11 / 24
11. 誇りを肯定してくれた人「ユリウス視点」
しおりを挟む
伯爵邸を出て、馬車に乗り込む。
扉が閉まり、静寂が訪れた。
私は目を閉じ、今日の時間を思い返す。
――エリシア・フロレンティア。
穏やかな瞳の伯爵令嬢。
正直に言えば。
私は今日、彼女が“素敵な女性だといい”と思って訪ねた。
高位貴族としての釣り合い。
魔力の安定性。
家格。
それはもちろん大切だ。
だがそれ以上に、
父の背中を見て育った私にとって、結婚相手は――
誇りを共有できる人であってほしかった。
⸻
魔術は、国を守る力だ。
王都を覆う結界。
辺境の防衛陣。
災害を抑える制御式。
すべて、魔術師団の仕事。
父は常に言っていた。
「剣が表の盾なら、魔術は見えぬ盾だ」
私はそれを誇りに思っている。
だが。
女性の多くは、魔術に無関心だ。
難しい。
危険。
退屈。
話をすれば、微笑みはする。
けれど瞳が離れる。
興味がないことは、すぐにわかる。
だから今日も、少しだけ不安だった。
もし彼女もそうなら――
それでも構わない、と。
そう思っていたはずなのに。
⸻
制御が得意と彼女がそう言ったとき。
私は、嬉しかった。
魔力について興味があるのかと思ってしまった。
話し出したら、熱が入った。
理論を語った。
安定型保持者の素晴らしい点を説明した。
魔術式についても話してしまった。
……止まらなかった。
気づけば身を乗り出していた。
しまった、と思った。
令嬢にする話ではない。
退屈に違いない。
だが。
彼女は怒らなかった。
ただ静かに、聞いていた。
優しく。
まるでそれが大切な話だと知っているかのように。
⸻
「魔術がお好きなのですね」
あの言葉。
嘲りも、社交辞令もない。
純粋な問い。
そして。
「好きなものに真剣な方は、尊敬できます」
胸が、わずかに熱くなった。
尊敬。
魔術に対して向けられた言葉。
私は、父の背を思い出す。
夜遅くまで研究室に籠る姿。
結界の修復で疲れた横顔。
それを誇りだと思って育った。
だがそれを、女性から尊敬されたことは――
ほとんどなかった。
⸻
「……なんて優しい方だ」
思わずつぶやく。
興味のない話を、退屈な顔もせず聞いてくれる。
それだけで、どれほど救われるか。
魔術は国を守る力だ。
だが魔術師は、時に孤独だ。
理解されにくい。
熱を語れば変わり者扱い。
それを。
彼女は、まるごと受け止めた。
⸻
彼女は素敵な人だった。
あの人となら。
……いや。
何を考えている。
私は首を振る。
こんな感情は知らない。
だが。
「……もう一度、会いたい」
⸻
馬車の窓の外、夕日が沈む。
紫がかった光が空を染める。
あの瞳を思い出す。
穏やかで、優しい。
魔術の話をしても、離れなかった瞳。
ただ。
あの人が、私の誇りを肯定してくれた。
それが、嬉しかった。
扉が閉まり、静寂が訪れた。
私は目を閉じ、今日の時間を思い返す。
――エリシア・フロレンティア。
穏やかな瞳の伯爵令嬢。
正直に言えば。
私は今日、彼女が“素敵な女性だといい”と思って訪ねた。
高位貴族としての釣り合い。
魔力の安定性。
家格。
それはもちろん大切だ。
だがそれ以上に、
父の背中を見て育った私にとって、結婚相手は――
誇りを共有できる人であってほしかった。
⸻
魔術は、国を守る力だ。
王都を覆う結界。
辺境の防衛陣。
災害を抑える制御式。
すべて、魔術師団の仕事。
父は常に言っていた。
「剣が表の盾なら、魔術は見えぬ盾だ」
私はそれを誇りに思っている。
だが。
女性の多くは、魔術に無関心だ。
難しい。
危険。
退屈。
話をすれば、微笑みはする。
けれど瞳が離れる。
興味がないことは、すぐにわかる。
だから今日も、少しだけ不安だった。
もし彼女もそうなら――
それでも構わない、と。
そう思っていたはずなのに。
⸻
制御が得意と彼女がそう言ったとき。
私は、嬉しかった。
魔力について興味があるのかと思ってしまった。
話し出したら、熱が入った。
理論を語った。
安定型保持者の素晴らしい点を説明した。
魔術式についても話してしまった。
……止まらなかった。
気づけば身を乗り出していた。
しまった、と思った。
令嬢にする話ではない。
退屈に違いない。
だが。
彼女は怒らなかった。
ただ静かに、聞いていた。
優しく。
まるでそれが大切な話だと知っているかのように。
⸻
「魔術がお好きなのですね」
あの言葉。
嘲りも、社交辞令もない。
純粋な問い。
そして。
「好きなものに真剣な方は、尊敬できます」
胸が、わずかに熱くなった。
尊敬。
魔術に対して向けられた言葉。
私は、父の背を思い出す。
夜遅くまで研究室に籠る姿。
結界の修復で疲れた横顔。
それを誇りだと思って育った。
だがそれを、女性から尊敬されたことは――
ほとんどなかった。
⸻
「……なんて優しい方だ」
思わずつぶやく。
興味のない話を、退屈な顔もせず聞いてくれる。
それだけで、どれほど救われるか。
魔術は国を守る力だ。
だが魔術師は、時に孤独だ。
理解されにくい。
熱を語れば変わり者扱い。
それを。
彼女は、まるごと受け止めた。
⸻
彼女は素敵な人だった。
あの人となら。
……いや。
何を考えている。
私は首を振る。
こんな感情は知らない。
だが。
「……もう一度、会いたい」
⸻
馬車の窓の外、夕日が沈む。
紫がかった光が空を染める。
あの瞳を思い出す。
穏やかで、優しい。
魔術の話をしても、離れなかった瞳。
ただ。
あの人が、私の誇りを肯定してくれた。
それが、嬉しかった。
235
あなたにおすすめの小説
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
能天気な私は今日も愛される
具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。
はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。
※表紙はAI画像です
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる