イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第2章『推しと推されて、恋の声が聞こえたら』

『恋人演技って、嘘なのに』

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 LinkLive本社スタジオ。

 配信直前の控室には、独特の緊張感が満ちていた。



 ペアで参加する演技対決――「恋人役演技力対決」の本番は、もうすぐ。

 俺は、控室の隅で水を飲みながら深呼吸を繰り返していた。



「レイくん、大丈夫そう?」



 声をかけてきたのは、今日のパートナー――星宮メアさん。

 中堅ながら固定ファンも多く、落ち着いた大人のお姉さん系Vtuberとして人気のある人物だ。



「はい、たぶん……」



「緊張するよね。私も最初は震えてたけど、声に気持ちを乗せるって、意外と楽しいよ」



 その“気持ち”って、どこまでが本物なんだろう。

 そう思ったが、口には出さなかった。



「ね、さっきのリハのやつだけど……“恋人設定”の入りは、もっと自然でいいと思う。あんまり構えないで、“隣に本当に好きな子がいる”って思ってくれたらいいから」



「“本当に好きな子”……ですか」



 その言葉に、自然とひよりの顔が浮かんだ。



(ダメだ、集中しないと)



 そう思って首を振る。



 これは演技。あくまで役割。

 “好きな子”の代わりに、視聴者の胸をくすぐる言葉を届けるだけ。



「よし……やります」



 



***



 



 カウントダウンが終わり、配信が始まる。



『こんばんは~! 星宮メアです。今日はLinkLiveフェス、恋人演技対決ということで――』



『初めまして。《レイ=アマギ》です。今日は、よろしくお願いします』



 コメント欄が一気に流れ始める。



《うおおおレイくんきた!》《メアさんとの相性良すぎでは!?》《この二人、空気感エモすぎる……》

《声だけでキュンとするんだが》《今日のレイ、やばくね?》《心臓に悪い》



 そして始まる――即興シナリオ。

 設定は「夕暮れの帰り道、告白前の恋人未満の二人」。



『あのさ……レイくん。最近、なんか優しくない?』



『そうか? ……メアが、がんばってるからだよ』



『ふふ、でもその言い方、ちょっとドキッとする……』



『ドキッとしてくれるなら、俺としては――嬉しい、けどな』



 自分でも驚くほど、スラスラと言葉が出てくる。



 まるで、誰かのことを本当に想っているときのように。



 その瞬間、コメント欄が爆発した。



《レイくんの破壊力どうなってんの!?》《これは……本当に演技か?》《メアさん本気で照れてない!?》

《恋人じゃん!結婚しろ!》《レイひより派だけど、こっちもアリだわ》《ガチ惚れする……》



(やばい、これ――本気に聞こえる)



 そんな焦りがよぎった頃、配信が終了した。



 



***



 



 控室に戻ると、メアさんがぽつりと呟いた。



「……すごかったよ、レイくん。完璧な“彼氏”だった」



「……ありがとうございます。でも、ちょっと……やりすぎたかもしれません」



「ううん、それがいいんだよ。“恋人っぽい”って思わせた時点で勝ちなんだから。それに……すごく自然だったし。……誰か、思い浮かべながらやった?」



 ――図星だった。



 けれど答えられるはずがない。



「……秘密です」



 そう返すと、メアさんは意味深に笑った。



「ふふ、いいね。その“秘密”、きっと君を有名にするよ」



 



***



 



 その夜、帰宅。



 ひよりは、リビングのソファに座って、膝を抱えていた。



 部屋の明かりは暗く、テレビも消えたまま。

 でも、俺が帰ってくる音には反応した。



「……おかえり」



「ただいま。……配信、見てた?」



「……うん。コメントも、全部」



 それだけで察した。

 たぶん、今日の演技が――“あまりにもリアル”だったことを。



「……どうだった?」



「上手だったよ。完璧だった。……“私よりうまいな”って、思っちゃったくらい」



「それ、嬉しくない言い方……だな」



「だって……お兄ちゃんが他の子と“好き”って言ってるの、思ったよりキツかった」



 言葉が詰まった。



「お仕事だってわかってる。演技だってわかってる。……でも」



 ひよりの声が震える。



「でも、あの声……私に向けてるときと、変わらなかったから。……ほんとに好きなの? って、思っちゃった」



 俺は、彼女に背を向けられたまま、その背中を見つめる。



 このまま黙っていれば、楽かもしれない。

 でも、そうしたら、ひよりの気持ちを裏切る。



 だから、俺は――



「……あの時の“好き”は、演技だよ」



「……っ」



「でも……お前と配信してたとき。あの“ぎゅー”とか、“お前だけでいい”って言葉。あれは……演技じゃなかった」



 ひよりが、ゆっくりと振り返った。



「……ほんとに?」



「……うん。演技だったら、あんなに声震えないよ」



 それを聞いたひよりの目に、涙がにじんだ。



 でも、今度はちゃんと笑っていた。



「……そっか。なら、許す。……ちょっとだけ」



 



***



 



 夜遅く、部屋に戻る前、ひよりが小さく呟いた。



「ねぇ、お兄ちゃん」



「ん?」



「“演技じゃない好き”って、……もっと、していいよ?」



 その一言が、俺の胸に深く刺さった。
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