女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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12. 英雄は穏やかな令嬢に驚く「リュシアン視点」

王宮からの正式な打診を受けたとき。

正直、半分は冗談だと思った。

――高位貴族の令嬢との縁談。

俺はリュシアン・アルヴェルト。

騎士爵家の息子。

……いや、正確には養子だ。

孤児院育ち。

魔力の素養があると判明し、騎士爵家に引き取られた。

そのまま騎士となり、辺境へ。

魔物討伐で名が広まり、

いつの間にか“英雄”なんて呼ばれるようになった。

望んだわけじゃない。

ただ、守りたかっただけだ。



問題は、その後だった。

近隣の男爵家の令嬢から、露骨な求婚。

その男爵は――

かつて俺がいた孤児院を、
「無駄な出費だ」と閉鎖しようとしていた領主だ。

子どもたちを、切り捨てようとした人間。

その家と縁続きになる気は、ない。

だから王宮に願い出た。

「高位貴族の令嬢との縁談を希望します」

半分は逃げだ。

男爵家の圧力を断ち切るための。

正直、通るとは思っていなかった。

なのに。

紹介された相手は――

エリシア・フロレンティア伯爵令嬢。



伯爵邸の応接室。

扉が開き、彼女が入ってきた瞬間。

俺は、少しだけ息を呑んだ。

柔らかな金の髪。
穏やかな瞳。
静かな佇まい。

……優しそうだ。

それが第一印象だった。

高位令嬢といえば、
もっと華やかで、鋭くて、
“英雄”という肩書きを値踏みする目を向けるものだと思っていた。

けれど彼女は違った。

「本日はお越しいただき、ありがとうございます」

微笑みは自然で。

作り物ではない。



「辺境でのご活躍、お聞きしました」

そう言われ、少し照れる。

英雄、という言葉はいまだに慣れない。

「大したことはしていません」

「いいえ。素晴らしいと思います」





少しだけ、試すように言ってみる。

「……孤児院の支援も、あの地域では難しいのが現状です」

彼女は驚かなかった。

ただ、真剣に聞いた。

「子どもたちは、今もそこに?」

「ええ」

「守りたいのですね」

その一言に、胸が熱くなる。

守りたい。

それだけだ。

名声も、爵位も、いらない。

ただ。

あの場所だけは。



「素敵です」

彼女は、そう言った。

英雄だから、ではない。

強いから、でもない。

守りたいと思う心が。

素敵だと。

俺は言葉を失った。

高位貴族の令嬢が。

養子で、孤児院育ちの私に。

そんな目を向けるとは思わなかった。



(……うまくいくとは思っていなかった)

正直、形式だけの見合いのつもりだった。

断られてもいい。
男爵家への牽制になれば十分。

それだけのはずだったのに。

「また、お話を聞かせてください」

彼女が言う。

優しく。

静かに。


――なんて、穏やかな人なんだ。



俺は小さく笑う。

「ええ。またお話させてください」

それが自然に出た言葉だった。



帰りの馬車。

私は窓の外を見る。

夕陽が差し込む。

(……驚いたな)

高位貴族の令嬢は、遠い存在だと思っていた。

けれど彼女は、違った。

後で知るよりもと、知っているかもしれないが、平民の孤児出身の過去を話した。
私の過去を知っても、揺れなかった。

軽蔑も、同情もない。

ただ、まっすぐ。

あんな人となら。

肩書きではなく、
自分として向き合えるかもしれない。

「……困ったな」

これは政略のための見合いだったはずだ。

なのに。

また会いたい、と思っている。

穏やかな令嬢に

英雄は、静かに心を揺らしていた。
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