30 / 307
第一章 王都絢爛
27.小麦色の踊り巫女
しおりを挟む
「よっ! クレイアっ」
と、街路の片隅でリティア達を待つクレイアを、後ろから呼ぶ声がした。
振り向くと、小麦色の肌で快活そうな娘が手を振っている。
「ニーナじゃないか! それにラウラも。もう、王都に入ったのか」
「稼ぎ時だからね」
ニーナと呼ばれた娘の後ろには、同じく小麦色の肌をした娘が二人立っている。
ラウラと呼ばれた娘は銀髪に限りなく近いプラチナブロンドの髪に内気そうな表情を浮かべ、少し睨みつけるような視線をした娘はクレイアにも見覚えがなかった。
娘たちは3人とも、民族色豊かでガーゼ地のような白いローブを羽織り、健康的な肌が少し透けている。
――いいです! とても、いいです!
アイカは、急に忙しい。娘たち三人の整った顔立ちを見比べたり、ふくよかな胸元を視界に収めたり、視線がせわしなく動く。
ニーナが、クレイアに肩を合せた。
「あれが、無頼姫の狼?」
ニーナの視線の先では、タロウとジロウが伏せの姿勢でアクビをしている。ジロウがチラリとニーナを見上げた。
「耳が速いな。『草原の民』にも、もう噂が届いているのか?」
「まさかぁ! 王都に入ってから聞いたんだよ」
と言うと、ニーナは自分たちを凝視する幼い娘にも気が付いた。
「この子が、『無頼姫の狼少女』?」
――なんですか? その異名みたいなの。
アイカは自分がそう呼ばれていることを、初めて知った。
そして、気に入った。
――カ、カッコイイじゃないですか。
鼻息がふんすと漏れる。
少し腰をかがめてアイカに目線を合せたニーナが、笑顔を向けた。
「こんにちは。北の草原から来ました」
アイカは一瞬、その金色の瞳を見開き、すぐに目を逸らした。
――カワイイ! 部長だ! アイシェさんが運動部なら、ニーナさんは文化部の部長だ。
俯いてしまったアイカの肩に、クレイアがそっと手をやった。
「アイカ、紹介しよう。ニーナとラウラ、それに……」
「イェヴァよ。王都は今年が初めて」
と、ニーナが紹介すると、ニーナの後ろに立つ二人が小さく頭を下げた。イェヴァは警戒するようにクレイアから目線を外さない。クレイアが続けた。
「ニーナたちは、聖山の北西に住む遊牧民『草原の民』の踊り巫女で、毎年『総候参朝』に稼ぎに来るんだ。一昨年知り合って、仲良くなった」
「最初に会ったときは、貧民街のゴロツキだったのに」
「ゴロツキはヒドイな。まっとうにやってたぞ」
「それが、去年は王女様の侍女様になってるんだから。まだ、クビになってないの?」
「おかげさまでな」
アイカは、興奮していた。
――ふおぉぉぉ。そういうお顔もお持ちなんですね!?
クレイアが旧友に見せる砕けた表情に、新しい美しさを発見していた。
王宮入り三日。毎晩一緒に入浴し語らっただけで、クレイアの全てを知ったつもりだったことを静かに猛省した。
「今年もアイラのところで?」
と、クレイアがニーナに尋ねた。
「うん。ちゃんとした宿を世話してもらってる」
王都を訪れる踊り巫女の中には春をひさぐ者もいる。
そうしたことに手を出すつもりがないニーナたちは、堅い宿を手配してもらうようにしている。
官能的なダンスパフォーマーとして王都で人気のある踊り巫女だが、本来は祖霊信仰が厚い『草原の民』のシャーマンであり、踊りは宗教儀礼である。
獣の皮やチーズなどの産物を売りに来ると共に、街角や列候の開く宴席などで舞い、投げ銭を稼ぐ。
ふと、風体の悪い男たちの一群が、クレイアの目に留まった。
祝祭を控え、王都には得体の知れない者たちも多くなる。だがそれも、猥雑な賑わいを生み、踊り巫女たちもその一翼を担っている。
行き過ぎるかと思われた男たちが、瞬く間にクレイアたちを取り囲み、突然、ラウラの腕を掴み上げた。
「ラウラだな? マエル様がお呼びだ。ちょっと来て貰おうか」
と、街路の片隅でリティア達を待つクレイアを、後ろから呼ぶ声がした。
振り向くと、小麦色の肌で快活そうな娘が手を振っている。
「ニーナじゃないか! それにラウラも。もう、王都に入ったのか」
「稼ぎ時だからね」
ニーナと呼ばれた娘の後ろには、同じく小麦色の肌をした娘が二人立っている。
ラウラと呼ばれた娘は銀髪に限りなく近いプラチナブロンドの髪に内気そうな表情を浮かべ、少し睨みつけるような視線をした娘はクレイアにも見覚えがなかった。
娘たちは3人とも、民族色豊かでガーゼ地のような白いローブを羽織り、健康的な肌が少し透けている。
――いいです! とても、いいです!
アイカは、急に忙しい。娘たち三人の整った顔立ちを見比べたり、ふくよかな胸元を視界に収めたり、視線がせわしなく動く。
ニーナが、クレイアに肩を合せた。
「あれが、無頼姫の狼?」
ニーナの視線の先では、タロウとジロウが伏せの姿勢でアクビをしている。ジロウがチラリとニーナを見上げた。
「耳が速いな。『草原の民』にも、もう噂が届いているのか?」
「まさかぁ! 王都に入ってから聞いたんだよ」
と言うと、ニーナは自分たちを凝視する幼い娘にも気が付いた。
「この子が、『無頼姫の狼少女』?」
――なんですか? その異名みたいなの。
アイカは自分がそう呼ばれていることを、初めて知った。
そして、気に入った。
――カ、カッコイイじゃないですか。
鼻息がふんすと漏れる。
少し腰をかがめてアイカに目線を合せたニーナが、笑顔を向けた。
「こんにちは。北の草原から来ました」
アイカは一瞬、その金色の瞳を見開き、すぐに目を逸らした。
――カワイイ! 部長だ! アイシェさんが運動部なら、ニーナさんは文化部の部長だ。
俯いてしまったアイカの肩に、クレイアがそっと手をやった。
「アイカ、紹介しよう。ニーナとラウラ、それに……」
「イェヴァよ。王都は今年が初めて」
と、ニーナが紹介すると、ニーナの後ろに立つ二人が小さく頭を下げた。イェヴァは警戒するようにクレイアから目線を外さない。クレイアが続けた。
「ニーナたちは、聖山の北西に住む遊牧民『草原の民』の踊り巫女で、毎年『総候参朝』に稼ぎに来るんだ。一昨年知り合って、仲良くなった」
「最初に会ったときは、貧民街のゴロツキだったのに」
「ゴロツキはヒドイな。まっとうにやってたぞ」
「それが、去年は王女様の侍女様になってるんだから。まだ、クビになってないの?」
「おかげさまでな」
アイカは、興奮していた。
――ふおぉぉぉ。そういうお顔もお持ちなんですね!?
クレイアが旧友に見せる砕けた表情に、新しい美しさを発見していた。
王宮入り三日。毎晩一緒に入浴し語らっただけで、クレイアの全てを知ったつもりだったことを静かに猛省した。
「今年もアイラのところで?」
と、クレイアがニーナに尋ねた。
「うん。ちゃんとした宿を世話してもらってる」
王都を訪れる踊り巫女の中には春をひさぐ者もいる。
そうしたことに手を出すつもりがないニーナたちは、堅い宿を手配してもらうようにしている。
官能的なダンスパフォーマーとして王都で人気のある踊り巫女だが、本来は祖霊信仰が厚い『草原の民』のシャーマンであり、踊りは宗教儀礼である。
獣の皮やチーズなどの産物を売りに来ると共に、街角や列候の開く宴席などで舞い、投げ銭を稼ぐ。
ふと、風体の悪い男たちの一群が、クレイアの目に留まった。
祝祭を控え、王都には得体の知れない者たちも多くなる。だがそれも、猥雑な賑わいを生み、踊り巫女たちもその一翼を担っている。
行き過ぎるかと思われた男たちが、瞬く間にクレイアたちを取り囲み、突然、ラウラの腕を掴み上げた。
「ラウラだな? マエル様がお呼びだ。ちょっと来て貰おうか」
145
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる