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番外編 三・ニエルの記憶を取り戻せ!
四
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翌日。入手した探偵服とその相棒に扮した二人は、一時間後にカフェの前で落ち合う約束をしたのち別れた。二手に分かれて聞き込みだ。
港町に向かう途中の車内で、ユージンはヒーラーと、ヒーラーの店で見習いをしていた青年の似顔絵を二枚描いていた。もしかすると、探す手がかりになるだろうかと用意していたのだ。
ヒーラーが港町にいることは確認している。長距離バスゆえに途中下車することも考えられたため、アイアンズ家の者に頼み、バスの運行会社に問い合わせてもらったところ、終点まで乗車していたという連絡があったのだ。だから、何としてでも手がかりを見つけるつもりでいる。
地元の人が多く集まる市場を教えてもらったので、手当たり次第、似顔絵を見せていると、十人目でさっそく青年を知っている人物に出くわした。
「この人、どっかで見たことあるな……シークエンスさんちの長男かな」
新鮮な魚を並べていた店主が、手を止めて教えてくれる。
「名前はわかりますか?」
「ああ、ルパートだ。ルパート・シークエンス。家も知りたいか?」
「ええ、ぜひ教えてください」
「シークエンスさんちなら、潮風プリンで有名な菓子店の近所だよ」
「ありがとうございます」
情報提供の礼に、いくつか魚を購入し、チップを多めに渡した。魚の入った発泡スチロールを三段重ねて持ち歩く。
(ルパート・シークエンスか。あれ、シークエンスって確か……)
ミゲルの名字もシークエンスだった。そういえば、ミゲルには年の離れた兄がいると言っていた。そして、兄と伯母がいることも、先月会ったときに耳にしている。
「そうか。シシリー・シークエンスだったのか」
ヒーラーの個人情報については興味がなかったので、以前、渡された名刺を確認していなかった。魚の入った発泡スチロールを地面に置き、カードケースに納めた紙の束から一枚見つけると、そこにはシシリー・シークエンスと書かれていた。気づかなかった。
約束の時間まではまだ余裕があるため、購入した魚を宿泊中のホテルに届けてから、シークエンス家を当たってみることにした。
(……ミゲルくんだ。シークエンス家はあそこか)
聞いた通り、カフェからそこまで離れておらず、四軒向こうの立派な一戸建てからミゲルが出てきた。ミゲルと初めて会ったのは先月だ。おそらく、今回の騒動の影響で、ミゲルは、ユージンやニエルと会った記憶をなくしているだろう。だから話しかけずにどこへ行くのか偵察することにした。
そんなミゲルが足早に向かった先は、四軒隣の菓子店だ。お使いか、食べにきたのかはわからないが、開店したばかりの店内に足を踏み入れる。さすがに店内までは追えないので、大人しく待とうとしたそのときに、ニエルはなぜかフレデリカと一緒に現れた。
「あれ、ユージン。早かったな」
「ニエル。フレデリカと一緒に来たのか」
「え?」
フレデリカと面識がないのに、うっかり名前を呼んでしまった。誤魔化すしかない。
「あら、初対面のはずなのに、私の名前をご存知ですの?」
「ニエルから聞いてるよ。可愛い従姉妹がいるってね」
「まあ。ニエルにいさまには負けますわ」
「ちょっとユージンに用があるから、フレデリカは先に店に入ってて」
「ええ、わかりましたわ。それでは」
カフェに吸い込まれるフレデリカを見送ると、ニエルはにやりと口角をあげた。
「この人の名前がわかったぞ!」
「うん。僕も」
そう答えると、ニエルは唇を尖らせつまらなさそうな顔をした。ここは知らない振りをして、情報を入手したことについて褒めるべきだったか。失敗してしまった。
「なーんだ、お前もたどり着いたのか」
「フレデリカから聞いたんでしょ?」
「正解。フレデリカの幼馴染みの兄と、その伯母だとさ。弟よりもだいぶ年上で二十五歳なんだってな。俺たちよりも上だ」
ばったり遭遇したフレデリカに似顔絵を見せるなり、顔見知りだと教えてくれたのだろう。二十五歳の兄と十一歳の弟と、だいぶ年齢が離れているとはいえ、フレデリカとミゲルは幼馴染みだ。兄のことを知っていても何ら不思議ではない。
「そうみたいだね」
「それよりさ、ユージン。俺、フレデリカのこと、話したっけ?」
首を傾げながら尋ねられる。探偵服でそれをやられてしまうと、新鮮過ぎて心臓に悪いのでユージンは視線を逸らす。目に焼きつけたいところを必死に抑える。着替えた直後にインスタントカメラで撮らせてもらったが、五分くらいでいい加減にしろとカメラを没収されてしまったので物足りなさを感じていた。カメラを買い足したので、フレデリカやミゲルと一緒に撮るつもりでいる。
「うん。君たちは覚えてないだろうけど、一度、会ったことがあるんだよ。フレデリカの誕生日パーティーに呼ばれたことがあってね。家に戻ったら、招待状を見せてあげる」
人々の記憶は変えられてしまっても、物理的なものには影響がないことは、ニエルに渡したアメジストのペンダントが証明している。だから自宅に帰れば、連名で届いた招待状が残されているはずだ。アイアンズ家にあるだけでなく、ニエル・アイアンズという名前になっているので、余計な混乱を招いて嫌われたくはないのだが、背に腹は替えられない。
「いや、別に見せなくていいよ。疑ってないし」
「そうなの?」
「ああ。昨年、フレデリカに会ったときに、来年の誕生日には招待するって言われていたからな。辻褄が合うんだよ」
「そうだったのか」
信用してもらえて安堵する。
「はやく事情を聞きたいし、僕たちも入ろうか」
「そうだな」
少し遅れて先に店に入った二人と相席にしてもらおうとしたところ、なにやら揉めていた。
「さすがに糖分の取りすぎだよ、フリッカ!」
「プリンは体にいいのよ! だから三個目を食べても問題ないわ!」
「ダメだって!」
「ほっといてよ!」
「フリッカ!」
どうやら潮風プリンをおかわりしたいフレデリカと、一度に三個食べるのは体に悪いとミゲルが言い争っているようだ。記憶を消されたとしても、一緒にカフェへ行く約束をしているくらいだから、仲はよさそうなのだが、どうしても小競り合いしてしまうらしい。今の関係性はわからないが、せっかく婚約者として歩み寄っていた矢先だ。二人のためにもヒーラーを見つけて記憶を元通りにしなければならない。
「二人とも落ち着いて」
「フレデリカ。潮風プリン、美味しいからもっと食べたいよな? 俺なんて、十個は余裕だぞ!」
「さすがニエルにいさま! 私も、もっとたくさん食べたいですわ!」
ニエルは、フレデリカに加勢するや誇らしげに大食いアピールしている。隣にいるミゲルは呆れている。
「それはさすがに大人としてダメだよ……」
「ニエル……。フレデリカはまだ十一歳だ。何事にも適量があるんだよ。君は従兄弟として止めるべきなのに、煽ってどうするの」
「冗談だって」
「ええ、ちょっとした冗談ですわ! さすがに十個だと、ニエルにいさまと違って、お洋服が入らなくなりそうですもの」
ニエルにいさまは太らない体質で羨ましいですわ、とフレデリカは羨ましそうにつぶやく。
「それなら潮風シャーベットはどうだ? 健康的だし、糖質も抑えられるぞ」
「いいですわね!」
メニュー表を眺めていたニエルは、潮風シャーベットを四つ注文した。シャーベットが運ばれてくるまでの間に、手短に自己紹介する。
「こちら、私の従兄弟のニエルにいさまで、隣にいるのは幼馴染みのミゲル。私の名前はフレデリカですの。フレデリカって気軽に呼んでくださいませ♪」
「初めまして、ミゲル。俺の隣にいるのはユージンだ。こっちも関係は幼馴染みで、今は俺の相棒、だよな?」
「うん。ニエルの相棒のユージンです。よろしくね。フレデリカ、ミゲルくん」
「……よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますわ♪」
相棒と言ってもらえたことに、思わず感動してしまう。ニエルは名探偵の格好だから、その相棒として紹介されたことはわかっていても、嬉しいものは嬉しい。顔に出さないように口元を引き締める。
「それでな、ミゲル。折り入って聞きたいことがあるんだ」
「な……なんですか?」
本題に入ろうとしたところで、ニエルは「あ」と思い出したかのように声をあげ、間を置く。
「……質問するその前に、二人とも、一つ約束してくれないか? 今から聞くことは俺たち、四人だけの秘密だ。他の人に知られてしまうと、探偵失格になるんだよ」
内緒話をするかのように声を落として打ち明けると、フレデリカとミゲルは興味津々と言った様子で身を乗り出した。異世界での記憶はないはずなのに、ニエルは子どもの扱い方が上手い。十一歳ならば小学校高学年だが、探偵もののアニメが流行っていることから、見事に二人の心を掴んでいる。ユージンもばっちり掴まれている。
「まあ!」
「二人に助手を任せたい」
「うん、わかったよ!」
「よし。俺たちが知りたいのは、ミゲルのお兄さん──ルパートさんのことなんだ。昨日、帰ってきた際に、どこか変わった様子はなかったか?」
素直に教えてもらえるかどうかは半ば賭けに近かったが、ニエルの前提が功を奏したらしく、ミゲルは昨夜の様子を教えてくれた。
「昨夜の兄は、突然帰ってきたと思ったら、部屋で驚いたような声をあげて、そのまま出て行きました」
「やっぱりな。それからは?」
「一時間くらいで戻ったと思ったら、今度は上の空で、話しかけても動揺していて聞いてませんでした。兄が、なにかしたんですか……?」
不安そうなミゲルに尋ねられる。帰宅した兄が、挙動不審な態度を取っていればそう思っても無理はない。
「事件を解決するまでは、守秘義務があるから今は言えない。けど、ミゲルが心配しなくても大丈夫だ。ただ、注意深く観察したことを、あとで俺たちに教えてほしい」
「わかりました」
大きく頷き約束してくれた。もう一つ、質問しなければならないことがある。
「それと、シシリーという名前に聞き覚えは?」
「シシリーって、シシリー・シークエンスですか?」
「そうだよ。僕たち、シシリーさんを探しているんだ」
「伯母で間違いないです。あ、おばっていうと睨まれるから、シシリー姉さんって呼んでます」
やはり身内であっていたようだ。
「でも、シシリー姉さんはこの町には住んでいないので、俺も現在の居場所はわかりません」
「この町で見かけたら、こっそり教えてくれるだけで助かる」
「それなら、任せてください」
探偵服とその相棒の格好をしていたことによって、怪しまれることなく身内という情報源を一つ確保できた。話が終わったタイミングで、店員がシャーベットを載せたトレイを運んでくる。
「おまたせしました、潮風シャーベットをお持ちしました」
「ありがとう」
「話は終わったし、食べようか」
「いただきますわ!」
見た目は青いのに、りんご風味の潮風シャーベットを堪能した。ニエルはこっそり潮風プリンを十個買い込み、フレデリカには「探偵は頭を使うと糖分を欲するものなんだよ」と必死に誤魔化していた。
これから映画を見に行くというフレデリカとミゲルに別れを告げ、ユージンはニエルと肩を並べて、カフェの四軒隣にある、シークエンス家のそばにある小さな公園を目指す。
「ヒーラーの居所は掴めないけど、ルパートさんを張っていたら、なにか手がかりが見つかるかもな」
「そうだね」
家の前で張り込むとなると目立つので、公園があって助かった。茂みに隠れつつ、ルパートの動きを観察することにした。
港町に向かう途中の車内で、ユージンはヒーラーと、ヒーラーの店で見習いをしていた青年の似顔絵を二枚描いていた。もしかすると、探す手がかりになるだろうかと用意していたのだ。
ヒーラーが港町にいることは確認している。長距離バスゆえに途中下車することも考えられたため、アイアンズ家の者に頼み、バスの運行会社に問い合わせてもらったところ、終点まで乗車していたという連絡があったのだ。だから、何としてでも手がかりを見つけるつもりでいる。
地元の人が多く集まる市場を教えてもらったので、手当たり次第、似顔絵を見せていると、十人目でさっそく青年を知っている人物に出くわした。
「この人、どっかで見たことあるな……シークエンスさんちの長男かな」
新鮮な魚を並べていた店主が、手を止めて教えてくれる。
「名前はわかりますか?」
「ああ、ルパートだ。ルパート・シークエンス。家も知りたいか?」
「ええ、ぜひ教えてください」
「シークエンスさんちなら、潮風プリンで有名な菓子店の近所だよ」
「ありがとうございます」
情報提供の礼に、いくつか魚を購入し、チップを多めに渡した。魚の入った発泡スチロールを三段重ねて持ち歩く。
(ルパート・シークエンスか。あれ、シークエンスって確か……)
ミゲルの名字もシークエンスだった。そういえば、ミゲルには年の離れた兄がいると言っていた。そして、兄と伯母がいることも、先月会ったときに耳にしている。
「そうか。シシリー・シークエンスだったのか」
ヒーラーの個人情報については興味がなかったので、以前、渡された名刺を確認していなかった。魚の入った発泡スチロールを地面に置き、カードケースに納めた紙の束から一枚見つけると、そこにはシシリー・シークエンスと書かれていた。気づかなかった。
約束の時間まではまだ余裕があるため、購入した魚を宿泊中のホテルに届けてから、シークエンス家を当たってみることにした。
(……ミゲルくんだ。シークエンス家はあそこか)
聞いた通り、カフェからそこまで離れておらず、四軒向こうの立派な一戸建てからミゲルが出てきた。ミゲルと初めて会ったのは先月だ。おそらく、今回の騒動の影響で、ミゲルは、ユージンやニエルと会った記憶をなくしているだろう。だから話しかけずにどこへ行くのか偵察することにした。
そんなミゲルが足早に向かった先は、四軒隣の菓子店だ。お使いか、食べにきたのかはわからないが、開店したばかりの店内に足を踏み入れる。さすがに店内までは追えないので、大人しく待とうとしたそのときに、ニエルはなぜかフレデリカと一緒に現れた。
「あれ、ユージン。早かったな」
「ニエル。フレデリカと一緒に来たのか」
「え?」
フレデリカと面識がないのに、うっかり名前を呼んでしまった。誤魔化すしかない。
「あら、初対面のはずなのに、私の名前をご存知ですの?」
「ニエルから聞いてるよ。可愛い従姉妹がいるってね」
「まあ。ニエルにいさまには負けますわ」
「ちょっとユージンに用があるから、フレデリカは先に店に入ってて」
「ええ、わかりましたわ。それでは」
カフェに吸い込まれるフレデリカを見送ると、ニエルはにやりと口角をあげた。
「この人の名前がわかったぞ!」
「うん。僕も」
そう答えると、ニエルは唇を尖らせつまらなさそうな顔をした。ここは知らない振りをして、情報を入手したことについて褒めるべきだったか。失敗してしまった。
「なーんだ、お前もたどり着いたのか」
「フレデリカから聞いたんでしょ?」
「正解。フレデリカの幼馴染みの兄と、その伯母だとさ。弟よりもだいぶ年上で二十五歳なんだってな。俺たちよりも上だ」
ばったり遭遇したフレデリカに似顔絵を見せるなり、顔見知りだと教えてくれたのだろう。二十五歳の兄と十一歳の弟と、だいぶ年齢が離れているとはいえ、フレデリカとミゲルは幼馴染みだ。兄のことを知っていても何ら不思議ではない。
「そうみたいだね」
「それよりさ、ユージン。俺、フレデリカのこと、話したっけ?」
首を傾げながら尋ねられる。探偵服でそれをやられてしまうと、新鮮過ぎて心臓に悪いのでユージンは視線を逸らす。目に焼きつけたいところを必死に抑える。着替えた直後にインスタントカメラで撮らせてもらったが、五分くらいでいい加減にしろとカメラを没収されてしまったので物足りなさを感じていた。カメラを買い足したので、フレデリカやミゲルと一緒に撮るつもりでいる。
「うん。君たちは覚えてないだろうけど、一度、会ったことがあるんだよ。フレデリカの誕生日パーティーに呼ばれたことがあってね。家に戻ったら、招待状を見せてあげる」
人々の記憶は変えられてしまっても、物理的なものには影響がないことは、ニエルに渡したアメジストのペンダントが証明している。だから自宅に帰れば、連名で届いた招待状が残されているはずだ。アイアンズ家にあるだけでなく、ニエル・アイアンズという名前になっているので、余計な混乱を招いて嫌われたくはないのだが、背に腹は替えられない。
「いや、別に見せなくていいよ。疑ってないし」
「そうなの?」
「ああ。昨年、フレデリカに会ったときに、来年の誕生日には招待するって言われていたからな。辻褄が合うんだよ」
「そうだったのか」
信用してもらえて安堵する。
「はやく事情を聞きたいし、僕たちも入ろうか」
「そうだな」
少し遅れて先に店に入った二人と相席にしてもらおうとしたところ、なにやら揉めていた。
「さすがに糖分の取りすぎだよ、フリッカ!」
「プリンは体にいいのよ! だから三個目を食べても問題ないわ!」
「ダメだって!」
「ほっといてよ!」
「フリッカ!」
どうやら潮風プリンをおかわりしたいフレデリカと、一度に三個食べるのは体に悪いとミゲルが言い争っているようだ。記憶を消されたとしても、一緒にカフェへ行く約束をしているくらいだから、仲はよさそうなのだが、どうしても小競り合いしてしまうらしい。今の関係性はわからないが、せっかく婚約者として歩み寄っていた矢先だ。二人のためにもヒーラーを見つけて記憶を元通りにしなければならない。
「二人とも落ち着いて」
「フレデリカ。潮風プリン、美味しいからもっと食べたいよな? 俺なんて、十個は余裕だぞ!」
「さすがニエルにいさま! 私も、もっとたくさん食べたいですわ!」
ニエルは、フレデリカに加勢するや誇らしげに大食いアピールしている。隣にいるミゲルは呆れている。
「それはさすがに大人としてダメだよ……」
「ニエル……。フレデリカはまだ十一歳だ。何事にも適量があるんだよ。君は従兄弟として止めるべきなのに、煽ってどうするの」
「冗談だって」
「ええ、ちょっとした冗談ですわ! さすがに十個だと、ニエルにいさまと違って、お洋服が入らなくなりそうですもの」
ニエルにいさまは太らない体質で羨ましいですわ、とフレデリカは羨ましそうにつぶやく。
「それなら潮風シャーベットはどうだ? 健康的だし、糖質も抑えられるぞ」
「いいですわね!」
メニュー表を眺めていたニエルは、潮風シャーベットを四つ注文した。シャーベットが運ばれてくるまでの間に、手短に自己紹介する。
「こちら、私の従兄弟のニエルにいさまで、隣にいるのは幼馴染みのミゲル。私の名前はフレデリカですの。フレデリカって気軽に呼んでくださいませ♪」
「初めまして、ミゲル。俺の隣にいるのはユージンだ。こっちも関係は幼馴染みで、今は俺の相棒、だよな?」
「うん。ニエルの相棒のユージンです。よろしくね。フレデリカ、ミゲルくん」
「……よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますわ♪」
相棒と言ってもらえたことに、思わず感動してしまう。ニエルは名探偵の格好だから、その相棒として紹介されたことはわかっていても、嬉しいものは嬉しい。顔に出さないように口元を引き締める。
「それでな、ミゲル。折り入って聞きたいことがあるんだ」
「な……なんですか?」
本題に入ろうとしたところで、ニエルは「あ」と思い出したかのように声をあげ、間を置く。
「……質問するその前に、二人とも、一つ約束してくれないか? 今から聞くことは俺たち、四人だけの秘密だ。他の人に知られてしまうと、探偵失格になるんだよ」
内緒話をするかのように声を落として打ち明けると、フレデリカとミゲルは興味津々と言った様子で身を乗り出した。異世界での記憶はないはずなのに、ニエルは子どもの扱い方が上手い。十一歳ならば小学校高学年だが、探偵もののアニメが流行っていることから、見事に二人の心を掴んでいる。ユージンもばっちり掴まれている。
「まあ!」
「二人に助手を任せたい」
「うん、わかったよ!」
「よし。俺たちが知りたいのは、ミゲルのお兄さん──ルパートさんのことなんだ。昨日、帰ってきた際に、どこか変わった様子はなかったか?」
素直に教えてもらえるかどうかは半ば賭けに近かったが、ニエルの前提が功を奏したらしく、ミゲルは昨夜の様子を教えてくれた。
「昨夜の兄は、突然帰ってきたと思ったら、部屋で驚いたような声をあげて、そのまま出て行きました」
「やっぱりな。それからは?」
「一時間くらいで戻ったと思ったら、今度は上の空で、話しかけても動揺していて聞いてませんでした。兄が、なにかしたんですか……?」
不安そうなミゲルに尋ねられる。帰宅した兄が、挙動不審な態度を取っていればそう思っても無理はない。
「事件を解決するまでは、守秘義務があるから今は言えない。けど、ミゲルが心配しなくても大丈夫だ。ただ、注意深く観察したことを、あとで俺たちに教えてほしい」
「わかりました」
大きく頷き約束してくれた。もう一つ、質問しなければならないことがある。
「それと、シシリーという名前に聞き覚えは?」
「シシリーって、シシリー・シークエンスですか?」
「そうだよ。僕たち、シシリーさんを探しているんだ」
「伯母で間違いないです。あ、おばっていうと睨まれるから、シシリー姉さんって呼んでます」
やはり身内であっていたようだ。
「でも、シシリー姉さんはこの町には住んでいないので、俺も現在の居場所はわかりません」
「この町で見かけたら、こっそり教えてくれるだけで助かる」
「それなら、任せてください」
探偵服とその相棒の格好をしていたことによって、怪しまれることなく身内という情報源を一つ確保できた。話が終わったタイミングで、店員がシャーベットを載せたトレイを運んでくる。
「おまたせしました、潮風シャーベットをお持ちしました」
「ありがとう」
「話は終わったし、食べようか」
「いただきますわ!」
見た目は青いのに、りんご風味の潮風シャーベットを堪能した。ニエルはこっそり潮風プリンを十個買い込み、フレデリカには「探偵は頭を使うと糖分を欲するものなんだよ」と必死に誤魔化していた。
これから映画を見に行くというフレデリカとミゲルに別れを告げ、ユージンはニエルと肩を並べて、カフェの四軒隣にある、シークエンス家のそばにある小さな公園を目指す。
「ヒーラーの居所は掴めないけど、ルパートさんを張っていたら、なにか手がかりが見つかるかもな」
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