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第4章『ありがとうの予行演習、恋のはじまり』
エピローグ 「今、となりにいる“あなた”へ」
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「……やっぱり、そうだよね」
自室の暗がりの中、みなとはヘッドホンをつけたまま呟いた。
モニターには、先日の《ひよこまる♪》配信のアーカイブ。
“ひよこまる”と、その兄という設定で登場する《レイ=アマギ》の声が再生される。
「お兄ちゃん、今日もありがとう! ひより、ほんとに助かってるの~!」
『そっか。じゃあ今日の分の“お兄ちゃん税”、あとで徴収しに行くからな?』
「ひぃっ……やっぱイケボでそれ言うの反則だってば~!」
ノリの良い妹ボイスと、落ち着いた低音のイケボ。
みなとは、その“お兄ちゃんの声”を、何度も何度も繰り返して聞いていた。
「……間違いない。コウくんの声だ」
あの夜の収録。
マイク越しに聴こえた彼の言葉、息遣い、タイミング。
そして、彼がくれた“ありがとう”の温度。
Vとしての演技にしては、自然すぎた。
むしろ“素”に近い感情が、マイク越しにこぼれていた。
(でも、あえて言わない。たぶん彼は、まだ気づかれたくないと思ってる)
だけど。
(だったら、わたしの方から“友達”として誘えばいいんだ)
*
「――ということで、次回の“しろみな配信”はっ!」
みなとはカメラに向かって笑顔を見せた。
「ちょっとだけイレギュラーなお友達ゲストをお呼びしま~す♪」
ファンからのコメントが一斉に流れる。
《誰!?》《え、しろみな初の外部コラボ!?》《どんな人?》《ヒントちょーだい!》
「ヒントはね~……“甘ボイス”と“天然たらし”! ふふっ、わかる人はニヤけちゃうかも?」
*
そして迎えたコラボ当日。
《レイ=アマギ》が、初めて“ひよこまる以外のチャンネル”にゲスト出演した瞬間――
チャット欄は騒然となった。
《え、あのレイさん!?》《嘘でしょ…豪華すぎ》《声が耳にしみる》《これはリア友か?リア恋か?》
配信テーマは、まったり系の「お悩み相談&お絵描きコラボ」。
みなとの描いたイラストにレイがアテレコする場面では、コメントが一斉に「尊い」「神企画」「カップルの波動」に染まっていく。
(うん、やっぱりこの声……)
みなとは画面越しに、あえて“視聴者目線”でレイの声に耳を澄ます。
「なぁ、みなと。これ、ひよこ描いたつもりか?」
「ち、ちがうよ! これは“お兄ちゃんに甘えるうさぎ”のつもりだったの!」
「ますますややこしいわ」
「もう、ツッコミ上手すぎ~……!」
笑い合うやりとりの中で、みなとはふと、スイッチを切り替えるように声のトーンを変える。
「ねぇ、レイくん」
「ん?」
「さっき、リスナーさんから“初めて描いてもらったイラストの思い出”ってお便りが届いてて」
「へぇ。それ、いい話になりそうだな」
「……うん。わたしも、似たような思い出があるの」
みなとは視線を落とし、ほんの少しだけ――声を震わせた。
「昔、ある人がわたしに『声、綺麗だね』って言ってくれたの。
それだけで、世界が変わった気がした。たった一言で、未来が動き出すことって、あるんだね」
「……」
「その人は、きっと覚えてないかもしれないけど。
わたしにとっては、一生モノの“ありがとう”だった」
静まり返るチャット欄。
その余韻の中、みなとは静かに締めの言葉を放った。
「――だから、今ここに“レイくん”がいてくれて、わたしは本当に嬉しいよ。
わたしの“ありがとう”の先に、今日みたいな日があって、本当によかった」
「……こっちこそ。呼んでくれて、ありがとう」
レイ――つまりコウの声が、一段だけ優しくなった気がした。
*
配信終了後。
通話がオフになり、沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、みなとだった。
『コウくん……じゃなかった、レイくん』
『……あー……バレてたか』
『うん、ずっと前から』
みなとは小さく笑った。
『でもね、わたし、“あえて”言わなかったの。
だって、Vとしての“レイ”にも、友達としての“コウくん”にも、どっちにも助けられたから』
『……なんか、そう言われると照れるな』
『ふふっ。でも今日、言いたかったのはひとつだけ』
『ん?』
『ありがとう。
わたしに“声の道”をくれて、今日みたいな奇跡をくれた“あなた”に』
沈黙。
その後、コウがぽつりと返した。
『――なんかずるいな、それ。
こっちこそ、“今のみなと”に会えてよかったって、思ってたのに』
『……じゃあ、おあいこだね』
小さな笑い声が、夜の通話に滲んだ。
そして、その夜。
しろみな×レイ=アマギのコラボ配信は、“ナチュラル神カップルの波動”としてバズり、
二人の関係性は、確かな“恋の伏線”として視聴者の記憶に刻まれたのだった。
自室の暗がりの中、みなとはヘッドホンをつけたまま呟いた。
モニターには、先日の《ひよこまる♪》配信のアーカイブ。
“ひよこまる”と、その兄という設定で登場する《レイ=アマギ》の声が再生される。
「お兄ちゃん、今日もありがとう! ひより、ほんとに助かってるの~!」
『そっか。じゃあ今日の分の“お兄ちゃん税”、あとで徴収しに行くからな?』
「ひぃっ……やっぱイケボでそれ言うの反則だってば~!」
ノリの良い妹ボイスと、落ち着いた低音のイケボ。
みなとは、その“お兄ちゃんの声”を、何度も何度も繰り返して聞いていた。
「……間違いない。コウくんの声だ」
あの夜の収録。
マイク越しに聴こえた彼の言葉、息遣い、タイミング。
そして、彼がくれた“ありがとう”の温度。
Vとしての演技にしては、自然すぎた。
むしろ“素”に近い感情が、マイク越しにこぼれていた。
(でも、あえて言わない。たぶん彼は、まだ気づかれたくないと思ってる)
だけど。
(だったら、わたしの方から“友達”として誘えばいいんだ)
*
「――ということで、次回の“しろみな配信”はっ!」
みなとはカメラに向かって笑顔を見せた。
「ちょっとだけイレギュラーなお友達ゲストをお呼びしま~す♪」
ファンからのコメントが一斉に流れる。
《誰!?》《え、しろみな初の外部コラボ!?》《どんな人?》《ヒントちょーだい!》
「ヒントはね~……“甘ボイス”と“天然たらし”! ふふっ、わかる人はニヤけちゃうかも?」
*
そして迎えたコラボ当日。
《レイ=アマギ》が、初めて“ひよこまる以外のチャンネル”にゲスト出演した瞬間――
チャット欄は騒然となった。
《え、あのレイさん!?》《嘘でしょ…豪華すぎ》《声が耳にしみる》《これはリア友か?リア恋か?》
配信テーマは、まったり系の「お悩み相談&お絵描きコラボ」。
みなとの描いたイラストにレイがアテレコする場面では、コメントが一斉に「尊い」「神企画」「カップルの波動」に染まっていく。
(うん、やっぱりこの声……)
みなとは画面越しに、あえて“視聴者目線”でレイの声に耳を澄ます。
「なぁ、みなと。これ、ひよこ描いたつもりか?」
「ち、ちがうよ! これは“お兄ちゃんに甘えるうさぎ”のつもりだったの!」
「ますますややこしいわ」
「もう、ツッコミ上手すぎ~……!」
笑い合うやりとりの中で、みなとはふと、スイッチを切り替えるように声のトーンを変える。
「ねぇ、レイくん」
「ん?」
「さっき、リスナーさんから“初めて描いてもらったイラストの思い出”ってお便りが届いてて」
「へぇ。それ、いい話になりそうだな」
「……うん。わたしも、似たような思い出があるの」
みなとは視線を落とし、ほんの少しだけ――声を震わせた。
「昔、ある人がわたしに『声、綺麗だね』って言ってくれたの。
それだけで、世界が変わった気がした。たった一言で、未来が動き出すことって、あるんだね」
「……」
「その人は、きっと覚えてないかもしれないけど。
わたしにとっては、一生モノの“ありがとう”だった」
静まり返るチャット欄。
その余韻の中、みなとは静かに締めの言葉を放った。
「――だから、今ここに“レイくん”がいてくれて、わたしは本当に嬉しいよ。
わたしの“ありがとう”の先に、今日みたいな日があって、本当によかった」
「……こっちこそ。呼んでくれて、ありがとう」
レイ――つまりコウの声が、一段だけ優しくなった気がした。
*
配信終了後。
通話がオフになり、沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、みなとだった。
『コウくん……じゃなかった、レイくん』
『……あー……バレてたか』
『うん、ずっと前から』
みなとは小さく笑った。
『でもね、わたし、“あえて”言わなかったの。
だって、Vとしての“レイ”にも、友達としての“コウくん”にも、どっちにも助けられたから』
『……なんか、そう言われると照れるな』
『ふふっ。でも今日、言いたかったのはひとつだけ』
『ん?』
『ありがとう。
わたしに“声の道”をくれて、今日みたいな奇跡をくれた“あなた”に』
沈黙。
その後、コウがぽつりと返した。
『――なんかずるいな、それ。
こっちこそ、“今のみなと”に会えてよかったって、思ってたのに』
『……じゃあ、おあいこだね』
小さな笑い声が、夜の通話に滲んだ。
そして、その夜。
しろみな×レイ=アマギのコラボ配信は、“ナチュラル神カップルの波動”としてバズり、
二人の関係性は、確かな“恋の伏線”として視聴者の記憶に刻まれたのだった。
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