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第10章『“妹”ポジは、誰にも渡さない。』
『コウお兄ちゃんへ――』
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「うわ、ほんとに人が多いね……」
「週末の夜だからな。コラボ配信は混み合うって言ってたし、今日は特にコメントすごそうだぞ」
お兄ちゃんと並んで自宅の配信ブースに座りながら、私はゆっくりと深呼吸する。
画面の向こうでは、待機リスナーたちのコメントが次々と流れていた。
《レイくん×ひよこまる♪ きたー!》《神コラボ再来》《公式妹回です!!》
《これが尊さの極み》《兄妹ってなんだっけ》《ひよりちゃん今日テンション高くない?》
ふふっ……バレてるかも。
「よし……始めよっか、コウお兄ちゃん」
「おう。いくぞ、ひより」
カウントダウンのあと、配信が始まる。
「こんばーんは~っ! 癒やしのぴよぴよ天使、ひよこまる♪で~すっ!」
「……そして、隣にいるのは、みんなの“兄”こと、レイです。今日もよろしく頼む」
コメントが一気に湧く。
この空気、この場所――私にとって、いちばん大好きな時間。
だけど今日は、ただ楽しいだけじゃ終わらせない。
「さてさて、今日は“お題トークルーレット”って企画を持ってきましたー!」
「ルーレット? ひより、おまえまた妙な仕込みしてないか?」
「ふふっ、そんなことないよ~。ただのお題トーク。たとえばね……」
私は手元のスイッチを押すと、ルーレットがくるくると回って、カチッと止まる。
『理想の恋人像は?』
……出た。
計画通り。
「お兄ちゃん、答えてっ♡」
「……これ、俺から答える流れなのか?」
「当然でしょ?」
コメントがざわついている。
《お題が爆弾》《これ絶対狙っただろ》《恋人像!?》《回答で世界が変わるぞ》
《公式妹どうする》《ひよりちゃんの顔が見たい》《戦争のゴングが鳴る》
お兄ちゃんは、ちょっとだけ困った顔をしながら、真面目に口を開いた。
「……そうだな。理想の恋人は――
一緒にいて、自然でいられて……。
気を遣わなくても、気持ちが通じるような相手。
無理せず、素直に笑い合える人……かな」
それって――
それって、まるで、まるで私のことみたいじゃん……。
「そ、そっか……。じゃあ……」
私の声が、ほんの少し震えた。
「じゃあ……私は、お兄ちゃんの理想に、近い……かな?」
画面の向こうではない。
マイク越しでもない。
隣にいる、お兄ちゃんだけに聞こえるような小さな声で、私は問いかけた。
お兄ちゃんは、少しだけ目を丸くして、
それから――ゆっくり、うなずいた。
「……ああ。たぶん、近いと思う」
「…………っ!」
なに、それ。
それ、いま、私の人生でいちばん大事な瞬間になったんだけど。
配信中だってこと、忘れそう。
いや、ダメ、泣いちゃだめ。
まだ終わってない。
「……じゃあ、ひよこまるから、ラストのひとことっ!」
私は笑顔でカメラに向き直り、
でも、心の奥にずっとあった言葉を、そっと口にした。
「いつも、隣にいてくれてありがとう。
それが、お兄ちゃんでも、レイくんでも、
どんな形でも――私は、いちばんの味方ですっ!」
《えっ》《ひよりちゃん……》《今の、本音じゃん》《まるで告白》《公式妹からの大爆撃》
《これが……恋》《尊死した》《レイの反応を見ろ》《赤面不可避》
配信が終わる。
「おつかれさま、ひより」
「うん……お疲れさま、お兄ちゃん」
私は、マイクを外して、少しだけ間を置いた。
胸の鼓動が、落ち着かない。
でも……やるって決めたから。
お兄ちゃんが立ち上がろうとした、その背中に、私はそっと腕をまわして――
抱きついた。
ぎゅっ、と。
「……わっ」
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「……なんだ?」
「今の言葉、本当だよ。ぜんぶ、本当。
わたし、お兄ちゃんの一番近くにいたい。ずっと、いたい。
“妹”ってだけじゃなくて……」
「……ひより」
「まだ、告白じゃないよ? でも……予告編くらい、してもいいでしょ?」
私は、お兄ちゃんの背中に顔を埋めながら、
そっと、そっと囁いた。
「……だから、わたしだけ、見ててね。
コウお兄ちゃん」
その声が、震えてなかったことを、私は少しだけ誇りに思った。
部屋に戻って、ベッドに倒れ込む。
……言っちゃった。
言っちゃった、あんなの……!
でも、不思議と後悔はなかった。
怖かった。
だけど、それ以上に嬉しかった。
お兄ちゃんの“理想”に、自分がいるかもしれないって思えただけで、
この世界のすべてが、少し優しく見えた気がした。
「……あーあ、これで“妹ポジ”卒業間近、かも?」
そんな冗談を心の中で呟いて、
私は小さく笑った。
明日も、明後日も――
きっとまた、少しずつでも進んでいける気がした。
だって私は、
“妹”で、“女の子”で、
そして、恋する“私”だから。
「週末の夜だからな。コラボ配信は混み合うって言ってたし、今日は特にコメントすごそうだぞ」
お兄ちゃんと並んで自宅の配信ブースに座りながら、私はゆっくりと深呼吸する。
画面の向こうでは、待機リスナーたちのコメントが次々と流れていた。
《レイくん×ひよこまる♪ きたー!》《神コラボ再来》《公式妹回です!!》
《これが尊さの極み》《兄妹ってなんだっけ》《ひよりちゃん今日テンション高くない?》
ふふっ……バレてるかも。
「よし……始めよっか、コウお兄ちゃん」
「おう。いくぞ、ひより」
カウントダウンのあと、配信が始まる。
「こんばーんは~っ! 癒やしのぴよぴよ天使、ひよこまる♪で~すっ!」
「……そして、隣にいるのは、みんなの“兄”こと、レイです。今日もよろしく頼む」
コメントが一気に湧く。
この空気、この場所――私にとって、いちばん大好きな時間。
だけど今日は、ただ楽しいだけじゃ終わらせない。
「さてさて、今日は“お題トークルーレット”って企画を持ってきましたー!」
「ルーレット? ひより、おまえまた妙な仕込みしてないか?」
「ふふっ、そんなことないよ~。ただのお題トーク。たとえばね……」
私は手元のスイッチを押すと、ルーレットがくるくると回って、カチッと止まる。
『理想の恋人像は?』
……出た。
計画通り。
「お兄ちゃん、答えてっ♡」
「……これ、俺から答える流れなのか?」
「当然でしょ?」
コメントがざわついている。
《お題が爆弾》《これ絶対狙っただろ》《恋人像!?》《回答で世界が変わるぞ》
《公式妹どうする》《ひよりちゃんの顔が見たい》《戦争のゴングが鳴る》
お兄ちゃんは、ちょっとだけ困った顔をしながら、真面目に口を開いた。
「……そうだな。理想の恋人は――
一緒にいて、自然でいられて……。
気を遣わなくても、気持ちが通じるような相手。
無理せず、素直に笑い合える人……かな」
それって――
それって、まるで、まるで私のことみたいじゃん……。
「そ、そっか……。じゃあ……」
私の声が、ほんの少し震えた。
「じゃあ……私は、お兄ちゃんの理想に、近い……かな?」
画面の向こうではない。
マイク越しでもない。
隣にいる、お兄ちゃんだけに聞こえるような小さな声で、私は問いかけた。
お兄ちゃんは、少しだけ目を丸くして、
それから――ゆっくり、うなずいた。
「……ああ。たぶん、近いと思う」
「…………っ!」
なに、それ。
それ、いま、私の人生でいちばん大事な瞬間になったんだけど。
配信中だってこと、忘れそう。
いや、ダメ、泣いちゃだめ。
まだ終わってない。
「……じゃあ、ひよこまるから、ラストのひとことっ!」
私は笑顔でカメラに向き直り、
でも、心の奥にずっとあった言葉を、そっと口にした。
「いつも、隣にいてくれてありがとう。
それが、お兄ちゃんでも、レイくんでも、
どんな形でも――私は、いちばんの味方ですっ!」
《えっ》《ひよりちゃん……》《今の、本音じゃん》《まるで告白》《公式妹からの大爆撃》
《これが……恋》《尊死した》《レイの反応を見ろ》《赤面不可避》
配信が終わる。
「おつかれさま、ひより」
「うん……お疲れさま、お兄ちゃん」
私は、マイクを外して、少しだけ間を置いた。
胸の鼓動が、落ち着かない。
でも……やるって決めたから。
お兄ちゃんが立ち上がろうとした、その背中に、私はそっと腕をまわして――
抱きついた。
ぎゅっ、と。
「……わっ」
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「……なんだ?」
「今の言葉、本当だよ。ぜんぶ、本当。
わたし、お兄ちゃんの一番近くにいたい。ずっと、いたい。
“妹”ってだけじゃなくて……」
「……ひより」
「まだ、告白じゃないよ? でも……予告編くらい、してもいいでしょ?」
私は、お兄ちゃんの背中に顔を埋めながら、
そっと、そっと囁いた。
「……だから、わたしだけ、見ててね。
コウお兄ちゃん」
その声が、震えてなかったことを、私は少しだけ誇りに思った。
部屋に戻って、ベッドに倒れ込む。
……言っちゃった。
言っちゃった、あんなの……!
でも、不思議と後悔はなかった。
怖かった。
だけど、それ以上に嬉しかった。
お兄ちゃんの“理想”に、自分がいるかもしれないって思えただけで、
この世界のすべてが、少し優しく見えた気がした。
「……あーあ、これで“妹ポジ”卒業間近、かも?」
そんな冗談を心の中で呟いて、
私は小さく笑った。
明日も、明後日も――
きっとまた、少しずつでも進んでいける気がした。
だって私は、
“妹”で、“女の子”で、
そして、恋する“私”だから。
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