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二十・侯爵令嬢のデート相手は……?
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霜月に入ると木枯らしが吹きはじめ、冬の足音が近づき、空気が一気に冷たくなる。熱々の焼き芋や、鍋料理が恋しくなる時期が到来する。
予定がなにもなく暇を持て余していたニエルは、新規開拓するべく家を出た。
街の中心部には大きな公園があり、その周囲を様々な飲食店が連なっている。流行り廃りが激しく、新規開業したばかりのクレープ屋が、三ヶ月後には閉店していることも珍しくない。食べることが生きがいのニエルは、飲食店との一期一会を楽しんでいる。
「……ん? あれは……ミリアンヌ嬢か?」
前方を歩く侯爵令嬢の姿が視界に飛び込んでくる。真っ白い生地に、赤や桃など色とりどりの小花が散った柄のふんわりとしたワンピースを着こなし、楽しそうだ。彼女はユージンの婚約者の一人でもある。隣には、背が高くて優しそうに微笑む男性がおり、腕は組んでいないものの仲睦まじい雰囲気だ。通りかかったカフェを覗いては、店内の混雑具合を見ている。
(あれはどこからどう見ても恋人ではないか!?)
一緒にいる異性は男前ではあるがユージンではない。これは一体どういうことなんだろうかとニエルはわが目を疑う。
そんなニエルの元へ、反対側からはもう一人の侯爵令嬢であるイリアが、これまた微笑みながら、同じくらいの背丈の青年と歩いていた。こちらも手は繋いでいないのに、互いに頬を染めているので相思相愛なのは一目瞭然だ。
どちらの令嬢も本命がいるのだろう。珍しくはない。珍しくはないのだが、メインキャラであるユージンが、まさか二股されているとは想像していなかった。イリーナがいないことで弊害が起きているのか、それとも原作では描かれない裏では、現実のように広がっているのか、ニエルはそんなことを考える。
(どっちにしろ、また刃傷沙汰に巻き込まれるのはごめんだぞ!?)
ニエルに牙を向け、ユージンを傷つけたあの男は、終身刑になったため二度と会うことはないはずだ。王室が密かに後ろ盾となっている──という噂のあるアイアンズ公爵家を敵に回したことによる、見せしめでもあるのだろう。
それはそうと、侯爵令嬢たちの恋愛事情を知りたくなかった。面識はないとはいえ、他の男性とのデートを目撃したことを、ユージンに告げ口したと難癖をつけられても後々面倒なので、悟られる前に移動することにした。
「あれ、ニエル?」
「ひえっ!!」
今、一番会いたくなかった人物に肩を叩かれ、ニエルは思わず変な声を出してしまった。通行人にも見られて恥ずかしい。この場から消えたくなる。
「どうしたの、その反応。お化けでもみた?」
「きゅ、急に肩を叩かれたら、誰だってびびるだろ……」
適当に誤魔化す。本当は、侯爵令嬢たちのデートを目撃してました、など口が裂けても言えず。
「ごめんごめん。それより一人でいるの?」
「一人だけど……?」
「それなら、これからちょっとだけ付き合ってくれないかな。時間が空いちゃってね」
「いいけど、どこに?」
「そうだな、あそこのカフェはどうかな。ランチが美味しいって評判なんだって」
そう言われてニエルは焦る。そこは先ほど、ミリアンヌが恋人と共に入っていったカフェだ。今、店内に足を踏み入れれば確実に顔を合わせてしまうだろう。
「別の所がいいかな」
「うん? じゃあ、あっちの小料理屋にする?」
今度は、イリアと青年がいる方角を指差されニエルは生きた心地がしない。
「だ、だめだ。ああ、そうだ、少し散歩しないか? 腹減ってないんだ」
「……どうしたの?」
「どうもしないって!」
「ニエルが食べ物に興味を示さないなんて、お腹でも痛い?」
「いたって健康だよ。人が暇さえあれば、いつも食ってるように言うなよ」
憤慨とばかりに拗ねると、ユージンは「ごめんごめん」と謝った。ここにいては令嬢の動きが気になって落ち着かない。さっさとこの場を離れようとユージンの腕を取った瞬間、タイミング悪く二組のカップルが紙袋を提げて店の外へ出て来てしまった。
「あっ」
ニエルの視線の先を追ったユージンは、なぜ様子がおかしかったのかすぐさま察したようだ。気まずい。どうすればいいのか逡巡してしまうニエルに、当の本人は普段と変わらなかった。
「様子が変だなと思ったら、気を遣ってくれたのか。ありがとう」
ばれてしまったのでユージンの腕から手を離す。するとユージンは離れたばかりのニエルの手に、間髪容れずに自分の手を重ねた。そうして握りしめ、手を繋いで歩き出す。人前だというのに何となく解く気にはなれず、たまにはいいかとそのまま身を任せる。案外、自分たちに夢中になっているカップルや家族だらけなので、ニエルたちが手を繋ごうとも指摘してくる人はいない。
「平気なのか?」
「僕には君がいるからね」
「はいはい、わかったって」
「そういう君はどうなの?」
「俺? 休みになるとユージンが引っ切りなしに誘ってくるんだから、そんな暇ないだろ!」
「ハハ」
ニエルの突っ込みに笑顔を見せた。手を繋いだまましばらく公園を散歩しつつ、美味しそうな匂いに釣られて適当に飲み食いして過ごした。
予定がなにもなく暇を持て余していたニエルは、新規開拓するべく家を出た。
街の中心部には大きな公園があり、その周囲を様々な飲食店が連なっている。流行り廃りが激しく、新規開業したばかりのクレープ屋が、三ヶ月後には閉店していることも珍しくない。食べることが生きがいのニエルは、飲食店との一期一会を楽しんでいる。
「……ん? あれは……ミリアンヌ嬢か?」
前方を歩く侯爵令嬢の姿が視界に飛び込んでくる。真っ白い生地に、赤や桃など色とりどりの小花が散った柄のふんわりとしたワンピースを着こなし、楽しそうだ。彼女はユージンの婚約者の一人でもある。隣には、背が高くて優しそうに微笑む男性がおり、腕は組んでいないものの仲睦まじい雰囲気だ。通りかかったカフェを覗いては、店内の混雑具合を見ている。
(あれはどこからどう見ても恋人ではないか!?)
一緒にいる異性は男前ではあるがユージンではない。これは一体どういうことなんだろうかとニエルはわが目を疑う。
そんなニエルの元へ、反対側からはもう一人の侯爵令嬢であるイリアが、これまた微笑みながら、同じくらいの背丈の青年と歩いていた。こちらも手は繋いでいないのに、互いに頬を染めているので相思相愛なのは一目瞭然だ。
どちらの令嬢も本命がいるのだろう。珍しくはない。珍しくはないのだが、メインキャラであるユージンが、まさか二股されているとは想像していなかった。イリーナがいないことで弊害が起きているのか、それとも原作では描かれない裏では、現実のように広がっているのか、ニエルはそんなことを考える。
(どっちにしろ、また刃傷沙汰に巻き込まれるのはごめんだぞ!?)
ニエルに牙を向け、ユージンを傷つけたあの男は、終身刑になったため二度と会うことはないはずだ。王室が密かに後ろ盾となっている──という噂のあるアイアンズ公爵家を敵に回したことによる、見せしめでもあるのだろう。
それはそうと、侯爵令嬢たちの恋愛事情を知りたくなかった。面識はないとはいえ、他の男性とのデートを目撃したことを、ユージンに告げ口したと難癖をつけられても後々面倒なので、悟られる前に移動することにした。
「あれ、ニエル?」
「ひえっ!!」
今、一番会いたくなかった人物に肩を叩かれ、ニエルは思わず変な声を出してしまった。通行人にも見られて恥ずかしい。この場から消えたくなる。
「どうしたの、その反応。お化けでもみた?」
「きゅ、急に肩を叩かれたら、誰だってびびるだろ……」
適当に誤魔化す。本当は、侯爵令嬢たちのデートを目撃してました、など口が裂けても言えず。
「ごめんごめん。それより一人でいるの?」
「一人だけど……?」
「それなら、これからちょっとだけ付き合ってくれないかな。時間が空いちゃってね」
「いいけど、どこに?」
「そうだな、あそこのカフェはどうかな。ランチが美味しいって評判なんだって」
そう言われてニエルは焦る。そこは先ほど、ミリアンヌが恋人と共に入っていったカフェだ。今、店内に足を踏み入れれば確実に顔を合わせてしまうだろう。
「別の所がいいかな」
「うん? じゃあ、あっちの小料理屋にする?」
今度は、イリアと青年がいる方角を指差されニエルは生きた心地がしない。
「だ、だめだ。ああ、そうだ、少し散歩しないか? 腹減ってないんだ」
「……どうしたの?」
「どうもしないって!」
「ニエルが食べ物に興味を示さないなんて、お腹でも痛い?」
「いたって健康だよ。人が暇さえあれば、いつも食ってるように言うなよ」
憤慨とばかりに拗ねると、ユージンは「ごめんごめん」と謝った。ここにいては令嬢の動きが気になって落ち着かない。さっさとこの場を離れようとユージンの腕を取った瞬間、タイミング悪く二組のカップルが紙袋を提げて店の外へ出て来てしまった。
「あっ」
ニエルの視線の先を追ったユージンは、なぜ様子がおかしかったのかすぐさま察したようだ。気まずい。どうすればいいのか逡巡してしまうニエルに、当の本人は普段と変わらなかった。
「様子が変だなと思ったら、気を遣ってくれたのか。ありがとう」
ばれてしまったのでユージンの腕から手を離す。するとユージンは離れたばかりのニエルの手に、間髪容れずに自分の手を重ねた。そうして握りしめ、手を繋いで歩き出す。人前だというのに何となく解く気にはなれず、たまにはいいかとそのまま身を任せる。案外、自分たちに夢中になっているカップルや家族だらけなので、ニエルたちが手を繋ごうとも指摘してくる人はいない。
「平気なのか?」
「僕には君がいるからね」
「はいはい、わかったって」
「そういう君はどうなの?」
「俺? 休みになるとユージンが引っ切りなしに誘ってくるんだから、そんな暇ないだろ!」
「ハハ」
ニエルの突っ込みに笑顔を見せた。手を繋いだまましばらく公園を散歩しつつ、美味しそうな匂いに釣られて適当に飲み食いして過ごした。
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