9 / 177
第2章『推しと推されて、恋の声が聞こえたら』
『推しマネの素顔、メグの声』
しおりを挟む
「はー……やっぱ無理かも」
リハーサル用の録音ブースで、俺――天城コウは、マイクに向かってうなだれていた。
星宮メアさんとのペア配信が明日に迫る中、何度練習しても「恋人らしい甘さ」ってやつが、どうにも出せない。
「“好きだよ”ってセリフ、どこか硬いな……これじゃ説得力ないよな……」
台詞は合っている。でも、気持ちが入らない。
ひよりの声なら自然と反応できた。
けれど、演技としてやろうとすると、どこかぎこちなくなる。
そんな俺の横に、いつの間にか誰かが座っていた。
「はい、今の録音。75点。中の人補正で加点して、85点ってとこかな」
「……え?」
振り向くと、そこには事務所の見習いスタッフ――葛城メグがいた。
ポニーテールに黒縁メガネ、事務所Tシャツにパーカーを羽織った“ガチオタ臭”のする少女。
「あ、ビックリした? 収録ログ見てたら、ひとりで唸ってるからさ~。差し入れ持ってきたんだけど?」
「さ、差し入れ……?」
「コーヒーゼリーと、ストロー付きカフェオレ。甘さで脳みそ回せば、セリフも甘くなるって理論」
「ありがとう……ございます」
正直、ペースを乱されそうだった。
でも彼女のテンションと物腰は、不思議と不快じゃなかった。
***
「で、さ。アレ聞いたよ。“恋人役演技力対決”。レイくん、注目されてるじゃん」
「注目されすぎて、むしろ胃が痛いです……」
「わかる~。期待されると逆に緊張するタイプでしょ?」
うんうんと頷きながら、メグは自分のスマホをいじっていた。
そして、あるファイルを開いて、俺に差し出す。
「じゃあ、これ聞いてみて」
「これは?」
「私の、“恋人セリフ演技”……的なやつ」
軽く言うけど、それって……。
「……え? メグさんって、配信者だったんですか?」
「ううん、まだ。“志望者”。配信者になりたくて、ずっと準備中。でも、デビューする勇気がなくてね」
はにかんだように笑うメグの表情が、いつもより少しだけ大人びて見えた。
「Vオタとしてずっとファンやってきたからさ。“推す”のは得意だけど、“推される”自分なんて想像できないんだよね」
「……それ、なんかわかる気がします」
「でしょ? でもさ、**あんたの声聞いてたら、ちょっと思ったの」
メグは真剣な目で、俺を見る。
「“この人に褒められる声になりたい”って」
「……え?」
「ま、今のはオタクの暴走。忘れてくれていいけど」
そう言って、メグは笑う。だけど、耳が少し赤い。
「だからね、教えてあげるよ。“推し”って、恋と似てるから。声を通して“誰かの心”を揺らせるのって、それだけで愛情表現だよ」
その言葉に、心が少し揺れた。
演技としてのセリフ。
本気じゃない気持ち。
でも、それを受け取る側には、ちゃんと届いているんだ。
「……じゃあ、俺の声も、誰かを……動かしてるんですかね」
「少なくとも、私はちょっと動いてるよ?」
メグは軽く笑ったあと、スマホから再生ボタンを押した。
そこから聞こえたのは――
『あたし、レイくんの声、すっごく好きだよ。……好きになっちゃったかも』
少女の声。でも、ちゃんと届いてる。
思わず、息を飲んだ。
「……すごいじゃないですか、この声」
「……ほんとに、そう思う?」
「うん。……俺、好きです。メグさんの声」
その瞬間、メグの手がぴたりと止まり――
彼女は、うつむきながら、小さく笑った。
「……やば、泣きそう」
「えっ、え?」
「ごめん、なんか……誰かに“好き”って言われたことなかったから」
ぽろりとこぼれた涙に、思わず言葉を失う。
「ずっと、“応援する側”だったから……」
俺は、その言葉に胸を突かれた。
「でもさ……今、少しだけ思った」
涙を拭きながら、メグは照れくさそうに微笑んだ。
「――**“推されるって、悪くないかも”**って」
***
その夜、家に戻るとひよりが珍しく、リビングで待っていた。
「おかえり」
「……ただいま」
「……あのね、明日、本番なんだよね?」
「うん」
「じゃあ、これ。……お守り」
差し出されたのは、小さなキーホルダー。
ひよこがレイくんの肩に乗ってる、手作り風のミニチュアだった。
「“レイとひよこまる”、セットじゃなきゃ変でしょ?」
「……ありがとう」
「……でも、演技は“本気”でやって。だってお兄ちゃんの声、本気じゃないと意味ないから」
その言葉に――俺は、背筋を伸ばした。
「わかった。“本気”で、伝えてくるよ」
それが、“誰か”に届くように。
リハーサル用の録音ブースで、俺――天城コウは、マイクに向かってうなだれていた。
星宮メアさんとのペア配信が明日に迫る中、何度練習しても「恋人らしい甘さ」ってやつが、どうにも出せない。
「“好きだよ”ってセリフ、どこか硬いな……これじゃ説得力ないよな……」
台詞は合っている。でも、気持ちが入らない。
ひよりの声なら自然と反応できた。
けれど、演技としてやろうとすると、どこかぎこちなくなる。
そんな俺の横に、いつの間にか誰かが座っていた。
「はい、今の録音。75点。中の人補正で加点して、85点ってとこかな」
「……え?」
振り向くと、そこには事務所の見習いスタッフ――葛城メグがいた。
ポニーテールに黒縁メガネ、事務所Tシャツにパーカーを羽織った“ガチオタ臭”のする少女。
「あ、ビックリした? 収録ログ見てたら、ひとりで唸ってるからさ~。差し入れ持ってきたんだけど?」
「さ、差し入れ……?」
「コーヒーゼリーと、ストロー付きカフェオレ。甘さで脳みそ回せば、セリフも甘くなるって理論」
「ありがとう……ございます」
正直、ペースを乱されそうだった。
でも彼女のテンションと物腰は、不思議と不快じゃなかった。
***
「で、さ。アレ聞いたよ。“恋人役演技力対決”。レイくん、注目されてるじゃん」
「注目されすぎて、むしろ胃が痛いです……」
「わかる~。期待されると逆に緊張するタイプでしょ?」
うんうんと頷きながら、メグは自分のスマホをいじっていた。
そして、あるファイルを開いて、俺に差し出す。
「じゃあ、これ聞いてみて」
「これは?」
「私の、“恋人セリフ演技”……的なやつ」
軽く言うけど、それって……。
「……え? メグさんって、配信者だったんですか?」
「ううん、まだ。“志望者”。配信者になりたくて、ずっと準備中。でも、デビューする勇気がなくてね」
はにかんだように笑うメグの表情が、いつもより少しだけ大人びて見えた。
「Vオタとしてずっとファンやってきたからさ。“推す”のは得意だけど、“推される”自分なんて想像できないんだよね」
「……それ、なんかわかる気がします」
「でしょ? でもさ、**あんたの声聞いてたら、ちょっと思ったの」
メグは真剣な目で、俺を見る。
「“この人に褒められる声になりたい”って」
「……え?」
「ま、今のはオタクの暴走。忘れてくれていいけど」
そう言って、メグは笑う。だけど、耳が少し赤い。
「だからね、教えてあげるよ。“推し”って、恋と似てるから。声を通して“誰かの心”を揺らせるのって、それだけで愛情表現だよ」
その言葉に、心が少し揺れた。
演技としてのセリフ。
本気じゃない気持ち。
でも、それを受け取る側には、ちゃんと届いているんだ。
「……じゃあ、俺の声も、誰かを……動かしてるんですかね」
「少なくとも、私はちょっと動いてるよ?」
メグは軽く笑ったあと、スマホから再生ボタンを押した。
そこから聞こえたのは――
『あたし、レイくんの声、すっごく好きだよ。……好きになっちゃったかも』
少女の声。でも、ちゃんと届いてる。
思わず、息を飲んだ。
「……すごいじゃないですか、この声」
「……ほんとに、そう思う?」
「うん。……俺、好きです。メグさんの声」
その瞬間、メグの手がぴたりと止まり――
彼女は、うつむきながら、小さく笑った。
「……やば、泣きそう」
「えっ、え?」
「ごめん、なんか……誰かに“好き”って言われたことなかったから」
ぽろりとこぼれた涙に、思わず言葉を失う。
「ずっと、“応援する側”だったから……」
俺は、その言葉に胸を突かれた。
「でもさ……今、少しだけ思った」
涙を拭きながら、メグは照れくさそうに微笑んだ。
「――**“推されるって、悪くないかも”**って」
***
その夜、家に戻るとひよりが珍しく、リビングで待っていた。
「おかえり」
「……ただいま」
「……あのね、明日、本番なんだよね?」
「うん」
「じゃあ、これ。……お守り」
差し出されたのは、小さなキーホルダー。
ひよこがレイくんの肩に乗ってる、手作り風のミニチュアだった。
「“レイとひよこまる”、セットじゃなきゃ変でしょ?」
「……ありがとう」
「……でも、演技は“本気”でやって。だってお兄ちゃんの声、本気じゃないと意味ないから」
その言葉に――俺は、背筋を伸ばした。
「わかった。“本気”で、伝えてくるよ」
それが、“誰か”に届くように。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる