イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第4章『ありがとうの予行演習、恋のはじまり』

エピローグ 「今、となりにいる“あなた”へ」

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「……やっぱり、そうだよね」



自室の暗がりの中、みなとはヘッドホンをつけたまま呟いた。



モニターには、先日の《ひよこまる♪》配信のアーカイブ。

“ひよこまる”と、その兄という設定で登場する《レイ=アマギ》の声が再生される。



「お兄ちゃん、今日もありがとう! ひより、ほんとに助かってるの~!」



『そっか。じゃあ今日の分の“お兄ちゃん税”、あとで徴収しに行くからな?』



「ひぃっ……やっぱイケボでそれ言うの反則だってば~!」



ノリの良い妹ボイスと、落ち着いた低音のイケボ。



みなとは、その“お兄ちゃんの声”を、何度も何度も繰り返して聞いていた。



「……間違いない。コウくんの声だ」



あの夜の収録。

マイク越しに聴こえた彼の言葉、息遣い、タイミング。



そして、彼がくれた“ありがとう”の温度。



Vとしての演技にしては、自然すぎた。

むしろ“素”に近い感情が、マイク越しにこぼれていた。



(でも、あえて言わない。たぶん彼は、まだ気づかれたくないと思ってる)



だけど。



(だったら、わたしの方から“友達”として誘えばいいんだ)



 







 



「――ということで、次回の“しろみな配信”はっ!」



みなとはカメラに向かって笑顔を見せた。



「ちょっとだけイレギュラーなお友達ゲストをお呼びしま~す♪」



ファンからのコメントが一斉に流れる。



《誰!?》《え、しろみな初の外部コラボ!?》《どんな人?》《ヒントちょーだい!》



「ヒントはね~……“甘ボイス”と“天然たらし”! ふふっ、わかる人はニヤけちゃうかも?」



 







 



そして迎えたコラボ当日。

《レイ=アマギ》が、初めて“ひよこまる以外のチャンネル”にゲスト出演した瞬間――



チャット欄は騒然となった。



《え、あのレイさん!?》《嘘でしょ…豪華すぎ》《声が耳にしみる》《これはリア友か?リア恋か?》



配信テーマは、まったり系の「お悩み相談&お絵描きコラボ」。

みなとの描いたイラストにレイがアテレコする場面では、コメントが一斉に「尊い」「神企画」「カップルの波動」に染まっていく。



(うん、やっぱりこの声……)



みなとは画面越しに、あえて“視聴者目線”でレイの声に耳を澄ます。



「なぁ、みなと。これ、ひよこ描いたつもりか?」



「ち、ちがうよ! これは“お兄ちゃんに甘えるうさぎ”のつもりだったの!」



「ますますややこしいわ」



「もう、ツッコミ上手すぎ~……!」



笑い合うやりとりの中で、みなとはふと、スイッチを切り替えるように声のトーンを変える。



「ねぇ、レイくん」



「ん?」



「さっき、リスナーさんから“初めて描いてもらったイラストの思い出”ってお便りが届いてて」



「へぇ。それ、いい話になりそうだな」



「……うん。わたしも、似たような思い出があるの」



みなとは視線を落とし、ほんの少しだけ――声を震わせた。



「昔、ある人がわたしに『声、綺麗だね』って言ってくれたの。

それだけで、世界が変わった気がした。たった一言で、未来が動き出すことって、あるんだね」



「……」



「その人は、きっと覚えてないかもしれないけど。

わたしにとっては、一生モノの“ありがとう”だった」



静まり返るチャット欄。



その余韻の中、みなとは静かに締めの言葉を放った。



「――だから、今ここに“レイくん”がいてくれて、わたしは本当に嬉しいよ。

わたしの“ありがとう”の先に、今日みたいな日があって、本当によかった」



「……こっちこそ。呼んでくれて、ありがとう」



レイ――つまりコウの声が、一段だけ優しくなった気がした。



 







 



配信終了後。

通話がオフになり、沈黙が流れる。



その沈黙を破ったのは、みなとだった。



『コウくん……じゃなかった、レイくん』



『……あー……バレてたか』



『うん、ずっと前から』



みなとは小さく笑った。



『でもね、わたし、“あえて”言わなかったの。

だって、Vとしての“レイ”にも、友達としての“コウくん”にも、どっちにも助けられたから』



『……なんか、そう言われると照れるな』



『ふふっ。でも今日、言いたかったのはひとつだけ』



『ん?』



『ありがとう。

わたしに“声の道”をくれて、今日みたいな奇跡をくれた“あなた”に』



沈黙。



その後、コウがぽつりと返した。



『――なんかずるいな、それ。

こっちこそ、“今のみなと”に会えてよかったって、思ってたのに』



『……じゃあ、おあいこだね』



小さな笑い声が、夜の通話に滲んだ。



そして、その夜。



しろみな×レイ=アマギのコラボ配信は、“ナチュラル神カップルの波動”としてバズり、

二人の関係性は、確かな“恋の伏線”として視聴者の記憶に刻まれたのだった。
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