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第20章『ご近所ハーレム、はじめました!?』
ベランダ越しの恋と、風邪引きの夜
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AM 8:00 - ベランダは恋の最前線
ご近所ハーレム生活が始まって数日。俺の日常は、平穏と修羅場が交互に押し寄せる奇妙なリズムを刻み始めていた。
その日も、朝から穏やかじゃない。
「ふぅ……やっぱり晴れた日の洗濯は気持ちいいな」
俺がベランダで洗濯物を干していると、まるで示し合わせたかのように、隣の202号室の窓がガラッと開いた。
「コウくーん、おはよー! いい天気だね! 今日も一日、推し活がんばるぞー!」
ヘッドホンを首にかけたメグが、満面の笑みでぶんぶんと手を振ってくる。うん、朝から元気で何よりだ。
「おはよう、メグ。そっちも洗濯か?」
「ううん、推しのポスターを天日干ししようと思って! 湿気は大敵だからね!」
「ポスターを天日干し……? それ、色褪せないか?」
「大丈夫! UVカットフィルム貼ってあるから!」
オタクの情熱は時として科学の領域に踏み込むらしい。俺が感心していると、今度は頭上から、少しだけ不機嫌な、しかし鈴の鳴るような声が降ってきた。
「……下の階は朝から騒がしいわね。もう少し静かにできないのかしら」
見上げると、3階のベランダから夜々先輩が布団をパンパンと叩きながら、こちらを見下ろしていた。今日の彼女は、部屋着だろうか。いつもよりラフな、シルクっぽい生地のガウンを羽織っている。その姿は、生活感があるはずなのに妙に色っぽくて、目のやり場に困る。
「あ、夜々先輩! おはようございます!」
メグが元気よく挨拶するが、夜々先輩はふんと鼻を鳴らした。
「おはよう。あなた、毎朝そんなに元気なのね。燃費が悪そう」
「先輩こそ、そんな優雅に布団叩いて……。実は夜、寂しくて眠れなかったりします?」
「するわけないでしょ! 私はいつでも安眠よ。……あなたと違って、壁越しにゲーム実況の絶叫が聞こえてくることもないし」
「うぐっ……! そ、それは、昨日のボス戦がアツすぎて……!」
バチチッ。
ベランダ越しに、また見えない火花が散る。俺はそっと視線を逸らし、空を見上げた。青い空が目に染みる。
(なんで俺、女子二人のマウント合戦を最前列で浴びてるんだ……?)
このアパート、壁はそれなりに厚いはずだが、ベランダに出れば当然声は聞こえる。つまり、物理的な距離の近さが、心の距離まで無理やり近づけてくるのだ。そしてそれは、甘いハプニングだけじゃなく、こういう小さな戦争も生み出す。
俺の平穏な日常は、もう洗濯物を干すことさえ、ラブコメイベントの一部と化してしまったのだった。
PM 5:00 - 風邪と、三人の乙女
季節の変わり目に、油断したのがいけなかった。
連日の大学の課題、Vtuberの収録、そしてこの騒がしいご近所ハーレム生活。俺の体は正直に悲鳴を上げたらしい。
「……38度2分。完全にアウトだな……」
体温計の数字を見て、俺はベッドに沈んだ。頭がガンガンする。喉も痛い。
「お兄ちゃん、大丈夫!? お粥作ったから、食べられる?」
ひよりが心配そうな顔で、お盆を手に部屋に入ってくる。その手際の良さは、さすが長年一緒に暮らしてきただけある。
「……悪い、ひより。食欲、あんまりなくて……」
「ううん、いいよ。食べられるときでいいから。それより、薬は? ポカリは?」
「そこに……」
俺が枕元の棚を指さすと、ひよりはテキパキと準備を始める。本当に頼りになる妹だ。
だが、そんな彼女のスマホが、無情にもアラームを鳴らした。
「あ……! 今日の収録……!」
ひよりはハッとした顔でスマホと俺の顔を交互に見た。今日の彼女は、事務所で大事な企業案件の収録が入っている。絶対に休めないやつだ。
「ごめん、お兄ちゃん……! 私、行かなきゃ……! でも……」
「いいから、行ってこい。俺は寝てれば治る」
「でも、一人は心配だよ……」
ひよりが唇を噛んだ、その時だった。
ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴った。ひよりが不思議そうな顔で玄関に向かうと、そこにはメグと夜々先輩が立っていた。
「ひよりちゃん、コウくんが学校休んだって聞いたけど、大丈夫?」
「天城くん、風邪を引いたそうね。お見舞いに来たわ」
二人の手には、それぞれポカリのペットボトルや果物の入った袋が握られていた。
その光景を見て、ひよりは一瞬だけ悔しそうな顔をしたが、すぐに何かを決意したように顔を上げた。
「……メグちゃん、夜々さん。お願いがあります」
「……私がいない間、少しだけ……お兄ちゃんのこと、見ててもらえませんか?」
それは、妹としての責任感と、恋する乙女としての嫉妬心がせめぎ合った末に出た、苦渋の決断だったに違いない。
PM 7:00 - 熱に浮かされる距離
ひよりが出て行ってから一時間後。
うつらうつらと浅い眠りを繰り返していた俺の部屋のドアが、そっと開いた。
「コウくーん、生きてるー? ゼリーとプリン、買ってきたよ!」
入ってきたのはメグだった。彼女は足音を忍ばせながらも、その声はいつものように明るい。
「……悪いな、メグ」
「いーのいーの! 困った時はお互い様でしょ! それに、推しが弱ってるところを見られるなんて、ちょっとレアだし……!」
不謹慎な本音が漏れてるぞ。
俺がぼんやりしていると、メグは濡らしたタオルを持ってきて、俺の額に乗せようとした。
「ほら、汗かいてる。拭いてあげるね」
「あ、いや、自分で……」
断ろうとしたが、熱で体がうまく動かない。メグの手が俺の額に触れ、冷たくて気持ちのいいタオルが汗を拭っていく。
その瞬間、メグの動きがぴたりと止まった。
「……」
「……メグ?」
「……うわっ、ちかっ! 顔、良っ! ていうか熱のせいで、なんか……色っぽくなってない!?」
突然、思考がダダ漏れになった。
(ここから、メグの一人称視点)
やばいやばいやばい!
なにこれ!? 額を拭いてるだけなのに、コウくんの顔がめちゃくちゃ近い!
しかも、熱でちょっと目が潤んでて、呼吸も少し荒くて……え、これって公式が提供してくれた最大級のご褒美イベントですか!?
いつもは爽やかなイケボなのに、今はちょっと掠れた弱々しい声……ギャップ萌えで心臓が爆発する!
あっ、待って、タオルずれた。もう一回……。
うわ、まつ毛長っ! 肌きれい! ほんとに男の子!?
ダメだ、これ以上見たら、理性が持たない! 私の中の“限界オタク”が「撮れ!この瞬間を脳に焼き付けろ!」って叫んでる!
(三人称視点に戻る)
「……メグさん? 顔、真っ赤だけど大丈夫か?」
「だ、だだだ、大丈夫! これは、その、部屋が暑いだけだから! じゃあ私、ポカリ置いとくから! また来るね!」
メグは叫ぶように言うと、バタバタと部屋を出て行った。嵐のようなお見舞いだった。
その三十分後。
今度は、ほとんど音もなくドアが開き、夜々先輩が静かに入ってきた。
手には小さな土鍋。ふわりと、出汁のいい香りがする。
「……少しは落ち着いた? お粥、作ってきたわよ。生姜を効かせた、卵のお粥。これなら食べられるでしょ」
そう言って、彼女は慣れた手つきで体温計を俺の脇に差し込み、氷枕の位置を直してくれた。その仕草には、年上ならではの落ち着きと包容力があった。
「ありがとうございます、先輩……」
「いいのよ。後輩が弱っているのを見過ごせないだけ」
そう言って微笑む夜々先輩は、本当に頼れるお姉さん、という感じだった。
……だが。
俺が寝返りを打った瞬間、無意識に、そばにあった彼女の手をぎゅっと握ってしまったらしい。
「っ……!」
夜々先輩の肩が、びくりと跳ねた。
(ここから、夜々の一人-称視点)
……なっ……!?
て、手を、握られた……!?
いや、違う。落ち着きなさい、私。彼は病人。熱に浮かされて、無意識に何かを掴んだだけ。そう、きっと枕か何かと間違えたのよ。
……でも。
あったかい。大きくて、ごつごつした、男の子の手。
弱々しいけど、確かに私を求めるように握られている。
顔が熱い。心臓がうるさい。さっきまでの冷静さはどこに行ったの。
ば、ばかね……。病人のくせに、こんな……無防備なこと……。
振りほどけない。だって、振りほどいたら、彼が……寂しそうな顔をするかもしれない。
……違う。私が、このぬくもりを、手放したくないだけ。
ああ、もう。本当に、ずるい男。
こんなふうに、いとも簡単に、私の“完璧な先輩”の仮面を剥がしていくんだから。
(三人称視点に戻る)
夜々先輩は、顔を真っ赤にしながらも、その手を振りほどくことはなかった。
俺が再び眠りに落ちるまで、彼女はただ静かに、その手を握り返していた。
夜9時。
ひよりが慌てた様子で帰ってきたとき、俺の部屋は静まり返っていた。
熱は少し下がり、俺は穏やかな寝息を立てていた。
テーブルの上には、メグが置いていったゼリーと、夜々先輩が作ったお粥の残りが綺麗に片付けられている。
「……二人とも、ありがとう」
ひよりは小さく呟くと、俺のベッドのそばに屈み込んだ。
そして、眠っている俺の額に、そっと自分の額を合わせた。
「……うん、熱、下がってきた」
安心したように微笑む。
「でも……お兄ちゃんの隣で、看病できるのは、やっぱり私の特権なんだから」
彼女はそう囁くと、俺の寝顔をじっと見つめた。
その瞳には、感謝と、安堵と、そしてほんの少しの独占欲が、静かに揺らめいていた。
壁一枚隔てた恋心は、風邪の熱と共に、さらに温度を上げていく。
このご近所ハーレムは、協力と競争を繰り返しながら、ゆっくりと、でも確実に、俺の心を溶かしていくのだった。
ご近所ハーレム生活が始まって数日。俺の日常は、平穏と修羅場が交互に押し寄せる奇妙なリズムを刻み始めていた。
その日も、朝から穏やかじゃない。
「ふぅ……やっぱり晴れた日の洗濯は気持ちいいな」
俺がベランダで洗濯物を干していると、まるで示し合わせたかのように、隣の202号室の窓がガラッと開いた。
「コウくーん、おはよー! いい天気だね! 今日も一日、推し活がんばるぞー!」
ヘッドホンを首にかけたメグが、満面の笑みでぶんぶんと手を振ってくる。うん、朝から元気で何よりだ。
「おはよう、メグ。そっちも洗濯か?」
「ううん、推しのポスターを天日干ししようと思って! 湿気は大敵だからね!」
「ポスターを天日干し……? それ、色褪せないか?」
「大丈夫! UVカットフィルム貼ってあるから!」
オタクの情熱は時として科学の領域に踏み込むらしい。俺が感心していると、今度は頭上から、少しだけ不機嫌な、しかし鈴の鳴るような声が降ってきた。
「……下の階は朝から騒がしいわね。もう少し静かにできないのかしら」
見上げると、3階のベランダから夜々先輩が布団をパンパンと叩きながら、こちらを見下ろしていた。今日の彼女は、部屋着だろうか。いつもよりラフな、シルクっぽい生地のガウンを羽織っている。その姿は、生活感があるはずなのに妙に色っぽくて、目のやり場に困る。
「あ、夜々先輩! おはようございます!」
メグが元気よく挨拶するが、夜々先輩はふんと鼻を鳴らした。
「おはよう。あなた、毎朝そんなに元気なのね。燃費が悪そう」
「先輩こそ、そんな優雅に布団叩いて……。実は夜、寂しくて眠れなかったりします?」
「するわけないでしょ! 私はいつでも安眠よ。……あなたと違って、壁越しにゲーム実況の絶叫が聞こえてくることもないし」
「うぐっ……! そ、それは、昨日のボス戦がアツすぎて……!」
バチチッ。
ベランダ越しに、また見えない火花が散る。俺はそっと視線を逸らし、空を見上げた。青い空が目に染みる。
(なんで俺、女子二人のマウント合戦を最前列で浴びてるんだ……?)
このアパート、壁はそれなりに厚いはずだが、ベランダに出れば当然声は聞こえる。つまり、物理的な距離の近さが、心の距離まで無理やり近づけてくるのだ。そしてそれは、甘いハプニングだけじゃなく、こういう小さな戦争も生み出す。
俺の平穏な日常は、もう洗濯物を干すことさえ、ラブコメイベントの一部と化してしまったのだった。
PM 5:00 - 風邪と、三人の乙女
季節の変わり目に、油断したのがいけなかった。
連日の大学の課題、Vtuberの収録、そしてこの騒がしいご近所ハーレム生活。俺の体は正直に悲鳴を上げたらしい。
「……38度2分。完全にアウトだな……」
体温計の数字を見て、俺はベッドに沈んだ。頭がガンガンする。喉も痛い。
「お兄ちゃん、大丈夫!? お粥作ったから、食べられる?」
ひよりが心配そうな顔で、お盆を手に部屋に入ってくる。その手際の良さは、さすが長年一緒に暮らしてきただけある。
「……悪い、ひより。食欲、あんまりなくて……」
「ううん、いいよ。食べられるときでいいから。それより、薬は? ポカリは?」
「そこに……」
俺が枕元の棚を指さすと、ひよりはテキパキと準備を始める。本当に頼りになる妹だ。
だが、そんな彼女のスマホが、無情にもアラームを鳴らした。
「あ……! 今日の収録……!」
ひよりはハッとした顔でスマホと俺の顔を交互に見た。今日の彼女は、事務所で大事な企業案件の収録が入っている。絶対に休めないやつだ。
「ごめん、お兄ちゃん……! 私、行かなきゃ……! でも……」
「いいから、行ってこい。俺は寝てれば治る」
「でも、一人は心配だよ……」
ひよりが唇を噛んだ、その時だった。
ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴った。ひよりが不思議そうな顔で玄関に向かうと、そこにはメグと夜々先輩が立っていた。
「ひよりちゃん、コウくんが学校休んだって聞いたけど、大丈夫?」
「天城くん、風邪を引いたそうね。お見舞いに来たわ」
二人の手には、それぞれポカリのペットボトルや果物の入った袋が握られていた。
その光景を見て、ひよりは一瞬だけ悔しそうな顔をしたが、すぐに何かを決意したように顔を上げた。
「……メグちゃん、夜々さん。お願いがあります」
「……私がいない間、少しだけ……お兄ちゃんのこと、見ててもらえませんか?」
それは、妹としての責任感と、恋する乙女としての嫉妬心がせめぎ合った末に出た、苦渋の決断だったに違いない。
PM 7:00 - 熱に浮かされる距離
ひよりが出て行ってから一時間後。
うつらうつらと浅い眠りを繰り返していた俺の部屋のドアが、そっと開いた。
「コウくーん、生きてるー? ゼリーとプリン、買ってきたよ!」
入ってきたのはメグだった。彼女は足音を忍ばせながらも、その声はいつものように明るい。
「……悪いな、メグ」
「いーのいーの! 困った時はお互い様でしょ! それに、推しが弱ってるところを見られるなんて、ちょっとレアだし……!」
不謹慎な本音が漏れてるぞ。
俺がぼんやりしていると、メグは濡らしたタオルを持ってきて、俺の額に乗せようとした。
「ほら、汗かいてる。拭いてあげるね」
「あ、いや、自分で……」
断ろうとしたが、熱で体がうまく動かない。メグの手が俺の額に触れ、冷たくて気持ちのいいタオルが汗を拭っていく。
その瞬間、メグの動きがぴたりと止まった。
「……」
「……メグ?」
「……うわっ、ちかっ! 顔、良っ! ていうか熱のせいで、なんか……色っぽくなってない!?」
突然、思考がダダ漏れになった。
(ここから、メグの一人称視点)
やばいやばいやばい!
なにこれ!? 額を拭いてるだけなのに、コウくんの顔がめちゃくちゃ近い!
しかも、熱でちょっと目が潤んでて、呼吸も少し荒くて……え、これって公式が提供してくれた最大級のご褒美イベントですか!?
いつもは爽やかなイケボなのに、今はちょっと掠れた弱々しい声……ギャップ萌えで心臓が爆発する!
あっ、待って、タオルずれた。もう一回……。
うわ、まつ毛長っ! 肌きれい! ほんとに男の子!?
ダメだ、これ以上見たら、理性が持たない! 私の中の“限界オタク”が「撮れ!この瞬間を脳に焼き付けろ!」って叫んでる!
(三人称視点に戻る)
「……メグさん? 顔、真っ赤だけど大丈夫か?」
「だ、だだだ、大丈夫! これは、その、部屋が暑いだけだから! じゃあ私、ポカリ置いとくから! また来るね!」
メグは叫ぶように言うと、バタバタと部屋を出て行った。嵐のようなお見舞いだった。
その三十分後。
今度は、ほとんど音もなくドアが開き、夜々先輩が静かに入ってきた。
手には小さな土鍋。ふわりと、出汁のいい香りがする。
「……少しは落ち着いた? お粥、作ってきたわよ。生姜を効かせた、卵のお粥。これなら食べられるでしょ」
そう言って、彼女は慣れた手つきで体温計を俺の脇に差し込み、氷枕の位置を直してくれた。その仕草には、年上ならではの落ち着きと包容力があった。
「ありがとうございます、先輩……」
「いいのよ。後輩が弱っているのを見過ごせないだけ」
そう言って微笑む夜々先輩は、本当に頼れるお姉さん、という感じだった。
……だが。
俺が寝返りを打った瞬間、無意識に、そばにあった彼女の手をぎゅっと握ってしまったらしい。
「っ……!」
夜々先輩の肩が、びくりと跳ねた。
(ここから、夜々の一人-称視点)
……なっ……!?
て、手を、握られた……!?
いや、違う。落ち着きなさい、私。彼は病人。熱に浮かされて、無意識に何かを掴んだだけ。そう、きっと枕か何かと間違えたのよ。
……でも。
あったかい。大きくて、ごつごつした、男の子の手。
弱々しいけど、確かに私を求めるように握られている。
顔が熱い。心臓がうるさい。さっきまでの冷静さはどこに行ったの。
ば、ばかね……。病人のくせに、こんな……無防備なこと……。
振りほどけない。だって、振りほどいたら、彼が……寂しそうな顔をするかもしれない。
……違う。私が、このぬくもりを、手放したくないだけ。
ああ、もう。本当に、ずるい男。
こんなふうに、いとも簡単に、私の“完璧な先輩”の仮面を剥がしていくんだから。
(三人称視点に戻る)
夜々先輩は、顔を真っ赤にしながらも、その手を振りほどくことはなかった。
俺が再び眠りに落ちるまで、彼女はただ静かに、その手を握り返していた。
夜9時。
ひよりが慌てた様子で帰ってきたとき、俺の部屋は静まり返っていた。
熱は少し下がり、俺は穏やかな寝息を立てていた。
テーブルの上には、メグが置いていったゼリーと、夜々先輩が作ったお粥の残りが綺麗に片付けられている。
「……二人とも、ありがとう」
ひよりは小さく呟くと、俺のベッドのそばに屈み込んだ。
そして、眠っている俺の額に、そっと自分の額を合わせた。
「……うん、熱、下がってきた」
安心したように微笑む。
「でも……お兄ちゃんの隣で、看病できるのは、やっぱり私の特権なんだから」
彼女はそう囁くと、俺の寝顔をじっと見つめた。
その瞳には、感謝と、安堵と、そしてほんの少しの独占欲が、静かに揺らめいていた。
壁一枚隔てた恋心は、風邪の熱と共に、さらに温度を上げていく。
このご近所ハーレムは、協力と競争を繰り返しながら、ゆっくりと、でも確実に、俺の心を溶かしていくのだった。
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