185 / 353
第二章 第六節 奇跡
17 告白
しおりを挟む
結局その日は何を言っても何をしても、シャンタルの反応はないままであった。
仕方なく、また次回ということで、2人はマユリアの客室から辞した。
「あいつが反応することがこの先あるのかねえ……」
「ええ……」
ミーヤもトーヤの遠慮のない言い方に同意する。
本当に目の前にいるのが生き神、とは言っても生きている人間とは思えなかった。
「まあ、やれってんだからやるしかないか。これも報酬のうちに入ってることだしな」
ミーヤは返事に困ったように、黙ってトーヤと並んで部屋へと戻っていく。
トーヤとミーヤがシャンタルと会話をしようと四苦八苦している間、リルはダルと2人でダルに与えられた部屋にいて、とうとう思い切った行動に出ていた。
この思いはもう表に出してしまうしかない、そう思った上の決心であった。
「あ、あの、ダル様……」
「はい?」
「あ、あの……私のこと、どう、思ってらっしゃいます?」
「え?」
いきなり聞かれてダルが困ってしまう。
「あの、どうと言われても……うーん、そうだなあ……すごくよくしてくれてると思います。いつもありがとうございます」
細長い体をひょこっと折って頭を下げる。
「あ、あの、こちらこそ……ダル様のおかげでマユリアや、私の立場ではお会いできないはずのシャンタルにもお目にかかれて、その他にも色々と感謝の気持ちしかございません。ありがとうございます」
リルも、決して低くはない背を折って同じようにおじぎをする。
「なんか、おかしいですね」
頭をあげようとしたらリルも頭を下げていて、ダルがつい笑う。
「そうですね……」
2人で顔を合わせて一緒に笑う。
「いやあ、本当にいつもお世話になってます。俺みたいのの世話係やらされて、大変でしょう?」
「いえ、トーヤ様に比べれ……あ……」
「そりゃそうだ」
ついこぼれた本音にまた一緒に笑った。
「ダル様」
「はい?」
「あの、あの……私は、ミーヤとは違って、行儀見習いを終えたら宮を辞して、そしてどこかに嫁ぐようにと父に言われております」
「ああ、言ってたね」
「はい……それで、それで、あの……」
リルは一呼吸吸うと思い切って言った。
「あの、私は、あの、もしも、どこかに嫁ぐのなら……ダル様のところであれば幸せなのにと思いました!」
「え?」
ダルは、一瞬何を言っているのかと思って動きを止めたが、
「えっと、あの、それ、あの……」
そう言って黙ってしまった。
しばらく沈黙が続いた。
リルにとっては重い時間であった。
「あの、リルさん……」
ようやくダルが口を開いた。
「ありがとう……俺、女の人からそんな風に言われたことがないからびっくりしてしまって、あの、ありがとう、とてもうれしいです」
「あの、では……」
「だけど、ごめんなさい、俺、好きな子がいるんです」
リルは返事もできないまま、その場に立ち尽くした。
「幼馴染で、あの、まだ何か言ったわけじゃないけど、あの、いつか、一緒になれたらなあ、とずっと思ってて、あの……いや、何か言ったわけじゃないんだけど、あの、そういうことなんです……」
リルはそのまま、しばらく立ったまま動かなかったが、やがて……
「あの……あの、まだその方と何か、約束とかされているわけではないんですよね……」
「うん、あっちが俺のことどう思ってるかとか全然分からない」
「でしたら、でしたら、あの、私とのことも一度考えてはいただけないでしょうか」
「え?」
「あの、私……殿方にこうして親しくしていただいたこともなく、いつか、父が決めた方の元に嫁ぐのだろう、そう思ってまいりました」
「そうなの」
「はい。だから、その、どなたかを、こんなに愛しいと思うようなこと、自分にはないのだ、と……ですから、です、から……」
そう言った後、リルはぽろぽろと涙を流して言葉を消してしまった。
「あ、あの……」
ダルはポケットからハンカチを出すとリルに渡した。
リルは黙って受け取ると、静かに泣き続けた。
「どうしても、どうしてもだめでしょうか……あの、私……」
しばらくして、ダルが渡したハンカチを顔にあてながらやっとのように言う。
「うーん……」
ダルはダルで困ってしまっていた。
ダルは物心ついた頃からずっとアミのことが好きであった。
アミが自分をどう思っているのかは分からないが、いつか、自分が一人前になったらと、ずっと思ってはいたのだ。いたが、そういう勇気もないまま今日まできてしまった。
そんな自分に、まさかこんな美人で上品で、しかも大商会のお嬢様が好きだと言ってくれるとは、思ったこともなかった。想像もできない事態にどうしていいものかと困り切っていた。
ダルは誠実な性格だ。適当な言葉をつないでこの場を乗り切ることなど思いもつかない。
なんとか自分の考えをまとめて、リルの思いに真面目に答えようと言葉を探していた。
仕方なく、また次回ということで、2人はマユリアの客室から辞した。
「あいつが反応することがこの先あるのかねえ……」
「ええ……」
ミーヤもトーヤの遠慮のない言い方に同意する。
本当に目の前にいるのが生き神、とは言っても生きている人間とは思えなかった。
「まあ、やれってんだからやるしかないか。これも報酬のうちに入ってることだしな」
ミーヤは返事に困ったように、黙ってトーヤと並んで部屋へと戻っていく。
トーヤとミーヤがシャンタルと会話をしようと四苦八苦している間、リルはダルと2人でダルに与えられた部屋にいて、とうとう思い切った行動に出ていた。
この思いはもう表に出してしまうしかない、そう思った上の決心であった。
「あ、あの、ダル様……」
「はい?」
「あ、あの……私のこと、どう、思ってらっしゃいます?」
「え?」
いきなり聞かれてダルが困ってしまう。
「あの、どうと言われても……うーん、そうだなあ……すごくよくしてくれてると思います。いつもありがとうございます」
細長い体をひょこっと折って頭を下げる。
「あ、あの、こちらこそ……ダル様のおかげでマユリアや、私の立場ではお会いできないはずのシャンタルにもお目にかかれて、その他にも色々と感謝の気持ちしかございません。ありがとうございます」
リルも、決して低くはない背を折って同じようにおじぎをする。
「なんか、おかしいですね」
頭をあげようとしたらリルも頭を下げていて、ダルがつい笑う。
「そうですね……」
2人で顔を合わせて一緒に笑う。
「いやあ、本当にいつもお世話になってます。俺みたいのの世話係やらされて、大変でしょう?」
「いえ、トーヤ様に比べれ……あ……」
「そりゃそうだ」
ついこぼれた本音にまた一緒に笑った。
「ダル様」
「はい?」
「あの、あの……私は、ミーヤとは違って、行儀見習いを終えたら宮を辞して、そしてどこかに嫁ぐようにと父に言われております」
「ああ、言ってたね」
「はい……それで、それで、あの……」
リルは一呼吸吸うと思い切って言った。
「あの、私は、あの、もしも、どこかに嫁ぐのなら……ダル様のところであれば幸せなのにと思いました!」
「え?」
ダルは、一瞬何を言っているのかと思って動きを止めたが、
「えっと、あの、それ、あの……」
そう言って黙ってしまった。
しばらく沈黙が続いた。
リルにとっては重い時間であった。
「あの、リルさん……」
ようやくダルが口を開いた。
「ありがとう……俺、女の人からそんな風に言われたことがないからびっくりしてしまって、あの、ありがとう、とてもうれしいです」
「あの、では……」
「だけど、ごめんなさい、俺、好きな子がいるんです」
リルは返事もできないまま、その場に立ち尽くした。
「幼馴染で、あの、まだ何か言ったわけじゃないけど、あの、いつか、一緒になれたらなあ、とずっと思ってて、あの……いや、何か言ったわけじゃないんだけど、あの、そういうことなんです……」
リルはそのまま、しばらく立ったまま動かなかったが、やがて……
「あの……あの、まだその方と何か、約束とかされているわけではないんですよね……」
「うん、あっちが俺のことどう思ってるかとか全然分からない」
「でしたら、でしたら、あの、私とのことも一度考えてはいただけないでしょうか」
「え?」
「あの、私……殿方にこうして親しくしていただいたこともなく、いつか、父が決めた方の元に嫁ぐのだろう、そう思ってまいりました」
「そうなの」
「はい。だから、その、どなたかを、こんなに愛しいと思うようなこと、自分にはないのだ、と……ですから、です、から……」
そう言った後、リルはぽろぽろと涙を流して言葉を消してしまった。
「あ、あの……」
ダルはポケットからハンカチを出すとリルに渡した。
リルは黙って受け取ると、静かに泣き続けた。
「どうしても、どうしてもだめでしょうか……あの、私……」
しばらくして、ダルが渡したハンカチを顔にあてながらやっとのように言う。
「うーん……」
ダルはダルで困ってしまっていた。
ダルは物心ついた頃からずっとアミのことが好きであった。
アミが自分をどう思っているのかは分からないが、いつか、自分が一人前になったらと、ずっと思ってはいたのだ。いたが、そういう勇気もないまま今日まできてしまった。
そんな自分に、まさかこんな美人で上品で、しかも大商会のお嬢様が好きだと言ってくれるとは、思ったこともなかった。想像もできない事態にどうしていいものかと困り切っていた。
ダルは誠実な性格だ。適当な言葉をつないでこの場を乗り切ることなど思いもつかない。
なんとか自分の考えをまとめて、リルの思いに真面目に答えようと言葉を探していた。
0
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる