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第4章『ありがとうの予行演習、恋のはじまり』
「デュエットの記憶、波のむこうに」
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──ピコン、とメッセージ通知。
夜、ノートPCの前で“例の台本”に目を通していた俺は、スマホに目をやる。
送り主は、真白みなと。
「今夜、少しだけ電話できる? 例の企画の件で話したいことあるの」
返事を打つ指が、一瞬止まった。
大学で再会した彼女が、まさかV関連のサークル活動をしていたとは。
“夜の海でデュエット配信したい”って、普通に聞こえたらロマンチックな話だけど。
俺の立場で受け止めると、それはまるで“身バレルートへの序章”にしか思えない。
だけど――断れない。
いや、断りたくなかった。
「……はぁ」
結局、通話アプリを開く俺。
呼び出し音のあと、すぐに相手が応答した。
「コウくん、出てくれてありがとう」
「うん。みなとも、夜遅くまでおつかれ」
「えへへ、こうして話すのって、中学のとき以来かもね」
たしかにそうかもしれない。
みなとは中学の頃からどこかフワッとした存在で、
誰とでも話せるけど、誰にも深くは踏み込ませない、そんな距離感を持っていた。
それが今、スマホ越しに、俺だけに向かって言葉を紡いでいる。
「企画の話って、サークルでやるやつ?」
「うん。でも、今回はサークル配信じゃなくて、わたし個人のチャンネルでやろうと思ってて。
あのね、実は――わたし、個人Vやってるの」
「えっ……!」
その一言で、血の気が引いた。
「って言っても、全然有名じゃないし、登録者も少ないんだけど……。
中学のとき、コウくんの声に憧れてたの。あの“ありがとう”の夜から。
それで、自分も“声で誰かを癒やせる存在”になりたくて」
「……」
みなとの告白は、あまりに素直で、真っ直ぐで。
思わず言葉を失った。
――知らなかった。
あの夜の“ありがとう”が、彼女の人生にこんな影響を与えていたなんて。
「だから、今回の“夜の海配信”、すごく大事にしたいの」
「……そっか。なら、応援しないとだな」
「えっ?」
「だって、あのとき助けた“みなと”が、こんなに頑張ってるって聞いたら、
“今の俺”が応援しないわけにいかないでしょ」
「……もう、やっぱりコウくんって、ずるいんだから」
みなとは、くすっと笑った。
でもその笑いには、どこか照れたような、甘いものが混ざっていた。
「それでね。もしよかったら……その配信、コウくんと一緒にやりたくて」
「え、俺と?」
「うん。サークルの子たちには、“相方役探してる”って言ってるんだけど、
本当は最初から決めてたんだ。“夜の海”は、コウくんじゃなきゃダメだって」
「……」
それはもう、隠しようのない“指名”だった。
俺は“レイ=アマギ”として活動しているけれど、
コウとしての声も、そのままネットの海に残っている。
今この瞬間、もし彼女が“ひよこまる”の配信アーカイブを見返していたら――
俺の声に、気づくかもしれない。
でも。
「……俺でいいのか?」
「コウくん以外、考えてなかったよ」
その言葉が、心に刺さった。
ほんの少し、痛くて。
けれどそれ以上に、あたたかかった。
「ありがと。じゃあ、やろっか」
「うん!」
みなとの声が弾む。
「ねえ、覚えてる? あのとき歌った歌」
「覚えてるよ。“星空に願いを”でしょ?」
「そう! わたしね、今でもあの歌、大好きなの。
だから、また一緒に歌えるって思うと……ちょっと泣きそうかも」
「泣くのは早いって」
「ふふっ、たしかに」
それはまるで、過去と今が交差するような、不思議な時間だった。
“ありがとう”を伝えたくて始めた彼女の道。
その原点に、俺という存在がいたこと。
そして、また今。
こうして彼女の“デュエットの願い”に応える自分がいること。
そのすべてが、運命のように感じられて――
でも、ひとつだけ。
俺は、“中の人”であることを、まだ言えなかった。
それが、彼女の初恋を裏切ることにならないか。
胸の奥に、ずっと引っかかっていた。
夜、ノートPCの前で“例の台本”に目を通していた俺は、スマホに目をやる。
送り主は、真白みなと。
「今夜、少しだけ電話できる? 例の企画の件で話したいことあるの」
返事を打つ指が、一瞬止まった。
大学で再会した彼女が、まさかV関連のサークル活動をしていたとは。
“夜の海でデュエット配信したい”って、普通に聞こえたらロマンチックな話だけど。
俺の立場で受け止めると、それはまるで“身バレルートへの序章”にしか思えない。
だけど――断れない。
いや、断りたくなかった。
「……はぁ」
結局、通話アプリを開く俺。
呼び出し音のあと、すぐに相手が応答した。
「コウくん、出てくれてありがとう」
「うん。みなとも、夜遅くまでおつかれ」
「えへへ、こうして話すのって、中学のとき以来かもね」
たしかにそうかもしれない。
みなとは中学の頃からどこかフワッとした存在で、
誰とでも話せるけど、誰にも深くは踏み込ませない、そんな距離感を持っていた。
それが今、スマホ越しに、俺だけに向かって言葉を紡いでいる。
「企画の話って、サークルでやるやつ?」
「うん。でも、今回はサークル配信じゃなくて、わたし個人のチャンネルでやろうと思ってて。
あのね、実は――わたし、個人Vやってるの」
「えっ……!」
その一言で、血の気が引いた。
「って言っても、全然有名じゃないし、登録者も少ないんだけど……。
中学のとき、コウくんの声に憧れてたの。あの“ありがとう”の夜から。
それで、自分も“声で誰かを癒やせる存在”になりたくて」
「……」
みなとの告白は、あまりに素直で、真っ直ぐで。
思わず言葉を失った。
――知らなかった。
あの夜の“ありがとう”が、彼女の人生にこんな影響を与えていたなんて。
「だから、今回の“夜の海配信”、すごく大事にしたいの」
「……そっか。なら、応援しないとだな」
「えっ?」
「だって、あのとき助けた“みなと”が、こんなに頑張ってるって聞いたら、
“今の俺”が応援しないわけにいかないでしょ」
「……もう、やっぱりコウくんって、ずるいんだから」
みなとは、くすっと笑った。
でもその笑いには、どこか照れたような、甘いものが混ざっていた。
「それでね。もしよかったら……その配信、コウくんと一緒にやりたくて」
「え、俺と?」
「うん。サークルの子たちには、“相方役探してる”って言ってるんだけど、
本当は最初から決めてたんだ。“夜の海”は、コウくんじゃなきゃダメだって」
「……」
それはもう、隠しようのない“指名”だった。
俺は“レイ=アマギ”として活動しているけれど、
コウとしての声も、そのままネットの海に残っている。
今この瞬間、もし彼女が“ひよこまる”の配信アーカイブを見返していたら――
俺の声に、気づくかもしれない。
でも。
「……俺でいいのか?」
「コウくん以外、考えてなかったよ」
その言葉が、心に刺さった。
ほんの少し、痛くて。
けれどそれ以上に、あたたかかった。
「ありがと。じゃあ、やろっか」
「うん!」
みなとの声が弾む。
「ねえ、覚えてる? あのとき歌った歌」
「覚えてるよ。“星空に願いを”でしょ?」
「そう! わたしね、今でもあの歌、大好きなの。
だから、また一緒に歌えるって思うと……ちょっと泣きそうかも」
「泣くのは早いって」
「ふふっ、たしかに」
それはまるで、過去と今が交差するような、不思議な時間だった。
“ありがとう”を伝えたくて始めた彼女の道。
その原点に、俺という存在がいたこと。
そして、また今。
こうして彼女の“デュエットの願い”に応える自分がいること。
そのすべてが、運命のように感じられて――
でも、ひとつだけ。
俺は、“中の人”であることを、まだ言えなかった。
それが、彼女の初恋を裏切ることにならないか。
胸の奥に、ずっと引っかかっていた。
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