女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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18. 視える想いと、選ばない理由

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今宵の社交会は、先日の春の社交会よりも落ち着いた雰囲気だった。

それでも。

視線は集まる。

一妻多夫のこの国では、女性は選ぶ側。

けれど――選ばれたいと願う男性も、
選ばれたいと競う女性もいる。


「ユリウス様」

聞き覚えのある声に、思わず視線を向けた。

あの男爵令嬢。

以前、私に“魔力だけですわね”と微笑んだ彼女だ。



ユリウス様の腕に、さりげなく触れている。

「ごきげんよう。先日はゆっくりお話もできませんでしたわね?」

甘く、絡めるような声音。


ユリウス様は静かに視線を落とし、
触れられた手を自然な動作で外した。 


「申し訳ありません。記憶にございません」

にこり、と微笑む。

完璧な社交辞令。

だが――温度がない。


「まあ、そんな」

男爵令嬢は笑う。

「では今夜、改めてご縁を深めさせていただけませんこと?」

一歩、距離を詰める。

周囲の視線が集まる。


けれどユリウスは微動だにしない。

「恐れ入りますが」

柔らかい声。

「私は本日、エリシア嬢とお話しするために参りました」

はっきりと。 


男爵令嬢の笑みがわずかに固まる。

「ですが、殿方は多くのご縁をお持ちになるものでは?」


ユリウスは微笑んだ。

「“持つ”ものではなく、“結ぶ”ものです」 


男爵令嬢の扇子が止まる。

「数を誇る趣味はございません」

そのまま静かに続ける。

「心が動かぬご縁を、増やす意味も」

一瞬の沈黙。

笑みは崩れない。

だが温度はない。


一瞬の沈黙。

それは、優雅な拒絶だった。

男爵令嬢は悔しさを押し隠し、こちらをきっと睨んだ後、足早に去っていく。



私は思わず呟いてしまった。

「……意外です」

「何がでしょう」

「女性に、あのように冷たくなさるのですね」

ユリウスは、わずかに首を傾げた。

「冷たく?」

「もう少し、優しくかわされるのかと」 


彼は小さく息を吐く。

「無意味な期待を持たせるほうが残酷です」

その声音は穏やかだ。

けれど、はっきりしている。

「私は魔力の流れから、感情の質がある程度視えます」

「感情の……質?」

「ええ」

彼の紫がかった瞳が、静かに細められる。

「先ほどの令嬢は、強い気質の感情をお持ちです」

私は少し驚く。

「そうなのですか?」

「ただし」

わずかに声音が低くなる。

「“奪う”性質の魔力です」

胸が、どきりとする。

「相手をものにする。自分を好かせる。勝ち取る」

淡々と続ける。


「そのような感情の色は、寄子の貴族家の令嬢で見慣れております」

寄子。

ユリウス様の家に連なる家々。

競争と野心が渦巻く環境。

「皆が私を好くべきだ、という魔力」


微笑む。

だがその目は、冷えている。

「嫌いではありません。努力の結果でしょう」

一拍。


「ですが、好みではありません」

きっぱりと。

迷いがない。

私はそっと尋ねる。

「では……どのような方が、お好きなのですか?」

自分で聞いておきながら、心臓が高鳴る。 


ユリウスは一瞬、私を見る。

その視線は、先ほどまでとは違う。

柔らかく、静かだ。

「穏やかな方」

「……」

「自分の価値を声高に叫ばなくとも、自然に周囲を和ませる方」

胸が熱くなる。

「あなたの魔力は」

そっと告げる。

「澄んでおります」

息が止まる。

「誰かを押しのける色ではない」

ほんのわずかに、微笑んだ。

「安心できる色です」

その言葉に、胸の奥がほどける。 


先日の男爵令嬢の言葉が、
静かに消えていく。

魔力だけ。

そう言われたことが、少しだけ引っかかっていた。

けれど。

「私は、あなたのような方を選びたいと思う」

ユリウスの声は、静かで揺るがない。

「競り落とすような関係は、望みません」

私はようやく気づく。

彼は冷たいのではない。

選ばないものを、はっきり選ばないだけ。

そして。

「……安心いたしました」

素直にそう言うと、

ユリウスはわずかに目を細めた。

「何に対してですか?」

「ユリウス様が、誰にでも同じではないことに」

ほんの少しの沈黙。

それから。

「当然です」

静かに。

「私が会いに来たのは、あなたですから」

社交会の灯りの下。

初めて知る。

ユリウス様の一面に、胸がどきりとした。
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