イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第2章『推しと推されて、恋の声が聞こえたら』

『推しマネの素顔、メグの声』

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「はー……やっぱ無理かも」



 リハーサル用の録音ブースで、俺――天城コウは、マイクに向かってうなだれていた。



 星宮メアさんとのペア配信が明日に迫る中、何度練習しても「恋人らしい甘さ」ってやつが、どうにも出せない。



「“好きだよ”ってセリフ、どこか硬いな……これじゃ説得力ないよな……」



 台詞は合っている。でも、気持ちが入らない。



 ひよりの声なら自然と反応できた。

 けれど、演技としてやろうとすると、どこかぎこちなくなる。



 そんな俺の横に、いつの間にか誰かが座っていた。



「はい、今の録音。75点。中の人補正で加点して、85点ってとこかな」



「……え?」



 振り向くと、そこには事務所の見習いスタッフ――葛城メグがいた。

 ポニーテールに黒縁メガネ、事務所Tシャツにパーカーを羽織った“ガチオタ臭”のする少女。



「あ、ビックリした? 収録ログ見てたら、ひとりで唸ってるからさ~。差し入れ持ってきたんだけど?」



「さ、差し入れ……?」



「コーヒーゼリーと、ストロー付きカフェオレ。甘さで脳みそ回せば、セリフも甘くなるって理論」



「ありがとう……ございます」



 正直、ペースを乱されそうだった。

 でも彼女のテンションと物腰は、不思議と不快じゃなかった。



 



***



 



「で、さ。アレ聞いたよ。“恋人役演技力対決”。レイくん、注目されてるじゃん」



「注目されすぎて、むしろ胃が痛いです……」



「わかる~。期待されると逆に緊張するタイプでしょ?」



 うんうんと頷きながら、メグは自分のスマホをいじっていた。

 そして、あるファイルを開いて、俺に差し出す。



「じゃあ、これ聞いてみて」



「これは?」



「私の、“恋人セリフ演技”……的なやつ」



 軽く言うけど、それって……。



「……え? メグさんって、配信者だったんですか?」



「ううん、まだ。“志望者”。配信者になりたくて、ずっと準備中。でも、デビューする勇気がなくてね」



 はにかんだように笑うメグの表情が、いつもより少しだけ大人びて見えた。



「Vオタとしてずっとファンやってきたからさ。“推す”のは得意だけど、“推される”自分なんて想像できないんだよね」



「……それ、なんかわかる気がします」



「でしょ? でもさ、**あんたの声聞いてたら、ちょっと思ったの」



 メグは真剣な目で、俺を見る。



「“この人に褒められる声になりたい”って」



「……え?」



「ま、今のはオタクの暴走。忘れてくれていいけど」



 そう言って、メグは笑う。だけど、耳が少し赤い。



「だからね、教えてあげるよ。“推し”って、恋と似てるから。声を通して“誰かの心”を揺らせるのって、それだけで愛情表現だよ」



 その言葉に、心が少し揺れた。



 演技としてのセリフ。

 本気じゃない気持ち。

 でも、それを受け取る側には、ちゃんと届いているんだ。



「……じゃあ、俺の声も、誰かを……動かしてるんですかね」



「少なくとも、私はちょっと動いてるよ?」



 メグは軽く笑ったあと、スマホから再生ボタンを押した。



 そこから聞こえたのは――



『あたし、レイくんの声、すっごく好きだよ。……好きになっちゃったかも』



 少女の声。でも、ちゃんと届いてる。

 思わず、息を飲んだ。



「……すごいじゃないですか、この声」



「……ほんとに、そう思う?」



「うん。……俺、好きです。メグさんの声」



 その瞬間、メグの手がぴたりと止まり――

 彼女は、うつむきながら、小さく笑った。



「……やば、泣きそう」



「えっ、え?」



「ごめん、なんか……誰かに“好き”って言われたことなかったから」



 ぽろりとこぼれた涙に、思わず言葉を失う。



「ずっと、“応援する側”だったから……」



 俺は、その言葉に胸を突かれた。



「でもさ……今、少しだけ思った」



 涙を拭きながら、メグは照れくさそうに微笑んだ。



「――**“推されるって、悪くないかも”**って」



 



***



 



 その夜、家に戻るとひよりが珍しく、リビングで待っていた。



「おかえり」



「……ただいま」



「……あのね、明日、本番なんだよね?」



「うん」



「じゃあ、これ。……お守り」



 差し出されたのは、小さなキーホルダー。

 ひよこがレイくんの肩に乗ってる、手作り風のミニチュアだった。



「“レイとひよこまる”、セットじゃなきゃ変でしょ?」



「……ありがとう」



「……でも、演技は“本気”でやって。だってお兄ちゃんの声、本気じゃないと意味ないから」



 その言葉に――俺は、背筋を伸ばした。



「わかった。“本気”で、伝えてくるよ」



 それが、“誰か”に届くように。
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