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第4章『ありがとうの予行演習、恋のはじまり』
「夜の海、あの時の『ありがとう』へ」
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夜の海は、思っていたより静かだった。
海辺の公園にある小さな展望デッキ。
キャンパスの帰り、みなとに「ちょっとだけ寄り道しない?」と誘われたのがきっかけだった。
「ここ、覚えてる?」
「うん。中学のとき、一度だけ来たよな。……たしか、文化祭の帰りだったっけ」
「そう。……あのとき、わたし、泣いてた」
潮風に揺れる髪を押さえながら、みなとは懐かしそうに呟いた。
「部活で失敗して、文化祭も上手くいかなくて、自信なくしてて――
でも、コウくんが『声、綺麗だよ』って言ってくれた」
「……そんなこと、言ったっけ?」
「言ったよ。すっごく真っ直ぐな顔で」
みなとは笑った。
「それがきっかけだった。わたし、声を届ける仕事がしたいって思ったの。
“しろみな”になる前の、いちばん最初の一歩」
彼女の目が、夜の海に映る月明かりに重なる。
「……今日、録音で歌ってて思い出したの。
あの時も、今も、わたしは――あなたにありがとうって言いたかったんだって」
少しだけ照れたように、でも決意を込めてみなとは続けた。
「だから今日のデュエットは、わたしにとって“ありがとうの予行演習”だったんだ」
「予行演習?」
「うん。本番は、これから」
みなとは小さく深呼吸して、俺の方を向いた。
「コウくん、ありがとう。あの日、わたしに声をかけてくれて」
その声は、海のさざ波よりも優しく、まっすぐだった。
俺は何も言えず、ただその言葉を受け止めるしかなかった。
「――でもね」
不意に、みなとの声のトーンが変わる。
「わたし、もう“あの時の女の子”じゃないよ」
「……知ってるよ」
「そりゃそうだよね。同じ大学に通ってるくらいだもん」
「いや、違う意味で」
みなとは驚いた顔で俺を見る。
「今のみなとは、前よりずっと芯があるし、声も強くなった。
……昔は“助けてあげたい”って思ったけど、今は“隣にいたい”って思う」
言いながら、自分でも照れくさくなる。
でも、嘘じゃない。今の彼女は、もう“守るだけの存在”じゃなかった。
「……え、今の……」
「ごめん、なんか恥ずかしいな。変なこと言ったかも」
「……変じゃない」
みなとは、少し顔を赤くしながらも、じっと俺を見つめてきた。
「今のほうが、好きってこと……だよね?」
「……ああ、そうかも」
月明かりの中で、二人の視線が静かに交差する。
「そっか……じゃあ、予行演習じゃなくて――本番にしちゃえばよかったかな」
みなとの言葉に、心臓が跳ねる。
でも次の瞬間、彼女は「なんてね」と微笑み、目をそらした。
「ごめん、ちょっとだけずるかったかな。
でも、言わなきゃきっと後悔しそうだったから」
「ずるい、けど……ありがとな」
夜風が吹く。
その中に、ほんの少しだけ甘い香りが混ざった気がした。
「……じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん。でもさ、また来ようよ、ここ。次は――海じゃなくて、空とかでもいいから」
「空?」
「“夜の空配信”とか、どうかなって思って。ふたりで星を見ながら語るの」
みなとは少し照れながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
俺はその笑顔を、なぜかいつもより長く見つめていた。
(この笑顔が、俺の記憶の“ありがとう”を、未来の“好き”に変えたんだ)
そう思った。
今はまだ、言葉にするには早すぎるかもしれない。
でもこの先、彼女ともっとたくさんの“ありがとう”を交わしていきたい――そう思った。
そして、できればいつか。
その“ありがとう”の先に、“好き”を、ちゃんと伝えられたらいい。
――“予行演習”は、きっと、恋のはじまりだった。
海辺の公園にある小さな展望デッキ。
キャンパスの帰り、みなとに「ちょっとだけ寄り道しない?」と誘われたのがきっかけだった。
「ここ、覚えてる?」
「うん。中学のとき、一度だけ来たよな。……たしか、文化祭の帰りだったっけ」
「そう。……あのとき、わたし、泣いてた」
潮風に揺れる髪を押さえながら、みなとは懐かしそうに呟いた。
「部活で失敗して、文化祭も上手くいかなくて、自信なくしてて――
でも、コウくんが『声、綺麗だよ』って言ってくれた」
「……そんなこと、言ったっけ?」
「言ったよ。すっごく真っ直ぐな顔で」
みなとは笑った。
「それがきっかけだった。わたし、声を届ける仕事がしたいって思ったの。
“しろみな”になる前の、いちばん最初の一歩」
彼女の目が、夜の海に映る月明かりに重なる。
「……今日、録音で歌ってて思い出したの。
あの時も、今も、わたしは――あなたにありがとうって言いたかったんだって」
少しだけ照れたように、でも決意を込めてみなとは続けた。
「だから今日のデュエットは、わたしにとって“ありがとうの予行演習”だったんだ」
「予行演習?」
「うん。本番は、これから」
みなとは小さく深呼吸して、俺の方を向いた。
「コウくん、ありがとう。あの日、わたしに声をかけてくれて」
その声は、海のさざ波よりも優しく、まっすぐだった。
俺は何も言えず、ただその言葉を受け止めるしかなかった。
「――でもね」
不意に、みなとの声のトーンが変わる。
「わたし、もう“あの時の女の子”じゃないよ」
「……知ってるよ」
「そりゃそうだよね。同じ大学に通ってるくらいだもん」
「いや、違う意味で」
みなとは驚いた顔で俺を見る。
「今のみなとは、前よりずっと芯があるし、声も強くなった。
……昔は“助けてあげたい”って思ったけど、今は“隣にいたい”って思う」
言いながら、自分でも照れくさくなる。
でも、嘘じゃない。今の彼女は、もう“守るだけの存在”じゃなかった。
「……え、今の……」
「ごめん、なんか恥ずかしいな。変なこと言ったかも」
「……変じゃない」
みなとは、少し顔を赤くしながらも、じっと俺を見つめてきた。
「今のほうが、好きってこと……だよね?」
「……ああ、そうかも」
月明かりの中で、二人の視線が静かに交差する。
「そっか……じゃあ、予行演習じゃなくて――本番にしちゃえばよかったかな」
みなとの言葉に、心臓が跳ねる。
でも次の瞬間、彼女は「なんてね」と微笑み、目をそらした。
「ごめん、ちょっとだけずるかったかな。
でも、言わなきゃきっと後悔しそうだったから」
「ずるい、けど……ありがとな」
夜風が吹く。
その中に、ほんの少しだけ甘い香りが混ざった気がした。
「……じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん。でもさ、また来ようよ、ここ。次は――海じゃなくて、空とかでもいいから」
「空?」
「“夜の空配信”とか、どうかなって思って。ふたりで星を見ながら語るの」
みなとは少し照れながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
俺はその笑顔を、なぜかいつもより長く見つめていた。
(この笑顔が、俺の記憶の“ありがとう”を、未来の“好き”に変えたんだ)
そう思った。
今はまだ、言葉にするには早すぎるかもしれない。
でもこの先、彼女ともっとたくさんの“ありがとう”を交わしていきたい――そう思った。
そして、できればいつか。
その“ありがとう”の先に、“好き”を、ちゃんと伝えられたらいい。
――“予行演習”は、きっと、恋のはじまりだった。
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