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第五章 王国動乱
102.遭遇戦(3)
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ミトクリア兵を振り切ったリティアの一軍は兵を止めた。
馬を降りたチーナが、ジロウに跨ったままのリティアに近寄り、片膝を突いた。
「ロマナ様に代わってまかり越しました。どうか、末席にお加えくださいませ」
「チーナ、助かった。礼を言う」
「もったいないお言葉」
ミトクリア兵の急襲は躱したが、戦況は良くない。
千騎兵長ドーラが指揮を執っているはずの第六騎士団本隊は、野盗とミトクリア兵に挟まれる形になっているはずであり、わずかな護衛に守られるだけのエメーウたちも孤立している。
百騎兵長のネビ、旗衛騎士のジリコ、それにチーナも、リティアを囲んで即席の軍議が始まった。
「ミトクリア候の思惑はともかく、追撃の手が止まったということは、ドーラ殿が戦線を立て直し、背後を突いておるのは間違いありますまい」
「森が全容を覆っておりますが、ミトクリア兵は、ざっと二千といったところ」
「ミトクリアの、ほぼ全軍というところかと」
「随分と賭けに出たものだし、随分と見くびられたな」
と、口の端を上げたリティアに、ジリコも皮肉めいた笑みを浮かべた。
「我らに倍する兵力で奇襲をかけても、なお自信が持てず、野盗まで使っているのです。けな気なものではありませぬか」
「ここからミトクリアまで走れば?」
リティアの問いに、夕暮れ近い空を見上げジリコが応えた。
「おおよそ、夜半過ぎには至りましょう」
「よし」
と、低く声を発したリティアが、皆を見回した。
「引き返して、もうひと当たりした後、兵を分ける。ジリコは我が旗を掲げ、10名を率いて母上を守りつつ本隊に合流してくれ」
「はっ」
「私は残り90を率いて、ミトクリアの本領を突く」
「「ははっ」」
と、応える豪の者たちに、アイカは眼を見開いて、唇を噛んだ。
比較的小規模とはいえ、ハッキリ戦場と呼べる場所に身を置くのは初めてのことであった。吐き気をもよおしそうなほどの緊張を感じているのに、目の前のリティアたちからは余裕さえ感じる。
ふるっと小さく身体を震わせたアイカが、リティアの視界に入った。
「アイカ」
「はっ、はいっ……」
「私の側を離れるな」
「はい……」
「案じるな……と、言っても無理か」
「あ、いえ……」
「我らは強い。見よ」
と、リティアは、身体を休め、次の闘いに備える第六騎士団の兵士たちを指差した。
「あれだけの数に襲われた我らの兵に、大きなケガをした者さえおらぬであろう?」
「ほんとだ……」
「王国の騎士団とは、そういう存在なのだ」
胸を張り、顎を高く上げたリティアは、アイカを落ち着かせるように微笑んで見せた。
兵員に指示を出し終えたネビが、ジロウに乗ったままのリティアに馬を寄せた。
「殿下。馬に乗り換えられますか?」
「いや。さすが“陛下の狼”。なかなかの乗り心地だ。アイカとジロウが許してくれるなら、このまま攻め入りたいが……、どうかな? アイカ」
リティアの言葉に、アイカは少し背を丸めた。
「あの……」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
「タ……タロウも……、殿下に乗ってほしそうにしてて……」
ん? と、アイカの乗る白狼を見ると、確かにチラチラと自分の方を見ている。リティアは、大きく口を開けて笑った。
「ははっ! それは、光栄だな! 分かった。乗り換えさせてもらおう」
馬を降りたチーナが、ジロウに跨ったままのリティアに近寄り、片膝を突いた。
「ロマナ様に代わってまかり越しました。どうか、末席にお加えくださいませ」
「チーナ、助かった。礼を言う」
「もったいないお言葉」
ミトクリア兵の急襲は躱したが、戦況は良くない。
千騎兵長ドーラが指揮を執っているはずの第六騎士団本隊は、野盗とミトクリア兵に挟まれる形になっているはずであり、わずかな護衛に守られるだけのエメーウたちも孤立している。
百騎兵長のネビ、旗衛騎士のジリコ、それにチーナも、リティアを囲んで即席の軍議が始まった。
「ミトクリア候の思惑はともかく、追撃の手が止まったということは、ドーラ殿が戦線を立て直し、背後を突いておるのは間違いありますまい」
「森が全容を覆っておりますが、ミトクリア兵は、ざっと二千といったところ」
「ミトクリアの、ほぼ全軍というところかと」
「随分と賭けに出たものだし、随分と見くびられたな」
と、口の端を上げたリティアに、ジリコも皮肉めいた笑みを浮かべた。
「我らに倍する兵力で奇襲をかけても、なお自信が持てず、野盗まで使っているのです。けな気なものではありませぬか」
「ここからミトクリアまで走れば?」
リティアの問いに、夕暮れ近い空を見上げジリコが応えた。
「おおよそ、夜半過ぎには至りましょう」
「よし」
と、低く声を発したリティアが、皆を見回した。
「引き返して、もうひと当たりした後、兵を分ける。ジリコは我が旗を掲げ、10名を率いて母上を守りつつ本隊に合流してくれ」
「はっ」
「私は残り90を率いて、ミトクリアの本領を突く」
「「ははっ」」
と、応える豪の者たちに、アイカは眼を見開いて、唇を噛んだ。
比較的小規模とはいえ、ハッキリ戦場と呼べる場所に身を置くのは初めてのことであった。吐き気をもよおしそうなほどの緊張を感じているのに、目の前のリティアたちからは余裕さえ感じる。
ふるっと小さく身体を震わせたアイカが、リティアの視界に入った。
「アイカ」
「はっ、はいっ……」
「私の側を離れるな」
「はい……」
「案じるな……と、言っても無理か」
「あ、いえ……」
「我らは強い。見よ」
と、リティアは、身体を休め、次の闘いに備える第六騎士団の兵士たちを指差した。
「あれだけの数に襲われた我らの兵に、大きなケガをした者さえおらぬであろう?」
「ほんとだ……」
「王国の騎士団とは、そういう存在なのだ」
胸を張り、顎を高く上げたリティアは、アイカを落ち着かせるように微笑んで見せた。
兵員に指示を出し終えたネビが、ジロウに乗ったままのリティアに馬を寄せた。
「殿下。馬に乗り換えられますか?」
「いや。さすが“陛下の狼”。なかなかの乗り心地だ。アイカとジロウが許してくれるなら、このまま攻め入りたいが……、どうかな? アイカ」
リティアの言葉に、アイカは少し背を丸めた。
「あの……」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
「タ……タロウも……、殿下に乗ってほしそうにしてて……」
ん? と、アイカの乗る白狼を見ると、確かにチラチラと自分の方を見ている。リティアは、大きく口を開けて笑った。
「ははっ! それは、光栄だな! 分かった。乗り換えさせてもらおう」
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