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第二章 第六節 奇跡
16 仲良し
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マユリアの客室に着くと侍女たちは輿を持って下がってしまった。
室内の奥にあるソファにシャンタルが静かに座っていた。
その手前のテーブルのところにある椅子に座るようにとマユリアがトーヤとミーヤに言った。そう言っておいて自分はシャンタルの隣に並んで座る。
「よう、どういうつもりだよ」
「何がですか?」
「慣れてくれって、あんな大げさにみんな集めてやる必要ねえだろ? 俺に慣らしたけりゃ俺だけ呼んだらいいんじゃねえのか?」
「さっきも申しましたでしょ? トーヤだけでは心もとない、と。さきほどもいきなりシャンタルを抱き上げたりなさってましたしね」
そう言いながらもマユリアが楽しそうに笑う。
「お小さい頃は侍女の誰かに抱き上げられてお出ましになったりもなさっていましたが、今ほど長じられてからは初めてでしょうね。驚かれたことでしょう?」
シャンタルにそう話しかけるが反応はない。
「本当にそれだけか?」
「ええ、そうですよ」
「まあいいや。どっちにしても今話せることしか話さねえんだろうしな」
「よく分かっているではありませんか」
またクスリと笑う。
「そんで、仲良くなるために俺は何すりゃいいんだ?」
「わたくしには分かりません。ミーヤ、どうしたら良いと思います? フェイはどうしていました?」
「あ、はい……」
ミーヤは目の前、本当にすぐそこに座っているシャンタルに緊張しながらもぼつぼつと話しだした。
「あの、トーヤが……あっ……」
「どうしました?」
「いえ、あの……」
「もういいだろう、しゃちこばらずにいつも呼んでるみたいに呼べば」
「ええ……」
そう、あまりの状況に「様」をつけずにいつものように呼び捨てにしてしまっていた。謁見の間からずっとだと今やっと気が付いた。
「そうですね……トーヤがフェイに名前や年、他に好きなものとかあるのかとか、色々質問をしていました。初めて会った時です」
「ああ、そういやそうだったかな」
「では、それから」
「って、おい、マジかよ?」
「ええ、マジ、ですが?」
トーヤの言い方を真似してまたクスクス笑う。
「そう言われてもなあ……」
そう言いながらも試してみる。
「よう、名前は?」
「…………」
「何歳だ?」
「…………」
「だめだな……」
何を聞いても反応がない。
「こいつ、聞いてんのかよ?」
「お聞きになっておられますよ。前にトーヤもよく分かったのではないですか?」
「ああ、嫌ってほどな……」
初めて目が合った時のことだ。
「そんじゃどうすりゃ言葉が通じるんだよ?」
「それを見つけるのがトーヤの仕事なのだと思いますよ」
「無茶言ってくれるぜ……」
はあっとため息をつく。
「そんで、それを見つけるためにこのお茶会ごっこを続けろってことなんだな?」
「ええ、お願いしますね」
「ってか、もういいんじゃねえのか、このままで」
「このまま、とは?」
「はっきり言うが生きてんのかどうかも分かんねえこのままだよ。その方が連れて逃げるにも大人しくて助かる」
「いいえ、シャンタルにはちゃんとトーヤと仲良くなっていただかないと困ります」
「なんでだよ。さっきみたいにさっと抱えてさっと連れ出しゃそれが楽だろ?」
「だめです」
珍しく厳しい言い方できっぱりと言う。
「それではシャンタルは……」
「シャンタルは?」
トーヤに聞かれてもマユリアは後は黙ったままだ。
「話せない時は沈黙、か?」
「ええ……」
「分かった、じゃあ聞かねえが、それでも仲良しになっとかないといけねえってことだよな? 合ってるか?」
「はい……」
「そんじゃ仲良くするとするか」
そう言ってミーヤに、
「あんたも色々話してやれよ」
「え、わ、私がですか?」
「そうだ」
「そ、そんな、シャンタルに話しかけるなんて恐れ多い……」
「違うぞ」
トーヤがピシャリと言う。
「ここにいるのは10歳の子供だ、それもお友達のいない大人しいな。あんたは大人としてこの子と仲良くしてこの子がみんなとも仲良くできるようにしてやらねえといけねえ。なあ、マユリア」
「ええ、そうです」
「な? だからどんどん話してやれ、俺よりあんたの方が適任だ」
「で、でも……」
「もちろん最終的には俺に慣れてくれることが目標だ、そのために手伝ってくれ」
そこまで言われては自分も覚悟を決めるしかない。
「分かりました、お手伝いします」
「それでこそだ」
「ミーヤ、お願いしますね」
マユリアにまでそう頼まれてしまう。
「は、はい……では、あの……シャ、シャンタル」
「そうだ、その調子だ」
「あの、ご、ご趣味は?」
まるで見合いの時のような質問にトーヤが吹き出す。
「どうして笑うのでしょう」
一生懸命やっているのに、とミーヤが少しふくれっ面をする。
「それでこそいつものあんただ、いや、いい、それでいい。いや、それがいい」
「もう! あなたという方は本当にいつもいつも、あっ……」
ケラケラと笑うトーヤに思わず言ってしまってからハッとする。そうだった、マユリアと、そしてあろうことか唯一の神シャンタルの前であった。トーヤの雰囲気に飲まれていつものように返してしまっていた……
室内の奥にあるソファにシャンタルが静かに座っていた。
その手前のテーブルのところにある椅子に座るようにとマユリアがトーヤとミーヤに言った。そう言っておいて自分はシャンタルの隣に並んで座る。
「よう、どういうつもりだよ」
「何がですか?」
「慣れてくれって、あんな大げさにみんな集めてやる必要ねえだろ? 俺に慣らしたけりゃ俺だけ呼んだらいいんじゃねえのか?」
「さっきも申しましたでしょ? トーヤだけでは心もとない、と。さきほどもいきなりシャンタルを抱き上げたりなさってましたしね」
そう言いながらもマユリアが楽しそうに笑う。
「お小さい頃は侍女の誰かに抱き上げられてお出ましになったりもなさっていましたが、今ほど長じられてからは初めてでしょうね。驚かれたことでしょう?」
シャンタルにそう話しかけるが反応はない。
「本当にそれだけか?」
「ええ、そうですよ」
「まあいいや。どっちにしても今話せることしか話さねえんだろうしな」
「よく分かっているではありませんか」
またクスリと笑う。
「そんで、仲良くなるために俺は何すりゃいいんだ?」
「わたくしには分かりません。ミーヤ、どうしたら良いと思います? フェイはどうしていました?」
「あ、はい……」
ミーヤは目の前、本当にすぐそこに座っているシャンタルに緊張しながらもぼつぼつと話しだした。
「あの、トーヤが……あっ……」
「どうしました?」
「いえ、あの……」
「もういいだろう、しゃちこばらずにいつも呼んでるみたいに呼べば」
「ええ……」
そう、あまりの状況に「様」をつけずにいつものように呼び捨てにしてしまっていた。謁見の間からずっとだと今やっと気が付いた。
「そうですね……トーヤがフェイに名前や年、他に好きなものとかあるのかとか、色々質問をしていました。初めて会った時です」
「ああ、そういやそうだったかな」
「では、それから」
「って、おい、マジかよ?」
「ええ、マジ、ですが?」
トーヤの言い方を真似してまたクスクス笑う。
「そう言われてもなあ……」
そう言いながらも試してみる。
「よう、名前は?」
「…………」
「何歳だ?」
「…………」
「だめだな……」
何を聞いても反応がない。
「こいつ、聞いてんのかよ?」
「お聞きになっておられますよ。前にトーヤもよく分かったのではないですか?」
「ああ、嫌ってほどな……」
初めて目が合った時のことだ。
「そんじゃどうすりゃ言葉が通じるんだよ?」
「それを見つけるのがトーヤの仕事なのだと思いますよ」
「無茶言ってくれるぜ……」
はあっとため息をつく。
「そんで、それを見つけるためにこのお茶会ごっこを続けろってことなんだな?」
「ええ、お願いしますね」
「ってか、もういいんじゃねえのか、このままで」
「このまま、とは?」
「はっきり言うが生きてんのかどうかも分かんねえこのままだよ。その方が連れて逃げるにも大人しくて助かる」
「いいえ、シャンタルにはちゃんとトーヤと仲良くなっていただかないと困ります」
「なんでだよ。さっきみたいにさっと抱えてさっと連れ出しゃそれが楽だろ?」
「だめです」
珍しく厳しい言い方できっぱりと言う。
「それではシャンタルは……」
「シャンタルは?」
トーヤに聞かれてもマユリアは後は黙ったままだ。
「話せない時は沈黙、か?」
「ええ……」
「分かった、じゃあ聞かねえが、それでも仲良しになっとかないといけねえってことだよな? 合ってるか?」
「はい……」
「そんじゃ仲良くするとするか」
そう言ってミーヤに、
「あんたも色々話してやれよ」
「え、わ、私がですか?」
「そうだ」
「そ、そんな、シャンタルに話しかけるなんて恐れ多い……」
「違うぞ」
トーヤがピシャリと言う。
「ここにいるのは10歳の子供だ、それもお友達のいない大人しいな。あんたは大人としてこの子と仲良くしてこの子がみんなとも仲良くできるようにしてやらねえといけねえ。なあ、マユリア」
「ええ、そうです」
「な? だからどんどん話してやれ、俺よりあんたの方が適任だ」
「で、でも……」
「もちろん最終的には俺に慣れてくれることが目標だ、そのために手伝ってくれ」
そこまで言われては自分も覚悟を決めるしかない。
「分かりました、お手伝いします」
「それでこそだ」
「ミーヤ、お願いしますね」
マユリアにまでそう頼まれてしまう。
「は、はい……では、あの……シャ、シャンタル」
「そうだ、その調子だ」
「あの、ご、ご趣味は?」
まるで見合いの時のような質問にトーヤが吹き出す。
「どうして笑うのでしょう」
一生懸命やっているのに、とミーヤが少しふくれっ面をする。
「それでこそいつものあんただ、いや、いい、それでいい。いや、それがいい」
「もう! あなたという方は本当にいつもいつも、あっ……」
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