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21.孤高の集い
深い森の奥を背に獣の主として孤高に佇むライアーの姿は獅子そのもの。文献にも記されており、魔物図鑑に描かれている絵もその通りである。広大な地では一匹ずつ縄張りが分割され、獲物を取り合う時以外に互いに干渉することはなく、群れで行動するウルフ系とは正反対である。
だから今直面している事態は異常だと誰もが思っていた。
それは群れのファングウルフを倒し、俺が右脚を負傷した後。
「ごめん。ライアー倒しに行くって話だけど・・・俺はもう戦えない。」
オルフェンの指示を聞きながら、手柄の証拠として尻尾と毛皮を剥ぐ作業中に俺が切り出す。持っていた痛み止めの薬草と包帯で軽い応急処置は済んでいるものの、下手に動くと傷口が開きそうだった。こんな状態では足手纏いどころか、血の匂いで魔物が寄ってきてしまう。
「謝るなよ。俺たちでこいつら11匹も倒したんだぞ?十分だろ。今すぐ森を出てランバートの治療を頼みたいのは山々なんだけどなー、魔物がそこら辺彷徨いているだろ?夜が明けるまでここから動かないほうが賢明かもしれない。」
その点については俺もサファイルも同意した。
「あの時の恩返しで守り切るつもりだったのに・・・すまない。」
「やめてくれよ。情けないことに怖くて動けなくなった俺の度胸の無さが全ての起因だからな。お前が最初に庇ってくれたおかげでこれくらいの怪我で済んでるんだ。感謝してるよ、ありがとう。」
サファイルはさっきからこんな様子で、作戦を立て仕切っていた責任からか、自責に押しつぶされている。常に自信に満ちた彼を知っているから、こちらも参ってしまう。
いたたまれない空気が漂う中、三人の作業の手を止めるほどの恐怖に満ちた悲鳴が一方向から聞こえてきた。
「なんだ?」
「森の奥の方からだね」
サファイルとオルフェンが話してすぐさま立ち上がる。俺も右足に負担をかけたくはなかったが急いで立って周りを確認した。
また悲鳴とともに木々の合間を走り抜ける音と人影が複数見えて、どうやら魔物に追われて逃げている生徒達のようだった。胸騒ぎがして鼓動が速くなり、脳まで響いてきそうだ。
「オルフェンと様子を見てくる。ランバート、この中で待ってろ。」
一人でここに残るのは心細いが、反対する道理も資格もない。俺がサファイルの指示に大人しく頷くのを見て、二人は薄暗い茂みへ走って行ってしまった。
解体途中になっている魔物の残骸を寄せ集め、臭いを封じ込めるために一旦丸ごと氷漬けにしながら二人の帰りを待つことにした。
「ランバート君?」
名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはヨアとパーティーを組んでいたフリジアだった。二つに分けられた三つ編みを肩の後ろで揺らしながら彼女は走って近付いてきた。
「フリジアさん」
「ライアーが三体束になって襲ってきてるの!他の二人は?」
緊迫した表情で捲し立てる、大人しい雰囲気の彼女からは想像できない豹変ぶりに只事ではないことを察する。
ライアーが三体だって?孤高に生きるあの魔獣が?
「遠くから上がった悲鳴で駆けつけて行ったけど。ライアーだって?」
「そう。今は私のパーティーのヨアゼルン君とニコル君が応戦して足止めしてる。その間に私は周りの人達に逃げるよう呼びかけしてて・・・」
彼女はそう説明しながら視線が俺の顔から太腿の方に移り、地面に膝を着いたままの右脚に両手で触れてきた。
「ふ、フリジアさん??!」
「うん?あ、私は光属性なの。言ってなかったかもしれない。・・・結構深そうな傷ね。座って足を伸ばしてくれる?」
そう話す彼女の手からじんわり温かい気が回り、触れた部分からダウンライトのような薄い暖色の光が溢れた。
「ありがとう。すぐにでも君はこの場を離れて逃げるべきなのに…。」
前世の自分からすれば一回り年下の女の子に助けてもらっている状況だ。不甲斐なくて顔を覆いたくなる。
「私、軍医になりたいの。ここで患者を見捨てるようじゃ医師の心得に反するし、したくない。」
芯のある果敢な想いに俺は圧倒されてしまった。
「格好良いね。君なら絶対、素晴らしい医師になるだろうよ。」
応援の気持ちを込めて言う間に、患部を囲むように小さな真っ白い光の円筒が現れる。包帯を解かれ傷が跡形も無く消えていることに大層驚いた。
「もう治ってる!痛みも全く無い。すごい、すごいよフリジアさん!」
「え・・・ええ。私もこんなに早く治せると思って無かった・・・。」
本人も驚いているのか、顎を引いて傷のあった部分を見つめていた。
「ランバート君。光が・・・」
「光?あぁ、僕は施術を初めて見たから知らなかったけど、治る時にあんなふうに光が出てくるんだね。」
「いいえ、私こんなの初めて見たわ・・・。」
「え、そうなんだ。」
自分から発せられた光は何だろうと一瞬考え、それは俺が必死に隠してきた力と結び付く気がした。俺は話を逸らす為に疑問に思っていたことを口に出す。
「結界内に籠もっておけば安全なんじゃないの?」
「時間の問題かもしれない。ヨアゼルン君とニコル君が私達の結界内から攻撃仕掛けているんだけど、三体ともなると強度に限界がくるだろうって言っていたわ。」
結界を壊すほどの威力なのか。教師はよくそんな森の中に生徒達を野放しにできるな・・・。敵の強さを甘く見ていた俺は、中止を訴える保護者の気持ちが痛いほど分かった。
さて、これからどうするか。怪我のハンデが無くなり、今後の選択肢が増えた。でも、俺はヒーローなんかじゃない。アニメや漫画の世界ではないし、ファングウルフと対峙して思うような反撃を食らわせることも出来ない、初めての戦闘で腰を抜かした臆病者だ。今からヨア達と合流して足手まといになるのは目に見えているし、そんな度胸はまだ持ち合わせていない。気を抜けば手が震えそうなほど恐怖心に侵されているのを自覚していた。
「フリジアさん、有難う。僕はここで仲間が帰ってくるのを待って、その後はすぐ逃げようと思う。他の生徒が既に先生達を呼んでいるかもしれないけど、できるだけ現状を周りに伝えてくるよ。」
「そうした方がいいと思う。折角治した患者がすぐ怪我されたら悲しいわ。」
フリジアは、逃げ腰で格好悪い俺を笑うことなく温かく肯定してくれた。
「フリジアさんも、無理せずね。先生達は使い魔を飛ばして森中を巡回しているはずだし、すぐ助けがくると信じて逃げれる内に逃げなよ。」
そう。緊急時に備えて監視のようなことをしているという説明が最初にあったのを思い出した。しかし、呼びかけのために再度移動する彼女を見送ったことをすぐに後悔することとなる。
だから今直面している事態は異常だと誰もが思っていた。
それは群れのファングウルフを倒し、俺が右脚を負傷した後。
「ごめん。ライアー倒しに行くって話だけど・・・俺はもう戦えない。」
オルフェンの指示を聞きながら、手柄の証拠として尻尾と毛皮を剥ぐ作業中に俺が切り出す。持っていた痛み止めの薬草と包帯で軽い応急処置は済んでいるものの、下手に動くと傷口が開きそうだった。こんな状態では足手纏いどころか、血の匂いで魔物が寄ってきてしまう。
「謝るなよ。俺たちでこいつら11匹も倒したんだぞ?十分だろ。今すぐ森を出てランバートの治療を頼みたいのは山々なんだけどなー、魔物がそこら辺彷徨いているだろ?夜が明けるまでここから動かないほうが賢明かもしれない。」
その点については俺もサファイルも同意した。
「あの時の恩返しで守り切るつもりだったのに・・・すまない。」
「やめてくれよ。情けないことに怖くて動けなくなった俺の度胸の無さが全ての起因だからな。お前が最初に庇ってくれたおかげでこれくらいの怪我で済んでるんだ。感謝してるよ、ありがとう。」
サファイルはさっきからこんな様子で、作戦を立て仕切っていた責任からか、自責に押しつぶされている。常に自信に満ちた彼を知っているから、こちらも参ってしまう。
いたたまれない空気が漂う中、三人の作業の手を止めるほどの恐怖に満ちた悲鳴が一方向から聞こえてきた。
「なんだ?」
「森の奥の方からだね」
サファイルとオルフェンが話してすぐさま立ち上がる。俺も右足に負担をかけたくはなかったが急いで立って周りを確認した。
また悲鳴とともに木々の合間を走り抜ける音と人影が複数見えて、どうやら魔物に追われて逃げている生徒達のようだった。胸騒ぎがして鼓動が速くなり、脳まで響いてきそうだ。
「オルフェンと様子を見てくる。ランバート、この中で待ってろ。」
一人でここに残るのは心細いが、反対する道理も資格もない。俺がサファイルの指示に大人しく頷くのを見て、二人は薄暗い茂みへ走って行ってしまった。
解体途中になっている魔物の残骸を寄せ集め、臭いを封じ込めるために一旦丸ごと氷漬けにしながら二人の帰りを待つことにした。
「ランバート君?」
名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはヨアとパーティーを組んでいたフリジアだった。二つに分けられた三つ編みを肩の後ろで揺らしながら彼女は走って近付いてきた。
「フリジアさん」
「ライアーが三体束になって襲ってきてるの!他の二人は?」
緊迫した表情で捲し立てる、大人しい雰囲気の彼女からは想像できない豹変ぶりに只事ではないことを察する。
ライアーが三体だって?孤高に生きるあの魔獣が?
「遠くから上がった悲鳴で駆けつけて行ったけど。ライアーだって?」
「そう。今は私のパーティーのヨアゼルン君とニコル君が応戦して足止めしてる。その間に私は周りの人達に逃げるよう呼びかけしてて・・・」
彼女はそう説明しながら視線が俺の顔から太腿の方に移り、地面に膝を着いたままの右脚に両手で触れてきた。
「ふ、フリジアさん??!」
「うん?あ、私は光属性なの。言ってなかったかもしれない。・・・結構深そうな傷ね。座って足を伸ばしてくれる?」
そう話す彼女の手からじんわり温かい気が回り、触れた部分からダウンライトのような薄い暖色の光が溢れた。
「ありがとう。すぐにでも君はこの場を離れて逃げるべきなのに…。」
前世の自分からすれば一回り年下の女の子に助けてもらっている状況だ。不甲斐なくて顔を覆いたくなる。
「私、軍医になりたいの。ここで患者を見捨てるようじゃ医師の心得に反するし、したくない。」
芯のある果敢な想いに俺は圧倒されてしまった。
「格好良いね。君なら絶対、素晴らしい医師になるだろうよ。」
応援の気持ちを込めて言う間に、患部を囲むように小さな真っ白い光の円筒が現れる。包帯を解かれ傷が跡形も無く消えていることに大層驚いた。
「もう治ってる!痛みも全く無い。すごい、すごいよフリジアさん!」
「え・・・ええ。私もこんなに早く治せると思って無かった・・・。」
本人も驚いているのか、顎を引いて傷のあった部分を見つめていた。
「ランバート君。光が・・・」
「光?あぁ、僕は施術を初めて見たから知らなかったけど、治る時にあんなふうに光が出てくるんだね。」
「いいえ、私こんなの初めて見たわ・・・。」
「え、そうなんだ。」
自分から発せられた光は何だろうと一瞬考え、それは俺が必死に隠してきた力と結び付く気がした。俺は話を逸らす為に疑問に思っていたことを口に出す。
「結界内に籠もっておけば安全なんじゃないの?」
「時間の問題かもしれない。ヨアゼルン君とニコル君が私達の結界内から攻撃仕掛けているんだけど、三体ともなると強度に限界がくるだろうって言っていたわ。」
結界を壊すほどの威力なのか。教師はよくそんな森の中に生徒達を野放しにできるな・・・。敵の強さを甘く見ていた俺は、中止を訴える保護者の気持ちが痛いほど分かった。
さて、これからどうするか。怪我のハンデが無くなり、今後の選択肢が増えた。でも、俺はヒーローなんかじゃない。アニメや漫画の世界ではないし、ファングウルフと対峙して思うような反撃を食らわせることも出来ない、初めての戦闘で腰を抜かした臆病者だ。今からヨア達と合流して足手まといになるのは目に見えているし、そんな度胸はまだ持ち合わせていない。気を抜けば手が震えそうなほど恐怖心に侵されているのを自覚していた。
「フリジアさん、有難う。僕はここで仲間が帰ってくるのを待って、その後はすぐ逃げようと思う。他の生徒が既に先生達を呼んでいるかもしれないけど、できるだけ現状を周りに伝えてくるよ。」
「そうした方がいいと思う。折角治した患者がすぐ怪我されたら悲しいわ。」
フリジアは、逃げ腰で格好悪い俺を笑うことなく温かく肯定してくれた。
「フリジアさんも、無理せずね。先生達は使い魔を飛ばして森中を巡回しているはずだし、すぐ助けがくると信じて逃げれる内に逃げなよ。」
そう。緊急時に備えて監視のようなことをしているという説明が最初にあったのを思い出した。しかし、呼びかけのために再度移動する彼女を見送ったことをすぐに後悔することとなる。
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