた先生二人と合流でき、俺達の拠点まで案内してくれた。フリジアを優先的に救助してもらい、俺達も早々に森を後にした。
「そういえばニコルは?最初一緒に戦ってたんじゃないの。」
気まずいことを無かったことにして振る舞うのは俺の得意分野だった。ヨアは特に何も気にしてなかったようで、普通に応える。
「ああ。二人でライアー三体相手にしていたんだが、二体倒したところで残りの一体が逃げ出してランバートの拠点の方角に向かったから追った。ニコルも付いてきていたが、途中でフォーキースが現れて二手に分かれることになった。その後は分からない。」
なるほど。フリジアを襲ったあの一体は、ヨア達が相手していたライアーだったのか。
「分からないって、薄情だな・・・仲間だったんだろ。フォーキースってあの紫色の毒蛇?」
「ああ」
「ニコル君なら、ランドレー先生が保護したって報告があったよ。フォーキースが剣で貫かれて死んでいた傍で彼が倒れていたところを見つけたそうだ。殺す前に手を噛まれたみたいでね。」
俺たちの話を聞いていたパーマヘアのギャレット先生がニコルの情報を教えてくれた。
「それで、今は無事なんですか。」
「ああ。毒の初期症状で気絶していただけで、全身に回る前だったみたいだし、手当で解毒したら目を覚ましたそうだよ。」
「あの大蛇を一人で屠るなんてニコルも相当強いな。お前んとこ、最強パーティーだったんじゃない?」
笑いながらコメントを残すと、ヨアは少し眉根を寄せて不可解そうな顔をした。
「なんだよその微妙な顔は」
「いや・・・奴は、全く隙がないように見えた。」
「だから最強だなって言ってるんだよ。」
「・・・そうだな。」
歯切れ悪いな、何が言いたいのかさっぱりだ。ヨアも話が通じないと諦めて説明を省いたな。
「ギャレット先生。ライアーが集団で襲って来たんですけど、こういうことはあるんですか。」
「うん・・・その報告は受けているんだけどね。そもそもライアーは基本単独で行動するから、異常なのは間違い無いのだけれど、原因はまだわかっていなくてね。これから魔物研究所に依頼して森を調査してもらうことになっているよ。」
「そうなんですね。」
わかっていることは、来年からのこの試験は保護者反対の声が大きくなって廃止になるだろうな、ということだけだった。
影に潜んだ大きな影が、先程別れ背を向け歩き出したフリジアに向かって跳躍した。
影に激突された彼女は身体ごと吹き飛び、木に背中をぶつけて根元へ落ちていく。
「フリジアさん!」
凶暴なライアーが自分で突き飛ばした彼女の元へ駆け寄り、頭を振り鼻先で横たわる身体を勢いよく転がす。ライアーは獲物を見つけるとすぐには仕留めずに少し甚振る習性がある。彼女の顔は解けた長髪に覆われ意識があるのか確認できない。
「やめろぉお!」
魔物が怖いなど、そんな逃げ腰の感情は投げ捨てた。たった今目の前で、自分より周りの生徒の身を案じて動いていた正義感溢れる彼女が、無惨にも魔獣に甚振られている。
興奮し悦びに咆哮するライアーは身体全身に業火を纏った。魔物にも闇属性の他に属性を持つものがいる。ライアーは火属性で、相性だけで見ると俺の水属性に分がある。
「くそっ!ふざけんな!!」
貴族然とした品性を損なう汚い暴言を吐きながら走り出し、俺は彼女を燃やそうとしているライアーに向かってありったけの水を滝のように押し出した。
奴の周りの炎はたちまち消え、地面からは蒸発した音と煙が立ち昇った。邪魔が入ったと気付いて唸りながらこちらを振り向く獣に気丈に振る舞う。
「俺が相手してやる、来い!」
ライアー相手に一人で立ち向かって、勝算など無い。氷の矢を放つも、覆われた体毛で刺さりすらしない。敵は弱点の水を出す俺に警戒しているのか、襲いかかる気配はなく、燃える尻尾を振ってそこから火の玉を投げるだけだ。俺はそれを避けたり水魔法で消火したりしながら、少しずつ後退りして先程まで居た結界内に入ることに成功した。テントの入口付近に置かれた結界石を拾う。これは地面に置くことで発動するものなので、勿論手に取った瞬間に結界は解かれた。
俺が挑発した時に、ライアーが此方ににじり寄ったので彼女との距離は五メートル近く離すことができた。
全速力で駆け出し、掌から水を放出して敵を牽制しつつフリジアの元へ向かって結界石を転がした。投げて割れてしまっては元も子もない。上手く転がった結界石はやがて静止し、それを中心に透明の膜がドーム状に彼女の周りを覆う。
「よし!」
彼女の安全確保が出来ればこっちのもんだ。そのまま俺も結界内に入れればかなり有利になる。
ホームベースにスライディングする要領で、両腕を伸ばして結界目掛けて飛び込んだ。
獲物を横取りされると勘違いした大きな獣が、人間の何倍もの反射神経と跳躍力でこちらに突進してきた。
まずい!間に合わない!
結界に指先が触れる。手の届く距離までライアーが同時に迫り、牙のように鋭い鉤爪が、俺の脇腹を掠めた。その時、
ゴオオオオオ
台風のような強風が俺の背を押すように当たって、結界の中へ転がり込んだ。衝撃を堪えるような低い獣の鳴き声が背後でか細く聞こえた気がした。
何が起こったのかさっぱり分からない。
強風の轟音はまだ続いていて、地面に身を打ちつけた痛みを感じながら混乱する頭で、振り返る。竜巻の中にライアーが閉じ込められ螺旋状に上昇していた。
「ヨア!」
竜巻の奥からこちらへ向かって、おそらくこの事態を作り上げた当人が走ってくる。その間に竜巻が一瞬で消えたかと思うと、遥か上空からライアーが落下し地面に叩きつけられ動かなくなった。
「無事か」
「うん」
珍しい。息が上がって汗を流す彼は初めて見たかもしれない。
「そんなことよりフリジアさんが!」
一息吐くのも束の間、ハッとして後ろで倒れている彼女を振り向く。
「堅命の術があるから大丈夫だ。それに、まだ気が抜けない。四体集まってきてる。」
「え」
おいおいおい。冗談だろ?ヨアは気配を感じて周りを見渡しているようだが、俺にはさっぱりだ。
「その四体ってもしかして・・・」
「ああ。ライアーだ。」
絶句。
そんな。俺とヨアだけでは無謀だ、いくら結界内と言えども囲まれてしまっては八方塞がりだ。
そんなネガティブな感情が渦巻いているとき、空気を震わす雄叫びと共に四体のライアーが一斉に現れた。
四体同時に結界に突進してくる衝撃で、獣達は跳ね返され後退したが一本の大きな亀裂が入る。
「ヨア!さっきの!竜巻は起こせるか?」
「できる。が、強力な魔法は結界内からだと守護の魔力に邪魔されて発動できない。此処から出て同時に四箇所で起こすしか・・・。」
ヨアからすればライアーに火魔法は効かないから風魔法で攻撃するしか無い。結界外から仕掛けるなら一体ずつ片付けるのは至難の業だ。
少し考え込んでいたヨアが下げていた目線を戻す。
「俺に残ってる魔力を考えると、大きい風を起こせるのは一、ニ回が限界だろう。ランバート、結界の周りに放水して四体が一箇所に固まるように誘導できるか。いいか、絶対にそこから動くな。」
「なるほど。了解、やってみる。」
彼の意図を汲んで、足元から水を地面下へ通すために魔力を流し込む。地下は結界の範囲では無いし、人体の大半を占める水は医療にも使われるため攻撃魔法とは見なされない。それ以前にヨアの風魔法ほど強力なものでもない。
地下水を通す配管に穴が開いて勢いよく地上へ噴出する水をイメージして、結界の周りに、対面の一箇所を除いて噴水させた。
同時にヨアが結界から飛び出し、四体のライアーが水を避け対面に集まったところで風を起こした。先程のものより威力を増した大きな竜巻が昇る。
「ヨア!!」
上手く巻き込め無かったのか、危険を察知して後退したのか、一体だけ竜巻の中心から離れて回り込み、噴水が弱まっている場所を高く飛び越えヨアへ向かって素早く移動した。
戸惑う暇なんて無かった。
「来るな!」
ヨアがこちらの動きを察して尖った怒声を浴びせる。デカい魔法を練り出している時は、その場から動くことが出来ないのだ。
親しい人と知り合ったばかりの人を平等に扱う人間など、そんな聖人君子は居ない。フリジアの危機に直面した時は、自分の立ち位置を理解して冷静に動けていた。なんなら、襲われた彼女の様子を伺う余裕さえあったというのに。
ヨアを庇うようにライアーに真正面から立ち向かい、左腕を曲げて前に出す。吸い寄せられるように大きな口が俺の頭上まで開いて、腕に噛み付いた。
今だ!!
自分の魔力をその右腕に流し込み、氷の鋭利な突起を作り出す。ライアーの首元を、喉から貫くほどに鋭く大きな氷柱のような突起を。
大きな顎が外れ、腕を挟み込んでいた上下の歯が離れる。十数秒藻掻いていた獣は動きを止め、絶命した。背後で鼓膜を破りそうなほどの風の音が止み、鈍い落下音が3つ響いた。解除した氷柱と共に地に落ちた死体を見届けていると、血を垂れ流す腕を優しく静かに取ったヨアが、ポシェットから包帯を取り出した。
彼がどんな感情を押し殺しているのか分からない、暗澹とした表情で黙々と包帯を巻き付ける姿に疑問を浮かべる。
何でだよ。二人で大物やっつけたじゃんか。喜べよ。
俺は友人を守った物語の主人公になった気になり、調子づいていた。
「ありがとな。功績は3:1だけど、俺達二人で四体の猛獣を倒したぜ。」
「・・・。」
「いや、最初の一体も入れると4:1か。流石にもう来ないよな?」
「・・・。」
「おい。勝ったのに何シケた面してんだよ。」
無視するコイツに段々と苛ついてくる。
「あんなこと二度とするな。」
やっと口を開いたかと思えば、それは俺の勇姿を咎める口ぶりだった。
「は・・・はあ?あんなことって、俺もヨアも結果的に無事だっただろ。」
「怪我しているから無事ではない。お前が来なくとも、こちらで上手く対処できた。」
余計なお世話だったと言いたげな彼に、一気に頭に血が昇る。
「俺の助けは要らなかったって?はいはい、そうですか。誰よりも強いお前なら余裕で倒せてたかもな。ほんとムカつくな。俺だって勝手に身体が動いてたんだよ。急に止まれるかって・・・」
反撃の言葉は続かなかった。
視界が暗くなり、彼の着ていた黒の布地が迫る。彼の腕の中にすっぽり収まった俺は、突然の抱擁に固まってしまう。
「あの時視界に入り込んだお前を見て、全身の血の気が引いた。心臓が止まった。自分が死ぬことよりも怖かった。もうあんな思いは二度としたくない。」
矢継ぎ早に告げられる思いに俺は言葉を失う。大袈裟な、と笑い飛ばしたかったが、彼の肩越しに漏れたのは渇いた笑いのみだった。
◇◇◇
その後、形を保っている結界内で大人しく救助を待って、フリジアの呼吸を確かめたりしていたが、実質二人きりで変に気まずかった。
オルフェンとサファイルはライアーに遭遇することなく、異変に気付いて森に入ってきた先生二人と合流でき、俺達の拠点まで案内してくれた。フリジアを優先的に救助してもらい、俺達も早々に森を後にした。
「そういえばニコルは?最初一緒に戦ってたんじゃないの。」
気まずいことを無かったことにして振る舞うのは俺の得意分野だった。ヨアは特に何も気にしてなかったようで、普通に応える。
「ああ。二人でライアー三体相手にしていたんだが、二体倒したところで残りの一体が逃げ出してランバートの拠点の方角に向かったから追った。ニコルも付いてきていたが、途中でフォーキースが現れて二手に分かれることになった。その後は分からない。」
なるほど。フリジアを襲ったあの一体は、ヨア達が相手していたライアーだったのか。
「分からないって、薄情だな・・・仲間だったんだろ。フォーキースってあの紫色の毒蛇?」
「ああ」
「ニコル君なら、ランドレー先生が保護したって報告があったよ。フォーキースが剣で貫かれて死んでいた傍で彼が倒れていたところを見つけたそうだ。殺す前に手を噛まれたみたいでね。」
俺たちの話を聞いていたパーマヘアのギャレット先生がニコルの情報を教えてくれた。
「それで、今は無事なんですか。」
「ああ。毒の初期症状で気絶していただけで、全身に回る前だったみたいだし、手当で解毒したら目を覚ましたそうだよ。」
「あの大蛇を一人で屠るなんてニコルも相当強いな。お前んとこ、最強パーティーだったんじゃない?」
笑いながらコメントを残すと、ヨアは少し眉根を寄せて不可解そうな顔をした。
「なんだよその微妙な顔は」
「いや・・・奴は、全く隙がないように見えた。」
「だから最強だなって言ってるんだよ。」
「・・・そうだな。」
歯切れ悪いな、何が言いたいのかさっぱりだ。ヨアも話が通じないと諦めて説明を省いたな。
「ギャレット先生。ライアーが集団で襲って来たんですけど、こういうことはあるんですか。」
「うん・・・その報告は受けているんだけどね。そもそもライアーは基本単独で行動するから、異常なのは間違い無いのだけれど、原因はまだわかっていなくてね。これから魔物研究所に依頼して森を調査してもらうことになっているよ。」
「そうなんですね。」
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