【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第五章 王国動乱

101.遭遇戦(2)

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 セヒラは、リティアにしがみ付くエメーウの肩に手を乗せ、リティアの耳元に口を寄せた。


「ヨルダナ様より仰せつかっております」


 と、セヒラが囁いたのは、水色の大きな瞳をした、母エメーウの妹の名前だった。

 ギョッとして、セヒラの顔を見たリティアの耳に、ヨルダナの言葉が蘇る。


 ――お姉様のことは、ルーファが責任を持って面倒を見ます。


 セヒラはそのまま身体を沈め、エメーウに寄り添った。


「さすがリティア殿下は、セミール大首長のお血筋。賊など早々に追い払われましょう」

「お祖父さまの血筋……」


 エメーウは眼を左右に激しく動かした後、セヒラの方に顔を向けた。


「セミール大首長様に、よい土産話をつくって下さりましょう」

「お祖父さまに……」

「ええ。強い娘を育ててくれたと、エメーウ様もお褒めに預かりましょう」

「そうかしら……?」

「もちろんでございます。私たちは馬車の中で吉報を待たせていただきましょう。さあさ、アイシェ。エメーウ様をお連れしますよ」


 と、その時、タロウの背に乗ったままのアイカが、場違いなほどに明るく大きな声を出した。


「するめ姫!」

「誰が、するめ姫だ!」

「ジロウの背に乗ってください!」


 にこりと気品ある笑みをアイカに向けたセヒラが、タロウとジロウを指差した。


「ほら。リティア様が、プシャンの狼たちを駆って行かれます。セミール大首長様の喜ばれる顔が目に浮かぶようではありませんか」


 二頭の狼をジッと見詰めたエメーウが小さく頷くと、リティアは躊躇いなくジロウの背に乗った。アイカ以外の人間を初めて乗せる黒狼であったが、むしろ誇らしげに大地を踏みしめた。

 リティアを護る三衛騎士も騎乗し、戦闘の喚声が響く、前線に向けて駆け出した。


「むっ。誘い出されておりますな」


 と、聖山戦争歴戦の勇士でもある旗衛騎士ジリコが眉を寄せた瞬間、右前方から喚声が上がり、敵影が現われた。

 クロエとヤニスが抜剣し、瞬時に斬り捨てたのは、野盗ではなく正規兵であった。


「迎え撃て!」


 ネビの怒号が飛び、たちまち乱戦の中に置かれた。

 ドーラの率いる本隊と、リティア達を分断する形で突撃してきたのは、いずれかの列候領の正規兵であった。

 応戦するジリコが唸った。


「謀られましたな」

「いずこの兵ぞ!?」


 リティアもジロウの背で抜剣している。

 襲い掛かる兵士たちを、次々に斬り捨てていく三衛騎士。その合間を、鋭い矢が飛び、敵の眉間を射抜いた。


「殿下! ご無事ですか!?」

「おおっ! そなたは」


 馬を駆りながら矢を放った主は、リティアにも見覚えのある水色髪に眼帯を着けた少女であった。


「西南伯軍所属、公女ロマナ様旗下、チーナにございます! 及ばずながら、ご加勢させていただきます!」


 チーナの手元から絶え間なく放たれる矢は、確実に敵兵を射抜き、軍勢の前進を鈍らせた。


「殿下。敵はミトクリアの正規兵と見受けられます」

「ミトクリアだと?」

「恐らく、狙いは殿下を生け捕りにすること。ここは一旦、お下がり下さい」


 チーナの弓勢にも助けられて、戦線を立て直したネビの兵団に護られながら、リティアたちは少しずつミトクリア兵から距離をとってゆく。

 側妃サフィナの差配でサヴィアスを宴に招いたミトクリア候が、リティアの身柄を狙う理由は考えるまでもなかった。


 ――サヴィアス兄を王位に就けるつもりか? 王国が滅びてしまうわ。


 リティアは鼻で笑いながら、後退を続けた。
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